目次
はじめに
PFFB(Post-FilterFeedback)
中華デジアンの最新製品
前回、最新の中華デジアンについて、SMSL社とSabaj社の一覧表を示しました。
現時点(2023/3月)では、この両者の製品が中華デジアンとしては、最先端と言えるかと思います。
再掲します。
S.M.S.Lの最新デジタルアンプ
Sabajの最新デジタルアンプ
両社の最上位機種について
この2社の最上位機種が、 それぞれの表の右端にあります。各々の価格と正面側のデザインは異なりますが、その仕様とバックパネルのレイアウト等が非常に似ています。
SMSL社では、VMA A2、Sabaj社からは、A30aという型番の最新デジアンです。
前回でも示しましたが、この2つに共通する大きな特徴は、次の3つです。
最上位機種の共通の特徴
1. USB入力が可能で、DSD512とPCM768/32bitのPCMに対応(XMOS XU208採用)。
2. Bluetooth5.0対応で、かつLDAC・APTX・APTX-HD・AAC・SBCの各コーデックに対応。(Apple、Android、SONYの最新の方式へ対応)
3. ST-Microelectronics社の最新D級アンプデバイスのSTA516BEを左右独立で2個使い、かつ、Axign社のAX5689によるデジタルフィードバックループにより、高調波歪率が0.0008%、SN比が、116dB、チャネルセパレーション108dBという高スペック。
さらに、200Wx2(4Ω)、100Wx2(8Ω)という高出力。
STA516BE+AX5689 と A30aの内部構成
ここで挙げた3番目の特徴は、ST-Microelectronics社の最新D級アンプデバイスであるSTA516BEとオランダのAxign社のAX5689というデバイスとの組合せで、成立しています。
今回は、この組合せについて、その内容を見てみたいと思います。特にAxign社のAX5689というデバイスは、日本のユーザーには比較的目新しいのではないかと思います。
また、Sabaj社のA30aを例にとって、入力端子を始めとする全体の構成を見てみます。
Axign社とAX5689
Axign社について
同社のホームページにある会社紹介では、以下のような説明があります。
以下は、Google翻訳による英語の直訳です。
” 2014 年に設立された Axign は、無敵の画期的なアナログ/ミックスド シグナル技術とオーディオ アンプ システム用 IC の提供に注力するファブレス半導体企業です。”
また、バックボーンとして次のような説明があります。
” 私たちはまた、オランダのエンスヘーデにあるトゥエンテ大学と「Kennispark Twente」との強いつながりを持つテクノロジー愛好家でもあります。 当社のエンジニアのほとんどは、Twente 大学で電子工学の学位を取得しています。 経営陣は、半導体業界の大手企業や主要なオーディオ システム メーカーとの経験を持つ技術起業家で構成されています。”
なお、最新のBing(ChatGPT導入)を用いた検索によると、Axignは、ESS社からのスピンオフとのことです。また、窒化ガリウム(GaN)のパワー半導体メーカーのリーダーカンパニーであるGaN Systemと協力関係にあるそうです。ちなみに、Hypex社もGaN Systemとコラボの関係のようです。
オーディオアンプ用のデジタルフィードバック技術をもつため、最近、高級デジタルアンプモジュール等を提供しているHypex社やPurifi社と比較されることが多いようです。
同社の技術が形として製品化されたのが、AX5689です。
これは、JBLのパワードスピーカー(4305Pなど)やハーマンカードンの製品に採用されて注目され始めました。
AX5689(デジタル・オーディオ・コンバーター+アンプコントローラ)
AX5689のフローを同社のHPから引用します。
ここでオレンジの枠内が、AX5689の諸機能となります。
上記のオレンジの枠内についての説明(英文)を、Google翻訳による直訳をベースに以下に示します。
” 全体的な信号処理の流れは、④デジタル入力インターフェイス、ボリューム コントロール、補間ステージ、デジタル ループ フィルター、および、⑤ PWM コントローラーで構成されます。”
上の図の番号が示しているのは、次のようになります。
① スピーカー端子:アナログ信号
② 低遅延 ADC (Low Latency Analog Digital Converter);デジタルフィードバック用信号の生成
③ デジタル シグナル プロセッサ (④と②の信号を比較:デジタルフィードバック)
④ デジタル入力信号
⑤ PWM コントローラ :パワー段用の信号生成
また、図にあるDigital Loop Filterは、PWM 信号の高周波成分を除去するためのローパス フィルタとして使用されます。
③のデジタルフィードバックは、次のような流れと効果を生みます。
” 入力信号とラウドスピーカーで測定された実際の信号との差は、ラウドスピーカーへの次のパスのエラー、非線形性、およびノイズを補償する新しい信号を生成するために使用されます。”
Axign社のAX5689によるPFFB対応
以上の機能により、Axign社のAX5689を、D級アンプデバイスと組み合わせることで、デジタルフィードバックが可能となり、仕様と音質の大幅な向上が可能となります。Axign社はこれをPFFB(Post-Filter Feedback)と呼んでいます。
先程の図で右側のEXTERNALと記載されている部分のPowerStageが、STA516Bの役割です。
本方式と他の方式との比較表をAxign社のHPから引用します。
ところで、通常のD級アンプデバイスの入力は、アナログ信号です。
