目次
はじめに
FE-NVシリーズとFE206NV
FE系統は、1964年のFE103から始まり、2001年のFE103E、さらに2009年、FE-Enシリーズが発売開始しました。 これに続き、2019年(令和元年)にFE-Enシリーズの後継機種としてFE-NVシリーズが登場しました。従って、10年ぶりの改定ということになります。
FE206NVは、全口径5機種の中で、サイズの最も大きい20cm口径のユニットとなります。
ここでは、Fostexの他のフルレンジ20cmユニットと特性等を比較して検討してみます。
また、NVシリーズでの本ユニットの位置づけなども見ていきたいと思います。
FE206NVの価格と概要
標準価格 : ¥15,800 + 消費税
発売年 : 2019年 7月下旬
スピーカー形式 : 20cm 口径フルレンジユニット
FE206NVの音質評価
FE206NVのエンクロージャー評価
本FE-NVシリーズは、フルレンジタイプであるFEシリーズの主流の系統であり、総合カタログでも、FE-Enシリーズに置き換わり、一番最初に記載されています。5種類のサイズがあり、FE-206NVは最も大きな20cm口径です。
Qtsの0.26などの値から、バスレフ型の場合では、ややハイ上がりな音調が予想されます。ただ、FE206Enの0.19という値からすると、これまでのバックロード指向から、FE206NVでは、ややバスレフ指向の傾向もでてきているようにも思われます。
実際、FostexのホームページにあるFE206NVのページからダウンロードできる資料には、バックロードホーンの図面に加え、バスレフ箱の完成図と910☓910mm/15mmtの板の板取りの図面が記載されています。こちらの内容量は、約29Lとなっています。
ちなみに、FE206Enのページでも、バスレフ型エンクロージャーの完成図の図面のみが紹介されています。
Fostexによる説明を引用します。
” FE206En は、バックロードホーンエンクロージャーに適したユニットとして設計されています。このため Q0=0.19 とオーバーダンピングなユニットのため、一般的にはバスレフ型エンクロージャーには不向きとされています。同口径のバスレフ型向きのユニットに比べバスレフ型では、ナチュラルに繋がる低音再生が難しくバランスの良い低域再生が難しい点があります。FE206En も同様にバスレフ型での使用は前述のような理由で難しい点がありますが、一方では強力な磁気回路と明るく張りのある中高音を生かしたバスレフ型は、バックロードホーン型とは異なる楽しみもあります。”
このバスレフ箱は、内容積45Lで、やや大きいせいか指定の板厚は18mmとのことです。
今回は、FE206NVで紹介されている29Lよりも大きな43Lの試作バスレフ箱で試聴してみました。これは、FE208NSの試聴で用いた試作バスレフ箱と同じエンクロージャーになります。
試作バスレフ箱(43L)での評価
FE206NVを試作バスレフ箱(43L)に入れ、試聴してみました。
写真 FE206NVを取り付けた試作バスレフ箱
FE206NVの試聴では、さらっとした感じのあっさりとした音質というのが第一印象でした。一方、低音もちゃんとでてきており、ナチュラルです。ホテル・カリフォルニアのイントロは、さっぱりとしたクリアなギターが鳴り、バスドラがちゃんと響いてくれます。少し、カチッとした印象です。
Rock You Gentlyのベースが、よく弾んで聴こえます。ボーカルは、クリアでサッパリ系です。Take Fiveは、バランスがよくハイハットやシンバルもちゃんと聴こえてきます。カプリースのバイオリンも自然な感じで伸びやかです。水上の音楽も、同様な印象で、低音も良く出ています。管楽器の高い音がきれいに聴こえます。
全体に、素直な、きれいな印象の再生音です。逆に言えば、FE208NSで感じられたような中域を中心とした力強さや張りという点では、少し物足りないようにも感じます。
また、ボリュームをかなり上げていくと、中高域に癖のような音が聴こえてきました。例えば、声援がうるさく聴こえる、とか、サックスにとんがりがある、バイオリンや管楽器の一部にピーク音を感じる、などです。
これは、本試作箱では、吸音材を入れていないため、背面からの中高域が、箱内部で反射してきて、ユニットと干渉し歪を生み出しているため、とも考えられます。また、バスレフポートからの中高域の漏れも想定されます。従って、吸音材によるチューニングでこの現象は無くせるのではないか、と思われます。
試聴に用いた曲のリスト
今回、音質評価用に試聴した曲を、ご参考までに下記に示します。
なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
