はじめに

FE163En-Sの概要

関連のブログ、” FOSTEX FEシリーズ 16cmのバックロードホーン用スピーカーユニットの系譜と進化 ”、でFostexの16cmスピーカーユニットの進化の流れについて検討しました。

 

そこでの比較表を示します。

今回は、この表で、10年前の2011年12月15日発売のFE163En-Sについて検討します。
バックロードホーン用とも言えるオーバーダンピングスピーカーユニットとしては、比較的新しいユニットといえます。とはいえ2011年12月発売ですから、10年前となります。

FE163En-Sの価格と主な仕様

標準価格      : ¥20,475円 

発売年       : 2011年 12月15日

スピーカー形式   : 16cm 口径フルレンジユニット

 

フレーム形状(穴数): 丸形(8穴)

振動板形状     : ダブルコーン型

バッフル開口寸法  : 151 mm

マグネット重量   :  1,100 g  

総重量       :  3,150 g

FE163En-Sの外観のレビュー

FE163En-Sの外観について、写真で特徴を示したいと思います。

フレーム


写真   FE163En-Sの上面

 


写真   FE163En-Sの側面

 


写真   FE163En-Sの背面

 

FE163En-Sのフレームは、8穴円形でアルミダイキャスト製です。

 

振動板とエッジ


写真  FE163En-Sの振動板とエッジ

 

FE163En-Sの振動板は、ESコーン製のダブルコーン型です。エッジは、コルゲーション形状となっています。

本ユニットの7年前に発売された同じダブルコーンのFE166ES-Rと比べると、フレーム、エッジとハトメ部分などがすべて異なっています。


写真  FE163En-S(左側)とFE166ES-R(右側)

 

 

ダンパーと接続系


写真  FE163En-Sのダンパー部と接続配線部

ダンパーはダブルコーン型で通常採用されているコルゲーション形状です。

 



写真  FE163En-Sの接続配線の接合部

 

スピーカー端子とボイスコイルは、ハトメレスで接続されています。これは、3点接着方式(コーン紙+ダンパー+ボイスコイル)となっており、下に示す1997年7月発売の6N-FE168SSから進化しています。

現在は、この方式が同社の主流になっています。

 

写真  6N-FE168SSの接続配線の接合部

磁気回路


写真   FE163En-Sの側面

 

FE163En-Sのマグネット重量は、1,100gとなっており、FE166Superとほぼ同等で、FE166EΣの721gやFE166ES-Rの899gよりも重くなっています。

ただし、同じダブルコーン型でもあるFE166ES-Rの場合は、マグネット材料として、ランタン・コバルトフェライトマグネットを用いており同じ重さであれば、材料自体の磁束密度は強いので、単純な重量での比較はできません。

 



写真   FE163En-S(左側)とFE166ES-R(右側)の側面

 

FE163En-Sの諸特性の検討

規格値の比較

FE163Enのマグネット重量の値は、同じΦ145のマグネットを2段重ねにした6N-FE168SSの約半分となっています。一方(総重量ーマグネット重量)の値は、ほぼ同じであり、似たようなフレーム構成と思われます。逆に言えば、総重量の比率から言えば、FE163Enは、よりしっかりしたフレームともいえるかもしれません。
FE168NSなどは、マグネット重量に見合ったフレームとも考えれられます。

 

TS-パラメータの比較

TSパラメータの値の比較だけを言えば、FE163En-Sは、FE166ES-Rの系統と言えます。
もっとも、音の傾向は異なるようです。

時間軸的には、量産ユニットであるFE168NSは、本FE163En-Sに近いのですが、特性的には、むしろかつての6N-FE168SSのマグネットを抑えたバージョンのようにも見えます。

今後、FE163En-Sの特性を受け継ぐオーバーダンピングユニットがでてくるのか、興味深いところです。

周波数特性と高調波特性の測定結果

本ユニットの周波数特性と高調波(歪率)の測定

次に、FE163En-Sの周波数特性と2次高調波と3次高調波の測定データを下図に示します。

 図. FE163En-Sの周波数特性と高調波特性(2次高調波;オレンジ、3次高調波;緑)
   高調波の値は、実際の値+10dBで表示

 これは、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値です。

 高調波歪は、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。
 なお、縦軸は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、歪特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。

この周波数特性を見て気づくのは、まず、約200Hzから1kHzぐらいまでの範囲で、820Hz(-9dB程度)くらいを最下点とする大きなディップです。ただ、ここを別にすれば、約1kHz以上では、ほぼ、平坦です。

高域部分のこの平坦性は、他の16cmのFEシリーズのユニットと比べれば、特筆すべき相違です。

比較対象として、FE166ES-Rの特性を次に示します。
このユニットについては、FE166ES-Rの辛口レビューで長岡鉄男先生のD37ととても相性の良い印象を受けたとコメントしています。

D37を前提とした周波数特性の比較

 比較用として、FE166ES-Rの周波数特性と2次と3次の高調波の周波数特性を示します。
こちらも先と同様、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。また、縦軸は、周波数特性と同一画面に収めるために、高調波特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。

   図 3.  FE166ES-Rの周波数特性と高調波特性(2次;オレンジ、3次;緑)
      高調波の値は、実際の値+10dBで表示

こちらの周波数特性は、1kHzに大きなディップがあるのを始め、そのディップから約2kHzまで、音圧がどんどん上がっていき、また下がり、また上がり、下がりと110dB付近を中心軸として高域特性が大きく暴れています。

この2つのユニットは、共にダブルコーンタイプですが、HP振動板タイプでは、さらにその暴れは大きくなっているのが普通です。これは、現状のラインであるFE168EΣや、最新の限定商品であるFE168SS-HPでも同様です。

