はじめに

FE168NS_main_620

 

FE-NSシリーズとFE168NS

 FE-NSシリーズは、2018年12月に、16cmのFE168NSが、先行して発売開始しました。
最近、2020年7月に10cmと20cmのユニットであるFE108NSとFE208NSの追加が発表され、予定では2020年8月下旬に発売開始となり、3ユニットの構成となります。

 Fostexによる本シリーズの紹介では以下が共通しています。
以下引用します。(下記で、xxxには、型番が入ります。各々、108,168,208)

” FExxxNSは、Sol シリーズの開発理念と独自技術を継承し、新たに開発されたフルレンジ・スピーカー・ユニットです。質と量のバランスのとれた低域とクオリティの高い中高域の音質は、2 層抄紙と低歪みフェライト外磁型磁気回路に支えられ繊細で表現力豊かな音楽の再生を実現します。 ”

ということで、本シリーズは、限定販売されたsolシリーズの技術が継承されているとのことですが、比較的発売時期が近いxx8-sol系などと比べると磁気回路が異なるなど、違うところも見受けられます。

 また、本シリーズの各リリースの間となる2019年7月に、FE-NVシリーズのFE83NVとFE103NVが発売開始され、さらに2019年11月に、同、FE126NV, FE166NV, FE206NVが追加されています。

 特に小口径のsolシリーズでは導入されなかったハトメレスなどの技術も、NVシリーズ同様に、最新のFE108NSでは導入されています。

 なお、solシリーズでは、16cmのユニットはありませんでした。
時系列的には、2017年9月発売のFE208-solの約1年後にFE-NSシリーズの最初のユニットとして先行発売となっています。


 FE168NSは、各発売開始の時期を鑑みると、本シリーズのコンセプトを示す存在なのかもしれません。

FE168NSの価格と概要

標準価格    : ¥27,000 + 消費税

発売年     : 2018年 12月

スピーカー形式 : 16cm 口径フルレンジユニット

 

FE168NSの音質評価

FE168NSのエンクロージャー評価

 FE168NSをバスレフ箱に入れた場合と、BHBS(バックロードホーンバスレフ)箱に入れた場合の音質評価を行いました。

 さらに、それぞれ、スーパーツイーターを付加した場合についても評価を行い、計4種類のケースについて検討を行いましたので、記載します。

 なお、それぞれの評価の際、試聴した曲についてのリスト及び、その関連リンク先をご参考までに、記載しております。

標準バスレフ箱(16L)

 FE168NSを16Lのバスレフタイプのエンクロージャーに入れ、試聴しました。

 本スピーカーは、明るく前に出てくる音という印象です。ただ、中高音域であるボーカルや、サックスの音に、若干強調される部分があります。しかしながら、全体のハギレの良い力強さは、独特の魅力を感じます。エッジの効いたキレのいい音という印象です。

 このバスレフ箱では、NV同様、全体に、ハイ上がりに聞こえます。ただ、NVよりも、より力強く感じます。超低域は再生されませんが、低域が、NVよりも出ているのがわかります。バスドラの音は、なんといいますか、ちょっと乾いたような響きに聴こえます。

 全体としては、NVよりも、中低域の量感も多く感じられ、チューニング次第で、もっと低域も出てくるような印象を受けました。ちょうどFEとΣの中間のダンピング性能ということで、このようなシングルバスレフでも綺麗に鳴ってくれるのは一つのポイントと言えます。もし、通常のバスレフ箱でも鳴るのがNSの特徴ですが能力は高いので、箱のサイズは16Lは最低と考えてこれ以上大きいものを使ったほうが真価を発揮されると思いました。

標準バスレフ箱 + Z501スーパーツィーター

 前出の標準バスレフ箱で、中高音にやや強調される音域があったため、バランスを変えるのを目的に、スーパーツィーターであるZ501を並列接続して試聴してみました。なお、ネットワーク用のコンデンサは、標準の2.0μFから、0.82μFに変更しました。

 試聴してみると、どの曲においても感じた中高音域の癖、たとえば、ボーカル、サックス、バイオリン、トランペットなどでのピーク音のような感じが、なくなりました。
さらに、サックスや、トランペットなどでは、突き抜けるような一層鮮度のいい音となります。