既に公開している場合は、リンク先を表示しています。また、作成中の場合は、近日公開予定ですので、すみませんがお待ち下さい。
1. Hotel California :リンク先 https://otokoubouz.info/hotel-california/
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。
2. Rock You Gently :リンク先 https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/
Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。
3. Take Five :リンク先 https://otokoubouz.info/take_five/
デイブ・ブルーベック・カルテットの有名なジャズナンバーです。
この曲は、低音が、案外下まででており、ベースやドラム、の再生に90-150Hz、それに部屋の雰囲気等の再生には、40Hzぐらいまでの再生能力があったほうが良さそうです。また、中音域の500-2.5kHzぐらいの再生における分解能力がサックスなどの再現性に関係して来そうです。この曲では、この領域の音圧が高くなってもいます。
4. カプリース :リンク先 https://otokoubouz.info/caprice/
ニコロ・パガニーニの24の奇想曲(24Capricci)です。ヴァイオリン独奏曲、すなわち無伴奏曲です。難易度の高い強烈な技巧が随所に盛り込まれており、難曲として知られています。
ピエール・アモイヤルの名器の響き ヴァイオリンの歴史的名器、に収録された演奏を試聴用に用いました。
5. 水上の音楽 :リンク先 https://otokoubouz.info/suijo_no_ongaku/
水上の音楽は、ヘンデルの作曲による管弦楽曲集で、弦楽合奏と管楽器からなる管弦楽編成です。試聴では、第2組曲の第2曲のアラ・ホーンパイプを用いました。オルフェウス室内管弦楽団による演奏です。
本録音では、約30Hz~5kHzの広い範囲で、-40dB以上の音圧を持って録音されています。聴感上は、フルオケのような比較的広い範囲の音域として感じられると思われます。
高い周波数の倍音成分も、20kHzのカットオフ周波数まで、なだらかに下がりながら検出されています。おそらく実際の演奏では、20kHz以上も入っているものと推定されます。
6. In The Wee Small Hours (Of the Morning)
:リンク先 https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/
Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象かもしれません。
本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。ピーク値の特性からは、特に、40-10kHzの領域の再生能力が必須なのがわかります。
FE206NVの外観のレビュー
外観について、それぞれのパート毎に検討してみました。
フレーム
FE系の伝統的な鉄フレームを採用しています。FE103NVなどと異なり、FE126NV以上のサイズでは、ネジ止めの穴が、楕円ではなく円形になっています。FE206NVも円形です。
ネジ穴の取り付け位置は、前機種のFE206Enと同じです。バッフル開口寸法と、ネジ穴の位置が同じで、高さ(奥行き)も89.3(FE206NV)ー87.9(FE206En)=1.4mmの違いですので、通常のエンクロージャーであれば、前機種のFE206Enから、ユニットを容易に交換することができます。
ちなみに、10cmや16cmと異なり、20cm口径の各ユニット間では、鉄フレーム系とアルムダイキャスト系とで、対応する4箇所のネジ穴の位置が異なり互換性がありません。ただし、バッフル開口径は、185mmと共通です。
写真 FE206NVの取り付け穴等のフレーム
参考として、FE206NVとFE208NSの側面の写真を示します。
総重量は、FE206NVが3.2kg、FE208NSが4.5kgとなっています。質感も実際の重量感も異なる印象です。
写真 FE206NV(左)と FE208NS(右)の側面
振動板とエッジ
振動板の材質は、FE-NVシリーズ共通で、FF-WKやFE-Solシリーズ、また最新のFE-NSシリーズに用いられている2層抄紙ではなく、ケナフを主材料とした、非木材パルプの新規コーン紙が用いられています。形状は、FEシリーズの特徴であるカーブのついたサブコーンのあるダブルコーン形式です。サブコーンの材質は、メインコーンと同等なようです。
