目次

はじめに

 音工房Zの新しいスピーカーユニット " Bergamo "用のエンクロージャーの開発を開始しました。
本シリーズでは、その第1弾であるZ1000-Bergamoの開発過程についてご紹介しています。

Z1000-Bergamoの箱開発 その1

Z1000-Bergamoの箱開発 その2

 今回は、その3として、その1、その2で検討した構造と測定結果を基に、あらたな音道形状をもつエンクロージャー構造を設定し、諸特性の測定と評価を行った結果として、各パラメータによるインピーダンス特性の変化の傾向についてご紹介します。

 

クランク構造とクランクレス構造のBHBS

クランク構造のBHBS

今回の開発にあたり、リファレンスとして設定したエンクロージャーは、スロート部分にクランク構造、すなわち、直管構造を180度でベントさせてつなぎ合わせた構造を持ちます。ここでいうクランク構造とは、下図の水色の部分のようなイメージです。

クランク構造の音道

 なお、この直管は、折り曲がる毎に少しずつ断面積が広くなっています。これは、バックロードホーンでもよく見られる構造でもあります。このクランク構造は、過去の当社のエンクロージャーにも結構採用されており、いい音と言う観点で、どちらかというとポジティブな印象が持たれています。

 このクランク構造があると、中低域の音圧向上に寄与する、という印象がなんとなくありました。
つまり、うまく設定すると、中低域のパンチ力が増すイメージがあります。

クランクレス構造のBHBS

 今回、レファレンスのA3構造に対抗するということで、あえて、このクランク構造をなくしたクランクレス構造を設定してみました。

 このクランク構造により、直管による特定の周波数での共振による不要な増幅効果や、ベント部分などでの気流抵抗による減衰効果、などによるエンクロージャー構造由来の周波数特性の乱れが発生することなど、ネガティブな要因も考えられるからです。

 まず、ベースとして、単純な構造にもかかわらず、案外いい音という印象だったダブルバスレフのB1構造を、想定しました。この構造は、前回の”その2”でも、インピーダンス特性とともにご紹介しています。下図の②がベントしていることで、各空気室の定在波が低減し、第1ダクトの後の気流がスムーズになることも少し期待できる、かもしれません。

 前回は、測定用に②の角度や長さを変え、また①の長さも変えたエンクロジャーを用意して、第1空気室の容積等を変えた実験を行った結果の一部をご紹介しました。

ダブルバスレスのタイプB1のエンクロージャー構造

 一般的に、この構造は、スロートがあるタイプよりも、比較的周波数特性がフラットな結果を得やすいのですが、中低域のパンチ力が少なく、おとなし目の音の傾向となります。音楽のジャンルによっては、その方がいいこともあるのですが、今回は、A3構造への対抗ということですので、パンチ力を加えたいと思います。

 そこで、これにクランクレスのスロート構造を付加します。これを、タイプB5とします。

クランクレスのタイプB5のエンクロージャー構造

 発展型として次のようなB6の構造も考えられますが、スロートがベントしていますので、クランクレスとは少し言い難いようにも思います。また、スロートが長い分、音道も長くなります。ただ、前回の測定データから、スロート部を長くしても、インピーダンス特性には、あまり影響が無いとも思われます。

タイプB6のエンクロージャー構造

 

 このB6についても、何パターンか作成し、特性も測定しました。
結論を言えば、この構造を活かすには、奥行き方向の長さがもう少し必要なようです。
特に、第2ダクトを長くすると⑤とぶつかってしまいます。

 以上から、今回は、この中のB5について検討した結果について、概略をご説明します。

  実は、Z1000-FE103Aの開発時に、このB5に似たタイプも比較検討しました。その結果、最終候補として残っていた、ということもありましたので、今回、もう一段音を向上させることはできないか、ということで検討を行ったという背景もあります。

クランクレスBHBS構造の検討(タイプB5)

B5構造における音の改善のための検討事項について

  B5の構造は、クランク構造がないので、周波数特性的にエンクロージャー由来の暴れが少ない特性となることが期待できます。また、音道が比較的短いので、レスポンスの向上感も得ることができるかもしれません。

  一方、クランク構造がないということと、その結果スロート長さが短くなるということで、どちらかというと、低域の量感が減る方向も予想されます。これを補うため、前回行ったダブルバスレフの検討結果を適用したいと思います。