 TakeFive の、比較的おとなしめのサックスでは、少し感じられたピーク感がなくなり、透き通るような感じのきれいなサックスに変わりました。

 カプリースのバイオリンでも、ピーク音は感じなくなり、突き抜けるような感じに聴こえます。
水上の音楽では、やはり弦の音がきれいになり、管楽器はふくよかな感じになりました。

 FindOutのような弾けるサウンドでは、ナチュラルなボーカルに張りのあるサックスが鮮烈な印象です。

Z501の追加は、予想以上に効果があり、驚きでした。

 全体のバランスとしては、音工房Zの製品などと比べると、やはり、中高音に寄っており、低音不足を感じるのですが、一方、力強く鮮度のいい音は、かなり魅力的でした。

 

BHBS箱 ;バックロードホーンバスレフ(約54L)

 FE168NSをBHBSの試作箱に入れ試聴しました。ちなみに、この箱は、販売しているZ1000-FE168NSと外寸は同サイズですが、音道が、やや異なります。16cm級の一般的な試聴用として作成したものです。Z1000-FE168NSは、この箱での評価結果を基に、さらにFE168NS用に最適化したものです。

 試聴の結果、いずれの曲においても、バスレフ箱で感じられた中域でのピーク/ディップといいますか、癖のようなものは感じられなくなりました。かつ、中域の活きの良さはそのままです。
 それに加え、中低域、低域がきちんと出るようになり、音楽的にバランスが良く、いずれの曲も思わず、曲に聞き入ってしまいました。

 ただし、Hotel CaliforniaなどでZ800では聴くことのできる超低域については、再生しきれないようです。しかしながら、その上の音域である低域と中低域の弾むような力強い感じは、ジャズ系やフュージョン系の曲で、Z800よりもむしろ音楽を魅力的に再生してくれるような印象を受けました。

 

BHBS(バックロードホーンバスレフ)+スーパーツイーター(Z502)

 BHBSの試作箱に、Z501の上位版にあたるZ502を追加して試聴しました。今回は、-8dBの位置が最も効果的だったように感じました。BHBS箱単体でも、高域については、特に不足感は感じなかったため、追加した効果があるかやや疑問でしたが、やはり異なりました。

 例えば、ホテル・カリフォルニアなどでは、ライブの口笛や拍手の音の鮮度が増します。一般に高域がスッキリと伸びやかな印象です。

 水上の音楽では、ホルンの柔らかで優しく響く高音の質がZ800と同等か、むしろ解像度が高いようです。また、管楽器の低域の質が向上しました。

 圧巻は、In The Wee Small Hours です。豊かなホールトーンに満ちて、さらに、しっかりと芯のある印象的なボーカルで始まり、ベースと強いサックスがゆったりと響きます。

 Z800では、全体にきれいなのですが、FE168NSの力強い各パートの音を聴いた後では、やや物足りなく聴こえてきます。このあたりは、良し悪しというより好みのレベルかもしれません。

 なお、Z501スーパーツィーターでも、試聴しましたが、カプリースや、水上の音楽の弦楽器で、Z502やZ800の高域に比べると若干劣る印象でZ502の優位性を感じました。

 

試聴に用いた曲のリスト

 今回、音質評価用に試聴した曲をご参考までに下記に示します。
なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
 既に公開している場合は、リンク先を表示しています。また、作成中の場合は、近日公開予定です。

1. Hotel California :リンク先  https://otokoubouz.info/hotel-california/ ‎
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。

2. Rock You Gently :リンク先      https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/

 Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。

3. Take Five  :リンク先  https://otokoubouz.info/take_five/ ‎
 デイブ・ブルーベック・カルテットの有名なジャズナンバーです。
 この曲は、低音が、案外下まででており、ベースやドラム、の再生に90-150Hz、それに部屋の雰囲気等の再生には、40Hzぐらいまでの再生能力があったほうが良さそうです。また、中音域の500-2.5kHzぐらいの再生における分解能力がサックスなどの再現性に関係して来そうです。この曲では、この領域の音圧が高くなってもいます。

