目次
Mighty Long Way / ALVIN QUEEN feat. Jesse Davis and Terell Stafford
規格品番:[ VQCD-10133]
本アルバムについて
本アルバムの概要
今回ご紹介するのは、名ドラマーのアルヴィン・クイーン(Alvin Queen)のリーダーアルバム、マイティ・ロング・ウェイ(Mighty Long Way)です。
オリジナルは、エンヤ レコード(ENJA Records)から2009年にリリースされました。[ENJ-9522 2]
手元にあるCDは、日本のワードレコーズ(Ward Records)から同年にリリースされたSHM-CD版で、規格品番は、[ VQCD-10133]です。その他に、2021年版もあるようです。
本アルバムのプレイヤーは、2007年にリリースされた前作のアイ・エイント・ルッキング・アット・ユー(I Ain't Looking at You)[VQCD-1134][ENJ-9501 2]のメンバーをコアメンバーとして、さらにパーカッションとベースが加わっています。
本アルバムの曲をFFT(高速フーリエ変換)アプリで解析してみると、まず、音域がとても広いのに気づかされます。低域はもとより、高域もよく伸びており、相対的に高い音圧となっています。
高い周波数成分が高音圧で入っており、立ち上がりの速いシャープな音を予感させます。
このあたりの測定結果などもご紹介したいと思います。
アルバム全体の印象として、割合ゆったりとしたリズムの演奏が多い印象です。最初は、少し古さすら感じさせる入り方ですが、段々と各プレイヤーのテンションが伝わってきます。リズムは、ゆったりとしたままなので割合リラックスして聴ける雰囲気ですが、後半は、出だしとは、大分と違う感じもします。
前作は、割合とスピード感のある曲が多く、それぞれの張り合いのような感じも受けます。アルヴィン・クイーンのソロから始まる曲も割合多いという印象ですが、その後の各プレイヤーのソロのテンションが高く、お互いに技を見せあっている印象がしましたが、本作では、より熟成した関係を感じさせます。
本アルバムのプレイヤー
本アルバムのプレイヤーは、次の6人です。
アルヴィン・クイーン(Drums) ;Alvin Queen (1950/8/16)
テレル・スタッフォード(tp, flh) ;Terell Stafford (1966/11/25)
ジェシー・デイヴィス(alt sax) ;Jesse Davis (1965/9/11)
ピーター・バーンスタイン(g) ;Peter Bernstein (1967/9/3)
マイク・ルドン(Hammond B3 Org) ;Mike LeDonne (1956/10/26)
エリアス・ベイリー(bass on M4,7) ;Elias Bailey
ニール・クラーク(conga drums & perc.) ;Neil Clark
ここでは、ドラムのアルヴィン・クイーン、ギターのピーター・バーンスタイン、ハモンド・オルガンのマイク・ルドンについてもう少し詳しくご紹介します。
アルヴィン・クイーンについて
アルヴィン・クイーンは、1950年8月16日、米国のニューヨーク州ブロンクスで生まれたジャズドラマーです。現在は、スイスに住んでいます。
地元の教会の合唱団でのタンバリン演奏で打楽器に目覚めたと言われる彼は、ドラムを学び始めます。家が貧しかったため、ドラムの先生に直談判、靴磨きをするかわりにレッスンを受けることができたそうです。才能を認めてくれた、ということでしょう。
そして、11歳のときに、地元のクラブのドラマーの代役として、急遽出演、それが評判になり、その後は、伝説的な逸話が並びます。13歳の時に、エルヴィン・ジョーンズの紹介で、ジョン・コルトレーン・グループのバードランドでの演奏に飛び入り参加します。
その後19歳でホーレス・シルバー・クインテッドのオーディションに合格、さらにジョージ・ベンソン・カルテットを経て、チャールズ・トリヴァーのグループで、ヨーロッパツアーを経験します。その時に、エンヤ・レコードでの初録音をしています。
2年間のカナダでの生活を経て、79年からスイスに移住します。Nilva Recordsという自身のレーベルも立ち上げました。ただし、1992年のアルバムを最後に本レーベルは停止しています。
共演者としては、マイケル・ブレッカー、ケニー・ドリュー、オスカー・ピーターソン、ベニー・ウォレス、ドゥシュコ・ゴイコビッチ、ジョニー・グリフィン、ジョージ・コールマンなどが挙げられます。
オスカー・ピーターソンの最後のレギュラードラマーとして、2004年の来日公演にも出演しました。
その翌年の2005年6月9日にスペインのバルセロナで、前作の" I Ain't Looking at You "を録音して2007年にエンヤレコードからリリースしました。
