はじめに

 

新世代デジタルアンプの登場

中華系デジタルアンプ(以下デジアンと略)の代表的メーカーの一つであるSMSL社とSabaj社から、新世代ともいうべきデジアンが販売されました。

 SMSL社は、VMA A2、Sabaj社からは、A30aという型番の最新デジアンです。
この2つに共通する大きな特徴が、3つあります。

特徴

1. USB入力が可能で、DSD512とPCM768kHz/32bitに対応(XMOS XU208採用)。

2. Bluetooth5.0対応で、かつLDAC・APTX・APTX-HD・AAC・SBCの各コーデックに対応。(Apple、Android、SONYの最新の方式へ対応)

3. ST-Microelectronics社の最新D級アンプデバイスのSTA516BEを左右独立で2個使い、かつ、Axign社のAX5689によるデジタルフィードバックループにより、高調波歪率が0.0008%、SN比が、116dB、チャネルセパレーション108dBという高スペック。
さらに、200Wx2(4Ω)、100Wx2(8Ω)という高出力。

特に3番目の仕様の値は、従来の安価なデジアンの延長というより、ハイクラスのアンプに採用されているHypex社や、Purifi社のD級アンプモジュールに近いクラスと言えるかと思います。

超コストパファーマンス

 なお、この2機種は、上記の特徴がほぼ同じですが、Amazonでの価格は、VMA A2が、¥121,000、A30aが、¥69,900円となっています。

価格を考慮すると、後者などは、ハイスペックD級アンプの革命と言えるかもしれません。

PCオーディオの再生用と考えると、USB直結が可能で、ハイエンドクラスのDACに相当する仕様のデジタル入力に対応していますから、DAC不要という点でもコストパフォーマンスは、相当高いといえます。

新たなラインアップ

また、現時点(2023年2月)での両社の最新ラインアップをみると、比較的新しいデバイスを用いており、なかなか、興味深い仕様が並んでいます。価格も最安で¥9,500からとなっています。

今回は、上記の用語や構成についての簡単な説明と、各社のラインアップの概要について、ご紹介したいと思います。

D級アンプ用デバイスの系譜

D級アンプ用デバイスの構成

新世代のお話の前振りとして、中華系デジタルアンプ(デジアン)等、比較的安価なデジアンに用いられているデバイスの流れをおさらいしておきたいと思います。

ここで、デバイスと書いたのは、通常ICとかLSIなのですが、このアンプ用デバイスについては、アナログ系とデジタル系回路とが混在している関係上、一つのパッケージの中に、複数のチップが混在してマルチチップモジュールとなっていることが多いためです。

ベースの材料も、今後は、従来のシリコン系に加え、窒化ガリウムなどの高速スイッチングに有利なものが採用されていくと思われます。

中華系デジタルアンプに採用されているデバイスメーカーの国籍

ところで、世の中に、D級アンプ用デバイスをリリースしているメーカーはたくさんあるのですが、中華系の場合、どうやらヨーロッパ系のメーカーにシフトしているように見えます。

かつては、米国のTIのチップも多く使われていたのですが、最近リリースされた商品では、ドイツのインフィニオン(infineon)や、スイスに本社のあるSTマイクロエレクトロニクス(ST-Microelectronics;以下ST-マイクロと略称)のデバイスを採用することが多いのです。

もちろん、米国の複数の他のメーカーも最新チップをリリースしているにも関わらず、です。

最近の世界情勢で、中華系の企業にとっては、米国はカントリーリスクが高くなっているせいかもしれません。

そのような事情もあり、数多くあるD級アンプ用デバイスメーカーの内で、TI、インフィニオン、STマイクロエレクトロニクスの3社のデバイス動向を見れば、ほぼ、中華系デジアンの流れは、見えるように思われます。

代表的なD級アンプ用デバイスの年表

これら3社と、先駆けとして有名なTripath社の4社の、デジタルアンプに採用されている代表的なデバイスの年表を次に示します。

Tripath社の有名なデバイスであるTA2020-020(2000)から、現時点での最先端である、インフィニオン社のMA5332(2022)まで、22年間の歴史となります。

