目次

はじめに

 音工房Zの新しいスピーカーユニット " Z-Bergamo "用のエンクロージャーの開発を開始しました。今回は、その1として、開発の前提条件などについて、ご紹介したいと思います。なお、現時点(2022年3月)では、本開発の第1段としてZ1000-Bergamo 用の エンクロージャー ver. 1.0を開発完了しています。

 今後、今回の開発過程で得られた成果を基に、エンクロージャーのバリエーションの検討を行っていく予定です。本記事は、そのトライアルの過程のメモとなります。本ブログ記事が、オーディオ自作ファンの皆様の何らかのご参考になれば幸いです。

 

開発の前提条件

今回のスピーカー開発において、スタート時点での前提条件は、次の3点でした。

1. スピーカーユニットに、新10cmユニットの " Z-Bergamo "を用いる

2.エンクロージャーの内容積は、25Lからスタートする

3.エンクロージャーの外観はブックシェルフとする

それぞれについて、以下ご説明します。

 

1. スピーカーユニットに、新10cmユニットの " Z-Bergamo "を用いる

 本ユニットは、音工房Zが、マークオーディオに委託して開発した10cmのユニットです。同社の最新ユニットであるPluvia 7 HDをベースにマグネットを強化し、原型よりもややオーバーダンピングタイプに改変しているのが大きな特徴です。また、当社の方向性に対して、マークオーディオから様々な提案を頂き最適化しています。


 本ユニットについては、これまで当社が提案してきたダブルバスレフやバックロードホーン、またBHBS(バックロードホーンバスレフ)などのエンクロージャーへの適用を想定しています。下に、Fostexの定番と限定ユニット、及びONKYOの限定ユニットと、マークオーディオのAlpair7、Pluvia7などとの比較表を示しました。

各社10cmユニットの特性比較表


 原点となったPluvia7とTSパラメータを比較すると、等価質量Mms(=m0)の値が3.84gに対し、4.2gと少し大きく、重くなっていますが、振動板の動きやすさを示すコンプライアンスCmsの値は、1.25に対し1.26[mm/N]とほとんど変わっていません。また、Qtsの値が、0.58から0.53とやや小さくなっています。

 

 

2.エンクロージャーのサイズは25Lからスタートする

 エンクロージャーのサイズは、低域の再生能力に直結します。一般に形式を問わず大きなエンクロージャーの方が豊かな低音が得られやすくなります。一方、大きくなれば、エンクロージャーの重量が重くなり、設置場所が限定され、取り扱いのしやすさにも関係してきます。また、キットの場合、各パーツが重くなりますので、これが製作の際には障害にもなります。重い板の取り扱いは結構大変です。

 これらは相反する関係にあり、悩ましいところです。Z1000-FE103Aの試作箱に入れたPluvia7の音が素晴らしかったところから開発がスタートしましてそのサイズは幅✕高さ✕奥行き= 220✕450✕356 [mm] でした。 もちろん、このサイズより小さいサイズや大きいサイズも試作の過程では検討したいと思います。

 

 

3.エンクロージャーの外観デザインはブックシェルフとする

 

 Z1000-FE103Aで採用した正面の外観と、音道を取り除いた場合の断面のイメージ図を示します。高さ450mmのブックシェルフですが、デザインのバランスと点音源化を両立したもので非常に好評でした。サイズ感とデザインはスタートはこちらをベースにいこうと決めました。

正面の外観と断面のイメージ図

 内部の構造、言い換えれば、背面側の音の道=音道、の構造は様々に考えられます。
この図の場合は、シングルバスレフ構造ですが、ダブルバスレフ構造、BHBS(バックロードホーンバスレフ)構造などなど、いくらでも考えられるわけです。

 要は、中に仕切りをおいて、背面側の音の通り道を制御するわけですが、結果的に、仕切りが多いほど音の通り道=音道が長くなります。対応して正面バッフルからの音とバスレフポートからの音との位相差の生じる周波数なども変わってきます。