その翌年の2008年3月25-26日にニューヨークで本アルバムを録音し、2009年に同じくエンヤレコードからリリースしています。
ピーター・バーンスタインについて
ピーター・アンドリュー・バーンスタインはアメリカのジャズギタリストです。1967年6月3日にニューヨーク市で生まれました。8歳でピアノを引き始め、13歳でギターに転向、ニュージャージー州立ラトガース大学で、テッド・ダンバーとケニー・アロンにジャズを学びました。
また、ニューヨーク市のニュースクールにも在学しています。その在学中に、1990年のJVCジャズフェスティバルでの演奏をジム・ホールにオファーされます。
2008年、ブルーノート・レコードの70周年を記念して結成された7重奏団のブルーノート7のメンバーとなりました。
その後、ジミー・コブ、ダイアナ・クラール、りー・コーニッツ、ハモンド奏者であるドクター・ロニー・スミスなど多数のプレイヤーと共演しています。
今回一緒に演奏しているマイク・ルドンとは10枚以上のCDで共演しています。
マイク・ルドンについて
マイケル・アーサー・ルドン(1956/10/26)は、米国コネチカット州ブリッジポート生まれのジャズピアニスト兼オルガン奏者です。
ニューイングランド音楽院でジャキ・バイヤードに師事し1978年に卒業、ニューヨーク市で、ワイドスプレッド・ディプレッション・ジャズオーケストラに参加します。
その後、ベニー・グッドマンのセクステッドのメンバーなどを経て、1987年頃ミルト・ジャクソンのカルテットに参加します。
クリス・クロスレーベルから数枚のアルバムをレコーディングし、アート・ファーマー/クリフォード・ジョーダンクインテッドなどで演奏後、2000年、ニューヨークのスモーク・ジャズ・クラブでのグルーバー・カルテッドの演奏で、そのオルガン演奏が名声を博します。サヴァン・レコードから多くのCDをリリースしています。
2012年には、ジャズ・ジャーナリスト教会のベスト・キーボード賞にノミネートされました。
本アルバムの収録曲について
収録曲名
1.マイティ・ロング・ウェイ(Mighty Long Way) 5:22
2.スシ(Sushi) 7:47
3.ケープ・ヴァーデン・ブルース(Cape Verdean Blues) 6:25
4.ブルース・オン・Q(Blues On Q) 7:45
5.アイ・ガット・ア・ウーマン(I Got A Woman) 7:41
6.バックヤード・ブルース(Backyard Blues) 5:16
7.アルバ(Alba) 4:50
8.レット・アス・ゴー・イントゥ・ザ・ハウス(Let Us Go Into The House) 7:12
9.ドラム・シング(Drum Thing) 8:47
各曲のピーク値の周波数特性の特徴
各曲のピーク値の周波数特性を測定し、その特徴を検討したいと思います。なお、以下記載のある曲と各ピークの確認等については、モニター用のヘッドフォンのSennheizerのHD-660SとSONYのMDR-M1STを用いました。
" 2. Sushi " の周波数特性について
本アルバムの2曲目の" 2.Sushi " 、この全曲の周波数特性を、下図に示します。
これは、オスカー・ピーターソンの曲です。
図 1. " 2. Sushi" の周波数特性(Wave Spectra使用)
この図では、縦軸横軸を補完しています。縦軸が音圧で、0dB~-80dB、また、横軸が周波数で、20Hz~20kHzとなります。
全体の最大ピークが-20dB を少し超える程度なのに、10kHz付近でも-50から-60dB程度と高い音圧を示しており、立ち上がりの速い録音であることが推察されます。
実際、各パートで、キレの良い速いパッセージが多くなっています。
"5. I Got a Woman
" の周波数特性について
次に、アルバムの5曲目、" 5. I Got a Woman "の周波数特性を示します。これは、レイ・チャールズの曲です。
図 2. "5. I Got a Woman " のピーク値の連続データの周波数特性
最大のピークが-20dBを少し上回る程度ですが、200-600Hz付近の中域にあります。一方、高域側も20kHzまで、充分に高い音圧で入っています。低域は、50Hzぐらいまで比較的高くなっており、ドラムスやベースなどの音が、普通のスピーカーでも量感豊かに再生できると思われます。
全体に、キレのいい演奏で、かつゆったりとした響きが予想されます。
" 6. Backyard Blues " の周波数特性について
次に、アルバムの6曲目、 " 6. Backyard Blues " の周波数特性を示します。これも、オスカー・ピーターソンの曲です。
図 3. " 6. Backyard Blues " の周波数特性
