目次
はじめに
FE168ESの概要
関連のブログ、” FOSTEX FEシリーズ 16cmのバックロードホーン用スピーカーユニットの系譜と進化 ”、でFostexの16cmスピーカーユニットの進化の流れについて検討しました。
そこでの比較表を示します。
今回は、この表にある、2001年8月23日発売のFE168ESについて検討します。
FE168ESは、2001年8月23日に発売されました。最近限定発売されたFE168SS-HP以前としては、最も重く、かつ価格も高い(推定)という位置づけのユニットとなります。
FE168ESの価格と主な仕様
標準価格 : ¥32,000円 ? :推定値
発売年 : 2001年 8月23日
スピーカー形式 : 16cm 口径フルレンジユニット
フレーム形状(穴数): 丸形(8穴)
振動板形状 : HP振動板
バッフル開口寸法 : 155 mm
マグネット重量 : 1,798 g (ランタン・コバルト フェライトマグネット)
総重量 : 4,370 g
FEシリーズの外観のレビュー
フレーム
写真 FE168ESの上面
FE168ESのフレームは、8穴の円形で、アルミダイキャスト製と思われます。
写真 FE168ESの側面
写真 FE168ES(左側)とFE166Super(右側)
振動板とエッジ
写真 FE168ESの振動板とエッジ
FE168ESの振動板は、ESコーンのHP振動板構造となっています。また、エッジは、UDR(Up Down Roll)タンジェンシャルエッジで、次に示すタンジェンシャルダンパーと対の構造となっています。
ダンパーと配線系
写真 FE168ESのダンパー
ダンパーは、タンジェンシャルダンパー構造となっており、先に示したUDRタンジェンシャルダンパーと対の構造となっています。タンジェンシャル構造によって生じる回転方法の動きを互いに追従させるためでもあるようです。
写真 FE168ESのハトメ部分
スピーカー端子からの信号線は、振動板上のハトメでボイスコイルからの信号線と接合されています。
この点では、1997年7月発売の6N-FE168SSがダブルコーンではありますが、ハトメレス構造でしたので、HP振動板のほうが、同技術の採用が遅れています。
16cmのフルレンジ用のHP振動板構造では、最新のFE168SS-HPで、初めてハトメレスが採用されています。
磁気回路
写真 FE168ESのマグネット側
FE168ESのマグネット関連のサイズは、6N-FE168SSとほぼ同じです。ただし、FE168ESは、マグネット材料にランタンコバルトフェライトマグネットを採用しており、一段と磁力が強くなっています。
写真 FE168ES(左側)と FE166Super(右側)
写真 FE168SS-HP(左側)と FE168ES(右側)
FE168ESの諸特性の検討
規格値の比較
FE168ESは、6N-FE168SSと同様マグネット2段重ねとなっており、さらに材質がランタン・コバルトフェライトを用いています。
重量比でみると、6N-FE168SSより、マグネット重量は、やや軽くなっていますが、全体重量はむしろ増しています。
FE168ESは、HP振動板が採用されており、それともに、UDRタンジェンシャルエッジ/ダンパーが採用されており、おそらくこれらダンパー等の違いにより一般にHP振動板タイプは、ダブルコーンタイプよりも総重量が重い傾向にあります。
ただ、FE168ESと6N-FE168SSとでは、(総重量ーマグネット重量)の値が、約1kgあり、その差はかなり大きくなっています。フレームがまなり強化されているためではないかと思われます。
TS-パラメータの比較
FE168ESのVasやQtsの値は、かなり小さく、6N-FE168SS同様、超オーバーダンピングな特性を示しています。一方、コンプライアンスの値が大きくなっており、応答特性が向上していると思われます。
周波数特性と高調波特性の測定結果
本ユニットの周波数特性と高調波特性の測定
次に、FE168ESの周波数特性と2次高調波と3次高調波の測定データを下図に示します。
図. FE168ESの周波数特性と高調波特性(2次高調波;オレンジ、3次高調波;緑)
高調波の値は、実際の値+10dBで表示
いずれも、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値です。
高調波歪は、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。
なお、縦軸は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、歪特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。
例えば、500Hzでの3次高調波の値(緑)が、グラフから、68dBと読み取れますが、10dB嵩上げして表示していますので、実際には58dBとなります。
この500Hzでは、ユニットの周波数特性の値が、106dBですので、緑の3次高調波の58dBの値と、48dBの差があります。dBは対数表記ですので、20dB少ないと10%、40dBの差は1%、60dBの差は0.1%となります。48dBだと0.4%です。