ケナフは、近年、木材パルプの代替資源として注目を浴びており、森林伐採を防止でき、環境によいと評価されています。
振動板の材料としては、長繊維と短繊維の混合に加え、さらに化学繊維やマイカなどの鉱石も含まれており、これらにより、適度な内部損失特性と伝搬速度の向上に加え、高剛性化も実現している、とのことです。ちなみに、コーン紙の表面は、キラキラと、ところどころ反射しており、マイカが分散しているのがよくわかります。
写真 FE206NVの振動板
ただ、マイカの粒が含まれたことで、コーン紙としては、僅かではありますが、やや重量増の方向とも、いえるでしょう。特に20cm径の場合は、大きいので影響が大きいと予想されます。実際、振動系の重さであるMmsの値は、15.2gと、FF225WKに続き2番めです。前機種のFE206Enでは、12.2gでしたので、約20%増となります。
また、従来の製品では、コーン部の根本付近に、ハトメがあり、ここで、ボイスコイルのコイル線と端子に接続されている錦糸線が接続されていました。
FE206NVでは、ハトメを用いないハトメレスとなっています。これは、振動板重量の軽減化となる技術でもあります。
ダンパーとハトメレス
ダンパー周辺は、FF-WKシリーズで既に採用されているポケットネックダンパー方式を採用することによって、構造の簡素化が図られています。
写真 FE206NVのダンパー部分及びハトメレスの接合部
前記のハトメレスを実現するために、外部との接続端子からでている錦糸線が、このポケットネック部でボイスコイルと接合されており、さらに、ボイスコイルとダンパー及びコーン紙が同一円周上で接着されています。他社でもハトメレスは採用されていますが、ボイスコイルを巻くボビンの部分が、ダンパー部から飛び出していて、その部分で錦糸線とボイスコイルが接合されているケースもあります。
それと比べると、このポケットネックダンパー方式は、余分なボビンの突き出しがない分、軽量化となり、さらに余分な部分を介せずダンパーと振動板が直結して一体化したシンプルな振動系となり、余分な振動の発生源が減ったと言えます。
比較のために、ハトメレスのFE206NS(左側)と、ハトメのあるFE206En(右側)とを並べた写真を示します。
写真 FE206NV(左側:ハトメレス)とFE206En(右側:ハトメ接続)
さらに、上記写真のFE206En(右側)のコーン紙裏側のハトメ部分を拡大した写真を示します。
写真 FE206Enのハトメ部分の拡大図
FE206Enでは、メインコーンの裏側の錦糸線との接触部に黒い点が見えますが、これがハトメです。表側からみると、白いペイントが2個見えます。これは、FE166Enと同じ構造です。(https://otokoubouz.info/fostex-fe166nv/ にNVとEnの比較を記載)
ハトメのある場合と、ハトメレスの写真を比較すると、コーン紙の動きがスムーズになり歪が低減したであろうことが、みるからにわかるような気がします。また、” ダンパーの形状と材料も見直し、En シリーズよりも直線性の高い振幅特性を実現しました ” 、とのことです。なお、最新のFE208NSには、このダンパーに孔が5個あいていますが、FE206NVには、孔はありません。(FE208NS: https://otokoubouz.info/fostex-fe208ns/)
特に、軽い振動板の場合などでは、このハトメの影響がでてしまい、中音域で歪を発生させる要因となってしまいます。ハトメがあることで、コーン紙内での重量バランスが不均等になり、不当分割共振が発生するためです。特に、小さな口径のユニットで、それが顕著に出てくるようです。
このハトメレスを含むダンパー周辺の構造的な変化と、新規のコーン紙が、前モデルのEnと最も異なる点と言えるでしょう。また、振動板のエッジは、ロールエッジ構造でUエッジの形状をしています。これは、NVシリーズで共通です。最新のNSシリーズでは、すべてコルゲーションエッジとなっており、異なります。
磁気回路
磁気回路には、Enと同様フェライトマグネットが採用されています。マグネット重量の記載は、ありませんが、マグネットの直径が、FE206EnのΦ145mmとFE206NVは同じで、厚さも18mmと同じです。
従って、磁気回路としては、Enと同等と推定されます。
写真9 FE206NVの裏側
ちなみに、全重量も、Enと同じ値の 3,200g となっています。
FE206NV の諸特性の検討
