目的

             

はじめに

Dayton Audio社のDSP-408は、デジタルマルチチャネルデバイダとしてつかう事ができます。

前回と前々回、これをパッシブ型サブウーファー用の高性能デジタルフィルターとして使うための事前準備として関係項目の検討を行い、次に各項目の設定値で、フィルター特性がどのように変わるのか視覚化して見てみました。

 

今回は、それらに基づいて、具体的な関連機器等との接続方法や、セッティングについて検討してみたいと思います。

実施例として、サブウーファに音工房ZのZ506-Livornosubメインスピーカーに、Z1-Livornoを用いてみました。

システム構成の例

DSP-408とパッシブ型サブウーファーシステム

DSP-408をチャネルデバイダとして組み込んだシステム構成例を示します。

基本的な構成例

基本形は次のようになります。

DSP-408との接続ポイント

DSP-408関連の主な接続ポイントは次のようになります。

事前準備

1-1. 下図のように、DSP-408のPC Control端子(USB-B)に、WindowsPCのUSB-A端子をUSBケーブルで接続します。

1-2. 電源モジュールからの端子を12VDC端子③に接続します。

1-3. TURN-ONスイッチをREMにします。

   :マニュアルにはホームオーディオの場合、RCAにする、とありますが、
     RCAだと、RCA信号がない場合に自動的にOFFになるようです。
     従って、REMでON、SPKでOFFとした方が使いやすいと思います。
     なお、SPKのポジションは、本来は、カーオーディオ用の12Vワイヤー
     ハーネス端子から12V電源を供給する選択のためにあります。
     H/Lコンバータ機能で、この端子にスピーカー出力を接続し、プリ信号
     とする場合は、ここに12Vを供給する必要があります。その場合は、③
     のジャックには電源を入れないで使います。従ってOn/Offが逆になります。

 

RCA接続関連

DSP-408の入力側と出力側のパネルを下に示します。

この図において、次のようにRCAコネクタを接続します

2-1. プリアンプからのL/R信号をDSP-408の入力(④RCA INPUT)のch1とch2にRCAケーブルで接続する。

2-2. DSP-408の ⑧OUTPUTをパワーアンプ(別途準備)のL/R入力にRCAケーブルで接続する。

DSP-408 図の吹き出し説明
  1. 12V ワイヤー ハーネス              
  2. ターンオン・セレクター            
  3. 12V DCジャック入力                 
  4. RCA 入力     
  5. リモート 入力
  6. パソコン制御入力(DSP-RCと併用) 
  7. Bluetoothドングル入力(  DSP-BT4.0で使用) 
  8. RCA 出力                         

パワーアンプ

接続

3-1. パワーアンプのスピーカー出力のL/Rをパッシブ型サブウーファーのL/R端子にそれぞれ接続する

 

参考:パワーアンプの製品例

本用途のパワーアンプには、比較的安価なD級アンプがお勧めです。今回の用途は、サブウーファー用として20-60Hz程度の極低域の特性がしっかりしているのが望ましいのですが、最新のデバイスを用いたD級アンプであれば、特性的には、充分と思われます。

D級アンプの2023年春の最新トレンドについては、下記でご紹介しています。

ここでは、SMSLとSabajの製品について、製品内容をご紹介しました。

この2社を取り上げたのは、調査した2023年2月時点では、新しいD級アンプ用デバイスである、infineonのMA5330MやST-マイクロエレクトロニクスのSTA516BEを採用しているアンプが、この2社しか見当たらなかったためです。

今回の用途は、DSP-408のデジタルフィルターと組み合わせるサブウーファー用のアンプとなります。

この中では、一番安い価格帯の、SMSLのA100やSabajのA1 2022などがお勧めです。これらは共に、infineonのMA12070を採用しており高い基本性能にも関わらず、約1万円と求めやすい価格となっています。

2019年にリリースされたD級アンプ用デバイスであるMA12070を採用している製品は、他社にもあります。たとえばToppingなどの製品も比較的評価が高いようです。