従って、本ユニットの500Hzにおける3次高調波の値は、周波数特性の値の0.4%となります。これは、500Hzにおける3次高調波歪率が0.4%ということです。ちなみに、500Hzの2次高調波の値は、換算後54dBですので、差は52dBで、2次高調波歪率は約0.25%となります。
この高調波歪率の値は、ダブルコーン型のそれまでのユニットに比べて、半分以下の値となっており、高調波歪率に関してはかなり改善されていると言えそうです。
周波数特性については、これまでのユニット(FE166Super、6N-FE168SS)と同様、800Hz付近にディップがあり、2kHzまで、約11dB上昇していきます。ここまでの形状は基本似ています。
2kHz以上では、5kHzぐらいまで10dB程度下がります。
特徴的なのは、5kHzから上の形状です。最大アンダーピークからピークまで30dBの差で、凹凸に振れます。まるで、発振しているようです。
ここは、基音の音程とは無関係で、倍音成分の領域ですので、この形状が実際の音にどのように効いてくるのかは、ちょっと予想がつきません。ある特定の音は、倍音がきちんと再生され、きれいな波形になるでしょうし、ディップの領域に倍音成分があるときには、やや鈍った波形になると思われます。
いずれにせよスーパーツィーターを付加したときに、相性の善し悪しがかなり出てきそうです。
ユニットの周波数特性測定結果の比較と検討
FE168ES(実線)と、バックロードホーン用として、その前の1997年7月に発売された6N-FE168SS(点線)との周波数特性の値を下図に示します。
これは、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れて10cmの距離から測定した値の比較になります。
測定装置は、エタニ電機のASA-10mkⅡを用いました。
図 . FE168ES(実線)と6N-FE168SS(点線)の周波数特性(10cm)
黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示)
FE168ESと6N-FE168SSを比べると、FE168ESは500Hzから2kHzぐらいの中高域の周波数特性の平坦性が改善されているようです。また、全高調波を比べると、FE168ESは、圧倒的に改善されているのがわかります。
例えば、500Hzでの値は、FE168ESの方が(6N-FE168SS) - (FE168ES)=22dB 低くなっており、全高調波歪が約12.6分の1に改善されています。
また、同様にして、FE168ES(実線)と、最近、限定発売されたFE168SS-HP(点線)との周波数特性の値を下図に示します。
図 . FE168ES(実線)とFE168SS-HP(点線)の周波数特性(10cm)
黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示)
この2つは、2kHz以下のプロファイルが、かなりよく似ています。この音域は、ト音記号上の音符範囲を含む領域ですので、似たような音色として捉えられる可能性が高いと思われます。
特に1kHz以下は、FE168SS-HPの方の平坦性の方がわずかに改善されており暴れの少ない素直な形状となっています。ちなみに、1kHz 付近は音程でいうと、C6(1.05kHz)となります。
ただし、1kHzから2kHzの形状は、異なっています。新しいFE168SS-HPの方が、1.5-2kHzにピークを持つ形状となっており、これは、本ユニットの音の癖として現れると思われます。
FE168ESの方が、この付近の形状はやや緩やかではあるのですが、傾向は一緒です。
5kHz以上では、やや異なっていますが、この2つは似たような傾向といえなくもありません。HP振動板の特徴と考えられます。
この大きな周波数特性の音圧の暴れをみると、いっそのこと、5kHz以上ではハイカットして、スーパーツイータと組み合わせた方が、周波数特性の平坦性の観点からはいいのではないかとすら思えます。
いずれにせよ、周波数特性がすべてではありませんが、2kHz付近のピークは、もっと平坦に出来ないものかと思います。
DSPを用いたパラメトリック・イコライザーなどで調整すると、どのように聴こえるか、興味深いところです。
FE168ESの音質評価
FE168ESのエンクロージャー評価
長岡式 D37(バックロードホーン)の試聴
ダブルコーンのFE系の音とは、異なる傾向の音です。同じHP振動板を用いた最新のFE168SS-HPと音の傾向が似ています。中域がしっかりとした感じで鳴ります。ギターの音が柔らかく響きます。
また、低域もしっかりと再生され、他のダブルコーンタイプのユニットをD37に組み合わせた場合よりも、さらに下に伸びているようで50Hzぐらいまではでています。
ただ40Hz付近となると、再生しきれないようです。
全体として、本ユニットよりも発売の古い2つのユニットとは異なり、低域のしっかりした音を再生してくれます。
