はじめに

 音工房Zの新しいスピーカーユニット " Bergamo "用のエンクロージャーの開発を開始しました。前回、その1として、開発のための実験用エンクロージャータイプについて、ご紹介しました。

Z1000-Bergamoの箱開発 その1

 今回は、前回にレフェレンスと設定したスピーカーのスロート部や第2ダクト、それに各空気室の体積など各要素について検討するため測定用エンクロージャーを作成し、測定してみましたので、その結果をご紹介します。

 今回測定用に設定した各バリエーションを用いて、各パラメータを変えた場合にインピーダンスがどのように変わっていくか、その傾向についてご紹介します。

エンクロージャーの各要素の検討

BHBSのスロート長さの検討

検討用のエンクロージャーについて

 前回ご紹介したスピーカーエンクロージャーを基に、特性測定のためにやや変形させたバージョン(タイプBX)を作成しました。それらを用いて、スロートの長さを変えた場合に諸特性がどのように変わるかを検討してみました。典型的なパターンの一つを下に示します。

タイプB3

 測定に用いたタイプB3の特徴とそのバリエーションのいくつかを示します。

 タイプB3-1
          

 まず、今回のタイプBXの特徴ですが、オリジナルに対して、下図での⑤をやや短くしています。
これにより、クランク構造で想定される気流抵抗成分を少なくします。また、②が④と同じ角度にテーパーがついています。②と①とは直角ですので、①は⑤に対して②、④と同じ角度のテーパーとなっています。

 これらにより、直管構造による共鳴等を少なくしようと考えました。ちなみに、本構造は、目的とする測定データからノイズを少なくしようと考えたもので、音がよくなることを意図したものではありません。ただ、結果的に、エンクロージャー由来の余分な成分が減る方向ではあります。

 今回は、その結果の一部として、インピーダンス特性がどのように変わるかをご紹介します。そのため、④の長さを変えたタイプをいくつか用意して特性を測定しました。その一例としてタイプB3-4を示します。

  タイプB3-4

ここで、前回のその1と同様に各部分を次のように便宜上分類して、以下表現します。

それぞれ、内部を5つに区分して、I. 第1空気室、II. 第1ダクト、III. スロート、IV. 第2空気室、V. 第2ダクト、とします。 

 

ピークとディップの記号について

 なお、以下でインピーダンスのピークとディップとを、ダブルバスレフとの連続性も考慮して次のように名称を設定します。これまでのダブルバスレフに相当すると考えられるピークとディップは、従来どおりとして、BHBSで生じた新たなピーク(fbc)とディップ(fbd)とを、周波数の低い側から1,2,、、、とつけていきます。この順番の方向は、ダブルバスレフの長岡先生の順番と逆になります。

 このネーミングは、もう少し、理解がすすんだら、改定するかもしれませんが、今回はこのように設定します。例として、以下の図を示します。今回は、新たなピークとディップが一つですが、エンクロージャーの構造によってはより数の多いケースもあります。

タイプB4

 また、タイプB3に加え、タイプA4に相当する、タイプB4も用意しました。このタイプでは、下図で、⑥の長さを変えたバージョンをいくつか用意しました。

 

タイプB4-1

第1ダクトについて

 今回ご紹介するすべてのケースでは、③がすべて同じ値(長さとダクト高さ)の場合をご紹介しています。③=第1ダクトは、fd1に関係します。この長さとダクト高さを変えると、ほぼ計算式通りにfd1が変化します。

 ただし、BHBS構造で、このダクトのあとに続く、スロートの入り口が十分に広い場合、という条件の場合です。ここが広い場合は、次に示すように、インピーダンス特性はスロートの影響をほとんど受けません。狭い場合は、データが異なってきます。

 

測定結果

 ④の長さを変えた5種類のインピーダンス特性の測定結果を重ね合わせて示します。

タイプB3の5種類のインピーダンス特性

 スロートが長い方から、赤、橙、黄緑、青、紫の順で、プロットしましたが、ほとんどグラフが重なったようなデータが得られました。
つまり、インピーダンス特性はほとんど変化がないように見えます。

 わずかに、fd2の左側に赤いプロットが少しでているようです。赤は、④が最も長いケースになります。実際にディップの値を数値で比較すると、わずかですが、一番長いケースが、fd2の値が最も低い周波数となっています。