4. カプリース :リンク先  https://otokoubouz.info/caprice/
ニコロ・パガニーニの24の奇想曲(24Capricci)です。ヴァイオリン独奏曲、すなわち無伴奏曲です。難易度の高い強烈な技巧が随所に盛り込まれており、難曲として知られています。
ピエール・アモイヤルの名器の響き ヴァイオリンの歴史的名器、に収録された演奏を試聴用に用いました。

5. 水上の音楽  :リンク先      https://otokoubouz.info/suijo_no_ongaku/ ‎

 水上の音楽は、ヘンデルの作曲による管弦楽曲集で、弦楽合奏と管楽器からなる管弦楽編成です。試聴では、第2組曲の第2曲のアラ・ホーンパイプを用いました。オルフェウス室内管弦楽団による演奏です。
 本録音では、約30Hz~5kHzの広い範囲で、-40dB以上の音圧を持って録音されています。聴感上は、フルオケのような比較的広い範囲の音域として感じられると思われます。
 高い周波数の倍音成分も、20kHzのカットオフ周波数まで、なだらかに下がりながら検出されています。おそらく実際の演奏では、20kHz以上も入っているものと推定されます。

6. Find Out  :リンク先   https://otokoubouz.info/find-out/ ‎
 The Stanley Clarke Bandの1985年のアルバム”Find Out"の1曲目です。分類的には、いわゆるジャズ・フュージョン系の作品となります。
スタンリー・クラークの倍音成分を豊富に含むリズムのベース及び、メロディーラインのベースが絡み合いながらプレイが繰り広げられます。

7. In The Wee Small Hours (Of the Morning)  
               :リンク先  https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/  

Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象かもしれません。

 本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。特に、40-10kHzの領域の再生能力が必須です。

FE168NSの諸特性の検討

他のユニットとの特性比較

Fostexの16cmフルレンジユニットの特性比較表

Fostexから公開されている各データを用いて、FEシリーズの5つのユニットの値を一覧表にしました。
ここでは、FE168NSを太字にしてあります。


   表 1.   Fostexの16cmフルレンジユニットの特性比較表

 次に、この一覧表の上段の規格値と、下段のTSパラメータについてそれぞれ比較検討したいと思います。

規格値の比較

 規格値について、それぞれを比較すると、まず、総重量の値が、FE168NS(以下NSと略)がFE168EΣについで2番目に大きいのがわかります。

 マグネット重量を見ると、FE166En(Enと略)やFE168NV(NVと略)の約2割増しですが、FF165WK(WKと略)よりは、約2割減となっています。

 なお、NVのマグネットはEnとほぼ同等と推定されます。

 つまり、マグネットは、WKの方が重いのに、NSの総重量はWKよりも重い。これは、主にNSのフレームががっしりしているためでしょう。なお、最も重いのは、FE168EΣです。ただし、マグネット重量は、NSとほぼ同じ重さとなっています。

 ちなみに、NSのバッフル開口径は、151mmと、WKなどよりも大きくなっています。さらに、EΣの開口径は、155mmともう少し大きくなっています。すなわちフレームが大きいということで、フレームが大きいほど、重いということのようです。この2つは、高剛性アルミダイキャストフレームが採用され、見た目にもがっしりしています。

 バックロードホーンに向けた強力な磁気回路、というイメージが、FE168EΣにはありますが、磁気回路の重要パーツであるマグネット重量は、WKが一番重い、というのは少し意外でした。

参考として、FE166NVとFE168NSを並べて横からみた写真を示します。


写真  FE166NV(左側)とFE168NS(右側)の側面

この2つは、同じ16cmでも、フレーム、マグネット等が相当違って見えます。

TS-パラメータの比較

 カタログ上のTSパラメーターの値を比較すると、まず目につくのは、Cmsの値が、5機種で最も小さくなっていることです。NVの1.5に対し、NSでは、その半分に近い0.83となっています。
Cmsは、コンプライアンスで、ユニットのサスペンションの柔らかさを示す指標となります。ここでの単位は、[ mm/N ]ですから、1Nの力を加えた時に何ミリ動くかといった動きやすさを示す、とも言えます。