これも、最大ピークが-20dB以下程度にも関わらず、高い周波数側の音圧が相対的に高く、キレの良い音が予想されます。また、低域側も40Hz程度まで、音圧が高く、一段と豊かな低音が伺えます。低域側は、スピーカーの再生能力の高さが必要です。
"
Seven Steps to Heaven" の冒頭部分の周波数特性について
次に、前作の " I Ain't Looking at You "の2曲目、マイルス・デイビス&ヴィクター・フェルドマンによる " Seven Steps to Heaven "の測定結果を示します。
図 4. " Seven Steps to Heaven " の冒頭部分のピアノソロの周波数特性
この前作の" I Ain't Looking at You "と、今回取り上げている"Mighty Long Way"とでは、特性上、一般的に低域がやや異なっているという印象を受けます。
前作では、この曲のように、50Hzより低い周波数側での音圧の低下が目立ちます。それに比べ、"Mighty Long Way"では、30-40Hz台でも比較的高い音圧を示す曲が多いようです。
" Queen's Beat " の周波数特性について
次に、同じく " I Ain't Looking at You "の4曲目、" Queen's Beat " の周波数特性を示します。
この曲は、ハモンド・オルガンのMike LeDonneの作曲です。題名からも、本アルバムに際して、アルヴィン・クイーンのために創った曲と思われます。
図 5. " Queen's Beat " の全曲の周波数特性
これら2曲は、比較的形状がよく似ています。なんとなく、ところどころ尖っています。また、高い周波数まで、音圧も高くなています。
実際の演奏も、極めてタイトで、キレのよい速いパッセージが特徴です。
試聴に用いたスピーカーシステムについて
今回、試聴に用いたスピーカーは、次の3種類です。今回は、全てスーパーツィータを接続しています。
1. Ber : Z702-Bergamo + Z502(-8dB)
2. Mod :Z702-Moderna+Z501(1μF)
3. Woh :Z503-Woodhorn(ドライバー;SB Audience Bianco-44CD-PK)+30cmバスレフ型ウーファー(ユニット:DaytonAudio; DSA315-8 12)+ Z502(-6dB)
試聴の際のレイアウトの写真を示します。
それぞれ、1,2,3とします。
1. Z702-Bergamo+Z502
Z702-Bergamoは、音工房Z独自仕様のマークオーディオ製10cmのフルレンジユニット(Z-Bergamo)を用いたBHBS方式のスピーカーシステムです。また、Z502は、スーパーツイータの最上位機種です。
2. Z702-Moderna+Z501
Z702-Modernaは、音工房Zオリジナルの8cmユニット(Z-Modena)を用いたBHBS方式のスピーカーシステムです。ただし、同じBHBS方式ではありますが、この2つの音道の構成は異なります。
それぞれのユニットの特性等を考慮した上での設計を経て、さらに多くの試作の中からそれぞれの結果になったのですが、最終的にZ702-Bergamoのバスレフダクトは前面、Z702-Modernaは、背面と見た目も異なっています。
3. Z503+30cmWoofer+Z502
3番目のスピーカーシステムは、先日の試聴会で初めて公開したもので、次の1,2,3を組み合わせた構成となります。
1. Z503-Woodhorn1+コンプレッションドライバー;SB Audience製 BIANCO-44CD-PK
2. 30cm用バスレフ型エンクロージャー+ユニット;DaytonAudio製 DAS315-8 12
3. Z502(-6dB);スーパーツィーター
以上、これら3種類のスピーカーシステムを用いて今回試聴を行いました。
各スピーカーシステムの本ブログ中での略称について
今回の試聴は、先にご説明した3種類のスピーカーシステムで行いましたが、それぞれの引用については、それぞれ、Ber、Woh、Modと3文字で略称として示します。なお、これは、音工房Zの一般的な略称ではありません。あくまで、本ブログ中での限定的な使用です。
繰り返しになりますが、それぞれ、次のようなスピーカーシステムです。
1. Ber : Z702-Bergamo + Z502(-8dB)
2. Mod :Z702-Moderna+Z501(1μF)
3. Woh :Z503-Woodhorn(ドライバー;Audience Bianco-44CD-PK)+30cmバスレフ型ウーファー++Z502(-6dB)
試聴結果
" I Ain't Looking at You " の試聴結果