このFE206NVは、前の機種のFE206Enとサイズ等はほぼ同じですが、記載されている電気的特性値は16cmの場合と異なり、かなり違っています。従って、基本的な音の傾向は、FE206Enと異なることが予想されます。ここでは、この2機種の各特性を比較し、検討してみたいと思います。
他のユニットとの特性の比較
16cm口径のFE166NVなどは、対応するFE166EnとMms、Cms、Vas、Qtsなどの値が、近い値となっています。それに比べ、FE206NVの諸特性は、FE206Enと異なっています。
ただし、最低共振周波数や総重量などの基本的な値は、FE206Enとほぼ同じ値となっています。参考として、Fostexの20cmフルレンジユニットの主な特性の比較表を示します。それぞれの値は、各ユニットに添付の説明書を参照しています。同じ項目でも、有効数字が異なる場合がありますが、オリジナルのままです。
Fostexの20cmフルレンジユニットの特性比較表
表中で、FE206NVのマグネット重量の値は、FE206Enからの推定値です。マグネット径のφ145mmと厚さ18mm-t、及びボイスコイル径は、同じです。
規格値の比較
FE206NVのマグネットはFE206Enと共通と思われます。また、総重量も同じですので、フレームも同じと推定されます。この表で示す各値、出力音圧レベル、定格入力値、瞬間最大許容入力値、ボイスコイル径なども、全てこの2機種は同じです。
TS-パラメータの比較
まず、Qtsの値は、FE206Enが、0.19に対して、FE206NVは、0.26と、ややバスレフ寄りになった気配があります。前掲の表野6ユニットを順に並べると以下になります。
sol(0.15)<EΣ(0.18)<En(0.19)<NS(0.22)<NV(0.26)<WK(0.35)
また、振動系の重さであるMmsは、FE206Enが12.2gに対し、FE206NVは15.2gと約20%増となっています。おそらくそれに対応して、振動系の動きやすさであるCmsは、FE206Enが1.172mm/Nに対して、0.8mm/Nと約30%動きにくくなっています。
周波数特性と高調波特性(2次、3次高調波)
特性測定環境について
弊社内無響室での測定の様子
測定機器 Etani ASA10MKII
写真 . FE206NVの周波数特性測定
FE206NVの周波数特性とインピーダンス特性の測定結果
インピーダンス特性の実測値を示します。
図 FE206NVのインピーダンス特性
このグラフからは、ピーク値である最低共振周波数が、約40Hzと読み取れます。前記の比較表に載せたFostexのカタログ値は、44.7Hzとなっていますので、それよりも低く出ています。
次に、同様の環境で測定したFE206NVの周波数特性を示します。
図 FE206NVのユニット~マイク間が10cmでの周波数特性測定結果
まず、1kHz付近のディップが目立ちます。さらに1.5kHz付近で、400-900Hzの値と同じレベルになり、さらに、それから2.5kHzぐらいまで、音圧が高くなっています。この1.5kHz-2.5kHzは、音階でいうと、G6-E7程度です。ちなみに、ト音記号の楽譜の中で表示されるラの音が、A4(440Hz)となります。つまり、声としては、相当高い音になるわけですが、この領域の音が強調されて聴こえる傾向にあると言えます。なお、人の音の聴こえる周波数の感度である等感曲線をみると、1kHz付近の感度がその前後よりも、良好ですので、それを考慮すると、一層この領域が強調されて聴こえると思われます。
周波数特性の他ユニットとの比較検討
下の図は、FE206NV(実線)と、FE206En(点線)の周波数特性を重ねた結果です。
図 FE206NV(実線)とFE206En(点線)の周波数特性の比較(10cmでの測定結果)
1kHz以下では、ほぼ重なっており、1kHz付近にディップを持つのも同じ傾向です。ただ、それ以上では、Enに比べ、NVの方が、暴れがすくなくなっているように見えます。また、15kHz以上では、音圧が急激に低下している傾向は同じです。この周波数特性によると、FE206EnとFE206NVは比較的似た傾向の音がするように思えます。
次に、比較対象をFE208NSとしてみます。実線がFE206NV、点線がFE208NSです。
図 FE206NV(実線)とFE208NS(点線)の周波数特性の比較
これをみると、人の可聴領域の中高域から高域で、結構、周波数特性の形状が異なっています。
特徴的なのは、まず、1kHz前後です。ここが、FE206NVは比較的急峻なディップ形状でしたが、FE208NSでは、むしろ少し音圧が高くなっています。それより低い400-800Hz付近が台形状のディップとなっていますので、1kHz付近が強調されて聴こえる可能性があります。これは非常に大きな違いです。