なお、振動系の重さを示すMmsの値が、NVでは、7[g] に対し、NSでは、8.5[g]と約2割増となっています。

 FE168NSは、FE166NVに比べ、約2割重い振動系を約1.8倍硬いサスペンションで、支えていることになります。NSの方が、NVよりも振動系が動きにくいと言えるかと思います。

 式の上では、Vas(等価コンプライアンス空気体積)の値は、ユニットの実効振動面積が同じであれば、Cmsと比例の関係にあります。これら各16cmユニットの実効振動面積は、ほぼ同等と考えられますので、NSのVasの値が、Cmsとほぼ比例して小さくなっています。

 このVas値の密閉箱で、箱内部の空気が持つ弾性値と、ユニットのダンパーの弾性値とが拮抗します。小さな箱は、太く短い硬いバネ。大きな箱は、細く長い、柔らかいバネ、というようなイメージでしょうか。

この値の大小はそれを示しています。
推奨する箱の大きさを示しているわけではありません。

 また、エンクロージャー選定の指標としてよく引用されるQtsの値が、NSでは、0.39とこの比較表では最大となっています。ある意味、Qtsは、制動力の指標と言えます。その値が小さいほど、制動が利いていることを示します。

指標として、Qts<0.3で、バックロードホーン向きともいわれ、また、0.3<Qts<0.6でバスレフ向きとも言われます。

 ちなみに、バックロードホーン用とFostexがはっきりと推奨しているFE168EΣのQtsは、0.26となっています。この値は、NVの0.27とほぼ同等です。NVもまた、伝統のFEシリーズらしくバックロードホーン向け路線と思われます。

これらに比べると、NSの0.39という値は。大きいと言えます。
バスレフ型を推奨されているWKの値0.34よりも大きいのは、興味深いところです。

 FE168NSもまた専用のバックロードホーン型スピーカー・ボックスのBK168NSがFostexから用意されていますが、バスレフタイプでも、設計次第では、低音も比較的出やすいといいますか、箱の選択範囲が広いような印象です。

 

周波数特性と高調波特性(2次、3次高調波)

ユニットの周波数特性測定結果の比較と検討

FE168NS(実線)とFE166NV(点線)との周波数特性の値を下図に示します。

これは、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れて1mの距離から測定した値の比較になります。なお、簡易無響室での測定のため、300Hz以下の低域特性は正確ではありません。

測定装置は、エタニ電機のASA-10mkⅡを用いました。


図 1.  FE168NS(実線)とFE166NV(点線)の周波数特性(1m)

 

 ここで、目につくのは、500-1kHzにおいて、NVに比べNSの音圧が10dB近く低くなっていることです。言い方を変えると、NSでは、400-500Hzをピークに、800-900Hz付近にディップがあります。また、1.2-1.3kHz付近に再びピークがあります。このあたりは、丁度440HzのA(ラ)の音の、3倍音、3倍音付近ということになります。この領域は、耳が感知しやすい音域でもあるので、超感上、なんらかの影響が聞き取れると思われます。

 一方、NVの場合は、ディップが、1.2kHzと少し高い方にシフトしているというようにも見えます。

 また、5kHz以上では、NVに比べ、NSの方が、高い音圧を示しているようです。NVのこの帯域の音圧は決して低い方ではありませんので、NSは、かなり高いといっていいかと思います。それが20kHz近くまで、凹凸がややあるものの、比較的高い音圧を保持しています。

 これらをまとめると、NSは、中域の1kHz前後にあるディップとピークが、聴感上もはっきり聞こえ、耳障りとなる可能性があります。ここをフラットにする工夫をすることは大事なポイントと考えられます。具体的には、何らかの手段で、500-1Khzと、2kHzや5KHz近傍のディップを上げることなどが想定されます。

 また、超高域での音圧は高いので、どちらかというと聴感上では、高音域というよりも倍音成分の音圧が高く再生され、立ち上がりの良い、エッジの聞いた音に聞こえる可能性があります。
これは、このユニットの個性につながると思われます。

本ユニットの高調波(歪率)の測定結果

次に、FE168NSの周波数特性と高調波歪の測定データを下図に示します。

図2. FE168NSの周波数特性と高調波特性(2次;オレンジ、3次;緑)

