はじめに

 

FE166Superの概要

関連のブログ、” FOSTEX FEシリーズ 16cmのバックロードホーン用スピーカーユニットの系譜と進化 ”、でFostexの16cmスピーカーユニットの進化の流れについて検討しました。

そこで示した比較表が下記となります。

今回は、この表で、発売が1990年7月(2021年から31年前)と一番古いFE166Superについて検討します。

 

 FE166Superの価格と主な仕様

標準価格      : ¥14,500円 ? :推定値

発売年       : 1990年 7月

 

スピーカー形式   : 16cm 口径フルレンジユニット

フレーム形状(穴数): 四角(4穴)

振動板形状     : ダブルコーン型

バッフル開口寸法  : 151 mm

マグネット重量   :  1,067 g  

総重量       :  3,000 g

FE166Superの外観のレビュー

FE166Superの外観について、写真で特徴を示したいと思います。

フレーム


写真    FE166Superの正面

 

まず、フレームですが、上から見ると現行のFE166NVを連想させる四角系の4穴ですが、はるかにがっしりしています。アルミダイキャストフレームと思われます。その後、アルミダイキャスト系は、丸形の8穴が普通ですので、今となっては、これは、FE系としては珍しいフレームといえます。

なお、このフレームは、本ユニットの取扱説明書に記載のあるFE166Σと同じフレームに見えます。

 

 

写真   FE166Superの側面

 

写真   FE166NVの背面

 

FE166Superの側面の写真と、FE166NVの背面の写真を示します。フレームの見掛けの違いがわかるかと思います。
FE166Superのマグネット重量=1067g、同 総重量=3000ですので、マグネット以外が、1933gとなります。
一方、FE166NVのマグネット重量=600g(推定値)、同 総重量=1600gですので、マグネット以外が、1000gとなります。マグネット以外の重さの内訳は、ほとんどフレームと考えられますので、フレームの重さがFE166Superは、FE166NVの約2倍ぐらいあると思われます。

 

写真   FE166NVのフレームの一部

 

振動板及びエッジ


写真   FE166Superの振動板とエッジ

FE166Superの振動板は、FE系で伝統的なダブルコーン型です。またエッジは、フリーエッジのコルゲーションエッジとなっています。それぞれの材料については、添付の取扱説明書には特に記載がありません。

ダンパー等の振動系

写真  FE166Superの端子とダンパー

 

写真   FE166Superのスピーカー端子とハトメ部分

ダンパーはコルゲーション型で、外部接続端子は、ハトメ経由でボイスコイルと接続されています。
ちなみに、FE166NVでは、ハトメレスに進化しています。

磁気回路


写真   FE166Superの背面側

 

ユニットに添付されている取扱説明書によると、” FE166スーパーは、FE166Σの磁気回路をマグネットを大型のΦ145mmに変えて強化し、Mo・Qoも一段とバックロードホーン用に適した値に改良してあります ” とのことです。

 

FE166Superの諸特性の検討

規格値の比較

本ユニットの取扱説明書で強調しているのは、バックロードホーン用のユニットであることと、大型マグネットです。

現行のラインユニットであるFE166NVと比べてみるとマグネット重量と総重量が、各々約2倍弱となっています。

ユニット名       FE166NV  FE166Super
マグネット重量(g)    600              1,067
総重量    (g)    1,600              3,000

 

TS-パラメータの比較

先程と同様に、FE166NVとFE166Superのいくつかの値を比較してみます。

興味深いことに、この2つのユニットの値は、比較的似たような数値となっています。

なお、Mms=6.3と低く(軽い)、その後のオーバーダンピングユニットや量産化ユニットと比べても最も小さな値となっています。

 

周波数特性と高調波特性の測定結果

本ユニットの高調波(歪率)の測定

次に、FE166Superの周波数特性と2次高調波と3次高調波の測定データを下図に示します。

 図. FE166Superの周波数特性と高調波特性(2次高調波;オレンジ、3次高調波;緑)
   高調波の値は、実際の値+10dBで表示

 いずれも、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値です。

 高調波歪は、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。
 なお、縦軸は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、歪特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。

 例えば、1kHzでの2次高調波(オレンジ)と3次高調波の値(緑)が、グラフから、それぞれ71dBと77dBと読み取れますが、10dB嵩上げして表示していますので、実際には各々61dB、67dBとなります。
1kHzでの周波数特性の値が、108dBなので、それぞれの差は47dBと41dBとなりますので、換算すると、
2次高調波歪率=0.4%、3次高調波歪率=0.9% ということになります。

 

 本ユニットの周波数特性をみると、全体的に、高音になるほど音圧が高くなる傾向にあります。
ただし、200-600Hzの領域はほぼ平坦で、600Hzから下がり800Hzを少し超えたあたりをディップとして再び上がり始めます。1.1kHz付近で600Hz近傍と同じ位の値になりますが、そこで平坦にならず、2kHzぐらいまで上がり続け、一旦落ち着きます。

この800Hzのディップから2kHzぐらいまで上がり続ける形状は、FEシリーズで今回表にしたユニットにほぼ共通します。

また、2kHzから上の領域はユニットにより、異なるのですが、本FE166Superでは、少し上下しますが、漸増の傾向です。
人が最も認知しやすい2-4KHzの領域、これは赤ちゃんの鳴き声や女性の悲鳴に相当する領域ですが、ここの音圧が、ト音記号の音域に比べ比較的高い傾向にあるため、人間の注意が向く高域が強調されて聴こえると思われます。