また、出力を重視する場合は、パワーアンプ機能に特化したSabajのA20a 2022がお勧めです。この機種は、infenionの最新デバイスであるMA5332を用いており、出力は、90W✕2(8Ω)となっています。

 

DSP-408のフィルター設定の例

ローパスフィルターの設定

パッシブ型サブウーファー用のフィルターとして、ローパスフィルターを設定します。
Z506-Livornosubの場合は、以下のように設定してみました。

フィルタータイプの選定

パッシブ型サブウーファーであるZ506-Livolnosubのフィルタータイプには、前回記載しましたように、平坦特性に優れた、Butterworth とします。
メインスピーカーの再生音をできるだけ邪魔しないというコンセプトで、極低域を選択的に発音させるという趣旨からも、ウーファーとの接続においてスロープの形状が一番急峻な本タイプが適切と思われます。

 

カットオフ周波数の設定

カットオフ周波数は、40-60Hz程度の範囲で、音を聴いてきめます。
まず、50Hzに設定して、上下に、5Hz程度変えて、好みの値とします。これには全体の音量なども影響しますので、比較的低音量の場合は、より高めの周波数とした方がいいかと思います。

 

スロープの設定

24dB /Octに設定します。

以上の設定で、次のようなフィルター形状になります。


タイプ      : Butterworth
カットオフ周波数 : 50Hz
スロープ     : 24dB/Oct

 

試聴の結果

機器とその接続

実際に、スピーカーを接続して試聴してみました。

冒頭の写真に示したように、メインスピーカーに音工房ZのZ1-Livorno、サブウーファーをZ506-Livornosubとしました。

メインスピーカーへは、プリアンプ信号をそのままメインアンプに通し、サブウーファーには、プリアンプからの信号を、DSP-408に入力し、その出力を、アンプのSMSL-A300に接続しました。Ch-1をL、Ch-2をRとします。

なお、A300は、D-級アンプの比較試聴用に入手したのがたまたまあったため用いましたが、新たに入手するのであれば、先程ご紹介したA100で充分だと思います。

 

ソフトウェアの設定

まず、先程ご紹介した設定のように、Butterworth / 50Hz / 24dB/Oct、にして、極低域の入っている音源で、試聴してみました。

なお、ご参考までに、本ブログの末尾に、極低域の豊かな音源集へのリンクを示します。

サブウーファー用のボリュームバランスは、DSP-408用ソフトウェアの下の右端にあるマスターボリュームで調整しました。

また、Link機能により、Ch1とCh2とを連動させています。これにより、カットオフ周波数の変更なども、Ch1/Ch2(=L/R)を同時に設定できます。

 

試聴結果

試聴すると、質の良い、極低域が、Z-1Livornoに付加されました。
Z1-Livornoもサイズのわりには、低域が豊かですが、単体では感じ取れない音が加わり、全体の質が向上するような印象を受けます。また、なんとなく余裕が感じとれます。

ジャン・ギユーのオルガンがゆったりと豊かに響き渡ります。平原綾香のJupiterで、彼女のボーカルと極低域音の対比が見事です。また、ミネソタ管弦楽団 / 大植英次指揮による火の鳥の冒頭が、モゴモゴとしたノイズではなく、音楽として、感じ取れます。スティーブ・ガットのドラムの深みが増します。

クロスオーバーの周波数は、45-50Hzぐらいがいいように感じました。ただし、これは、繰り返しになりますが、聴く際のボリュームなどにより、加減は変わります。

 

