目的

 

          
      

はじめに

既に別ブログにてご紹介したように、Dayton Audio社のDSP-408は、デジタルマルチチャネルデバイダとして使うことができます。

前回、これをパッシブ型サブウーファー用の高性能デジタルフィルターとして使うための事前準備として、関係すると考えられる項目について説明しました。

 

ところで、ハイパス/ローパス・フィルターの設定値によりフィルター特性の形状がどのように変わるのでしょうか、今回は、まず、その傾向を確認したいと思います。

DSP-408のWindowsソフトウェアは、フィルターやイコライザの設定値により出力信号の周波数特性にどのような影響があるのか、周波数特性のグラフで見ることができます。

そこで、実際にいくつか設定してディスプレイ上のグラフに可視化して、どのように変わるのか見て比較してみます。

もっとも、このグラフは測定値ではないので、あくまで傾向を知ることができる、ということです。

次に、具体的な関連機器等との接続方法や、セッティングについて検討してみたいと思います。

ローパスフィルタの設定と特性の変化

フィルタの設定による周波数特性の形状の違い

DSP-408のハイパスとローパスの2つのフィルタは、フィルターのタイプを選べます。各タイプによりフィルター特性が異なります。

ローパス/ハイパス・フイルターのタイプによる違い

選択できるのは、Butterworth / Linkwitz-Riley / Bessel (バターワース/リンクウィッツライリー/ベッセル)の3つです。それぞれの形状の傾向を次に示します。
これら3つは、カットオフ周波数;51Hz、24dB/Octに設定した場合のローパスフィルターの周波数特性形状です。

Butterworth - 24dB/Oct の場合

このフィルター特性では、カットオフ周波数にて-3dBとなります。このタイプは通過帯域では、最大限平坦で、リップルがないのが特徴です。

Linkwitz-Riley - 24dB/Oct の場合

このフィルター特性では、カットオフ周波数にて、-6dBとなります。このタイプは、24dBの場合、位相差が360°で、結果同相に見えます。



Bessel - 24dB/Oct の場合

このタイプのフィルタの応答特性は、通過帯域ではほぼ一定の群遅延を示すので、通過帯域の信号の波形をそのまま保つことができます。

同じ、スロープ特性の24dB/Octでも、タイプによりその特性がかなり異なるのがわかります。ここで示したように、同じ24dB/Octの場合、Butterworth が一番急峻で、 Linkwitz-Riley、Bessel で緩やかになっていきます。

ところで、通常、ネットワーク用フィルターとして12dB/Octがよく使われますが、実際のところそれぞれのスロープ(dB/Oct)で、どのような形状になるでしょうか。次に見てみたいと思います。

 

スロープ特性(dB/Oct)によるフィルター特性の変化

次に、同じタイプで、スロープ(dB/Oct)を変えたときの違いをみてみます。

6dB/Oct  51Hz

12dB/Oct   51Hz  Butterworth

18dB/Oct   51Hz  Butterworth

24dB/Oct   51Hz  Butterworth

この結果をみると、6dBや12dBは、ややブロード過ぎて、本来の目的である各スピーカーユニットの役割分担という観点からは、あまり向かないような感じがします。

最も、ここで示した極低域でのクロスの場合と異なり、周波数が高くなると、位相の問題がでてきますので、それも考慮して、12dB /Octのフィルターなどを採用することが多いようです。

とはいえ、各ユニットの役割分担という本来の目的と、位相特性、平坦性などを考慮すると、一般的にはButterworth の 18dB/Octと24dB/Octや、Linkwitz-Rileyの24dB/Octなどが、スピーカーネットワーク用のフィルター特性としてはいいように思えます。

 

バンドパスフィルターの設定について

ローパスとハイパスを組合せると、バンドパスフィルターになります。

バンドパスフィルターの設定例

たとえば、サブウーファー/ウーファー/スコーカー/ツィーターという構成を想定した場合のウーファーの設定例のイメージを示します。

ハイパスとローパスの各々を次のような設定としてみます。

ハイパス・フィルターの設定例

Type     :   Butterworth
Freq.    :   40Hz
Slope :      24 dB/Oct

ローパス・フィルターの設定例

Type     :   Linkwitz-Riley
Freq.    :   1000Hz
Slope :      24 dB/Oct

この場合の、ウーファー用とイメージしたバンドパス・フィルターの形状は次のようになります。

なお、画面で ”All Bypass” とあるのは、10chのイコライザの機能を使っていないことを示しています。

 

サブウーファー用フィルターの設定

サブウーファーは、通常のウーファーよりも、より低域側のいわば極低域を担当します。

このサブウーファーとウーファーとのクロスオーバー周波数付近は、音の波長が長いため、位相差がわかりにくい領域です。

50Hzの音の波長

例えば、50Hzとすると、音の速さは、14℃で、約340m/sです。波長=音速/周波数ですから、6.8mとなります。例えば音の出口を半波長ずらせば、同じ音がキャンセルされその周波数の音が消されるという最もい大きな影響を受けるわけですが、50Hzの場合、6.8/2=3.4mのズレが生じた場合ということになります。