ただ、比較的フラットなため、案外自然な感じで、高域が強調された音、という感じでしょうか。

4kHz以上の高域は、音程としては認知出来ない領域です。
この領域の再生能力が高いのは基音の再生能力というより倍音成分の再生能力が高いという役割と考えられます。特に10kHz以上は、基音としては聴こえにくくなっていく領域です。

本ユニットは、波形の再現能力という観点で、立ち上がり、立ち下がりの速度が速い、すなわちキレのある音を再生できる能力が高いと言えます。

バックロードホーンなどのエンクロージャーにより、低域を上げた場合、高域は、音圧が高いのですが、相対的に中域の音圧が下がり、中域不足のような傾向になることもやや危惧されます。

 

ユニットの周波数特性測定結果の比較と検討

FE166Super(実線)と現在のライン化製品であるFE166NV(点線)との周波数特性の値を下図に示します。

これは、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れて10cmの距離から測定した値の比較になります。

測定装置は、エタニ電機のASA-10mkⅡを用いました。

図 .  FE166Super(実線)とFE166NV(点線)の周波数特性(10cm)
    黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示) 

FE166Superの周波数特性は、FE166NVに比べ、100Hz以下の値は低く1kHz以上では、高くなっています。
全体に音圧が、ハイ上がりの傾向をはっきりと示しています。

さらに、200Hzから1kHzの人の音声の主音の領域の範囲で、FE166NVがほぼフラットな傾向を示しているのに対し、FE166Superは、周波数特性の項でしめしたように、人の音声の領域でとても目立つ特性を持っています。

全高調波特性を比較すると、FE166NVは、全領域に渡って低い値にほぼなっており、周波数特性の値と比べると、全高調波歪率が改善されている傾向にあるようです。

FE166Superの音質評価

FE166Superのエンクロージャーによる評価

 

長岡式 D37(バックロードホーン)の試聴

今回試聴してユニットは、1990年7月の発売と同時に購入したものであり、既に31年経ているということを最初に記載しておく必要があるように思います。

つまり、有機系の材料が経年劣化している可能性があるということです。

本ユニットと6N-FE168SSを試聴したときに、共にあまりに低域が出ないので、そう感じた次第です。

逆の言い方をすれば、1990年のFE166Superと1997年の6N-FE168SS以外の4ユニットでは、低域もそれぞれ量感をもって再生されました。

本ユニットを試聴した感想としては、予想通り、ハイ上がりな再生音ですが、案外素直な感じです。低域はあまりでていないのですが、なぜかバランスはまあまあに聴こえます。

 

長岡式 D37(バックロードホーン)+スーパーツイーター(T96A-RE)の試聴

拍手の音の粒立ちが良くなります。ギターの鳴りが自然です。
低域は圧倒的に不足しているのですが、もともと低域成分の少ない曲、たとえば、キロロなどの再生で、全体としては、ラジカセのようなまとまりの良さを感じます。

ただ、少し、時々ホーン鳴きのような響きを感じました。

いずれにせよ、他のユニットと同列に論じるのはちょっと無理がある印象でした。

 

試聴に用いた曲のリスト

 今回、音質評価用に試聴した曲をご参考までに下記に示します。ここでは、低域の比較に適していると思われる曲を選定してみました。

なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
 

1. Hotel California :リンク先  https://otokoubouz.info/hotel-california/ ‎
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。

 

2. Rock You Gently :リンク先      https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/ 
 Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。

 

3. California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dog  :リンク先 https://otokoubouz.info/california_roll-ft-steavie_wonder/
 ヒップポップに分類されるスヌープ・ドッグが、スティービー・ワンダーとコラボした曲です。
エレクトリック・ギターで制御されていると思われるコントラバスのような音質のゆっくりとしたリズムセクションが超低域の音を非常に高い音圧で、リズミカルに奏でます。
特に、43Hz、54Hz、65Hz付近の3音などがリズムセクションとして最初から最後まで交互に流れます。
従って、これらの音が再生できるかどうかで、超低域の再生能力を計る事ができます。

 

4. In The Wee Small Hours (Of the Morning)  :リンク先 https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/
   Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象といえます。

 本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。特に、40Hz以上の領域の再生能力が必須です。

まとめ

Fostexのオーバーダンピングユニットの一つであるFE166Superの諸特性の検討と試聴を行いました。
FE166Superは、1990年に限定販売された、取り付け穴数が4穴で、四角のアルミダイキャスト製フレームのダブルコーンタイプの16cmのユニットです。

Qts=0.3とオーバーダンピングで、バックロードホーン用とされています。その後限定ユニットでは、よく用いられるようになっていくΦ145mmのマグネットが採用されています。

周波数特性は、若干の凹凸はありますが、全体にハイ上がりとなっています。

試聴用として長岡式のD37を用いました。なお、取扱説明書には本ユニット用として、同じく長岡式のD33が推奨されています。

その結果、今回は残念ながらバックロードホーンらしい低域を聴くことが出来ませんでした。一方、中高域は案外バランスがいい印象もありました。

2021年の現在から31年前となりますので、経年劣化の影響もあるのではないかとも思われます。

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