 その結果、バスレフポートや空気室などの共振や、クランク構造などによる気流抵抗など、エンクロージャー構造に由来するインピーダンスの変化などによる周波数特性への影響と、位相差による試聴位置での周波数特性の変化とが相まって、スピーカー(ユニット+エンクロージャー)の聴感上の特性は、大きく変わってきます。

 

 まずは、以上から、開発開始の時点では、内部構造は、バスレフポートを少なくも1つ設置することと、その直径以外は、未定、ということで開発スタートしました。


 

エンクロージャーの選定

Z1000-FE103Aの試作エンクロージャーからスタート

 内部構造未定、とはいえ、Z1000-FE103Aの試作箱でいい結果を得ていますので、まずはそこからスタート、というのが常道でしょう。当社では、これをBHBS(バックロードホーンバスレフ)に分類しています。

 このエンクロージャーとFE-103Aとの組み合わせでは、長岡式のバックロードホーンタイプに比べれば、比較的小型であるにも関わらず、スピード感とパンチ力があり、かつ低域の量感も備えた印象的な音を再生することができています。

 実は、トライアルとして、このエンクロージャーにZ-Bergamoを装着して試聴したところ、社内でもかなり高い評価を得ました。後述する第2ダクト=正面下のバスレフポート、を調整すれば、このまま商品化が可能なレベルとも思われました。

 今回、オリジナルスピーカーユニットを新たに採用するにあたって、新たなスピーカーシステムの継続的な開発のために、本エンクロージャーの構成要素を改めて検討し、特性測定を行って、動作原理の検討をしてみるとともに、あらたなエンクロージャー構造の可能性を検討することとしました。

 ただし、最終的な採用基準は、あくまで、社内とお客様の試聴の結果に基づくという姿勢は従来と同様です。当社の試聴の場合、2つから4つのスピーカーをペアで並べ、できるだけ音圧がそろうように個々にレベル調整して、比較試聴するわけですが、当面の比較リファレンスは、このオリジナルパターンということになります。また、結果的に、このオリジナルパターンベースのタイプが最終選定に至るかもしれません。

 今回の場合、オリジナルパターンの音がよかったので、新たな開発は無駄に終わる感じもしましたが、それでも、このように、測定結果を解析していくことで、少しでも音の傾向と構造との関係がわかれば、今後の開発期間をより短くできるのではないかとも期待して、いくつかのタイプを試行してみました。

 結果的には、約90パターンの特性測定を行いました。
以下では、その一部をご紹介しつつ開発経緯をご説明します。

 

試作版Z1000-FE103Aエンクロージャーの構造(基本形)

まず、このエンクロージャーについて、以前行ったダブルバスレフの実験等の経験を基に音道の構成要素として、下記のように5つに分割してみました。

Z1000-FE103A(試作版)エンクロージャーの構成要素

I. 第1空気室

 スピーカーユニットが設置されている部分の空気室です。この部屋の大きさそのものと第2空気室等との体積比率が周波数特性に関わると予想されます。

以下、スピーカーユニットから正面ユニット下のダクトまでの流れに沿って区分していきます。

II. 第1ダクト

 この構造では、第1空気室のあとに、平行な板によるダクトが形成されています。これが、この構造での一つの特徴と言えます。これは、ダブルバスレフタイプの第1ダクトとその動作が似ている可能性があります。

 つまり、ダブルバスレフのインピーダンス特性で高い周波数側のディップであるfd1相当の形成に主に関わってくると予想されます。

III. スロート

 第1ダクトのあとに、第1ダクトの倍以上の幅のストレートなダクトがクランク構造で少しずつ幅を広げて折れ曲がって続き、最後に、ややテーパーのあるスロートが形成されています。

 このクランク構造は、長岡先生のバックロードホーンでもよくあるパターンでもあります。

 現時点では、これら全体をスロートとしておきます。実際には、ストレート部分とクランク構造、また最後のスロート部分とその出口などで空気の流れの抵抗(気流抵抗)や共鳴などが発生し、それぞれの動作が組み合わされていると考えられます。構造的には、この部分の有無がダブルバスレフと全く異なるところです。

