目次
はじめに
本レビューについて
本レビューに訪問頂き、ありがとうございます。
直接ここに御訪問頂いた方に、このレビューについて、少しご説明したいと思います。
本レビューは、音工房Zのブログ記事の一つです。
音工房Zは、スピーカーのキットや完成品、音響関連の部材の開発、製造、販売を行っている会社です。
https://otokoubouz.com/
本レビューを始めとするブログ記事をいくつか掲載していますが、これは、スピーカーや部材をより良い音で聴いていただけるよう、少しでもご参考になれば、ということや、スピーカーを自作される方への情報提供の一助になれば、などという意図に基づいています。
記事の内容としては、たとえば、マトリクススピーカーや共鳴管の原理などのちょっと変わったスピーカーについてのご紹介や、自作用スピーカーユニットの”辛口”評価、また、音工房Zで製品の評価などに用いている録音の優れた曲やアルバムのご紹介なども行っています。この中には、お客様にご紹介頂いたアルバムなどもあります。
リンク先の例:
本レビューは、これらの中でも、”オーディオ愛好家のためのマルチチャンネルオーディオとは?" シリーズの関連記事となります。
従って、AVアンプの評価を行いますが、ちょっと偏っています。
主にAudio部分の、それもマルチチャンネル音源の再生のための装置としての評価が主です。そのためVisualの部分、たとえば最近のAVアンプの流行りでもある4K・8kの画像評価などは行いません。
その点、Visualの部分の情報を求めて来られた方には、申し訳有りませんが、ここでは、あくまで、オーディオ用機器の評価の一環として記事のアップを行っていきたいと考えています。
それでは、以下、マルチチャンネル音源の再生のための装置としてのレビューを始めたいと思います。
SONY STR-DH590について
STR-DH590の正面図
製品の概要
STR-DH590は、2018年 4月21日 に上位機種のSTR-DH790と共に発売開始となっています。
ソニーのAVアンプとしては、最下位の機種となります。
発売が2年前ですので、製品交代の時期かもしれません。
最近の諸事情によるDACチップの入手困難な状況が、新製品発表(あるとすればですが)に関係している可能性もあります。
ただ、さらに上位機種であるSTR-DN1080は、2020年に販売終了になり、後継機種の発表がありません。その下位機種であるこれら2機種の後継機種についても未定のようです。
STR-DH590は、マルチチャンネル対応としては、最新の Dolby Atmos、DTS:X 、Auro系すべて未対応で、チャンネル数も5.1chと最小限となっています。また、DSDはダイレクトではなく、PCM変換による対応のようです。
2年前の上位機種の790が、 Dolby Atmos、DTS:Xに対応し、かつ7.1ch対応であることを考えると、かなり割り切って仕様を設定しているように思われます。
従って、この辺の新しい規格や、7.1chにこだわる場合は、上位機種のSTR-DH790の選択となります。
ただし、パワーアンプを比較すると、145W/chと790と共通しており、全体の重量も、7.2kg対7.5kgとわずかな差ですから、電源まわりなどは共通と思われます。つまり、音に関わる基本的な性能はほぼ同じと推定されますので、SACDマルチなど、5.1chのリソースに割り切るのであれば、選択の範囲の一つとなるかと思われます。
なお、590と790で、チャンネル数が異なるにもかかわらず、145W/chの出力で、消費電力が240Wと共通しているのは少し興味深いところです。
電源まわりが共通で、実際の全チャンネルの合計最大出力は、電源の能力によって決まっている、ということかもしれません。
なお、無線系の対応ですが、共に、ブルートゥース4.2に対応しています。
ただ、無線LANには対応していません。従って、ストリーミング系への対応やネットサーバー的機能も未対応となります。
STR-DH590の価格と概要
標準価格 : 33,500円(税抜)
発売年 : 2018年 4月21日発売開始
チャンネル構成 : 5.1ch
実用最大出力 : フロント 145W+145W(6Ω)