 同じく一番長いケースのfd1が、やや高域側にシフトしているようにも見えます。

 ただしBHBSで新たに定義した最も高い周波数で出てくるfbd1とfbc1については、スロートが長くなるにつれ、周波数が低い方にはっきりと動いています。赤字のピークが左側にはっきりと見えています。

 この結果は、ピークとディップの各記号を決める際に暗黙に仮定していた条件を証明しているのかもしれません。すなわち、fc3、fd2、fc2、fd1、fc1は、ダブルバスレフ構造に由来し、fbd1、fbc1は、スロート構造に由来している、ということです。

今回のスロート長さの実験では、第1空気室は変えていません。

しかし、第2空気室は、スロートが長くなるにつれ、小さくなっています。この影響が、fc3とfd2の結果に出ている可能性もあります。

 

 同様にして、タイプB4のインピーダンス特性の測定結果を示します。

タイプB4の5種類のインピーダンス特性

 こちらの方も同じ傾向ですが、もう少し分離がはっきりしています。fd1、fc1は完全に一致していますが、fd2とfc3、それと少しですが、fc2も④が長くなるにつれて、それぞれ周波数が低くなっています。これは、スロートが長くなるにつれ、第2空気室の容積が小さくなっていることの効果が出やすくなっているとも考えられます。結果としてfc3とfd2にその影響が出ている可能性があります。ちなみに、両方合わせると、次のようになります。

タイプB3(4種)+タイプB4(4種)のインピーダンス特性

 B3とB4をあわせても、高い周波数側のfd1とfc1とはほぼ一致しています。全体として、スロートを伸ばすと、fc3、fd2が低い方にわずかに下がる傾向に見えますが、このスロート長さ自体が直接インピーダンス特性に与える影響は少ないようです。

 

BHBSの第2ダクトの影響

第2ダクトの長さとインピーダンス特性との関係(タイプB3)

 今回用意した測定用エンクロージャーのタイプB3の中で最もスロートの長いケースについて、第2ダクトの長さを変えた場合のインピーダンス特性の変化を示します。

タイプB3で第2ダクトの長さを変えた時のインピーダンス特性の変化-1

 ここで、黄緑が最もダクトが長く、次にオレンジ、赤が最も短い場合となります。ちなみに、長さは3cmずつ異なります。ダクト長さの影響が、fc3、fd2、fc2にはっきりと出ています。また、fd1にも僅かですが出ているようです。ダクトが長くなると、低い周波数に遷移しています。

 しかし、fc1と新たに定義したfbd1,fbc1には、変化が見られません。

 ここで、特に興味深いのは、fc2とfd1にも影響がでていることです。
ここで示した場合では、約150Hz から35Hz の中低域のインピーダンス特性が変わることを示しており、周波数特性にも影響を及ぼすと考えられます。

 

同様の測定を先程よりスロートが4cm短いケースで行った結果を次に示します。

タイプB3で第2ダクトの長さを変えた時のインピーダンス特性の変化-2

 先程とほぼ同様の傾向と結果が得られています。

 ちなみに、このケースでは、最も長いダクトの場合、fd2が約46Hzとなっており、また、fc3は35Hzです。従って、40Hz付近までの再生能力が予想されます。前回に示したように、同サイズのシングルバスレフでのfdの実測値が、55.4Hz、また、f0c2が45.3Hzでしたので、約10Hz程度、再生可能な周波数の領域が下に広がっていることになります。

 

第1空気室と第2空気室の容積比率の影響

OM-OF101用エンクロージャーでの測定結果について

 以前、オンキョーの限定ユニットであるOM-OF101用のエンクロージャーの検討を行いました。

 その際、今回とは異なった形状のダブルバスレフでしたが、全体の有効容積Vcsが一定で、第1空気室 and/or 第2空気室の容積を変えた場合に、特性が変わることがわかりました。

 そこで、今回の形状においても、第1空気室と第2空気室の容積比率を変えた場合に特性に影響がでるか検討してみることにしました。

 

タイプB1での検討

 今回の形状で、全体の容積が一定で、第1空気室 and/or 第2空気室の容積を変えた場合に、インピーダンス特性がどのように変わるのかを確認しました。これを検討するモデルとして、タイプB1を用いました。

タイプB1の構造について

 タイプB1-1                   タイプB1-10

                        

 今回の場合、全体の体積は一定ですので、右側のように第1空気室の容量を増すと、第2空気室の体積は減ります。そこで、表題では、体積比率としましたが、実際のところ、どちらの表現が正しいかは、よくわかりません。

