はじめに


 

6N-FE168SSの概要

関連のブログ、” FOSTEX FEシリーズ 16cmのバックロードホーン用スピーカーユニットの系譜と進化 ”、でFostexの16cmスピーカーユニットの進化の流れについて検討しました。

そこでの比較表を示します。

今回は、この表で、1997年7月発売の6N-FE168SSについて検討します。

6N-FE168SSの価格と主な仕様

標準価格      : ¥18,000円 ? :推定値

発売年       : 1997年 7月

スピーカー形式   : 16cm 口径フルレンジユニット

 

フレーム形状(穴数): 丸形(8穴)

振動板形状     : ダブルコーン型

バッフル開口寸法  : 151 mm

マグネット重量   :  2,180 g  

総重量       :  4,370 g

6N-FE168SSの外観のレビュー

フレーム


写真   6N-FE168SSの上面

 

6N-FE168SSのフレームは、上面からみると取付穴数が8個で、円形の、がっしりとしたアルミダイキャスト製です。


写真   6N-FE168SSの側面 

側面からみると、フレームが、しっかりとしているのがよくわかりますが、それ以上に、Φ145の2段重ねのマグネットが印象的です。Fostexから公表されているマグネット重量としては、16cmで最大となります。

 

振動板とエッジ


写真  6N-FE168SSの振動板とエッジ

 

振動板は、FEシリーズの顔であるダブルコーンです。材質等については、添付の取扱説明書には記載がありません。エッジは、コルゲーションタイプとなっています。

 

ダンパーと配線系


写真   ダンパーと配線系

 

ダンパーは、コルゲーションタイプで、スピーカー端子からの配線がハトメレスになっています。
ハトメレスは、当時は最先端の技術だったと思われますが、取扱説明書にはなんら記載はありません。

ちなみに、本ユニットの後の2011年7月に発売開始のFE166Enにはハトメがあります。
ダンパー部を角度を変えて下の写真に示します。

 


写真   ダンパー部と接続端子からの配線部分

 

 

磁気回路


写真   6N-FE168SSの背面

取扱説明書によると、” 6N-FE168SSはΦ145マグネットを2段重ねとし、特別仕上げを施した超強力磁気回路を装備し、高純度6Nボイスコイルワイヤーを採用して、、” とあります。



写真   6N-FE168SSの側面

 


写真   6N-FE168SS(左側)とFE163En-S(右側)

 

 

写真   6N-FE168SS(左側)とFE163En-S(右側)

 

6N-FE168SSと同じくダブルコーンのユニットである2011年12月発売のFE163En-Sとを並べてみます。
マグネット重量は、2180gと1100gとそれぞれなっており、約2倍の重量比となっています。

 

6N-FE168SSの諸特性の検討

規格値の比較

本ユニットの最大の特徴は、超強力磁気回路、ということですので、重量の比較をしてみます。


マグネット重量比では、6N-FE168SSは、Fe166Superの約2倍、FE166NVの約3.6倍になっています。

TS-パラメータの比較

TSパラメータのいくつかの値を上記の3ユニットで比較してみます。


FE166NVとFE166Superのこれらの値が比較的同じような傾向にあるのに対し、6N-FE168SSは、オーバーダンピングの度合いがかなり強いようです。コンプライアンスが小さく、動きにくい振動系に、タイトなVasとなっており、かなり小さな値となっています。これらの値は、冒頭の一覧表に示した中で、新ユニットのFE168SS-HPに匹敵します。

Qtsは、0.23と小さな値を示しており超オーバーダンピングと言えます
また、Mmsは、8.0と比較的大きな値となっています。

 

周波数特性と高調波特性の測定結果

本ユニットの周波数特性と高調波特性(2次、3次)の測定

次に、6N-FE168SSの周波数特性と2次高調波と3次高調波の測定データを下図に示します。

 図. 6N-FE168SSの周波数特性と高調波特性(2次高調波;オレンジ、3次高調波;緑)
   高調波の値は、実際の値+10dBで表示

 いずれも、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値です。

 高調波歪は、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。
 なお、縦軸は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、歪特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。

本6N-FE168SSの周波数特性の形状は、一つ前のFE166Superよりも、かなりメリハリがあります。
それも、300Hz-5kHzという、人間が聴き取りやすい領域で相当凹凸があります。

まず、800Hz付近にディップを持つのは共通ですが、400Hz付近から下がり始め、800Hz付近で約-10dBとなっています。さらにそこから、上がり始め、1.7kHz付近で約+18dBとなり、さらに、そこから2kHzまで約-5dB下がります。