ところが、ダブルコーンタイプでは、開発の方向性が異なるようで、FE166ES-RからFE163En-Sへの変化に見られるように周波数特性の平坦性が向上し、高調波歪が減少する傾向に進んでいるようです。

次に、最新のFE168NSと比較して見たいと思います。

 

ユニットの周波数特性測定結果の比較と検討

FE163En-S(実線)と現在のライン化製品であるFE168NS(点線)との周波数特性の値を下図に示します。

これは、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れて10cmの距離から測定した値の比較になります。

測定装置は、エタニ電機のASA-10mkⅡを用いました。

図 .  FE163En-S(実線)とFE166NS(点線)の周波数特性(10cm)
    黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示) 

最新のFE168NSの周波数特性はFE163En-Sに比べ、音圧が全体にやや上がっていますが、形状は似た傾向です。

それにしても850Hz付近のディップから、1.5kHzにかけて、ぐんぐんと音圧が上がる形状は特徴的です。この付近は、いわゆるト音記号の高い方の音域に相当しますので、ここの凹凸は、音声などの再生にかなり影響がでてくると思われます。

全高調波特性については、ほぼ同じような感じです。

FE163En-Sの音質評価

長岡式 D37(バックロードホーン)+スーパーツイーター(T96A-RE)の試聴


写真  D37+FE163En-Sとスーパーツイータ(T96A-RE) 

 

低域の量感がとてもあります。今回比較した中で、一番たっぷりとしているかもしれません。
安定感があります。

ただし、どうも周波数特性上の音圧のバランスに不自然さを感じます。D37の特性にあっていないとしかいいようがありません。別ブログでご紹介したように、D37には、FE166ES-Rのような特性のユニットが合うということなのでしょう。

特に、女性ボーカルがややブーミーに聴こえ、ホーンの音とかぶっている感じが強調されて出てくるようです。

 

ちなみに、同ユニットに添付されているFOSTEXの取り扱い説明書には、その前の長岡式のBHとは開口部が異なるエンクロージャーが紹介されており、バックロードホーンの最後の開口部が狭まってバッフル中央に開口部を持つ、BHBS(バックロードホーンバスレフ)に少し似たような形状となっています。

Fostexの推奨エンクロージャーは、今回の表の中ではFE168EΣとFE163En-Sが、バッフルセンター付近に開口部を持つ形状となっていますが、開口部の比率と構造が異なります。
FE168EΣでは、240mm幅で、直前の最大開口が高さ約800mmを開口部で510mmから350mmと吸音材なども使って2段階に絞っています。見方によっては、開口の小さな緩やかなバックロードホーンともいえそうです。
また、FE163En-S用では、220mm幅で、直前の開口高さが585mmを244mmと半分以下としているシンプルな開口部構造で、こちらは、スロートとしては、最終的に緩やかに少し絞っているようにも見えます。

 

試聴に用いた曲のリスト

 今回、音質評価用に試聴した曲をご参考までに下記に示します。ここでは、低域の比較に適していると思われる曲を選定してみました。

なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
 

1. Hotel California :リンク先  https://otokoubouz.info/hotel-california/ ‎
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。

 

2. Rock You Gently :リンク先      https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/ 
 Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。

 

3. California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dog  :リンク先 https://otokoubouz.info/california_roll-ft-steavie_wonder/
 ヒップポップに分類されるスヌープ・ドッグが、スティービー・ワンダーとコラボした曲です。
エレクトリック・ギターで制御されていると思われるコントラバスのような音質のゆっくりとしたリズムセクションが超低域の音を非常に高い音圧で、リズミカルに奏でます。
特に、43Hz、54Hz、65Hz付近の3音などがリズムセクションとして最初から最後まで交互に流れます。
従って、これらの音が再生できるかどうかで、超低域の再生能力を計る事ができます。

 

4. In The Wee Small Hours (Of the Morning)  :リンク先 https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/
   Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象といえます。

 本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。特に、40Hz以上の領域の再生能力が必須です。

まとめ

Fostexのオーバーダンピングユニットの一つであるFE163En-Sの諸特性の検討と試聴を行いました。

FE163En-Sは、2011年12月に販売開始された、取り付け穴数が8穴で、円形のアルミダイキャストフレームにコルゲーションエッジとESコーン製ダブルコーン振動板の16cmユニットです。

Qts=0.23とオーバーダンピングで、取扱説明書のエンクロージャーの例として独自のバックロードホーンが紹介されています。フェライト製のΦ145mmのマグネットが1段用いられています。
また、スーパーツイーターとしてT96A-EX2が推奨されています。

FE163En-Sは、その後発売された量産ユニットのFE168NSとフレームや振動板等が似ていますが、TS-パラメータのMmsやCmsの値をみると、路線がちょっと異なっているようにも見えます。FE168NSはどちらかというと、6N-FE168SSのマグネットを弱くしたタイプのような感じです。

ただ、周波数特性は、FE163En-SとFE168NSとは割合似たプロファイルとなっています。

試聴用として長岡式のバックロードホーンエンクロージャーであるD37にスーパーツイーター(T96A-RE)を用いました。

低域の量感がとてもあります。今回比較した中で、一番たっぷりとしているかもしれません。
安定感があります。

ただし、どうも周波数特性上の音圧のバランスに不自然さを感じます。D37の特性にあっていないとしかいいようがありません。

特に、女性ボーカルがややブーミーに聴こえ、ホーンの音とかぶっている感じが強調されて出てくるようです。

ちなみに、取扱説明書には、全く異なるバックロードホーンの設計が提示されています。

素性はとてもいいように感じましたので、異なるエンクロージャーで別途試聴してみたいと思いました。

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