参考: サブウーファーのオプション設定

また、大音量で鳴らす場合などで、音源に極低域がかなり豊かに含まれるような特殊な場合などでは、サブウーファーを護るために、次のような設定もあります。

大音量の場合は、サブウーファーにもサブソニック機能を導入する必要があるかもしれません。次の設定は、その場合のオプションです。

サブウーファー用オプション1

まず、サブウーファー用のスピーカーの保護のために、ハイパス・フィルターにより20Hz付近を減衰させてみます。

サブウーファー用オプション2

さらに、バンドパスの平坦領域を広げるために、平坦部の両端部分をパラメトリック・イコライザで少しだけ持ち上げてみます。

組合せ結果

以上で、例えばこのような波形となります。

ハイパス・フィルター: Butterworth、21Hz 、24dB/Oct
ローパス・フィルター: Butterworth、50Hz 、24dB/Oct
PEQ1     :  F 28Hz、Q  2.515 、dB 0.5          
PEQ2 : F 45Hz、Q  2.515 、dB 0.7

 

 

参考: メインスピーカー用のその他の構成例

大音量かつ極低域を充分に含む音源の再生の場合

かなりの大音量で鳴らす場合で、かつ極低域の音圧がかなり高い音源の場合は、メインスピーカーを護る必要があります。

この場合は、次のような接続も可能です。

メインスピーカー用の信号にハイパス・フィルターを入れ、サブソニックフィルターとして機能させることにより、メインスピーカーを保護することができます。

例えば、このような設定です。

通常のネットワークの考え方とは異なり、あくまで、スピーカー保護が目的ですので、カットオフ周波数は、Z1-Livornoの特性を考慮し、再生の邪魔をしないように、かなり低い値としてみました。

これについては、それぞれのメインスピーカーの特性に合わせて設定します。
例えば、30Hzの再生能力が殆ど無い場合は、30Hzなどもっと高い値の方がいいかと思われます


ハイパス・フィルター

Type : Butterworth
Freq : 25Hz
Oct   :    24dB/Oct 

 

注;ただし、この場合、メインスピーカー用の信号にA/DとD/Aをはさむことになります。
本機は、PA用でよく使われる2496系よりも、サンプリング周波数が2倍高い192kHzですので、サンプリング精度は高くなっています。しかし、縦方向の分解能は、24bitと同じです。特に入力信号が、フルスケールで入っていれば、24bitは、充分なのですが(2^24=16777216、なお、CDは; 2^16=65536)、といいますか、24bitの分解能の1/16777216は、人間の判別能力を遥かに超えているといわれていますが、あまりにも信号レベルが低いと、24bitフルではなくなるので、分解能が下がることになります。しかし、そもそも、この設定は大音量を前提とした場合ですので、問題はない範囲と思われます。とはいえ、あまりに小音量の場合は、ビット落ちによる信号劣化がないとはいえない、ということは、知っておいたほうがいいかと思います。最も、この常識も、最近32bitフロートという技術で入力ゲインを気にしなくてもよい技術もでてきました。既にそれを採用したレコーダーやオーディオインターフェースも出ています。

 

まとめ

DSP-408を、パッシブ型サブウーファー用のローパスフィルターとして用いた場合についてご紹介しました。本機は、Windows用ソフトウェアを用いることにより、設定がわかりやすく容易にできます。設定値を保存できますので、様々な検討結果をプリセットとしてロードすることもできます。

また、得られる音の質もいいように感じました。
ただし、組み合わせるアンプは、低域の特性がいいものを選ぶ必要があります。その点では比較的新しいデバイスを用いたD-級アンプなどが、価格的にも性能の点でもお勧めです。

以上、価格と、入手の容易性、さらに性能を考慮すると、DSP-480は、お勧めできる製品だと思います。

 

関連リンク先

本記事の関連リンク先をご紹介します。

極低域の豊かな音源のご紹介

パッシブ型サブウーファーの接続方法について

パッシブ型サブウーファーの接続に必要なローパスフィルター機能をデイトンオーディオのDSP-408で設定する方法のご紹介です。

これは、マルチウェイスピーカーのマルチチャンネル化にも使うことができます。

 

音響パネルの使いこなしについて

音響パネルZ103Aのレイアウトによる音の聴こえ方について検討してみました。

 

 

 

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