第1空気室の容積(比率)とインピーダンス特性の検討

 前回、第1空気室を大きくして、第2空気室との比率を変えると、インピーダンス特性が変わり、fd1とfd2とが低域側にシフトすることがわかりましたので、この方向を適用できるか検討したいと思います。

B5の第1空気室と第2空気室の定義と容積の変更方法

 A3/B3の構造では、第1空気室の容量を大きく変えるのは、クランク構造部分に影響が及ぶため簡単ではないのですが、上記のB5構造では、スロート部分と、空気室の部分が構造的にわかれているため、この検討結果を活かすのは比較的容易です。

  具体的には、① and/or ②の長さを長くすれば、第1空気室の容積は増します。その結果、第2空気室の容積は減ります。つまり容積比率は変わります。この構造で、第1空気室の容積(率)をました場合に、ダブルバスレフのように、インピーダンス特性に影響があるか、まず検証したいと思います。

 また、スロートを長くすることにより、共振周波数を下げることも、少しですが、期待できます。
今回は、スロートを長くした場合を基本形とします。

第2ダクト長さとインピーダンス特性の検討

 次に、第2ダクトの長さの影響を検討します。このダクト長さは、ダブルバスレフの場合、第2ダクトの長さと空気室の容積(比率)との相関がありましたので、今回のタイプB5でも同じような関係があるかも検証したいと思います。

 

第1空気室(比率)とインピーダンス特性の関係

第1空気室(比率)の容積変化のバリエーション

先に示したタイプB5の図の①と②を変えて、第1空気室の容積を増やした場合を例として示します。

B5で第1空気室の容積を増やした例

    

第1空気室(比率)を変えた場合のインピーダンス特性                                                                                   

第1空気室の容積(比率)を変化させた場合のインピーダンス特性の変化の測定結果を次に示します。

第1空気室の内容席(比率)を変化させた場合のインピーダンス特性の測定結果

 ここでは、第1空気室の内容積の小さい順に、ピンクとなっています。青とピンクの内容積の違いは、約5%、また、赤と青の内容積の違いは約35%となっており、青とピンクの違いに比べ青と赤との違いが大きくなっているようです。この空気室の容積の変化により、全てのピークとディップに対し、影響がでているのがわかります。

 それぞれの傾向として、fc2のみが、内容積が小さくなると、低い周波数にわずかにシフトする傾向ですが、それ以外は逆で、第1空気室の内容積が大きくなると低い周波数へシフトしています。 また、fc3のインピーダンスの値は、第1空気室の容積が大きくなると、小さくなるようです。

これらの動きは、ダブルバスレフの場合と似た傾向のようです。

 

第2ダクトの検討

次に第2ダクトの長さの影響を、見てみます。

第1空気室の容積と第2ダクト長さの関係

第1空気室が小さな場合の第2ダクト長さとインピーダンス特性

 先程のインピーダンスのグラフの赤で示した、第1空気室の小さな場合を、まず示します。
ここでは、第2ダクトの短い順に、赤、橙、黄緑となっています。それぞれな長さは、3cmずつ等間隔に変えた場合です。

第1空気室が小さな場合の第2ダクト長さとインピーダンス特性の測定結果

 このケースでは、周波数の高いfbc1,fbd1とfc1は、3つのプロットが完全に一致しています。また、fd1もダクト長さが長い方が、周波数が低くなる傾向はありますが、その違いは少ないようです。

 しかし、fc2、fd2、さらにfd1は、ダクトが長いと低い周波数に動きます。特に、fc3では、そのピーク値が小さくなっています。第2ダクトを長くすると再生可能周波数が低くできることを示しています。

第1空気室が大きな場合の第2ダクト長さとインピーダンス特性

 次に、第1空気室が、やや大きなケースを示します。これは先の項での青に相当します。
ここでは、第2ダクトが長い順に水色、茶色、青色と、3cmずつ短くなっています。

第1空気室が大きな場合の第2ダクト長さとインピーダンス特性の測定結果

 この場合、fbc1、fbd1、fc1については、先程と同様、3点が一致しています。つまり変化がありません。また、fc2、fd2、fc1も先程と似たような傾向で、ダクトが長くなると各々の周波数が低くなっていきます。

 しかしfd1は、先程よりも変化しているように見えます。

 このグラフでは、少しわかりにくいので、それぞれのケースのfd1の値を読み取った表を下に比較して示します。

第1空気室の容積が小さい場合のfd1の変化

第1空気室の容積が大きい場合のfd1の変化

 第1空気室が小さい場合は、長い方の黄緑と橙との周波数とインピーダンスの値とが完全に一致しています。また、インピーダンスの値は、赤と他の2つがかなり近い値となっています。
つまり、fd1はあまり大きく変わっていません。