 従って、このスロート構造が、最終的な中低音のスピード感やパンチ力の形成にかかわっているのだと推測されます。そこで、次回のその2では、このスロート部分について特に検討していきたいと思います。

 

IV. 第2空気室

スロートを出たあとに大きな空間に空気は広がります。ここを第2空気室とします。

 また、この第2空気室とスロートをあわせた容積を、拡張した第2空気室とみることもできるように思われます。第1と第2空気室の体積比率の影響を検討する場合は、第2空気室の容量として、この図で示した 第2空気室とスロートとの合計の体積で考えるべきかもしれません。

 合計で動作する場合は、インピーダンス特性が、部材の分を差し引いた容積のダブルバスレフと同じとなるのかもしれません。

今後の検討課題です。

V. 第2ダクト

 最後に、正面下に設置した、円柱状のダクトを配置しています。これは、最終的には、ややテーパーの入ったタイプを採用しています。今回は、市販のタイプを採用しており、取付部分の直径は固定されます。共振周波数の調整は、ダクトの長さで行います。

 今回のような実験の際は、異なる長さのダクトに交換すればいいので、比較的実験がしやすいと言うメリットもあります。

 このダクトの作用は、バスレフの場合は、インピーダンス特性における2つのピークに挟まれたディップの周波数に関わり、計算式があります。

 また、ダブルバスレフの場合もこのダクトにより形成されるインピーダンス特性のディップの周波数の値が、長岡先生の式によるものと実測値とがほぼ一致することが、以前の検証でわかっています。

 

 ただし、一方、周波数特性と言う観点では、これによる効果は、エンクロージャーの内容積全体に関わってもいますので、本BHBSのような、より複雑な内部構造を持つ場合、この第2ダクトによる影響が、周波数特性の形状全体に及ぶことも考えられます。

 

基本形をベースとしたバリエーション構造と各音道の長さ

先に上げた、試作箱に5種類のエンクロージャーをまず想定してみました。各部材にナンバーをつけた下図を基にご説明します。

 

A0:バスレフ型

①~⑥のすべての部材をなくしたタイプです。

基本的にこのタイプを採用する予定はありませんが、比較用に、周波数特性とインピーダンス特性の確認を行いました。

A0の構造

 

A1 ダブルバスレフ構造

オリジナルから、④と⑤を取り除き、①の長さを②の位置と調整した構造を示します。
これは、下図の第1ダクトと第2ダクトをもつダブルバスレフ構造といえます。

A1の構造と各要素

 この構造により、③による第一ダクトの影響の検討と②と①の長さによる第一空気室の容積の影響、また、第1空気室と第2空気室の比率の影響について検討することができそうです。

 特に、以前行ったダブルバスレフの検討で、第1空気室のサイズ、及び、第1と第2空気室との容積比とが、低域の再生能力に影響をもつことがわかっていますので、この可変範囲でどのような特性となるか確認できるよと考えられます。

 なお、この形式の音の通り道=音道の長さは、最短で次の様なイメージです。

 

A1の音道のイメージ

下図の音道の長さは、890mm でした。

 

A2 トリプルバスレフ構造

 ⑤を取り除くと、下図のような構造となります。①を少し長くして、④の幅を狭めると、スロートというよりも、ダクトとなります。すると、第1、第2、第3ダクトの3つを持つトリプルバスレフ構造といえなくもないかと思います。このように、第2ダクト/スロートの幅で動作原理がかなり変わるように思われます。

 

A2の構造と各要素

 この構造は、興味深くはあるのですが、これについては、条件を振る要素がかなりありますので、おそらく、これだけで、実験が膨大になります。また、本来のトリプルバスレフの動作確認には、この箱の容量では足りないようにも思われます。

 今回は、第2ダクト若しくはスロートのサイズによるインピーダンスや音の違いをいくつか確認するのみで、このタイプの実験は別途行いたいと思います。

 ちなみに、音道のイメージは、次のようになります。

 

