目次
Hindemith vol.1 Viola & Orchestra / Tebea Zimmermann, Deutsches Symphonie-Orchester Berlin / Hans Graf
規格品番:[ MYR010]
本アルバム について
本アルバムは、真木礼様の特別CD紹介ページの第13回で、紹介されました。
指揮者、そしてヴィオラ奏者としても知られるパウル・ヒンデミット(Paul Hindemith;1895-1963)が作曲した曲の、ヴィオラ作品全集の第1集~ヴィオラと管弦楽作品集です。
規格品番は、[ MYR010]。SACDのHybrid版です。
ちなみに、Vol.2が、Sonatas for Viola & Piano and Solo Viola(ヴィオラ作品全集第2集~無伴奏ヴィオラ・ソナタ集、ヴィオラ・ソナタ集)となっており、2枚組です。
こちらの規格品番は、[ MYR011 ]で、こちらも、SACDのHybrid版です。
ヴィオラの奏者は、Vol.1,2共に、タベア・ツィンマーマン(Tabea Zimmermann)です。彼女は、以前ご紹介したベルチア・カルテット(Belcea Qualtet)のブラームスの六重奏でも共演しています。
演奏者: タベア・ツィンマーマン(Tabea Zimmermann)
タベア・ツィンマーマンは、ドイツのヴィオラ奏者で、大学教授です。
また、彼女は、2013年からヒンデミット財団評議会のメンバーで、2023年から同財団の理事長です。
同財団は、パウル・ヒンデミットの精神に基づく音楽、特に現代音楽の促進と育成、パウル・ヒンデミットの作品の普及と彼の芸術への理解を呼び起こすこと等を目的として設立されました。
彼女は、1966年10月8日、ドイツのラールで生まれました。
3 歳で故郷ラールの音楽学校でディートマール・マンテルの下でヴィオラを弾き始め、5 歳でピアノを弾き始めました。さらに、フライブルク音楽学校でウルリヒ・コッホにヴィオラを学び、1985年にザールブリュッケン音楽学校で学業を修了し、1986年からザルツブルクのモーツァルテウムでサンダー・ヴェグのもとで技術を磨きました。在学中、ジュネーブ(1982年)とブダペスト(1984年)の国際コンクールなどで優勝しています。
1987 年から 1989 年まで、彼女はザールブリュッケン音楽大学でドイツの最年少教授(21歳)として教鞭を執りました。 2002 年 10 月からはベルリンのハンス・アイスラー音楽大学の教授を務めています。
現在、タベア・ツィマーマンは 3 人の子供たちとともにベルリンに住んでいます。
ヒンデミット財団のHPによると、2023年の夏にフランクフルトに移る予定とのことです。
作曲家: パウル・ヒンデミット(Paul Hindemith)
作曲したパウル・ヒンデミット(Paul Hindemith)は、ドイツの作曲家、音楽理論家、教師、ヴィオラ奏者、そして指揮者です。1895年11月16日生まれで、1963年12月28日に68歳で亡くなっています。
彼は、第一次世界大戦(1914-1918)と第二次世界大戦(1939-1945)を経ているため、それぞれから大きな影響を受けています。第一次世界大戦では、父を失い、自らも1918年に従軍しました。彼の日記によると、「幸運によってのみ手榴弾攻撃を生き延びた」とのことです。
その後、自らがヴィオラを担当するアマール四重奏団を設立して、現代音楽に重点を置いてヨーロッパを広範囲にツアーするなど、演奏家として、また作曲家として、積極的に活動を開始します。
1927年には、ベルリン音楽大学の作曲科の教授に任命されています。
その後、第二次世界大戦関連では、台頭してきたナチスとの関係が複雑化します。ナチスからは、支持されたり支持されなかったり、相当大変だったようですが、最終的には、1934年にスイスに亡命し、さらに、1940年には、アメリカに亡命しています。