これは、ダブルバスレフの式から予想される結果と合っています。

 それに対して、第1空気室が大きな場合は、ダクトが短くなると高い周波数となり、かつ大きなインピーダンスの値となる傾向のようです。第1空気室の容積が大きくなる、もしくは全容積での比率が高くなるに従って、fd1に対する第2ダクトの影響がでてくるようです。

 なお、全体的に、第1空気室の容積が大きくなるとfd1の周波数は低い方向にシフトしています。

 これは、今回実験した範囲では、第1空気室が大きくなると、第2ダクトにより、fd1、fc2、fd2、fc3がすべて低域側にシフトすることになり、この場合、約100Hz以下の周波数特性の形状が変わってくることを示すと思われます。

第1空気室が最も大きな場合の第2ダクト長さとインピーダンス特性

 続いて、第1空気室の内容積(比率)を変化させた場合のインピーダンス特性の変化で示した最も第1空気室の大きなピンクのケースを示します。ここでは、第2ダクトの長さの違う6つのケースをプロットしています。

 ダクトの短い順に、赤、橙、黄緑、青、茶色、水色となっています。

第1空気室が最も大きな場合の第2ダクト長さとインピーダンス特性の測定結果

 先程の第1空気室の容積が大きい場合に比べ、さらに5%ほど容積が大きくなっていますが、ほぼ同じ傾向を示しており、特にfd1の値が、ダクトが長くなるにつれて、低域側にシフトしている様子がわかります。

タイプB5とタイプB1の周波数特性とインピーダンス特性の例

このケースで最も第2ダクトが長いケースの周波数特性の測定値を参考データとして次に示します。

タイプB5の低域再生周波数を伸ばしたケースの周波数特性とインピーダンス特性の例

 矢印で示した周波数は、fc3の値です。このケースでは、40Hz より少し低い周波数までの再生ができそうです。例えば、クラシックのパイプオルガン等の再生には、有利かと思われます。ただ、同じく30-50Hzの音がよく入っているスヌープ・ドッグのようなヒップホップ系には、ちょっとおとなしめな感じで、ものたりないかもしれません。

いずれにしても、本タイプは、10cmシングルユニットのこのサイズのエンクロージャーにしては、低域再生限界をかなり低くできるポテンシャルを持つといえます。

 この波形は、前回のその2で示したダブルバスレフと形状がかなり似ています。前回引用したデータと、今回のデータを重ねた例を示します。

タイプB5とタイプB1の特性の比較例

点線が、ダブルバスレフ、実線が今回のタイプB5となります。

 共に、それぞれのタイプの中で、最も長い第2ダクト長さとなり、かつ、この2つのダクトは、同じ長さです。40Hz 以下のプロファイルは、ほぼ同様となっています。この体積のエンクロージャーでは、これがほぼ低域再生の限界のようにも思われます。

 100Hz~50Hz では、タイプB5の方が、やや音圧が高くなっているようです。

 この100Hz 以下の領域の周波数特性は、先程提示しましたインピーダンス特性の変化でも推察できるように、第2ダクトの長さにより形状がかなり変わります。このチューニングが低域の音作りの一つのポイントのようです。

 また、中域を見てみると、500Hz-2kHzの波形も異なってきているのが見て取れます。このケースでは、900Hz 付近のタイプB5のピークが特に目立ちますが、この部分も、第2ダクトの長さを変えると変わり、この部分をほぼフラットにもっていくことができるようです。

 この部分については、まだ検証はできていませんが、スロートとの関係もあるかもしれません。

 第2ダクトが、なぜ、このような大きな影響を与えるのかはわかりませんが、これほど、広範囲に影響を与えるのは実用的にも興味深い効果と言えます。

 つまり、音の傾向が変わるということになりますが、いずれにせよ、全ての最適解はないので、最後は、比較試聴できめていくしかありません。

ちなみに、最終的に選定されたのは、このケースではありませんでした。また、一部のユーザー様にお越し頂き行ったプレ試聴会での組み合わせにも入っていませんでした。

タイプB5のチューニングのポイント

以上、示したように、タイプB5では、今回ご説明した2つのパラメータで、大きなチューニングを行いました。

1.第1空気室と第2空気室の比率の変更
2.第2ダクトの長さ

これらは、相関性がありますので、つまり、1を変えると第2ダクトの長さの影響度合いも変わるので、今回は、測定結果とヒアリングの結果をフィードバックしつつ、設定しました。