A2の音道のイメージ

部材のサイズで、音道の長さは変わりますが、下図の場合、1030mmでした。

 

A3 S-BHBS(オリジナル)

先程示した図を再掲します。

ここでは、仮称としてS(short)-BHBSと記載します。

A3の構造と各要素

この場合の音道のイメージは、次のようになります。

A3の音道のイメージ

この図の音道の長さは、1200mm でした。

A4 L-BHBS(スロート延長)

A3のスロートを延長するために、下図で⑥を追加した場合を想定してみました。
仮称として、L(long)-BHBSとします。

A4の構造と各要素

この場合の音道のイメージは、次のようになります。

A4の音道のイメージ

下図の音道の長さは、1540mm でした。

この構造で危惧されるのは、⑥のスロート用部材と、第2ダクトとの距離が短いことです。ダクトが長いと接触してしまいます。また、ここで、新たに気流抵抗が発生しそうでもあります。

この筐体の奥行きのサイズでは、この構造は、色々と無理がありそうではあります。

 

各構造のインピーダンス特性の比較

 次に各タイプのインピーダンス特性のグラフを示します。

 なお、ここでは各タイプでA0以外では第1ダクトを形成する③の長さとダクトの高さが、同一の場合を示しています。シングルバスレフの場合は、インピーダンスに2つのピークの間にディップが形成され、この周波数の値は、ダクトの断面積と、全体の実効容積にダクト長さをかけた値との比の平方根で算出されます。

 ダブルバスレフのケースでは、2つのディップが出ますが、第1ダクトによって生じる周波数が高い方のディップfd1の値は、以下のようになります。

L1: 第1ダクトの高さ、L2:第1ダクトの幅、L3:第1ダクトの長さ(cm)
r:角型ダクトの面積(L1・L2)を円に換算した時の半径(cm)
Vc1:第1空気室の実効内容積、Vc2:第2空気室の実効内容積(リットル)

このように、第1空気室と第2空気室との和と、第2空気室との比の平方根が積算されます。

 

A0 シングルバスレフ

タイプA0のインピーダンス特性の例を示します。

典型的なシングルバスレフのインピーダンス特性で、2つのピークの間に一つのディップが現れています。この表示例は、バスレフポート長さが100mmの場合です。

赤線の位置のディップを算出する式による値が、53.6Hzで、実測値は、55.4Hzでした。
約3%の違いとなります。

ちなみに、この場合の周波数特性と、インピーダンス特性とを次に示します。

 バスレフダクトによるインピーダンス特性のディップと、それによって形成されていると考えられる周波数特性のピークとが見事に一致しています。

 また、ディップの両サイドのピークにより、周波数特性が落ち込んでいるのが見て取れます。
低域側は、この影響もあり、ストンと落ちています。余分な要素がないため、インピーダンス特性が周波数特性に及ぼす影響が、そのまま出てきている感じです。

 この周波数特性の形状をみると、バスレフダクトをもう少し長くして、fdを低域側に伸ばしてもいいようにも思われますが、低い方のピークは、ユニットのスティフネスと、等価質量m0、それとエンクロージャーの実効内容量であらわされますので、このピークが動かず、邪魔をすることが予想されます。

 このままでは、低域側に再生周波数をシフトさせるのは、難しいかもしれません。

 ある意味、これがこの筐体のサイズでのシングルバスレフの低域側の再生限界を示しているとも言えます。

 

 

A1 ダブルバスレフ

タイプA1のインピーダンス特性の例を示します。

 ピークが3つ、ディップが2つある典型的なダブルバスレフのインピーダンス特性となっています。

 先程、式で示したfd1を、青の矢印で、示しました。
ちなみに、この測定結果では、fc3とfd2の周波数が、シングルバスレフ(タイプA0)とさほど、変わっていません。
ダブルバスレフに期待される効果があまり出ていないということです。

 ここで、第1空気室の容積を増やしてみたところ、これらが共に、低域側にシフトしました。

  第1空気室を広げた場合のインピーダンス特性

 

