はじめに

 

今回のテーマについて

前々回、その1では、最新の中華デジアンについて、S.M.S.L社とSabaj社の製品の一覧表を示しました。この2社の製品が今のところ最先端と思われるからです。

次に前回では、その一覧表で、各社のハイエンド機種について、Axign社のデジタルフィードバック技術なども含め、ご紹介しました。

今回は、S.M.S.Lのハイエンド2機種以外の、比較的低価格な2社の製品について、比較検討したいと思います。

なお、各項目での結論を最後の "まとめ" に記載しました。

 

S.M.S.LとSabajのデジタルアンプの最新製品一覧

前々回の表から、それぞれのトップ製品を除き、価格順に両社の製品を並べて示します。

この表では、前々回の表に重量の項目を追記しました。

また、S.M.S.LのA300の出力の表記が、オリジナルが間違っていたので、修正しました。

オリジナルの表では、A300の出力は、200w*2(4Ω)/100w*2(8Ω) /BTL 330w*1(4-8Ω)と記載されていましたが、調べると、165w*2(4Ω)/85w*2(8Ω) /BTL 330w*1(4-8Ω)が正しいようです。

この表に基き、この2社の似たような価格帯の製品同士を比べてみたいと思います。

 

S.M.S.LとSabajのデジタルアンプ製品の比較

グループ分けについて

先程示した表で、次の4つの組み合わせでそれぞれ比較します。カッコ内は、Amazonでの調査時点(2023/3月)での価格です。現在は変わっているかもしれません。

I.A1 2022 (¥9,500) vs A100(¥10,600)

II. A10a( 在庫切れ) vs  SA300(¥16,829)

III. A300(¥25,500)  vs  A20a 2022(¥27,500)

IV. SA400(¥78,966)  vs  A30a(¥69,900)

なお、第IVグループのA30aは先程の表からは、一旦外しましたが、SA400と価格的に同レベルなので、比較対象としました。

最後に、検討結果のまとめを示しました。

 

第Iグループ A1 2022 vs  A100

これは、旧世代のデジアンとほぼ互角の価格帯です。

本グループの比較表を示します。

この2製品は、共に、インフィニオンのMA12070を採用しています。
仕様の値は、やや違いますが、性能的には、ほぼ同等と見ていいかと思います。
BT(Bluetooth)のコーデック対応も同等に見えます。一部のブログ等にA100がaptX/ACC対応と記載しているケースもありますが、マニュアル等を見る限りは、そのような記載は一切なく、未対応と思われます。なお、Amazonの説明では、aptXには対応していません、との記載があります。

出力は、8Ωで、40Wx2と同等です。

デザインを別にすればこの表での相違点は、2つあります。
まず、A100には、USB入力があります。DAC内蔵と思われます。ただし、仕様は不明です。

また、A100は電源が内蔵で、100Vから直接接続できます。

さらに、A100には、サブウーファー用の出力端子が2つあります。なお、この2つの信号は、同じと推定されます。

以上から、約1000円の価格差であれば、S.M.S.LのA100の方がおすすめと言えそうです。
特に、DACをまだ持っていない場合は、まずは、これ一台でスタートできるという点が大きなメリットかと思われます。

 

第IIグループ A10a vs  SA300

次に第IIグループの比較です。


アンプ用デバイスは、共に、インフィニオンのMA12070です。
出力は、40Wx2(8Ω)です。アンプ関連の特性値は、異なっていますが、このあたりの表記は解釈次第でもあるので、ほぼ同様と考えていいのではないかと思います。

このクラスから、リモコンがついてきます。

なお、SabajのA10aは、Amazonで在庫切れとなっています。他の機種の型番からすると、A10a 2023などの名称で新たに改訂版が出ると予想されます。
S.M.S.LのSA300の価格から推定すると、17,000円程度でしょうか。

この2機種の比較では、やはり、S.M.S.LのSA300に分がありそうです。

こちらは、USB入力に対応で、DACが384kHz/32bitと明記されています。このレベルであれば、当面は、これ一台でPCオーディオに対応できそうです。

また、BTも、aptX/AAC対応と明記されています。
一方、A10aはそもそもBT5.0に対応していません。次機種の改訂のポイントは、このあたりでしょうか。

ただし、このSA300も電源がACアダプターであることなどから、やや設計が古い世代と思われます。こちらも改訂版がでるかもしれません。

ただ、DACの仕様やBTへの対応、又リモコンもついている、など、製品レベルは、A100よりも上ですので、新機種への交代があるとしたら、現行の商品は、価格も下がる可能性もあり、特にお買い得となるかもしれません。