 ただ、結果として、上記の2パターンのように変えた場合、インピーダンス特性はかなり変化します。

各空気室の定義について

今回、第1空気室、第2空気室の容積については、下記の図の定義で計算しました。

 

 各空気室の計算                  本エンクロージャーのパーツ記号

                         

第1空気室の容積: V1=V11+V12

第2空気室の容積: V2=V31+V32+V33

 

 なお、第1空気室の容積を増やすには、①を長くするか、②を長くします。いずれにしても、仕切りのパーツの体積が増しますので、全体の実効内容積Vcsは、少しですが減ります。

V1/Vcsを変えた場合のインピーダンス特性の変化

4つの体積比のケースのそれぞれのインピーダンス特性を重ねた場合を提示します。

それぞれ、赤、橙、水色、青色の順番で、第1空気室の割合が大きくなっています。

全体の実効内容積Vcsに対する第一空気室の容積V1の比率は、下記の値となっています。それぞれのピークとディップの周波数の値とともに一覧表を示します。

 このそれぞれの値を散布図で示します。それぞれ、fc3fd2fc2fd1fc1 となっています。
また、
縦軸が周波数、横軸がV1/Vcsとなります。

 V1/Vcsの値が、0.30と0.32とでは、すべての値が同じになっています。この2つのV1/Vcsの値がそもそも近いためなのか、この付近に最低値/最高値または、飽和点があるのかは、このデータではわかりません。さらに検証が必要です。
しかし0.30以下の場合では、変化がみられます。また、変化の仕方が、それぞれによって異なっているようです。

 fc2のみ、V1/Vcsの値が大きくなるとfc2の周波数が高くなる傾向にあります。ただその変化は、小さいようです。

 逆にそれ以外では、V1/Vcsの値が大きくなると、すなわち第一空気室の比率が高くなると共に、それぞれの周波数が低くなります。また、fc1とfd1の変化の方が、fd2、fc3の変化よりも大きいようです。

 ちなみに、長岡鉄男先生の式ですと、fd1には、空気室の体積比に関係する値が入っていますが、fd2では、全体の体積Vcと第2ダクトのパラメータしか入っていません。

 つまり、第1空気室(第2空気室)の大きさ、もしくは比率が変わっても、fd2は変わらないことになっています。式を示します。

 ここで、Vcs:全体の実効内容積、r:第2ダクトの半径、L3:第2ダクトの長さ、です。

 この式からみると、今回の測定結果は、V1/Vcsが大きくなるに従って、見かけのVcsが大きくなっているような変化をしています。fc3の式(不等式ですが)を見ても、Vcsの項が分母側に入っていますので、同様な傾向のようです。

 また、再び、最初に示したインピーダンス特性を見てみると、fd1、fd2、fc3のインピーダンスの値(高さ)が、異なっています。

 特に、今回示した範囲では、fd1の値の変化が顕著です。

 これらの結果、今回の設定範囲で、各空気室の容積(比率)の変化が、約200Hz~40Hzの範囲のインピーダンス特性に大きな違いを生じさせました。

これは、各空気室の容積(比率)を帰ることにより、この範囲、すなわち中低域の周波数特性を帰ることができることを示しています。

実用上、とても興味深い結果といえます。

ダブルバスレフの第2ダクトのインピーダンス特性への影響とB1の周波数特性

ダブルバスレフ(DB)の第2ダクト長さとインピーダンス特性の関係について

 先程示したV1/Vcsが0.30のケース、すなわち今回の測定範囲では比較的第1空気室の容積が大きな場合で、第2ダクトを3cm毎に長さを変えた場合のインピーダンス特性を示します。

 ダクト長の短い順に、黄緑 とプロットしています。

 ちなみに、先程の水色で示したデータは、下記のグラフでは、で示されているのと同じです。これは、最も第2ダクトが短いケースとなっています。

ダブルバスレフ(タイプB1)の第2ダクトの長さとインピーダンス特性

 先の項で示したfd2の式で示されているように、同じ開口径のダクトの場合、ダクトが長さが長くなるとfd2の周波数は下がります。

ここで示したケースでは、さらに、ダブルバスレフのすべてのピークとディップに影響が出ていることがわかります。このケースでは、約110Hz~35Hzぐらいの範囲の低域が変化することを示しています。