 点線で示したのが先程の第1空気室がオリジナルのケースで、実線が第1空気室を大きくした時のインピーダンス特性です。

 赤の縦の実線で、点線のfd2の位置を示していますが、実線のfd2の位置は低域側にシフトしています。
また、fc3も同じく低域側にシフトしています。

 シングルバスレフでは、fc3に相当するピークが、おそらく動かないため、バスレフダクトを長くしても低域の再生能力はさほど上がらないと予測しました。

 このピークとディップが共に低域側にシフトするのであれば、バスレフダクト(第2ダクト)を長くすることで、低域の再生能力向上が期待できます。これについては、次回以降でデータを整理して示したいと思います。

A2 トリプルバスレフ

 この測定例では、位置の端面下に④が取り付けてあり、①と背面板との距離が30mmですので、この場合のタイプA2では、④がバスレフポートとして作用していると推定しています。従ってこの例は、トリプルバスレフに分類してみました。

 

 ピークが4つ、ディップが3つ観察されました。

 次に示すBHBSよりも、一番高い周波数のピークの高さが高く出ています。
スロート部を狭くしたことで、気流抵抗が大きくなっているのかもしれません。

A3 S-BHBS

タイプA3のインピーダンス特性の例を示します。

BHBSは多くの場合、ピークが4つ以上、ディップが3つ以上できます。

 タイプA3として、各部材の寸法を色々変えて、特性を測定しました。概ね、この例のように、ピークが4つで、ディップが3つ、さらに最も高い周波数のピークがかなり小さな値となっているのが、この構造の共通する特徴のようです。

 ところで、A2とA3で、対応するピークとディップの位置を比較すると、かなりよく似ています。
また、A1と比べると、低域側のピークとディップが、低い方にずれています。また、タイプA1のfc2に相当するピークの位置は不動のように見えます。

 スロート構造をもつことで、少なくも、新たに高い周波数側で新たなピークがでます。また、どうやら、低域側のインピーダンス特性にも影響がでているようです。

 低域側でのシフトは、シングルバスレフでは、達成できそうもない変化で、これは低音再生能力の向上につながるようですが、高い方のピークは再生能力的には、邪魔に見えます。この抵抗成分は、無くす方向に持っていったほうが、いいように思えます。

A4 L-BHBS

 タイプA4のインピーダンス特性の例を示します。

 この例は、①~③と⑤の部材を上記のタイプA3と同じ寸法にして、⑥を追加した場合を示しています。一見して、高い周波数側から3つのピークとディップとは、かなり近い値のようですが、最も低い周波数のピークとその右側のディップは、A4の方が低い周波数にシフトしているようです。

 この傾向は、スロート部分の長さとの関係を示しているように思われますので、次回以降で検証していきたいと思います。

 

 

各エンクロージャの音の比較

 オリジナル寸法の、タイプA3と、それぞれの九通する部材のサイズを揃えたケースについて、A1、A3、A4で、試しに比較試聴してみました。

タイプA1の試聴結果

 まず、A1ですが、他よりも、やや音圧が高いような印象を受けました。予想以上にバランスのいい音です。ただし、A3と比較すると、中低域、低域側の勢いで敵いません。例えば、ホテル・カリフォルニアのイントロ部分でのバスドラのズンという響きなどでは、圧倒的な差がでます。

 ただ、押しの強さはないのですが、素直な印象です。なお、この試聴した設計寸法では、再生可能な最低域の周波数も、A3よりも高い印象です。これらの特性は、第2ダクトや空気室比率などで変わるので、チューニングの余地はありそうです。

 また、各パーツのチューニングにより、タイプA3のようなパンチ力も出てくるようです。
それでも、現時点では、タイプA3のレベルには至っていません。

 また、見方を変えれば、比較的フラットな暴れの少ない特性を得られやすいので、音楽のジャンルによっては、むしろこちらの方がいい場合もありそうにも思われます。

 いずれにせよ、非常に単純な構造であるにも関わらず、A1の構造は、Z-Bergamoと相性がいいようです。このタイプについては、今後、音質の改善について検討を継続したいと考えています。