米国では、主にイェール大学で教鞭を取りました。さらに、バッファロー大学、コーネル大学、ウェルズ大学でも教鞭を取り、ハーバード大学でも講義を行っています。
この前後で、ナチスからの圧力が高まっていた頃、1935年に、トルコ政府からの要請を受け入れ、音楽教育の編成に携わり、アンカラ国立音楽院設立の監督や、トルコ国立オペラ・バレエ団設立を主導しました。
彼は、当時のトルコにおける、ケマル・アタチュルク大統領の時代の新しい音楽教育学の指導的人物でした。トルコの若い音楽家達から、高く評価され、尊敬されていました。
ヒンデミットは、1946年に米国市民権を取得しましたが、1953年にヨーロッパに戻り、チューリッヒに住み、1957年に教師を引退するまで、そこの大学で教鞭を取りました。
一方、作曲活動は盛んで、それらの曲を演奏、また指揮し、多くの録音を行いました。1955年に、ヴィフリ・シベリウス賞、1962年にバルザン賞を受賞しています。
1963年に、膵炎のため、ベルリンで亡くなりました。亡くなるまで作曲を続けた、とのことです。
本アルバムの概要
本アルバム(Vol.1)は、ハンス・グラーフ指揮によるベルリン・ドイツ交響楽団との共演です。2012年8月に、ベルリンのイエス・キリスト教会で録音が行われました。
日本語での本アルバム名と収録されている曲は以下の通りです。
アルバム名: ヒンデミット:ヴィオラ作品全集第1集~ヴィオラと管弦楽作品集
①白鳥を焼く男~古い民謡の旋律によるヴィオラと小管弦楽のための協奏曲
第1楽章:「山と深い谷の間で」
第2楽章:「さあ、親愛なるリンデンの樹よ」
第3楽章:変奏曲「あなたは白鳥の肉を焼く人ではありませんね?」
②葬送音楽~弦楽オーケストラと独奏ヴィオラのための
③室内音楽第5番 Op.36-4~ヴィオラと大管弦楽のための協奏曲
第1楽章
第2楽章
第3楽章
第4楽章
④ヴィオラと大室内管弦楽のための協奏音楽 Op.48a 初稿版【世界初録音】
第1楽章
第2楽章
第3楽章
第4楽章
第5楽章
第6楽章
葬送音楽について
②の葬送音楽は、1936年のイギリスのジョージ五世、崩御に際しての曲です。この曲には逸話があります。
この年、ヒンデミットは、『白鳥を焼く男』英国初演のためロンドンに滞在しますが、初演当日、国王ジョージ5世の崩御により演奏会は中止となってしまいます。
しかし、共演予定だったエードリアン・ボールトからの要請もあり、ヒンデミットは、国王ジョージ5世の死を悼む音楽の作曲に取り組み、本曲としてまとめ上げたとのことです。
ヴィオラと大室内管弦楽のための協奏音楽 Op.48a 初稿版【世界初録音】について
④は、世界初録音、とありますが、これは、次のような由来によります。
本曲の初演で、ヴィオラをヒンデミット自らが演奏し、その直後、彼は、改定作業を行ったとのことです。具体的には、章を組み換え、全6楽章のうち、第4章をカットし、第6章を差し替えました。その差し替え版が、現在では定番となっています。
本演奏では、その定番ではなく、改定前の初稿版を用いて全6章を演奏しており、この録音が初稿版として世界初とのことです。
各曲のピーク値の周波数特性の特徴
各曲のピーク値の周波数特性をPCのFFT(高速フーリエ解析)アプリで測定し、その特徴を検討したいと思います。なお、以下記載のある曲と各ピークの確認等については、モニター用のヘッドフォンのSennheizerのHD-660SとSONYのMDR-M1STを用いました。
本CDは、SACDハイブリッド版ですが、測定には、通常のCDデータを用いました。
したがって、20kHz以上は、録音されていません。
また、以下の図では、各スパンは次のようになっています。
この図では、縦軸横軸の値を補完しています。縦軸が音圧で、-20dB~-120dB、また、横軸が周波数で、20Hz~20kHzとなります。