特にfd1の結果は、従来の式では説明できない現象です。

ダブルバスレフのfd1の式

ちなみに、fd1は次の様な式となっています。

 ここで、L1、L2は第1ダクトの高さと幅で、L1・L2 は、第1ダクトの断面積です。L3は、第1ダクトの長さ、Vc1 、Vc2はそれぞれ、第1空気室と第2空気室の実行内容積です。

つまり、ここには、第2ダクトに関係するパラメータは全く入っていません。

 測定結果を見てみると、第2ダクトが長くなるとともに、fd1の周波数の値は、低くなっています。従って、上記の測定結果については、この式では説明できないこととなり、なかなか興味深い結果と言えます。

 なお、ここで示したのは、第1空気室の容積が比較的大きな場合の結果です。
第1空気室が小さな場合にどうなるかは、測定できていませんでした。今後の検討課題です。

タイプB1の低域の再生可能な周波数について

 最後に、B1構造で再生できる低域を示す参考データとして、周波数特性とインピーダンス特性を示します。これは、上のインピーダンスのグラフで、緑で示した最も第2ダクトの長いケースとなります。このケースが、今回の測定範囲でのタイプB1の低域側の最も低い再生可能周波数を示しています。

 矢印で示したのは、fc3のピークの周波数で、35Hz となっています。

 B1のエンクロージャーにおいても、10cmのスピーカーシステムとしては、比較的ワイドレンジな再生能力を持っていることがわかります。少なくとも実用上、40Hzは十分に再生できそうです。

 ただし、これは、低域側の再生能力はベストですが、全体のバランスで、最良のケースとは限りません。

 実際の音を聴いて、どれをベストとするか決めて行くことになります。

まとめ

 音工房Zの新しいスピーカーユニット " Bergamo "用のエンクロージャーの開発を開始しました。

 今回は、前回にリファレンスと設定したスピーカーのスロート部や第2ダクト、それに各空気室の体積など各要素について検討するための測定用エンクロージャーを作成し、インピーダンス特性を測定して比較検討しました。

 まず、BHBSの特徴であるスロート部の長さを変えた場合のインピーダンス特性をそれぞれ5種類のタイプB3とタイプB4で測定し、比較しました。その結果、スロート部の長さを変えると、fd2の周波数がわずかに下がる傾向が見られるものの、インピーダンス特性にはあまり大きな変化が見られませんでした。

 なお、聴感上は、このスロート部のあるBHBSと、ほぼ同サイズのダブルバスレフでは、中低域のパンチ力にかなりの差を感じます。このスロート部を評価する特性測定については、別途検討が必要と思われます。

 次に、BHBSであるタイプB3にて、第2ダクトの長さを変えた場合のインピーダンス特性の変化を比較しました。その結果、第2ダクトの長さを変えることにより、fc1、fbd1、fbc1には影響が見られませんでしたが、それら以外のfc3、fd2、fc2、fd1が、第2ダクトの長さが長くなると、低い周波数に遷移していく傾向があることがわかりました。

 つまり、第2ダクトを変えることにより、100Hz ~40Hz付近の周波数特性が変化することが予想されます。

 さらに、検討するパラメータとして、第1空気室(V1)と第2空気室(V2)の内容量の比率変化が、インピーダンス特性に与える影響を見るために、ダブルバスレフのタイプB1で第1空気室の内容量(V1)を変化させて、インピーダンス特性を比較しました。

 その結果、fc3、fd2、fc2、fd1、fc1すべてに影響があることがわかりました。

 中でも、fc2のみ、挙動が他の4つと異なり、V1の値が大きくなると、fc2の周波数も高くなりました。その他は、逆に低くなることがわかりました。さらに、そのインピーダンスの値もかなり変化します。

 これらの結果を考慮すると、各空気室の容積(比率)の変化は、特に約200Hz~40Hzの範囲の周波数特性に大きな違いを生じさせる可能性があることがわかりました。

次に、同じ第1空気室の容量で、第2ダクトの影響を検討しました。

その結果、比較的第1空気室の内容量が大きな場合、fc3、fd2、fc2、fd1、fc1、全てにおいて、第2ダクトを長くすると、低い周波数に遷移することがわかりました。

また、最もダクトが長いケースでは、fc3の周波数が最も低くなっているのに加え、そのピーク高さが低くなっています。従って、低域側の再生可能周波数が、より低くなる可能性があります。

次回は、今回の測定結果も踏まえ、新たな音道構造のBHBSについて検討したいと思います。

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