こちらも次機種でBTのコーデックが今後強化されるかもしれませんが、LDACとaptX-HDが増えても、Apple系ユーザーには関係ありません。

 

第IIIグループ A300  vs  A20a 2022

S.M.S.L/A300が、¥25,500、Sabaj/A20a 2022が、\27,500で同クラスです。

共に、インフィニオンの最新のD級アンプデバイスのMA5332Mを使用しています。

出力の値が、わずかですが、異なります。
S.M.S.L/A300が165w*2(4Ω) /85w*2(8Ω) /BTL 330w*1(4-8Ω)に対し、Sabaj/A20aは、170w*2(4Ω)/90w*2(8Ω)/BTL 350w*1(4-8Ω)となっています。これは、BTLの値も異なっていることから、よくある記載ミスではなく、本当に違うと思われます。

重量をみると、1.3kg対1.8kgと、A20aの方が、500g重くなっています。電源がこちらの方がやや強力な可能性があります。その結果、出力がやや大きいのかもしれません。

ただ、SMSLは、パッケージングされたスイッチング電源モジュールを採用するケースが多く、結果としてコンパクトな電源系統になるのに比べ、SabajのA20aは、USAのサイトなどでパネルを開けた写真などでみると、小さなトロイダルトランスなどを用いた電源回路のようです。この重量差は、方式と考え方の違い、ともいえそうです。

A20a 2022の特徴

A20aは、筐体がCNC(コンピュータ数値制御)によるアルミ削り出しが売りで、しっかりしている印象を受けます。USAのサイトに、A20aを持ったときの重量感が嬉しかった、と述べている例があります。

入出力とパネルレイアウト

A20aは、USB入力には対応していません。代わりにXLR端子がありますが、これは、BTL接続の場合のモノラル対応で、端子は1個のみです。
BTへは、aptX/AACへ対応していますので、AndroidやiPhoneなどを音源とする場合は、ある程度の音質は望めます。

表側のパネルは、実にそっけなく、スイッチとボリュームだけです。
表示パネルなどはありません。トーンコントロール機能などがないので、表示する必要がないという判断と思われます。従ってリモコンもありません。

背面側も、シンプルです。入力は、Line1系統とBTのみ。切り替えは、背面のスイッチで行います。また、通常のStereoとBTLの切り替えなども背面にあります。設置時の設定のみで、運用時の切り替えは想定していないと思われます。

パワーアンプに徹した機能

また、サブウーファー用にローパスフィルターが内蔵されており、BTL時に、モノラルのサブウーファー用アンプとして使うことができます。カットオフ周波数は、70-200Hzの可変です。これらのノブや、スイッチも背面です。

本機は、パワーアンプ機能に徹しています。通常のステレオパワーアンプとして使われることに加え、BTL接続によるモノラルアンプとして左右に2台つかうとか、さらに複数台使って、Atmos等のマルチチャンネルに使われることなども想定しているようです。

どちらかというと、米国市場にフォーカスしているような印象も受けます。

想定される用途

このシンプルな構成は、AVアンプで、Atmos用などにプリアウトに接続してチャネルを追加する、などという用途に向いています。

さらに、デイトンオーディオのDSP-408などのようなデジタルチャネルデバイダと組合せて、ウーファー、スコーカー、ツィーターなどを独立駆動させるマルチチャネル用にパワーアンプとして用いることで比較的安価にシステムを構成できます。

さらに、サブウーファーの追加も可能です。DSP-408のフィルター機能の方が高性能です。

DSP-408は、24bitz/192kHzですので、安価なデジタルチャネルデバイダとして有名なPA用の2496系機器の96kHzに対し、サンプリング周波数が2倍となります。設定は、PCやAndroid/iOS機器で行います。この機器については、別記事でご紹介する予定です。

 

A300の特徴

入出力とパネルレイアウト

正面パネルには、表示パネルとボリュームノブに加え、電源スイッチと、メニュー切り替えスイッチ、入力切り替えスイッチがあります。XLR端子はありません。

プリメインアンプ(コントロール機能)

