目次
はじめに
FE166ES-Rの概要
関連のブログ、” FOSTEX FEシリーズ 16cmのバックロードホーン用スピーカーユニットの系譜と進化 ”、でFostexの16cmスピーカーユニットの進化の流れについて検討しました。
そこでの比較表を示します。
今回は、この表で、2004年12月発売のFE166ES-Rについて検討します。
なお、先のブログでは、FE168ESがそれまでの技術を集積した、ある意味頂点とも思われるユニットだったのに対し、本ユニットは、見掛けの仕様上はコストダウンを徹底的に図ったバックロードホーン用の低価格版ユニットに見えると書きました。
実際に、D37に装着して音をきいてみると、とても相性がいいのに驚かされました。
FE系の特徴である明るく、歯切れのいい、低音のスピード感のある音を気持ちよく再生してくれます。
FE166ES-Rは、長岡式バックロードホーン用スピーカーユニットとして、とてもコストパファーマンスのいいユニットと言えると思います。
FE166ES-Rの価格と主な仕様
標準価格 : ¥12,600円
発売年 : 2004年 12月下旬
スピーカー形式 : 16cm 口径フルレンジユニット
フレーム形状(穴数): 四角(4穴)
振動板形状 : ダブルコーン型
バッフル開口寸法 : 150 mm
マグネット重量 : 899 g (ランタン・コバルト フェライトマグネット)
総重量 : 2,800 g
FEシリーズの外観のレビュー
フレーム
写真 FE166ES-Rの上面
写真 FE166ES-Rの側面
FE166ES-Rのフレームは、FE系では標準的な少し丸みを帯びた4穴の四角形の形状となっており、プレスと思われます。
次の写真のようにアルミダイキャストのFE166Superと比べると、同じ4穴ですが、少し華奢に見えます。
写真 FE166ES-R(左側)と FE166Super(右側)
底面側から比較してみると、FE166ES-Rは、フレームが薄いのがよく分かります。
こうしてみるとFE166ES-Rは、FE166Superに比べかなり軽いのではないかと思われるのですが、実際には、前者が2.8kg、後者が3.0kgと7%程度しか違いません。
マグネット重量は、FE166ES-Rが899gで、FE166Superが1,067gですから、マグネット以外の重量はほぼ同等となっています。
なぜ、FE166ES-Rが、こんなに重いのか、とても興味深く感じます。
写真 FE166ES-R(左側)と FE166Super(右側)
振動板とエッジ
写真 FE166ES-Rの振動板とエッジ
FE166ES-Rの振動板は、FE系で伝統的なダブルコーン型です。この年代になってくると取扱説明書に要素技術の名称が色々と記載されるようになっています。
振動板の材質は、ESコーンでラジアル抄紙技術を用いています。同技術により、ESコーンの密度分布をコントロールし放射状に繊維を揃えることで、超高音域の伸びやかさと繊細さを実現とのことです。
エッジがこれまで採用されていたコルゲーションエッジから、ロールエッジのUエッジに変更されています。エッジから、下のフレームが透けて見えています。
エッジについては、2011年12月発売のFE163En-Sでは、再びコルゲーションエッジが採用されていますが、2011年7月のFE166Enそして、2019年11月のFE166NVでは、Uエッジが採用されており、量産タイプでは、こちらの形状が主流となっています。
写真 FE166ES-Rの振動板とエッジの裏面
ダンパー等と配線系
ダンパーは、コルゲーション型で、スピーカー信号は振動板上のハトメで、ボイスコイルに接続されています。
磁気回路
写真 FE166ES-Rの背面側
マグネットには、FE168ESに初めて採用されたランタンコバルトフェライトのマグネットが採用されています。高残留磁束密度の同材料を用いることによって、軽量化にも寄与している可能性もあります。
同じマグネット材料を2段重ねしているFE168ESと比べるとマグネット重量は約半分となっています。
また、同じくダブルコーンのオーバーダンピングユニットであるFE166SuperやFE163En-Sと比べると約200g、比率にすると2割ほどマグネットが軽くなっています。
写真 FE166ES-R(左側)とFE166Super(右側)
FE166ES-Rの諸特性の検討
規格値の比較
今回、一覧表に並べたオーバーダンピングタイプのユニット群の中で、FE166ES-Rのマグネット重量と総重量は、かなり控えめな方ですが、それでも、現在量産されているユニットの中で、フレームと振動板が同じ形式であるFE166NVと比べると大きな値となっており、マグネットで、約50%増し。また、総重量で、75%増となっています。
TS-パラメータの比較
TSパラメータの値は、FE166ES-Rの技術を継承していると思われるFE166NVと近い値となっています。ただ、より強力なマグネット等のためか、Qtsが、0.21とFE168ESと同等の値で、超オーバーダンピングになっています。
周波数特性と高調波特性の測定結果
本ユニットの周波数特性と高調波特性の測定
次に、FE166ES-Rの周波数特性と2次高調波と3次高調波の測定データを下図に示します。
図. FE166ES-Rの周波数特性と高調波特性(2次高調波;オレンジ、3次高調波;緑)
高調波の値は、実際の値+10dBで表示
いずれも、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値です。
高調波歪は、オレンジが2次高調波。緑が3次高調波です。
なお、縦軸は、ユニットの周波数特性と同一画面に収めるために、歪特性の値は、2次、3次共に、+10dB嵩上げして表示しています。
ユニットの周波数特性測定結果の比較と検討