センター 145W(6Ω)
サラウンド 145W+145W(6Ω)
全高調波ひずみ率: フロント0.09%以下(6Ω負荷、90W+90W、20Hz-20kHz)
無線LAN : 不可
Bluetooth : 4.2 (A2DP 1.2、 AVRCP 1.6)
HDMI : 入力4,出力 1(4K、HDCP 2.2、ARC 等対応)、eARC,8K未対応
対応音声フォーマット(2ch及び5.1chリニアPCM)、DSD対応
DSD対応 : PCM変換;非公開のため推定 (DSDネイティブ未対応)
ストリーミング : 不可
マルチチャンネル規格 : Dolby Atmos、DTS:X 共に未対応、Auro系;未対応
Dolby対応;DD、DD+、DTHD 対応
DTS対応 ;DTS、DTS9624、DTSHD HR、DTSHD MA、DTS EXP
DSDマルチ(5.1ch) 対応
マルチチャンネルリニアPCM(7.1ch)対応
MPEG-2AAC 対応
サイズ : W430 × H133 × D279mm (アンテナを寝かせた場合)
消費電力 : 240W
重量 : 7.2kg
STR-DH590の設定
マニュアルについて
A5サイズ、56ページの冊子タイプのマニュアルが付属しています。
また、ホームページからダウンロードすることも可能です。
設定項目が少ないため、マニュアルの内容もAVアンプとしては比較的シンプルといえます。
説明の記載については、あまりわかりやすいとは言えません。
" ・・・・ができます。" という表現のオンパレードで、最低限度の設定としてこれをすべき、とか、なぜこの設定をするのか、という説明がほとんどないからだと思われます。
ただ、最近のAVアンプでは、カタログはwebからダウンロードという形式のみのことも多いという現状では、この価格帯で冊子が付属しているのは、アドバンテージなのかもしれません。
SACDマルチを再生するための設定
機器の接続
SACDマルチを再生するための接続は、最低以下の3点です。
1. スピーカーの接続: 今回は、5.0chとします。
ただし、本機では、サブウーファーのプリアウトが2つ用意されています。これらは、同一信号ではありますが、2つ設定することの効果は大きいと思われます。
なお、日本のホームページでは、5.1chと記載されていますが、USAでは、2つ端子があるためか、5.2chと表記されています。
2. SACDプレーヤーの接続: 今回はユニバーサルプレーヤー(UBP-X800mk2/SONY)をHDMI2.0で接続します。
なお、本機の場合では、本機そのものの設定よりも、ユニバーサルプレーヤーの設定のほうが項目が多くなります。
これについては、こちらをご参照ください。
3. テレビの接続: 設定の状況を確認するために、モニター用としてのテレビの接続は必須です。HDMI2.0ケーブルで接続します。
これらの詳細は、上記のリンク先をご参照ください。
本機の設定
自動音場補正設定
上記の接続を行った後、付属のマイクを使って、" 自動音場補正 " を行います。
簡単設定(Easy Setup)の画面に指示される手順を実施します。
マニュアルのp23から始まる、Easy Setupのメニューの一つで、p24から記載があります。
本機の場合、1点での測定のみですので、所要時間は、他機種に比べかなり短くなっています。
スピーカーパターンを選ぶ
前記の自動音場補正で、サブウーファーを接続していないと検知されているはずですが、ここで、5.0にすることで、サブウーファ用の信号がダウンミックスされる設定である可能性もあるので、一応、スピーカーパターンを、5.0 に設定します。
p37に記載があるのですが、簡単すぎて、わかりにくい説明です。
次の手順になります。
1. リモコンの "AMP MENU" ボタンを押します。
2. ↑ボタンを押すと表示が切り替わるので、” <SPKR> " の表示になるようにします。
表示されたら、真ん中の " + " ボタンを押します。
3. ↑ボタンを押して、” PATTERN " の表示になるようにして、 " + " ボタンを押します。
4. ↑↓ボタンを押して、現状のパターンを選びます。今回は、5.0 です