本機は、Amazonなどでは、パワーアンプと記載されていますが、DSPで制御されているトーンコントロール機能も内蔵されており、入力も複数で、Line2系統、BT、USB入力が選択できます。いわゆるプリメインアンプと言っていいかと思います。
リモコンもついています。

この基本コンセプトが、パワーアンプに徹しているA20aと大きく異なります。

従って、サブウーファーについては、本機がサブウーファー用アンプとなるのではなく、パワードサブウーファー用として、ローパスフィルター経由のプリ出力端子をもつ、という形態になります。

DAC内蔵

これまでの機種との共通項として、S.M.S.Lは、USB入力対応です。DAC内蔵と思われます。

ただし、SA300と異なり、仕様の記載がありません。色々調べましたが不明です。
ただ、ある販売サイトに、48kHz対応、という表記がありました。48kHz/24bit対応ということでしょうか。
この点について、海外のレビューサイトでは、DAC性能については、あまり高い評価は得てはいないようです。

音質と用途

一方、アナログ入力の音については、とても評価が高く、MA12070を用いた機種よりもアンプとして音質の点で優れている、さらに出力が高い、という評価が多いようです。

BTについては、aptX/AACには未対応です。

最も、音源として、aptX/AACクラスで十分なのであれば、本機のUSB入力をお使い下さい、ということかもしれません。有線になりますが、遅延は少ないとも言えます。

いわゆるPCオーディオ用のアンプ(プリメインアンプ)としては、本機種がおすすめです。大音量でも、小音量でも、リモコンもついており、フレキシブルな対応が可能と思われます。

より高性能のDACと組み合わせれば、本領を発揮すると思われます。

 

第IIIグループのまとめ

以上、この2機種は、基本的には、同程度の音質かと思われますが、製品としては基本コンセプトがかなり異なります。

同じD級アンプ用デバイスを用いていますが、電源、筐体などは、A20aがやや勝っているように思われ、出力も少し大きくなっています。

一方、A300は、コントロールセンターとしての役割が可能です。DSP制御のトーンコントロール機能などは、小音量で聴く際に案外効果的です。

それぞれ、特徴があり、使用するシーンに応じて、選択が変わるのではないかと思われます。

 

第IVグループ SA400  vs  A30a

第IVグループは、SA400(\78,966)  vs  A30a(\69,900)です。

A30aの一択か

これは、USB入力の場合は、価格からも、性能からも、A30aの圧勝です。
理由は、前回ご紹介した通りです。

この表で、SA400のデバイス関連の欄に、AX5689?とAxign?と2つ?マークを追記しています。

特性値が、AX5689を使っているとしたら、一桁悪い値です。また、SA400の製品説明にAxignのPFFBについての説明が一切ありません。また、本領を発揮するはずのUSB入力もありません。

以上から、この機種は、ST-マイクロのSTA516BEのみを2個使っているレガシーなアナログ入力のD級アンプ回路構成と思われます。Amazonに記載の一覧表が間違っていると考えられます。

ちなみに、ST-マイクロのSTA516BEを採用している製品は、結構熱くなるようです。そのためか、これらの両機種には、ファンがついています。

いずれにしても、デジタル入力対応の有無、BT5.0でのコーデック対応力、筐体の剛性、そして重量、など、すべて、A30aが勝っています。特性値も一段上です。かつ価格も低い。

通常は、A30aをおすすめします。

このモデルは、Hypex社のNcoreモジュールなどを採用している上のクラスのD級アンプと比較できるレベルと思われます。

例えば、Ncoreモジュールを採用しているTEACのパワーアンプAP-505は、出力が定格(8Ω)70+70Wですが、Amazonで\150,210です。

 

SA400の立ち位置

ただし、すでにお気に入りのDACをもっていて、それを活かしたいという場合であれば、選択は変わります。

A30aは、RCA入力はありますが、前回ご説明したように、その入力したアナログ信号を、今となっては、かなり旧型のADCで、AD変換します。このRCA入力は、レガシーな機器用の端子であって、高性能DACで得た高品質のアナログ信号の入力用ではありません。

一方、SA400は、前記の推定では、STA516BEを通常のD級アンプ用デバイスとして用います。高品質なDACの信号の受け皿としては、こちらの方がはるかに向いていると思われます。