3世代の変遷

これをざっくり3つの世代に分けてみます。

第1世代

2000年Tripath社のTA2020-020がD級デジタルアンプ用デバイスの先駆けと言えるかと思います。派生の製品で、TA2024やTA2021などがあります。

ただし同社は、2007年に倒産しました。

しかしながら、このチップは未だに大人気です。もはや伝説と化していると言っていいレベルだと思います。それが、これ一つをもって、一つの世代とした理由です。

また、興味深いのは、この約20年前のデバイスを用いた製品が未だに販売され続けています。

たとえば、FX-Audioは、昨年の2022年12月に、このTripath社のTA2020-020を採用したとするアンプのFX-202J Fusionを発表しています。この倒産したTripath社製のデバイスをどのように調達しているかは不明です。

 

第2世代

2012年、TIのTPA3116D2とSTーマイクロのTDA7498E等が登場しました。そして、これらを採用したデジアンが各社からリリースされました。また、当時からの商品が、改良されつつ未だに販売され続けています。特にTDA7498Eは未だに音質の評価が高い機種が多いようです。

2016年、続いてTIがTPA3255を発表、高調波歪率や、SN比などの仕様が大幅に向上して、さらに100Wクラスの大出力に対応しました。これも各社に採用されました。これまた、未だに人気のようです。

これらの3つのD級アンプ用デバイスを用いたデジタルアンプは、それぞれ各社から販売され続けています。

これらを用いたデジタルアンプは、ほとんどが1万円以下で、購入できます。

 

第3世代

2019年5月にinfineonからMA12070が発表されました。このデバイスは、高調波歪率、SN比などが従来品よりも、桁違いに良くなっています。変換効率も91%に向上。この変換効率の向上は、現在、各社の最新製品の主流になりつつあります。その結果、熱くなることがほとんどなくなっています。省エネという観点では、特筆すべきレベルと言えます。

2020年11月、ST-MicroelectronicsからSTA516Bが発表されました。変換効率は90%です。ただし、このデバイスは、少なくも日本市場に登場したのは、割合最近です。例のコロナ関連や半導体工場の事故などによる半導体不足(生産能力不足)による影響かもしれません。

2022年2月、infineonからMA5332MSが発表されました。変換効率は95%です。発表年月からいうと、今のところ、このデバイスが最も新しいことになります。

これらの3つのデバイスは、機種によっては、左右それぞれに1個ずつ計2個使われ、フルバランス型の回路で、XLR接続のものもあります。ただし、XLRコネクタだからフルバランス回路、というわけでもないので、個々に注意が必要です。

第3.5世代

さて、リリース年は、以上のような順番ですが、STA516Bを3.5世代とマーキングしたのは訳があります。

単体での基本スペックは、ほぼリリース年が新しいほど、良くなっています。
この分野の技術の進歩が、最近著しいのがよくわかります。

ところで、STA516Bは、ある意味特殊な信号入力ができます。
通常のD級アンプデバイスの入力は、アナログ信号です。PCオーディオ用のシステム構成で、DACが必要なのはそのためです。

通常のD級アンプデバイスでは、入力したアナログ信号を、通常は三角波で、コンパレート(比較参照)して、PWM(パルス幅変調)信号を、内部でまず生成します。その後、増幅し、さらにLC回路等のローパスフィルタでアナログ化します。

STA516Bは、通常は、内部の中間信号であるこのPWM信号を入力信号として受け取り、増幅する事ができるようです。

 

Axign社のAX5689によるPFFD対応

これにより、オランダのAxign社のAX5689と組み合わせることで、デジタルフィードバックが可能となり、仕様と音質の大幅な向上が可能となります。Axign社はこれをPFFB(Post-Filter Feedback)と呼んでいます。

Axign社は、このAX5689をDigital audio converter and amplifier controllerと語っています。ちょっと紛らわしいのですが、いわゆるDAC(Digital Analog Converter)ではありません。