また、88鍵ピアノの最高音であるC8(4.19kHz)付近の形状も異なります。この付近が音程として感知できる最高音でもあります。
FE206NVの2、3次高調波特性
FE206NVの2次高調波(オレンジ)と3次高調波の解析結果を示します。
なお、縦軸(左側)は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、高調波特性の値は、2次、3次ともに、+20dB嵩上げして表示しています。
図 FE206NVの2次、3次高調波特性(10cmの距離での測定値)
具体的に、このグラフから、高調波歪率を計算してみます。例えば、1kHzの周波数特性の音圧は、周波数特性のグラフより、108dBと読み取れます。また、2次高調波(オレンジ)の値は、90dBですが、20dB嵩上げ表示ですので、実際は、70dBとなります。差は、108-70=38dBです。38dBの差は、約79.4倍を示すので、1/79.4≒0.013 なので、2次高調波歪率は、1.3%となります。
同様に、3次高調波は、77dB@1kHzと読みとれるので、実際は、57dB。108-57=51dBで、約354.8倍です。1/354.8≒0.0028 なので、3次高調波歪率は、0.28%となります。
この1kHzでの2次高調波特性の値と周波数特性の値との差は、たまたま300Hz以上の領域で最も小さいようにも見えますので、FE206NVは、サブコーンのあるユニットの中で、比較的2次高調波歪率が小さいと言えるかと思います。ただ、それがいい音に直結するかどうかはなんとも言えないのがスピーカーの難しいところです。
高調波測定結果の他ユニットとの比較検討
比較対象として、FE206Enの周波数特性の測定結果と2次、3次高調波特性の解析結果を示します。先程と同様、縦軸(左側)は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、高調波特性の値は、2次、3次ともに、+20dB嵩上げして表示しています。
図 FE206Enの2次、3次高調波特性(2次;オレンジ、3次;緑)
同じく、1kHzでの、高調波歪率を計算してみます。
1kHzでの周波数特性の音圧は、106dBの読めます。また、2次高調波の値は、97dB で、実際の値は、20dB引き、77dBです。従って、106-77=29dBとなります。これは、約28.2倍ですので、1/28.2=0.035,すなわち3.5%となります。
次に、3次高調波の値は、76dBですので、実際には、56dB。106-56=50dBです。これは約316.2倍ですので、1/316.2=0.0031 すなわち、0.31%の3次高調波歪率となります。ざっと、FE206Enの2次及び3次高調波の値を比較すると、一般に、FE206NVよりも高いようです。
FE206NVでは、FE206Enよりも高調波歪率が改善されているようです。
まとめ
FE206NVは、FE206Enのフレームと磁気回路をベースとして、新たな振動板とハトメレス技術等やダンパー材料など、振動系を改良して置き換えており、音質向上と低歪化を図っていることが伺えます。
また、FE206Enの後継機種として、取り付け穴の位置や、バッフル開口径が同じですので、既存のエンクロージャーへのユニット交換も容易です。TS-パラメーター的には、改定前と結構異なっています。例えば、Qtsの値は、Enの0.19から0.26と大きくなっており、FE206Enよりも、バスレフ型のエンクロージャーなどに、より合わせやすくなっているようです。
実際にバスレフ箱(43L)にて試聴したところ、低域がたっぷりはいっているソースの再生は難しい印象もありますが、聞けないというほどでは全くありません。他のEnからNVへの移行とほぼ似た傾向でバスレフでも高域が煩くなりにくく、低歪で、聞きやすい傾向に感じました。
全体に、素直できれいな印象の再生音ですが、次回紹介するFE208NSと比較して聞くと中域を中心とした力強さや張りのある音という点では、少し物足りないようにも感じました。
「20センチフルレンジだとスーパーツィーターがないとハイ落ちで聞けない」ような印象はさほどなくうまく全体がまとまっています。スーパーツィーターを追加する場合は本スピーカーの能率が96dB/Wと高いのでFOSTEXのホーンツィーターやZ502で合わせるのが良いと思います。
今回はシングルバスレフでしか実験できませんでしたがBHBS(バックロードホーンバスレフ)のようなバックロードホーン系のエンクロージャーにより、より豊かな低域を聴くことが出来ると思われます。