はじめに

Fostexから、16cmフルレンジユニットであるFE168SS-HPが数量限定生産で発売されました。
マグネットが2段重ねで、総重量が5.3kg、という重量級です。
20cmのFE208EΣが4.8kgですから、それよりも500g重いということになります。

この強力なマグネットと、Qtsの値が、0.27ということで、オーバーダンピングのいわゆるバックロードホーン系のエンクロージャー向けと考えられます。

本体重量が3kgを超える16cmユニットとしては、FE163En-S以来で、10年ぶり。また、HP振動板の新ユニットしては、現行のラインにあるFE168EΣが、2005年11月発売開始ですから、なんと16年ぶりとなります。

本ユニットは、既にフォクテクスの標準バックロードホーンなどの様々なエンクロージャーで試聴された方々からは、高い評価を受けつつあるようです。

 

ここで、いい機会ですので、Fostexの16cmユニットでバックロードホーンを意識したと思われる代表的なユニットについて改めて振り返り、俯瞰して見たいと思います。

過去のユニットについては、定格値やTSパラメータも公式には発表されていないことも多く、一部、計算値などで補完しつつ、一覧表を示します。

また、長岡鉄男先生の有名なエンクロージャーのひとつであるD37に各ユニットを装着した場合の試聴も行いたいと思います。

Fostexの16cmスピーカーユニットの諸特性の比較

Fostexの代表的な16cmユニットの一覧表

最初に、Fostexの現行のラインアップと、バックロードホーン用と想定される代表的なユニットの一覧表を示します。

  表  Fostexの主要な16cmスピーカーユニットの一覧表

 

発売開始の項で黄色で着色されているのが、現在販売されているユニットです。

今回比較試聴する予定のユニットは、6つで、FE166Superから右側に、発表順に並べています。型番は、FE166Super、6N-FE168SS、FE168ES、FE166ES-R、FE168EΣ、FE163En-S となります。

表中で、斜体字は、公表値からの比較的単純な計算値です。赤字の斜体字も同様に公式を用いた計算値です。

過去のユニットの販売価格で、一部の値は、色々調べましたが当時の販売価格がわからず、参考値として様々な資料に乗っていた値からの推定値を載せてあります。

以下、この表に基づき、検討を進めたいと思います。

なお、表中で、FE166ES-RやFE163En-Sの斜体字ではないTSパラメータの値については、Fostexの日本語の資料には値がありませんでしたが、Fostexの英語版資料と思われる一覧表から値をもってきました。madisound.comなどを参照しています。

赤字の斜体字で示したCmsとVasの値は、開示されている他のTS値を基に公式によって計算した算出値です。

 

 16cmユニットの分類

さきほどの表に示した16cmのユニットは、見た目が様々でバリエーションに富んでいるように見えますが、ざっと2つのパラメータで4分類にできそうです。また、それが進化の歴史を物語っているようにも見えます。

1つ目は、フレームです。2種あります。まず、4角のフレームで、取り付け穴が4個のタイプです。
これは、今回取り上げたユニットで2つに採用されていますが、実はこの2つは内容が異なります。1990年7月発売のFE166Superは、FEシリーズで伝統的な、やや丸みを帯びた四角のプレスのフレームではなく、やや厚くしっかりとした造りの直線的なフレームです。アルミダイキャスト製と思われます。

一方、2004年12月発売のFE166ES-Rは、FE166Enなどに採用されていたFEシリーズでおなじみのプレスタイプです。ただ、着色が、通常は黒なのに対し、濃い紺色と少し変わっています。

 

もう一種が、丸いフレームで、こちらの取り付け穴は8個です。形状は、ユニットによりやや異なりますが、すべてアルミダイキャスト製となります。

 

2つ目は、振動板の形状です。まず、FEシリーズでこれまた伝統的な、ダブルコーンタイプです。次に、新たに登場したHP振動板のタイプです。

ちなみに、FFシリーズでは、これらFE系とは異なり、リッジドーム形状アルミ合金センターキャップのスピーカーユニットとして典型的な形状の振動板を組み合わせたユニットとなっています。他社製品と比べても違和感のない構成と見掛けとなっています。

 

バックロードホーン用16cmユニットの系譜

16cmスピーカーユニットの金字塔

前記2つのパラメータと重量等をピックアップした表を示します。

この表で、発売開始順にみると、進化の系譜が伺えます。
まず、伝統的なFEシリーズのスタイルに、マグネットを大幅に強化したFE166Superが1990年7月に登場します。これは先に記載したように、フレームも4穴ではありますが、がっしりとしています。