SACDマルチ用の設定は、以上です。
極めてシンプルです。
Direct と Pure Direct について
なお、再生の際、" Direct "や " Pure Direct " の設定ができます。
これらは、音質優先のモードなので、通常、他機種では、それらの設定にて試聴をしますが、本機の場合、あまりおすすめしません。
これらの設定を行い、ユニバーサルプレーヤーで、曲を巻き戻すと、アンプ側の" Direct "や " Pure Direct "の設定がなぜかキャンセルされ、" Multi Ch Stereo " に自動的に替わってしまう現象が発生するからです。
これがプログラムのバグなのか、同じSonyのユニバーサルアンプということで、リモコンの信号による混信なのかは定かではありませんが、しばらく音切れしてしまう状況になりますので、精神衛生上よろしくありません。
STR-DH590の外観と機能のレビュー
外観のレビュー
他機種との比較
他機種との比較として、marantzのNR-1710と本機を2段重ねにした写真をアップします。
このように、横幅は、ほぼ同じです。
また、高さは、価格的に上位機種である、NR1710のほうが薄くなっています。
ただし、重量は、NR1710が、8.4kgと約1.2kg重くなっています。
一方、出力は、NR1710が、7.1chで、各々70W/chと、DH590の約半分の出力です。
通常、重量比で大きな割合を占める電源の違いと設計の考え方を示唆しているようです。ch数が、NR1710のほうが、2ch多いのですが、7×70W=490W 対 5×140W=700W、と、STR-DH590の方が、総出力は、大きな値となっています。
D級アンプやスイッチング電源など、軽量化の技術は、多々あるとはいえ、とても興味深い違いです。
ちなみに、DH590は、相当熱くなりますので、D級ではないようです。
また、上にはものを載せない方がよさそうです。
外観上は、大きなつまみが2個、それと電源ボタンと、音質補正用マイクの端子やヘッドホン、インターフェースの類がレイアウトされており、配置はやや異なりますが、本質的には、ほぼ同じかと思われます。
実際のオペレーションは、リモコンで行うことが多いので、本体で、一番大事なのは、表示機能かもしれません。さらに言えば、テレビに表示される画面の使いやすさです。
本機で印象的なのは、本体の表記はもちろんのこと、テレビの表示言語に日本語がなく、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語のみなことです。コスト削減の一環で、言語表示用のメモリーも削減したということでしょうか。
外資系のmarantzが、非常にわかりやすいテレビでの日本語のメニューを提示しているのと、対極の印象を受けました。
機能のレビュー
背面パネル
本機の背面パネルの写真をアップします。
一般のAVアンプと比べ、端子が少なく、すっきりとした印象です。
分かりやすいといえるかもしれません。
現在は、アナログ系の機器用の端子とデジタル用の端子とが混在している状況ですので、上位機種になると、この端子数がすごい数になっている機種もあります。
接続端子というのは、信頼性が要求され、また、特にアナログ系では音質にも大きく関わることがあるので、ここにこだわると、当然、大きなコスト高要因の一つともなります。
入出力端子(スピーカー端子以外)
入出力用端子は、デジタル系は入力用のHDMI4つとテレビ用のARC対応のHDMI1つあります。それと、COAXと光端子がそれぞれ一つあります。
最近は、HDMIが主で、著作権による伝送信号の制限もあり、COAXと光端子の存在感は下がっている印象もあります。
拡大写真をアップします。
アナログ系はシンプルで、一番右端に、サブウーファ用のプリアウトが2つあります。
先ほども述べましたが、この2つは同一信号と思われます。
スピーカー端子
拡大写真をアップします。
フロント用のL/R端子は、バナナプラグ対応ですが、センターとサラウンド用は、プッシュ式の簡易端子となっています。コスト削減の一環かと思われます。
STR-DH590の音質の評価
試聴した機器