 

タイプA4の試聴結果

今回の寸法の場合、他よりもやや音圧が低いような印象を受けます。ただし、再生可能な最低周波数は、最も低く感じました。中低域のパンチ力という点では、A1同様、A3には敵いません。

 どうも、スロートを長くしていくと、最低再生周波数が下がる傾向のようです。これについては、もう少し掘り下げて検討したいと思います。

 

スロートを考慮した測定用エンクロージャー構造の改良 

B3 BHBS構造

基本形のスロート部分の構造は、クランク形式の直管とスロートとのやや複雑な組み合わせになっています。

スロートの長さと音との関係をみるために、この構造から直管部分を少なくした、できるだけ一貫したスロート構造に近づける、という目的で下図のような構造を考えてみました。

①を正面バッフルに対して、直角ではなく、角度を下向きにつけて取り付けます。

②と④とは、①に直角に取り付けます。結果的に、スロート部分の大半は、①の取り付け角度のテーパーのついたスロット構造になります。

このような構造を、先のAシリーズに対して、Bシリーズとして、バリエーションを考え、主に、スロート長さの影響をみてみることにしました。

これについての結果は、次の”その2”でご紹介する予定です。

タイプB3のイメージ

また、同様にして、タイプA1もタイプB1に改良します。定在波と気流抵抗をへらす方向です。この形状で、第1空気室の容量を変えた場合などを検討することとします。

タイプB1のイメージ

 

 

まとめ

Z-Bergamo 用のスピーカーエンクロージャーの開発を開始しました。Z-Bergamo は、音工房Zがマークオーディオに委託して開発した新しい10cmのスピーカーユニットです。

開発の第1段として、Z1000-Bergamoを完成しました。本レポートはその開発経緯のメモとなります。

本開発においては、次の3点を設定して開発を行いました。

1. スピーカーユニットに、新10cmユニットの " Z-Bergamo "を用いる
2.エンクロージャーの内容積は、25Lからスタートする
3.エンクロージャーの外観はブックシェルフとする

また、目標とする音の比較対象として、依然のZ1000-FE103Aの試作エンクロージャーにZ-Bergamoを装着したケースを設定し、比較試聴していくことで、開発をすすめることとしました。まず、音の構成要素を検討するために、A0-A4の5タイプを設定し、その中の3タイプについて、部材の長さなどを変え、特性がどう変わるか検討しました。

 今回は、概要として、それらの特性インピーダンスの違いについて示しました。バスレフでは、ピークが2つ、ダブルバスレフでは、ピークが3つ、トリプルバスレフでは、ピークが4つ、BHBSでは、スロートの長さに関わらずピークが4つでした。ただし、今回の形式(タイプA3、A4)のBHBSでは、最も高い周波数のピークは、かなり小さく、このピークの発生要因の気流抵抗が小さいことを示しているようです。

 基本形のタイプA3とほぼ同容量の第1空気室をもつタイプA1の低い周波数側のピークとディップ(fc3、fd2)の値は、シングルバスレフの値とあまり変わっていませんでした。プレテストとして第1空気室の容量を増やし比較したところ、共に低い周波数にシフトしました。これにより、ダブルバスレフの低域の特性を向上させることができそうです。

 また、ほぼ同容量の第1空気室に、スロート構造が加わったタイプA3とダブルバスレフのA1を比較すると、同じくfc3、fd2が、共に低い周波数にシフトしました。また、A3のスロートを延長したタイプA4では、同じくfc3、fd2が、共に低い周波数にシフトしました。

 内部音道のスロート構造が低域側の再生能力向上に寄与しています。

次回以降で、BHBSでのスロート長さの影響を、タイプA3を改良したタイプB3で検討予定です。
また、第1空気室の容量による特性の変化をタイプA1を改良したタイプB1で検討予定です。

さらに、これらを踏まえ、その3で、Z-Bergamo用の新たなエンクロージャー構造の検討を行う予定です。

Z1000-Beragamoを見る

 

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