むしろ、このデバイスの大きな特徴の一つは、超低レイテンシー(遅延の少ない=超高速)なADC(Analog Digital Converter)にあるようです。

Axign社のHPにあるPFFBのフロー図を示します。

ここでEXTERNALと記載されている部分のPowerStageが、STA516Bの役割です。

これら2つのチップを組み合わせることで、AX5689がデジタル入力の信号をデジタル処理して、従来のD級アンプデバイスであるSTA516Bの回路を一部用いてデジタルフィードバック対応のデジタルアンプを形成しています。

ちなみに、有名なHypex社やPurifi社は、両社とも同じ発明者によるアナログフィードバックのD級アンプモジュールとなっています。こちらの特許はそろそろ切れるらしく、今後色々な動きがあるかもしれません。

話を戻すと、最後のスピーカー用のアナログ信号をAX5689に内蔵された②のADC(Analog Digital Converter)でデジタル信号に変換し、③で、フィードバックをかけているわけですが、この処理は高速性が必要です。このADCが同社の大きな強みと言えるかと思います。

なお、このデジタル入力が可能なことを活かして、前記2社のアンプでは、USB信号の入力処理にXMOSのXU208によるDDC(デジタル・デジタル・コンバーター)対応で、DSD512と768kHz/32bit PCMの入力が可能となっています。

これらのデジタルアンプ全体の構成については、次回、各社の図を用いて、もう少し詳しくみてみたいと思います。

 

各社のデジタルアンプの最新ラインアップ

次に2社のデジタルアンプの最新ラインアップを示します。なお、これらは、Amazonの各社の製品の説明欄に記載してある表に項目を追記したものです。

各色で着色した項目が、特に特徴的な値です。これらについては、後日、別途ご説明したいと思います。

改めてこれらの表を比較してみると、S.M.S.L社とSabaj社とは、少なくとも共通の設計基盤をもっているように思われます。

これまでの中華デジアンの製品群の登場を考えると、これらをベースとして、異なるブランドから、似たような製品が今後販売されるのかもしれません。

 

S.M.S.L社の最新デジタルアンプ一覧

Sabaj社の最新デジタルアンプ一覧

各製品の型番と今後の予定

上記2つの表で上げたほとんどの製品が、先程の第3世代として括ったD級アンプ用デバイスを用いています。

唯一の例外が、S.M.S.L社のVMV A1です。このアンプはA級増幅です。したがって8Ωでの出力が10Wと低い値となっています。また、デジタル関係は一切ない代わりにヘッドホンアンプがついています。

そしてVMV A1の仕様の値で、特に目を引くのが高いSN比です。

この特性値は高能率スピーカーの、ノイズの音が目立ちやすいという弱点をカバーしてくれる可能性があります。

VMV A1とVMV A2は型番が一つ違うだけですが、それらの中身とフォーカスしているスピーカーは全く異なります。

また、VMV A1以外の各商品は、微妙にその構成や仕様が異なります。はっきり言ってわかりにくいので、ちょっと整理が必要に思います。

両社共に、少なくも型番と製品コンセプトに一貫性がないようです。

 

次回以降で、製品のポジショニングを整理するために、それぞれの価格帯毎に製品のコンセプトの比較をしたいと考えています。

 

関連リンク集

次回以降について

次回以降に、それぞれのクラスの製品の特徴等について比較検討してみたいと思います。

 

また、次回は、PFFDと、A30aの入力信号のフローなどについてその詳細を検討します。

 

簡単接続のPCオーディオ

今回ご紹介したD級アンプを用いて、簡単接続で、低価格、かつ音のいいPCオーディオについてブログでご紹介しています。

 

パッシブ型サブウーファーの駆動用アンプとしてのご紹介

極低域再生専用のサブウーファーを駆動するには、低域の特性の良いアンプが必要です。

今回ご紹介しているD級アンプは、最新のデバイスを用いており、このような用途にも使うことができます。

その事例をご紹介します。

 

音響パネルの使いこなしについて

音響パネルZ103Aのレイアウトによる音の聴こえ方について検討してみました。

 

 

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