D級増幅では、入力したアナログ信号を、三角波で、コンパレート(比較参照)して、PWM(パルス幅変調)信号を出力します。
STA516BEは、このPWM信号を入力信号として受け取り、増幅する事ができます。
これらのチップを組み合わせることで、デジタル入力の信号をデジタル処理して、従来のD級アンプデバイスの機能を用いたフルデジタルアンプを形成しています。
なお、Axign社のレファレンスデザインには、このSTA516BEの他に、TI社のDRV8432とmps社のMP8049Sが記載されています。
このデジタル入力が可能なことを活かして、前記の2機種では、USB信号の入力処理にXMOSのXU208によるDD対応で、DSD512と768kHz/32bit PCMが可能となっています。
次に、A30aの入出力の信号の流れを見てみたいと思います。
A30aの内部構成(信号のフロー)
A30aの主要デバイスと信号の流れ
SabajのA30aの信号フロー及び関連デバイスは、次のようになっています。
これは、同社の資料から引用しました。
なお、本図では、AX5869となっていますが、AX5689の間違いだと思われます。
以下、本文中では、AX5689としてご説明します。
以後の説明のために、番号等を追記します。
ここで黄色で囲った部分は、先程ご説明したAX5689+STA516BEの部分です。
また、(1)-aから(1)-dが、デジタル信号の入力です。(1)-eのみアナログ信号の入力です。
ここでは、(1)-aと、(1)-eについて、信号の流れをみてみます。
USB入力信号のフロー
USBからの入力信号の流れを水色で示しました。
通常用いられるDACは使われておらず、全てデジタル信号処理が行われています。
(1)-a → (2)-a → (3) → (4) → AX5689 となります。
簡単にそれぞれを説明します。
USB入力信号 (1)-a
PCやCDからのUSB信号の入力が可能です。
DSD512及び、PCM769kHz/32bitに対応していますので、現時点でのほぼ最高スペックと言えます。各機器でアップサンプリングされた信号をそのまま入力が可能です。
XU208 (2)-a
XMOS社のDDC(Digital Digital Converter)です。これにより、DSD512及び、PCM769kHz/32bitに対応しています。
ASRC/DIR(DSD→PCM) (3)
ASRC(非同期サンプルレートコンバータ)機能と、DIR(デジタルオーディオ・I/F・レシーバー)機能をもつデバイスのようです。これにより、様々なサンプルレートのデジタル信号入力が可能となっています。
また、DSD→PCMの信号変換もここで行うようです。従って、以下の信号処理は、PCMとなります。
DSP :EQ/TONE/BASS (4)
DSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)で、信号処理を行い、EQ(イコライザ)機能、TONE(トーンコントロール機能)やBASS(サブウーファー機能)を発現しています。
RCA入力信号のフロー (1)-e
RCA端子経由のアナログ信号入力です。
PCM1804
TI社のADC(アナログ・デジタル・コンバーター)です。
データシートには、2001/Decとの記載があります。今や、かなりレガシーなデバイスと言えます。192kHz/24bitのPCMに対応しています。
DSD64にも対応しているようですが、こちらの機能はおそらく使われていないと思われます。USBデジタル信号入力の仕様に比べれば、見劣りする感じもします。
BT対応 (1)-d
Qualcom社のデバイスを採用し、LDAC/aptX-HD/aptX/AAC/SBCに対応しています。
それぞれ、Sony(LDCP)、Android(aptX-HD/aptX/LDCP)、Apple(AAC)の各社のコーデックに対応しています。現時点では、最先端と言っていいかと思います。
以上で、Sabaj社のA30aについての説明をおわります。
A30aとVMA A2
なお、SMSL社のVMA A2の仕様は、A30aと同等です。機能も、ほぼ同じに見えます。
ただ、写真をみると、VMA A2の基板の表面の色(ソルダーレジスト)は黒で、A30aは緑で異なります。プリント基板のデザインや、材質、層数も違うかもしれません。
また、用いられているパーツ(L,C,Rなど)のグレードも異なるかもしれません。
少なくとも、シャーシは異なります。ただし、重量は、A30aが3.3kg、VMA A2が2.6kgと、A30aの方がやや重いようです。700gの差は、結構大きいです。
このあたりは、音を聴いて比較するしかなさそうです。
ショップによっては、A30aを約10万円で販売しているところもあるので、そちらが本来の値段かもしれません。
ただ、このクオリティーで、現時点でのAmazon等の約7万円の価格は、少なくも仕様と機能を考慮すると、かなりコスパがいいように思われます。当面の戦略的価格でしょうか。
これから、PCオーディオ用機材の導入を検討しているのであれば、A30a単体で、DAC+デジアンの機能をもち、さらに現時点で、最高レベルの高音質のBTへ対応していることを考えると、価格的にもおすすめと言えます。
以上、主にSabajのA30aをベースに、新たなデジタルフィードバック技術であるPFFBなどをみてみました。S.M.S.LのVMA A2も、仕様の値や採用されている主なデバイスと説明文から、ほぼ同様の構成です。ただし、使われているパーツの品質等は異なるかもしれません。
関連リンク集
次回
次回は、これら上位機種以外の、より低価格な機種について比較検討したいと思います。
簡単接続のPCオーディオ