5kHzから上は、凹凸はありますが漸減の傾向です。スーパーツィーターを付加する前提のように見えます。

3次高調波が、一般にかなり高い値になっていることからも、全体としてかなり個性的な音となっていることが窺えます。

 

参考データとして、下にFE166Superの測定値を示します。
上のデータに比べるとこちらの形状が平坦に見えます。こちらは、一途にハイ上がりの印象です。



図. FE166Superの周波数特性と高調波特性(2次高調波;オレンジ、3次高調波;緑)
   高調波の値は、実際の値+10dBで表示

 

 

ユニットの周波数特性測定結果の比較と検討

6N-FE168SS(実線)と現在のライン化製品であるFE166NV(点線)との周波数特性の値を下図に示します。

これは、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れて10cmの距離から測定した値の比較になります。

測定装置は、エタニ電機のASA-10mkⅡを用いました。

図 .  6N-FE168SS(実線)とFE166NV(点線)の周波数特性(10cm)
    黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示) 

6N-FE168SSの周波数特性は、FE166NVに比べ、800Hz付近の比較的ブロードなディップが目立ちます。

FE166NVは、平坦性がかなり改善されているようにも見えますが、この場合比較対象が極端だとも言えるかもしれません。

また、全高調波特性は、歪率という観点で、大幅に改善されています。

 

 

6N-FE168SSの音質評価

6N-FE168SSのエンクロージャー評価

長岡式 D37(バックロードホーン)+スーパーツイーター(T96A-RE)の試聴

今回試聴したユニットは、1997年7月の発売開始で購入しました。24年前のユニットということになります。従って経年劣化している可能性がかなりあります。
実際にユニットの一つは、エッジ付近のコーン紙が接着剤の影響でしょうか、写真のように着色してしまっています。

試聴した印象は、全体にハイ上がりで、思ったよりも低域が出ていませんでした。ハイ上がりではあるのですが、スーパーツィーターをつけた方が、音のバランスがいいように聴こえました。

女性ボーカル、例えばJennifer Warnes の声がちょっと明るく力強さが過度に出てしまっている印象を受けました。中域のバランスが悪いようです。

この状態で、他のユニットと比較するのは、困難かもしれません。

 

 

試聴に用いた曲のリスト

 今回、音質評価用に試聴した曲をご参考までに下記に示します。ここでは、低域の比較に適していると思われる曲を選定してみました。

なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
 

1. Hotel California :リンク先  https://otokoubouz.info/hotel-california/ ‎
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。

 

2. Rock You Gently :リンク先      https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/ 
 Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。

 

3. California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dog  :リンク先 https://otokoubouz.info/california_roll-ft-steavie_wonder/
 ヒップポップに分類されるスヌープ・ドッグが、スティービー・ワンダーとコラボした曲です。
エレクトリック・ギターで制御されていると思われるコントラバスのような音質のゆっくりとしたリズムセクションが超低域の音を非常に高い音圧で、リズミカルに奏でます。
特に、43Hz、54Hz、65Hz付近の3音などがリズムセクションとして最初から最後まで交互に流れます。
従って、これらの音が再生できるかどうかで、超低域の再生能力を計る事ができます。

 

4. In The Wee Small Hours (Of the Morning)  :リンク先 https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/
   Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象といえます。

 本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。特に、40Hz以上の領域の再生能力が必須です。

まとめ

Fostexのオーバーダンピングユニットの一つである6N-FE168SSの諸特性の検討と試聴を行いました。

6N-FE168SSは、1997年に限定販売された、取り付け穴数が8穴で、丸形のアルミダイキャスト製フレームのコルゲーションエッジとダブルコーン振動板の16cmのユニットです。

Qts=0.23と超オーバーダンピングで、バックロードホーン用とされています。限定ユニットでは、よく用いられているΦ145mmのマグネットが2段重ねなのが大きな特徴です。
また、取扱説明書には記載がありませんが、ハトメレスなど当時の先端の技術が採用されています。

周波数特性は、ユニークな形状となっており、1.5kHzから8kHzの音圧が高く、その前後が減衰しています。特に800Hz付近の大きなディップが目立ちます。
また、ダブルコーンにしては、8kHz以上の高域の音圧が低いようです。スーパーツイータの付加を前提としているような印象も受けました。

試聴用として取扱説明書で推奨されている長岡式のD37を用いました。

その結果、今回は残念ながらバックロードホーンらしい低域を聴くことが出来ませんでした。一方、中高域はハイ上がりな感じですが、スーパーツィーターをつけた方が、音のバランスがいいように聴こえました。

2021年の現在から24年前となりますので、経年劣化の影響が大きいのか、全体としてはやや期待はずれな印象でした。

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