まず、縦軸ですが、本曲では、比較的ダイナミックレンジが広いためもあるのか、録音レベルがやや低い傾向にあります。そこで、0~-120dBで測定した計測結果から、0~-20dB の部分をカットして、-20~-120dBとしました。
横軸については、通常のCD版ですので、最高は20kHzとなります。
" 白鳥を焼く男 第2楽章
" の周波数特性について
本アルバム1曲目、” ①白鳥を焼く男~古い民謡の旋律によるヴィオラと小管弦楽のための協奏曲” から、その第2楽章を測定しました。この全曲の連続データの周波数特性を、下図に示します。
図 1. "白鳥を焼く男 第2楽章 " の周波数特性(Wave Spectra使用)
全体的に、80Hz付近を中心とする山と、400Hz付近を中心とする山があるように見えます。ビオラとオケですが、全体に音の数が少ないのではないかと推察されます。また、80Hz付近の山は、低域が豊かに聴こえる可能性を示しています。40Hz以下は、レベルが下がって入るのですが、20Hz台までなにやらピークがあります。
高域側は、通常CDで、20kHzまで高調波が録音されています。SACD版では、もっと伸びていると制定されます。ビオラ等の豊富な倍音列が反映されていると思われます。
" 葬送音楽
" の周波数特性について
次に、本アルバムの2曲目の "②葬送音楽~弦楽オーケストラと独奏ヴィオラのための" の測定データを示します。
図 2. " 葬送音楽 " の周波数特性(Wave Spectra使用)
全体的に、とてもワイドレンジな録音であることがわかります。高調波成分も、通常CDで20kHzまで、伸びており、SACDでは、もっと伸びていることが予想されます。
また、50Hz付近にもピークがあり、これも存在感があるのですが、それ以下もなにやら沢山ピークがあります。
30Hz前後のピークなどは、いわゆる暗騒音というレベルでは、なさそうです。
"室内音楽第5番 第2楽章
" の周波数特性について
次に、本アルバムの3曲目、” ③室内音楽第5番 Op.36-4~ヴィオラと大管弦楽のための協奏曲" の第2楽章の測定データを示します。
図 3. " 室内音楽第5番 第2楽章 " の周波数特性(Wave Spectra使用)
全体に音圧が低いのですが、65Hz付近から、1.5kHz付近までのピークの高さがほぼ同じ程度となっていいます。高域も、これまでと同様、通常CD版で20kHz まで、録音されており、SACDはさらに伸びていることが予想されます。
さらに特徴的なのが、低域側で、20Hz台でも、相対的に比較的高いピークがあります。
全体的にかなりワイドレンジで、低域側の再生能力と、高域側の倍音列を再生出来る再生環境が必要に思われます。
Z702/Z1000-Bergamo(+Z502)での試聴
Z702/Z1000-BergamoとZ502タモ版について
音工房ZのフルレンジフラッグシップモデルZ1000-Bergamoと同じユニットを使ったZ702-Bergamoを使いレビューします。
Z702-Bergamo(左) と Z1000-Bergamo(右)の正面
Z702-Bergamo(左) と Z1000-Bergamo(右)の背面
Z702-Bergamoは、完成版のZ1000-Bergamoとエンクロージャーの内部構造と容積は同様ですが、正面からみた外観がやや異なります。
正面のバッフル面の4辺を斜めにカットをいれているのですが、写真でもわかるように完成版の方が角度が浅く、その結果、スピーカー周りのバッフル面積が完成品の方がやや小さくなっています。音に影響を及ぼす部分としてはこのバフルの面積くらいで内部設計は基本完成品とキットは同一となっています。
また、スーパーツィータのZ502のタモ版も改定しました。
Z502タモ版の正面(左)と背面(右)
Z502 ウォールナット版(左)と タモ版(右)