SA400は、STA516BEを左右専用で計2個使い、XLR端子も備え、フルバランス対応と思われます。回路的には高性能です。

ただ、少し引っかかるのは、同じSMSLのA300などに比べ、価格差に見合う品質か、という点です。

セパレーションの観点からは、A300 か A20a 2022をBTL接続で2台用いたほうが、高出力かつ低価格でシステムが構成できます。XLR接続が必須であれば、A20a2022のBTL接続で対応できます。

SA400は、ST-MicroelectronicsのSTA516BEにこだわる場合は別ですが、製品としては色々とポジショニングが難しい位置にあると思われます。

全体のまとめ

第Iグループと第IIグループ

第Iグループと第IIグループの製品は、全てインフィニオンのMA12070を採用しており、アンプとしての基本性能は、ほぼ同一と思われます。

従って、すでにある程度のDACをもっていて、BTを使わないということであれば、A100はおすすめです。

また、DACを持っておらず、もしくは既存品がかなり古い仕様で、PCオーディオやAndroidやiPhoneなどを音源として音楽を聞きたいということであれば、SA300は、コストパフォーマンスがいいと言えそうです。

第IIIグループ

第IIIグループの2つは、2022年にリリースされたインフィニオンの最新D-級アンプ用デバイスであるMA5332M を採用しています。このグループから、今回の2社がそれ以外のメーカーと比べてアドバンテージを持つ領域となります。

様々な評価結果を見てみると、前の世代のデバイスに比べ、高調波歪等も一桁良く、さらに音質の評価の高かった同世代のMA12070を超えているという意見が多く見られます。

ちなみに、TOPPING社などにもPA3sなど、MA12070を採用して比較的評価の高い製品があります。

さらに、このデバイスは、95%の高い効率となっており、省エネの観点からも高性能と言えます。シャーシが熱くなることは、まずありません。

一方、音質以外の点では、この2つは、製品コンセプトがかなり異なっているようです。

A20aは、パワーアンプ機能に特化しており、電源スイッチとボリュームのみのシンプルなパネルとなっています。入力は、Line1系統とBTのみで、BTL接続時には、XLR入力が可能です。発熱が低いこともあり、複数台をスタックして、マルチチャンネル等で使うイメージが示されています。

一方、A300は、表示パネルやトーンコントロール機能、USB、Line2系統、BTの入力セレクタ機能などのコントロール機能を持つプリメインアンプです。リモコンもあります。
ただ、内蔵のDACは、やや役不足かもしれません。外付けのDACでさらに音質が向上することが期待できます。

このグループの2機種については、各々、想定される使用シーンに応じて選択することになりそうです。

第IVグループ

最後に、第IVグループですが、これは、前回ご説明した理由で、A30aをおすすめします。
特に、USB入力対応はDSD512とPCM768kHz/ 32bit対応の、現時点での最高レベルであり、これ一台でかなりのクオリティのPCオーディオの世界が構築できます。

ただし、既に高性能のDACをもっていて、それを使いたい場合には、不向きです。
その場合には、むしろA300かA20a2022がおすすめです。

また、どうやら、放熱対応の課題も現時点ではあるようです。ファンの音が気になる場合は、やや問題です。設置方法の工夫が必要かもしれません。

最後に

以上、S.M.S.L社とSabaj社の最新製品による、比較的安価なデジタルアンプの最新動向のご紹介でした。

ここで見てきたように、両社共に、型番が近くても、個々の製品コンセプトや構成は全く違います。機種選定の際は、型番にとらわれず、慎重にそれぞれの仕様を確認する必要がありそうです。

 

関連リンク先

簡単接続のPCオーディオ

今回ご紹介したD級アンプを用いて、簡単接続で、低価格、かつ音のいいPCオーディオについてブログでご紹介しています。

 

パッシブ型サブウーファーの駆動用アンプとしてのご紹介

極低域再生専用のサブウーファーを駆動するには、低域の特性の良いアンプが必要です。

今回ご紹介しているD級アンプは、最新のデバイスを用いており、このような用途にも使うことができます。

その事例をご紹介します。

 

音響パネルの使いこなしについて

音響パネルZ103Aのレイアウトによる音の聴こえ方について検討してみました。

 

 

人気記事一覧

データはありません