 

 いずれも、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値です。先に示した図よりも、見やすくするために横軸を横に広げています。黒い線が周波数特性で、先に示した、1mでの値と、少し違っていますが、同じ傾向です。

 高調波歪は、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。
 なお、縦軸は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、歪特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。

 例えば、500Hzでの3次高調波の値(緑)が、グラフから、60dBと読み取れますが、10dB嵩上げして表示していますので、実際には50dBとなります。

 ちなみに、この500Hzでは、ユニットの周波数特性の値が、110dBですので、緑の3次高調波の50dBの値と、60dBの差があります。dBは対数表記ですので、20dB少ないと10%、40dBの差は1%、60dBの差は0.1%となります。

 従って、本ユニットの500Hzにおける3次高調波の値は、周波数特性の値の0.1%となります。これは、500Hzにおける3次高調波歪率が0.1%だとも言えます。ちなみに、500Hzの2次高調波の値は、換算後66dBですので、差は44dBで、1/158.5となり、2次高調波歪率は約0.6%となります。

 

高調波測定結果の比較検討

 比較のために、FE166NVの周波数特性と2次と3次の高調波の周波数特性を示します。
こちらも先と同様、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。また、縦軸は、周波数特性と同一画面に収めるために、高調波特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。

   図 3.  FE166NVの周波数特性と高調波特性(2次;オレンジ、3次;緑)

 

 ここで、n次高調波と歪について、注記しておく必要があろうかと思います。たしかに、これは、本来のソースに入っていない音を発音してしまう現象です。そこで、歪に分類されます。

 しかしながら、高調波自体は、基音の倍音ですので、ハモる音になります。

 例えば、偶数の高調波、特に基音の2倍音、4倍音、8倍音は、それぞれ基音の1,2,3オクターブ上になります。従って、ユニゾンの関係ですので、これらが加わっても聴感上違和感はありません。つまり一般的にいう歪とは聴こえません。

 むしろ、豊かな響きに聴こえる傾向となります。
この原理を応用して、積極的に偶数の倍音(高調波)成分を増強するオーディオ用のハーモナイザーという機器も販売されています。同様に、楽器用にエフェクターとしても使われています。

 また、奇数音、例えば3倍音は、例でいうと、C(ド)の音の1オクターブ上のG(ソ)の音になります。ユニゾンではありませんが、ドとソの音は、3和音(トライアード)で、この場合1オクターブ上の関係ではありますが、これまた、違和感は少ないはずです。むしろ音の豊かさを増す方向性と考えられます。

 聴感上違和感を覚えるのは、不協和音です。つまり、いわば非高調波を発生する場合が問題と思われます。高調波とはいえ本来音源にない音を発する傾向のスピーカーシステムは、この非高調波成分もより多く出す傾向にある可能性もあります。

スピーカーにおける高調波の値は、その間接的な指標として、むしろ使えるのかもしれません。ただ、これらについては、測定方法や評価方法が決まっておらず、今後の課題のようです。

 

 話を戻し、FE166NVとFE168NSとを比較すると、図から2次、3次共に、NSの方の高調波の音圧が低いようです。

 これは、振動系の重さを示すMmsが、NVで、7[g]に対し、NSが、8.5[g]と、約20%重いのですが、ユニットのサスペンションの柔らかさを示すCmsの値は、NVが、1.5[mm/N]であるのに対し、NSが0.83[mm/N]と、NSの方が1.8倍硬くなっており、より制動力が強いので、振動系が抑えられ高調波も出にくくなっているとも考えられます。

 また、NSのコーン紙の方が、高剛性化と内部損失が高く、高調波発生の要因の一つといわれる分割振動が発生しにくいということかもしれません。

 いずれにしても、今回比較対象としたFE166NVの場合は、2次、3次の高調波の音圧がユニットの周波数特性の音圧と最大で30dB の差しかない場合があります。これは高調波が31.6分の1で、歪率が約3%に相当しますので、音質にもなんらかの影響は与えていると考えられます。

 