少し気になったのは、中域のボーカルの音域に、少しバックロードホーンの影響があるように聴こえました。例えば、Jennifer Warnesの声が、ややこもった感じに聴こえます。 Jacinthaも同様の傾向です。
長岡式 D37(バックロードホーン)+スーパーツイーター:T96A-REの試聴
写真 D37+FE168ESとスーパーツイータ(T96A-RE)
全体に、周波数に対する音圧のバランスがよくなったように感じます。音の強弱の暴れが少ないといいますか、よりスムーズな印象です。音のキレの良さも向上しているようです。
また、単体での印象と同様、ボーカル再生などに直結する中域の音の質が、他のダブルコーンタイプよりも密度が高く、充実して聴こえます。
ユニットの古さを感じさせないしっかりとした音に、一段とキレが増した印象を受けます。
このスーパーツイータとの組み合わせは、音圧の平坦性向上にかなり効果的なようです。
試聴に用いた曲のリスト
今回、音質評価用に試聴した曲をご参考までに下記に示します。ここでは、低域の比較に適していると思われる曲を選定してみました。
なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
1. Hotel California :リンク先 https://otokoubouz.info/hotel-california/
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。
2. Rock You Gently :リンク先 https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/
Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。
3. California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dog :リンク先 https://otokoubouz.info/california_roll-ft-steavie_wonder/
ヒップポップに分類されるスヌープ・ドッグが、スティービー・ワンダーとコラボした曲です。
エレクトリック・ギターで制御されていると思われるコントラバスのような音質のゆっくりとしたリズムセクションが超低域の音を非常に高い音圧で、リズミカルに奏でます。
特に、43Hz、54Hz、65Hz付近の3音などがリズムセクションとして最初から最後まで交互に流れます。
従って、これらの音が再生できるかどうかで、超低域の再生能力を計る事ができます。
4. In The Wee Small Hours (Of the Morning) :リンク先 https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/
Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象といえます。
本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。特に、40Hz以上の領域の再生能力が必須です。
まとめ
Fostexのオーバーダンピングユニットの一つであるFE168ESの諸特性の検討と試聴を行いました。
FE168ESは、2001年8月に限定販売された、取り付け穴数が8穴で、丸形のアルミダイキャスト製フレームにUDRタンジェンシャルエッジ/ダンパーとESコーン製HP振動板の16cmユニットです。
Qts=0.21と超オーバーダンピングで、” バックロードホーンに特化した " とされています。ランタン・コバルトフェライト製のΦ144.6mmのマグネットが2段重ねなのが大きな特徴です。
周波数特性は、ユニークな形状となっており、人間に聴こえやすい領域である音域で、800Hz付近がディップで、2kHz付近がピークのサイン波のような形状となっており、ややハイ上がりな印象を与えると思われます。
また、人の聴力で感度のいい3-4kHzでは、一旦音圧が下がりますので、この点では割合マイルドな印象を与えるのかもしれません。
なお、5kHz以上でのピーク/ディップの暴れが急峻でとても大きく、これが聴感上どのような影響をあたえるのかは、ちょっとわかりません。ノウハウなのでしょうか。
試聴用として長岡式のバックロードホーンエンクロージャーのD37を用いました。
ダブルコーンのFE系の音とは、異なる傾向の音で、中域がしっかりとした感じで鳴ります。最新のFE168SS-HPに近い印象です。また、低域もきちんと再生され、他のダブルコーンタイプのユニットをD37に組み合わせた場合よりも、さらに下に伸びているようで50Hzぐらいまではでています。ただ40Hzは難しいようです。
スーパーツイータ(T96A-RE)と組み合わせると音にキレが増し、また周波数特性の平坦性が整ったような印象を受けます。この付加は、かなり効果的です。
全体として、本ユニットよりも発売の古い2つのユニットとは異なり、D37との組み合わせでは、ユニットの古さを感じさせないしっかりとした音を再生してくれました。