Z502タモ版は、ショートホーン形状のエンクロージャーの材質を従来のウォールナットからタモ材に変更し、さらに内蔵のネットワーク部品のコイルとコンデンサをMundorf製からSolen製に変更した廉価版となっています。
これは、関連部材の価格高騰や入手困難な状況への対策を検討した結果でもあるのですが、コスト低減化を図りました。その結果、この改訂によりZ502の高いクオリティを、お求めやすい価格で提供できるようになりました。
なお、私見ですが、Mundorf製とSolen製のネットワークの相違による音の違いは、わずかですがあるように感じます。
Mundorfの方がやや柔らかい、艶を感じさせる音、Solenの方がどちらかというとシャープなくっきりとした音、という印象です。これは、良し悪しではなく好みの領域で、かつ聴く音楽によっても印象は異なってくると思います。
今回、シングルユニットベースのZ702-Bergamo単体と、これにZ502タモ版を組み合わせた場合を試聴してみました。
Z702-Bergamo単体での試聴
今回は、測定に用いた次の3曲を中心に試聴してみました。
1曲目、” ①白鳥を焼く男~古い民謡の旋律によるヴィオラと小管弦楽のための協奏曲” から、その第2楽章。
2曲目、 " ②葬送音楽~弦楽オーケストラと独奏ヴィオラのための "
3曲目、” ③室内音楽第5番 Op.36-4~ヴィオラと大管弦楽のための協奏曲 " の第2楽章
1曲目は、柔らかなビオラで始まります。しばらくして、オケの各パートも加わりますが、全体的に調和の取れた音、という印象を受けます。
2曲目は、オケで始まります。下までよく伸びており、かなりワイドレンジです。それらがきちんと再生されている印象です。
3曲目も、ビオラの音色がいいのはもとより、低域側が印象的で、存在感があり、かなりワイドレンジな印象です。
Z702-Bergamo+Z502タモ版での試聴
Z702-Bergamo に、スーパーツィーターのZ502タモ版を並列接続して試聴しました。Z502には、ネットワークとアッテネータが内蔵されています。今回は、目盛りを-8dBの位置にしました。
”①白鳥を焼く男~古い民謡の旋律によるヴィオラと小管弦楽のための協奏曲” 第2楽章の試聴
1曲目の出だしで、あれ?っと思いました。先程、ビオラから始まる、と記載しましたが、実は、ハープシコードとビオラとのデュエットでした。背景音的といいますか、かなり小さな音なのですが、音の存在感があります。
そして、オケが自然に加わってきます。
ハーモニーに独特さを感じます。これがヒンデミットの理論なのでしょうか。
これらの一音一音の粒立ちが、はっきりと感じられるようです。4分28秒ほどして、低域側の音源の登場です。かなり下まで伸びている印象です。
これは、スーパーウーファーがあったほうがいいかもしれません。
"②葬送音楽~弦楽オーケストラと独奏ヴィオラのための"の試聴
2曲目は、オケで始まるわけでが、先程よりも、空間が広くな多様な印象を受けます。音域も下まで伸びていて、広々とした空間と感じます。
また、ビオラの音色に艶っぽさを感じます。これは、Z502を付加した効果のようです。
2分47秒で再びオケが始まりますが、適度な間があり、逆に瞬発力のようなオケの力を感じます。
” ③室内音楽第5番 Op.36-4~ヴィオラと大管弦楽のための協奏曲" 第2楽章の試聴
クラリネットに存在感があります。高域側の抜けがよく、スッキリとした音色です。一音一音の存在感があり、かつ、つながりも自然です。
全体のワイドレンジ感は、これまでと同様です。曲全体として、音数が、多いわけではないのですが、それぞれの音の繋がりがよく、適度な間もあり、音楽に聴き入ってしまいます。
このアルバム全体に言えますが、スピーカーの再生能力が高いほど、この音楽性を引き出せるのではないかと感じました。
CD情報
アマゾンのリンク先(下記画像をクリック)
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