試聴した機器については、下記ブログにその選定の経緯を記載しました。
ユニバーサルプレーヤ: UBP-X800M2
フロントスピーカー: Z701ーModena + スーパーツイータキット(C=0.82μF)
センタースピーカー: Z1-Livorno + Z501(C=0.82μF)
リア(サラウンド)スピーカー: Z601-Modena + スーパーツイータキット(C=1.5μF)
音質の評価
最初に聴いた印象は、結構、素直ないい音、という感じでした。ボリュームもでるし、低域もそこそこ出ている。また、各チャンネルからの音の定位もそこそこいい。
ところが、聴いているうちに、これまで聴いていたマルチチャンネルとは何か違う、という印象が強くなりました。
音の空間、といいますか音場といった雰囲気が感じられないのです。
5か所、それぞれの位置から音がでているのはわかるのですが、全体のふわっとした演奏空間というか、仮想の空間というか、それがない。
また、ボリュームに余裕はあるのですが、ボリュームを上げていくと聴き疲れのような感じがして、そこそこのボリュームでいい、という感じがします。
これも、これまであまり感じたことのない感覚です。
アンプを、現時点での標準としているONKYOのRZ830に変更して試聴してみました。
結果、まず、低域の再生音が全く異なることに即座に気づかされました。
弾むようなかつ豊かな感じも違うのですが、そもそも、同じ音楽パートで、より低い音をこちらは聴くことができます。
どうも、マルチチャンネルにおける仮想的な空間の感覚は、超低域の再生能力が関わっているのではないかという考えが思い浮かびました。これは、今後確認していくテーマと思われます。
また、ボリュームの件ですが、やはり、こちらで聴くと、どんどんボリュームを上げて聴きたくなる感じがします。
こちらは、いわゆる歪の多少の問題でしょうか。
ただ、最初に戻りますが、本機の音だけを聴いていると、それなりに聴こえることも事実かと思います。
例えば、ゲーム用のBGM再生など、定位感の要求される分野などで、コスパのよい本機ならではの用途があるのではないかと思わされました。
まとめ
SONYのAVアンプであるSTR-DH590をレビューしました。
標準価格が、33,500円(税抜)と国内メーカーのAVアンプの中でも最安の区分になります。
AVアンプとしては、最低限の規格である5.1ch対応となります。ただし、サブウーファー用のプリアウトは、同一信号ですが2つ用意されていますので、サブウーファーを2個接続することが可能です。米国用の英語表記では5.2chと表示されています。
基本仕様が、5.1chですので、 Dolby Atmos、DTS:X 、Auro系などの最新の3Dオーディオには対応していませんが、Dolbyや、DTSの7.1ch以下の標準的な仕様に対応しています。
また、SACDマルチ、マルチチャンネルリニアPCM、テレビのMPEG-2AACに対応しており、通常のマルチチャンネルのソースには、対応可能です。ただし、7.1chは、5.1chでの出力となります。
インターネットには対応していないので、Amazonなどのストリーミングサービスへの接続はできません。
パワーアンプは、140W/各ch(6Ω)×5と、価格の割にかなり大きな値となっています。使用されているパワーモジュールと電源は、上位機種のDH790と同等と思われます。
音質は、5.0chにて試聴した場合、超低域の音圧が低い特性となっているようです。
サブウーファー用端子が2系統あり、それを生かしたスピーカー構成を前提としていると思われます。
SACDマルチを音源とした5.0ch構成での再生では、サラウンドの音場生成などの点において、不十分でした。再生音のバランス上もサブウーファーの接続が必須と思われます。
DirectやPureDirectなどのオーディオ用途を意識した仕様が設定されてはいますが、テストした範囲では、勝手に設定値が変わるなど、動作が不安定でした。実用上問題かと思われます。
端子類も少なく、機器とスピーカーの接続は容易です。また、マルチチャンネル用の初期設定も設定項目が少なく、簡便で容易ですので、ゲーム用や、テレビ/ビデオ用音声の拡張用などの用途に適した機種と思われます。