次に、1997年に、より強力なマグネットを支えるために、8つ穴の円形フレームが採用された6N-FE168SSが登場します。ちなみに、このユニットのマグネット重量は、Fostexの16cmユニット史上最も重く、今回販売のFE168SS-HPが、24年ぶりにそれを超えたのではないかと思われます。なお、同ユニットのマグネット重量は公表されていません。表中の値は、推定値です。

さらに、振動板形状に改革の目が向けられます。上記2機種までは、FEシリーズで伝統的なダブルコーンタイプでした。これに対して、次期ユニットは、高剛性で、低歪を特徴とするHP振動板が採用されます。それが、2001年発売のFE168ESです。

このユニットは、前機種の6N-FE168SSよりも、マグネット重量が約400g軽いにもかかわらず、総重量は、逆に500g重くなっています。フレームの頑健性向上等、余分な振動を排除する方向に相当注力されたものと推察されます。

その背景には、バックロードホーン用ですので、おそらく、大音量で聴くユーザーが結構多く、歪や余分な共振音等の少ないクリアな音を欲するマーケットニーズがあったということでしょうか。
さらに再生周波数帯域に表示されている最高周波数が30kHzというのも、突出した感じです。取り扱い説明書には記載されていませんが、センターキャップ部分の特性でしょうか。ただし、高域での周波数特性はあまり平坦性がいいとはいえません。

ちなみに、FE168ESのマグネットは、二段重ねで、かつ当時最新の次世代フェライトマグネットであるランタンコバルト・マグネットが採用されています。これにより、よりマグネットの重い6N-FE168SSと比べ、実質的な磁束密度等が、同等程度となっているのかもしれません。

これらの諸特性から、FE168ESはFostexのバックロードホーン用の16cmユニットでは、技術的に金字塔的な存在ではないかと推察されます。
ちなみに、本ユニットが発売された2001年は、長岡鉄男先生が亡くなられた翌年になります。

今回限定販売されたFE168SS-HPは、このFE168ESに似た外観と基本構成となっているようにも見えます。

 

現在のラインアップへの系譜

その次に登場するのは、2004年のFE166ES-Rです。一見、型番はFE168ESとよく似ていますが、四角ラウンドフレーム(4穴)で、ダブルコーンと、FE168ESとは見た目が全く異なります。マグネットも899gと控えめに抑えられています。型番から言って、FE168ESを意識しつつも、相当コストダウンが図られたユニットといえます。

その結果、本ユニットについては、量産用ラインアップのために、色々と詰めた結果、販売価格をFE168ESの推定値の半分以下に設定できた、ということが最も重要だったようにも思われます。

さらに、このFE166ES-Rで確立された構成が、その後、FE-166E、Enそして2019年11月発売のNVに続き、量産タイプの主流となって受け継がれているように見えます。

つまり、おそらく本ユニットの評価がFOSTEX社内で高かったということではないかと思われます。

 

その次に、2005年、FE168ESと同じ円形フレーム(8穴)でHP振動板ですが、かなり控えめのマグネット重量のFE-168EΣが発売され、ライン化された商品となりそのまま現在に至っています。

それから6年後、2011年に、円形フレーム(8穴)でダブルコーンのFE163En-Sが発売されます。マグネットは1,100gです。この構成が、2018年に10cmや20cmなどの他のサイズに比べて先行販売されたFE168NSに引き継がれているように見えます。なお、FE168NSでは、マグネットが720gに抑えられています。

 

このように、現状のFEシリーズの量産ユニットは、ダブルコーンタイプがFE166ES-RとFE163En-Sをベースに生まれ、HP振動板タイプがFE168ESをベースに、生まれてきたと推定されます。

ただ、HP振動板タイプの量産ユニットは、2005年11月発売のFE168EΣで、既に16年経過しています。

今回のFE168SS-HPは、これからのHP振動板タイプのあらたな方向性を示すユニットといえるのかもしれません。

 

以上、Fostexの16cmスピーカーユニットの系譜と進化を見てみました。次のブログからは、各ユニットの特性評価や試聴結果などを示していきたいと思います。

 

○ FE166Super   https://otokoubouz.info/fostex-fe166super/

○ 6N-FE168SS  https://otokoubouz.info/fostex-6n-168ss/ 

○ FE168ES    https://otokoubouz.info/fostex-fe168es/

○ FE166ES-R   https://otokoubouz.info/fostex-fe166es-r/

○ FE168EΣ    https://otokoubouz.info/fostex-fe168e%cf%83/

○ FE163En-S   https://otokoubouz.info/fostex-fe163en-s/

 

 

 

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