この領域では、位相差よりも、フィルター特性の平坦性を重視したほうがいいように思います。

 

フィルタータイプの選定

そこで、サブーファーとウーファーとのクロスのフィルターは、平坦特性に優れた、Butterworth とします。通常はここまででいいかと思います。先程のこのような波形です。なお、カットオフ周波数は、40-60Hz程度の範囲で、音を聴いてきめます。

メインスピーカー側の考え方

この領域であれば、通常のスピーカーでは、メインスピーカー側は、特にフィルターなしの場合が多いと思います。

大音量で聴く場合など、メインスピーカー側のウーファーがあまりにもフラフラと動く場合は、サブソニックフィルター機能としてハイパス・フィルターを挿入することでスピーカーを保護することができます。

例えば、このような設定です。


ハイパス・フィルター

Type : Butterworth
Freq : 25Hz
Oct   :    24dB/Oct 

 

注;ただし、この場合、メインスピーカー用の信号にA/DとD/Aをはさむことになります。
本機は、PA用でよく使われる2496系よりも、サンプリング周波数が2倍高い192kHzですので、サンプリング精度は高くなっています。しかし、縦方向の分解能は、24bitと同じです。特に入力信号が、フルスケールで入っていれば、24bitは、充分なのですが(2^24=16777216、なお、CDは; 2^16=65536)、といいますか、24bitの分解能の1/16777216は、人間の判別能力を遥かに超えているといわれていますが、あまりにも信号レベルが低いと、24bitフルではなくなるので、分解能が下がることになります。とはいえ、そもそも、この設定は大音量を前提とした場合ですので、問題はない範囲と思われます。ただし、あまりに小音量の場合は、ビット落ちによる信号劣化がないとはいえない、ということは、知っておいたほうがいいかと思います。最も、この常識も、最近32bitフロートという技術で入力ゲインを気にしなくてもよい技術もでてきました。既にそれを採用したレコーダーやオーディオインターフェースも出ています。

 

サブウーファーのオプション設定

大音量の場合は、サブウーファーにもサブソニック機能を導入する必要があるかもしれません。次の設定は、その場合のオプションです。

サブウーファー用オプション1

まず、サブウーファー用のスピーカーの保護のために、ハイパス・フィルターにより20Hz付近を減衰させてみます。

サブウーファー用オプション2

さらに、バンドパスの平坦領域を広げるために、平坦部の両端部分をパラメトリック・イコライザで少しだけ持ち上げてみます。

組合せ結果

以上で、例えばこのような波形となります。

ハイパス・フィルター: Butterworth、21Hz 、24dB/Oct
ローパス・フィルター: Butterworth、50Hz 、24dB/Oct
PEQ1     :  F 28Hz、Q  2.515 、dB 0.5          
PEQ2 : F 45Hz、Q  2.515 、dB 0.7

 

参考(サブウーファー以外の例)

今回設定の主目標からは逸脱しますが、4wayの場合のサブウーファー用以外の設定例について検討してみたいと思います。

ウーファー用フィルターの設定

サブウーファーとのクロスは、サブウーファーの場合と同様に考え、Butterworth/24dBとします。また、スコーカーとのクロス側は、位相差を考慮し、Linkwitz-Riley/24dBとします。

設定例は、例えば次のようになります。


ハイパス・フィルター: Butterworth、50Hz 、24dB/Oct
ローパス・フィルター: Linkwitz-Riley、300Hz 、24dB/Oct

 

スコーカー用フィルターの設定

スコーカーとウーファーのクロスは、ウーファーの場合と同様に考え、Linkwitz-Rileyとします。また、スコーカーとツィーターとのクロス側は、位相差と急峻性を考慮し、こちらもLinkwitz-Rileyとします。



ハイパス・フィルター: Linkwitz-Riley、300Hz 、24dB/Oct
ローパス・フィルター: Linkwitz-Riley、3000Hz 、24dB/Oct

 

ツィーター用フィルターの設定

スコーカー側と同様にしてLinkwitz-Rileyとしてみます。これはハイパス・フィルターのみとします。



ハイパス・フィルター: Linkwitz-Riley、3000Hz 、24dB/Oct

 

以上の設定のあと、それぞれの能率に応じたゲインの調整が必要です。

そのため、クロスオーバー付近でのフィルター特性の平坦性が崩れると思います。
パラメトリックイコライザで、補正を検討するのもひとつの手段です。

 

次回は、メインスピーカーとパッシブ型サブウーファーとを組合せた場合の接続例と設定について、具体的に検討してみたいと思います。

関連リンク先

・次回のリンク先です。
 実際にパッシブ型サブウーファーである音工房ZのZ506-Livornosubを2台、DSP-408をローパスフィルターとして用いて、D級パワーアンプに接続して駆動してみました。

 

・サブウーファー領域の極低域が録音されている音源を、これまでご紹介してきた高音質音源から、ピックアップしてみました。

 

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