本作は、全体に、比較的ピッチの速いタイトな演奏が目立ちます。まるで、それぞれが腕を競いあっているようにビシバシと早いフレーズが小気味よくシャウトします。アルバム紹介などでは、ともすれば、ハモンドとドラムとのプレイが強調されがちで、たしかにMike LeDonneのプレイは、ハモンドオルガンの普通のイメージとは異なる鋭いタイトなピッチだったりもするのでが、それは、オルガンだけではなく、他の楽器すべてに共通します。
それぞれテンションの高い素晴らしい演奏です。
"Seven Steps to Heaven"の試聴
最初に、前作である" I Ain't Looking at You "の2曲目"Seven Steps to Heaven"の試聴結果を示します。
まず、曲は、クイーンのタイトなドラムスでスタートします。Berでは、これが、目が覚めるようなキレの良さで、とてもインパクトがあります。反応の速いドラムスが、低域から高域まで、スーッと出てきて小気味よく、さらにワイドレンジで、低域側の伸びが感じられ、とてもこの曲に合っているという印象を強く受けます。
Wohも、中高域のパンチ力を感じます。ただ、低域側が少しモコモコとしている感じもします。Berで感じた歯切れの良さをウーファーが少し邪魔している感じです。一方、大口径ならではの余裕も感じます。
Modには、ちょっと驚かされました。悪くないです。眼の前の8cmユニットのスピーカーシステムというのが、少し信じられない感じです。音の余裕すら感じます。
Modは、やはりZ501(スーパーツィータ)があったほうが、キレとバランスがいいようです。これだけを聴く分には、音のバランスも良く、とてもいいのですが、Berと比べれば、低域の厚みとパワー感で、敵わないという感じもします。
Wohに再び戻ると、この曲の再生音から感じたのは、このWoodhornと30cmウーファーのつながりといいますか、音の傾向が少し違うのではないかということです。ツィーターのパンチ力に対してウーファーが追随できていない感じがしました。
バスレフダクトのチューニングや、カットオフ周りの設定、場合によってはパラメトリックイコライザによる調整など、など、もう少し詰める要素があるかもしれません。
同様の印象を、4曲目の " Queen's Beat "でも感じました。
"Mighty Long Way"の試聴結果
このアルバムは、全体的に、低域が低い周波数側まで良く伸びています。また、それと呼応するように、その多くは、前作に比べ、比較的ゆったりとしており、低域の豊かさを味わえるようなテンポとも言えるかと思います。その中で、2曲目のSushiは、前作を踏襲するような比較的速いテンポとなっています。また、マイルス・デイビス他の曲ということもあり、トランペットの存在感が目立ちます。
Sushiの試聴
Berでは、これを聴いている分には、とてもいい、というノリの良い印象です。ただし、Wohと比べると、例えば、トランペットの音の圧力感がやや薄く感じます。
その音の薄さのような傾向は、Modでは、比較すると一段と感じます。ただし、一方、このシステムとしてのまとまりもよく、これはこれで、充分に音楽を楽しめる、と思いました。
客観的に言えば、8cmや10cmのユニットのBHBSシステム、これはいわばメカニカル2ウェイといえるのかもしれませんが、それと30cm+コンプレッションホーンのシステムとを同列に比較するのがおかしいのかもしれません。
ただ、8cm、そして10cmのBHBSが堂々と鳴っていることも事実です。ただし、40Hz以下の音域が含まれる音源では、単体では差が歴然とします。対抗するには、サブウーファーが必要です。
この曲においても、本作の他の曲と同様、前作よりは、音が太く感じられます。中域が充実しているということでしょうか。そして各パートの速いフレーズがそれぞれの気合を感じます。たとえば、ハモンドがハモンド(オルガン)と思えないようなキレッキレのプレイです。
このような音源では、コンプレッションドライバーの能力が発揮されるようで、やはりWohの存在感が際立ちます。
"I Got a Woman " の試聴
5曲目の" I Got a Woman " は、ハモンド・オルガンで始まります。ヘッドホンで聴くのと、また少し違うイメージで、楽しくなるようなノリです。
この曲でBerの再生能力が低域側にもよく伸びているのがわかります。Wohは、豊かな低音、といった印象です。やや質が違っています。
これらに比べると、Modは、低域側の再生能力といった観点で、他の2つと差が歴然とあるのがわかります。
総評
本アルバムは、6曲目などのように、30-40Hz台の低域側の音圧が割合高い曲が多く、その点で、Wohの低域側の再生能力によるゆったり感の違いがわかりやすい音源とも言えます。
サブウーファー的な周波数帯域の生成能力の有無により、歴然とその差が出やすい音源ともいえそうです。
CD情報
アマゾンのリンク先(下記画像をクリック)
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