FE168NSの外観のレビュー

フレーム

 FE166NSは、FE168EΣと同様、高剛性アルミダイキャストフレームが採用されています。フレーム外径、取付穴ピッチ、バッフル開口径はFE168E Σと同等、とのことですが、実際はFE168EΣよりやや小さくなっています。

 FE-NV系は、FEシリーズで、踏襲されてきた鉄フレーム系ですので、FEシリーズは、フレームが2系統となりました。

 フレームで分類すると、FE-NV系とFF系が、鉄フレーム。FE-NS系とEΣ系がアルミダイキャスト、となります。

 

振動板

 同社独自の技術である2層抄紙により、コーン紙を2 段階で抄紙することにより、基層と表層の2 層で1 つのコーン紙を構成している2層抄紙コーンを採用しています。

 この技術により、基層に長繊維のパルプを主体に厚み剛性による高剛性化と内部損失を保有させ、表層には短繊維のパルプを配合し、コーン紙表面の伝播速度を高めることで、中域の明るく張りのある音色はそのままに、立ち上がりが良く、切れのある高音と厚みのある低音再生を可能にした、とのことです。

ダンパー等の振動系

Fostexによると、ここでは、3点強調されています。

1. ハイ・コンプライアンス コルゲーションダンパー:リニアリティ向上のため、ハイ・コンプライアンスでありながら微小入力時から大入力時まで硬さの変化が少なく動きの優れたコルゲーションダンパーを採用。

2. 3 点接着方式:コーン紙とダンパー、ボイスコイルの接着を同一箇所で行う3 点接着方式を採用。コーンネックの強度を高めることで、高域特性が向上。

3. ファストン205 金メッキ端子:入力端子にはファストン205 タイプの低損失金メッキ端子を採用。スピーカーケーブルの確実な接合と音質劣化を防ぐため。

FE166NVでは、ハトメレスポケットネックダンパーという用語が強調されていますが、こちらでは、それは語られていません。
しかしながら、3点接着方式が、それらと同等な技術で、表現もしくは視点の違い、のように思われます。また、ダンパーの写真も外見はほぼ同様です。

ダンパー周りの振動系は、FE166NVとほぼ同様の技術が採用されていると思われます。

発売時期から言えば、FE168NSで集積された技術がFE-NV系に展開されたということかもしれません。

磁気回路

磁気回路にはΦ120mm フェライトマグネットを採用し、十分な磁束密度を確保しています。ポール部に銅キャップを被せて電流歪みを低減し、力強い音楽再生を可能にしました、とのことです。

ちなみに、FE166NVでは、Φ110mmのフェライトマグネットが採用されており、NSの磁気回路の方が大型になっています。

 

まとめ

FE168NSは、FE-NSシリーズでは、最も早く2018年12月に発売開始されました。

 技術的には、2層抄紙技術によるコーンや、コルゲーションダンパー、ハトメレス、3点接着方式などのFF-WKで主に開発された振動系と、EΣ系で開発された、高剛性アルミダイキャストフレームとΦ120mm フェライトマグネットの磁気回路などが組み合わされた製品とも見えます。

 ユニットオリジナルの音に近いバスレフ箱での再生音は、周波数特性の測定値からある程度予想されたように、中音域にディップもしくはピークによる癖が感じられるものでした。

 しかしながら、全体のハギレの良い力強さとエッジの効いたキレのいい音は、独特の魅力を感じさせます。この箱では、全体にやや高音に寄ったバランスでしたが、FE166NVに比べれば、低音はより力強さを感じるものでした。

 この中域のディップは、BHBS(バックロードホーンバスレフ)箱に入れると、聴感上は感じなくなり、さらに、中域の活きの良さに加え、中低域、低域がきちんと出るようになり、音楽的にバランスが良くなりました。

 スーパーツィーターの付加も効果的で、例えば、水上の音楽では、ホルンの柔らかで優しく響く高音の質がZ800-FW168HRと同等か、むしろ解像度が高く聴こえ、また、管楽器の低域の質が向上しました。

 Z800-FW168HRと比較すると、超低音の再生力では、やや劣るところもありますが、FE168NSとBHBS、さらにスーパーツィーターとの組わせが醸し出す力強く上質な中高音域のサウンドは、一聴に値するかと思われます。

 

 

 

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