なお、今回は詳しく提示しませんでしたが、インピーダンス特性に影響を与えるパラメータはまだあります。

3.第1ダクトの長さ、高さ
4.スロートの角度
  など

さらに、スロートの長さも、音の勢い、パンチ力といった特性に関わっているようです。

 また、②の角度なども、周波数特性に関係して来る可能性があります。
さらに、今回は全く触れませんでしたが、第1空気室を主とした各部分への吸音材の効果も検証が必要です。ただし、今回の構造では、吸音材無しでも耳障りな感じはあまりしない印象でした。

 現時点での結論としては、タイプB5においても、以上の各要素のチューニングにより、タイプA3に匹敵する低域のエネルギー感のある音を出せることがわかりました。また、中高域において、エンクロージャー由来の癖が少ない素直な特性を得ることができました。

 ただし、この低域のエネルギー感を出すということと、再生可能周波数領域を低周波数側に広げる、ということは相反するようで、どのような音作りとするか、というのはかなり悩ましいところでもあります。

 

まとめ

 今回は、その1、その2で検討した構造と測定結果を基に、あらたな音道形状をもつエンクロージャー構造を設定して、リフェレンスエンクロージャー構造であるタイプA3を超えることができるか検討しました。

 今回開発のリファレンス(比較対象)としたタイプA3の構造は、クランク構造を持ちます。
このクランク構造は、様々なバックロードホーンに用いられており、ある意味実績がありますが、ネガティブな要因も想定できます。

 クランク構造の直管部分による特定の周波数での共振による不要な増幅効果や、ベント部分などでの気流抵抗による減衰効果、などによるエンクロージャー構造由来の周波数特性の乱れが発生することなどです。これらは、それぞれの長さから、中域の特性に関係すると想定されます。

そこで、タイプA3の対抗として、クランクレス構造のタイプB5を設定し、試作して特性測定を行いました。

これまでの、検証から、次の2つを主要因として、インピーダンス特性が変化するか試作し、測定、評価しました。

1. 第1空気室の内容積(全体での容積比率)の変化の影響
2. 第2ダクト長さの影響

 1つ目の空気室の容積の変化により、全てのピークとディップに対し、影響がでました。
それぞれの傾向として、fc2のみが、内容積が小さくなると、低い周波数にわずかにシフトする傾向ですが、それ以外は逆で、第1空気室の内容積が大きくなると低い周波数へシフトしました。
また、fc3のインピーダンスの値は、第1空気室の容積が大きくなると、小さくなります。

 これらの動きは、ダブルバスレフの場合と同様の傾向のようです。

 2つ目の第2ダクトの長さについては、fbc1、fbd1、fc1については、変化がありませんでした。fc2、fd2、fc1は、ダクトが長くなると各々の周波数が低くなることがわかりました。

 fd1については、1つ目のパラメータである空気室の容量(比)により、影響が異なることがわかりました。第1空気室の容量が小さいと、fd1の値は変わらないか、変わってもその変化量は小さく、またインピーダンスの値もほぼ同じ値でした。

 しかし、第1空気室の容量が大きい場合は、第2ダクトが長くなるとfd1の周波数が低くなり、さらに、インピーダンスの値は小さくなります。つまり、低域の再生に有利な方向となります。

 これらの結果を用いたチューニングにより、タイプB5では、40Hz より少し低い周波数までの再生が可能であることがわかりました。また、タイプA3に匹敵する低域のエネルギー感のある音を出せることがわかりました。さらに、中高域において、エンクロージャー由来の癖が少ない素直な特性を得ることができました。

 ただし、この低域のエネルギー感を出すということと、再生可能周波数領域を低周波数側に広げる、というのは相反します。チューニングにより、音はかなり変わりますので、その兼ね合いを決めるには難しさがあります。

 今回の一連の実験で、タイプA3、B3、B5などのBHBS形式のエンクロージャーとZ-Bergamoとの組み合わせが産み出す音は、その筐体サイズからは予想できないスケールの音場空間を作り出してくれました。

また、B1などのダブルバスレフも高いポテンシャルを持つことがわかりました。

 

Z1000-Beragamoを見る

 

 

 

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