FE166ES-R(実線)と、その一つ前の2001年に発売されたFE168ES(点線)との周波数特性の値を下図に示します。
これは、弊社簡易無響室でユニットをJIS箱に入れて10cmの距離から測定した値の比較になります。
測定装置は、エタニ電機のASA-10mkⅡを用いました。
図 . FE166ES-R(実線)とFE168ES(点線)の周波数特性(10cm)
黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示)
両者の周波数特性の形状は、結構異なっています。ダブルコーンとHP振動板の基本的な違いを反映しているようです。
同様にして、FE166ES-Rの延長上にあると思われるダブルコーンで2011年7月発売のFE166Enと比較してみます。
図 . FE166ES-R(実線)とFE166En(点線)の周波数特性(10cm)
黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示)
こちらの2つの周波数特性の形状は、かなり近くなっています。また、赤線で示したTHDの値を比較するとEnは、中低域の高調波成分の低減化が図られているのがわかります。
同じような傾向は、現在の量産ユニットであるFE166NVでも伺えます。なお、中低域のTHDの値は一段と低くなっています。
図 . FE166ES-R(実線)とFE166NV(点線)の周波数特性(10cm)
黒線:周波数特性、 赤線:THD(実際の値+10dBにて表示)
これらの周波数特性から、FE168ES-Rは、現行のFE166シリーズのラインの製品と近い音がするのではないかと予想されます。
逆に言えば、FE168ES-Rは、現行のFE166シリーズの元祖ともいえる存在に思われます。
FE168ES-Rの音質評価
長岡式 D37(バックロードホーン)の試聴
一言でいえば、FE系の明るく歯切れのいい音がします。低域の量感も適度にあります。60Hzぐらいまでは再生できているのではないかと感じました。
今回比較した、ダブルコーン型の4機種で最もバランスがよく聴こえました。特に、他の機種では、Jennifer Warnes のボーカルの声にバックロードホーン由来と思われる音の被りがやや感じられるのですが、本ユニットでは、それをほとんど感じませんでした。ボーカルがさわやかにクリアに聞こえます。
この音圧のバランスの良さは、本ユニットが、D37を基準として開発されたのではないかとまで感じさせます。FE系の明るい傾向の音色を自然な感じで奏でます。また、比較的たっぷりとした低域も高域とバランス良く再生します。この音色は、HP振動板の系列の音色とは、特に中域が異なります。
FEシリーズのファンであれば、この組み合わせの音が好きという方は多いのではないかと感じました。
長岡式 D37(バックロードホーン)+スーパーツイーター(T96A-RE)の試聴
単体でもバランス良く聴こえましたが、スーパーツイータをつけると、高域が一層伸びやかに聴こえます。
音が粒立ちよく聴こえてきます。倍音成分が豊かになったためでしょうか。
今回ピンポイントでT96A-REと組み合わせて試聴しましたが。この組み合わせはとてもいいのではないかと感じました。
試聴に用いた曲のリスト
今回、音質評価用に試聴した曲を、いくつかご参考までに下記に示します。ここでは、低域の比較に適していると思われる曲を選定してみました。
なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
1. Hotel California :リンク先 https://otokoubouz.info/hotel-california/
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。
2. Rock You Gently :リンク先 https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/
Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。
3. California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dog :リンク先 https://otokoubouz.info/california_roll-ft-steavie_wonder/
ヒップポップに分類されるスヌープ・ドッグが、スティービー・ワンダーとコラボした曲です。
エレクトリック・ギターで制御されていると思われるコントラバスのような音質のゆっくりとしたリズムセクションが超低域の音を非常に高い音圧で、リズミカルに奏でます。
特に、43Hz、54Hz、65Hz付近の3音などがリズムセクションとして最初から最後まで交互に流れます。
従って、これらの音が再生できるかどうかで、超低域の再生能力を計る事ができます。
4. In The Wee Small Hours (Of the Morning) :リンク先 https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/
Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象といえます。
本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。特に、40Hz以上の領域の再生能力が必須です。
まとめ
Fostexのオーバーダンピングユニットの一つであるFE166ES-Rの諸特性の検討と試聴を行いました。
FE166ES-Rは、2004年12月に限定販売された、取り付け穴数が4穴で、四角のプレス製フレームにロールエッジのUエッジとESコーン製ダブルコーン振動板の16cmユニットです。
Qts=0.21と超オーバーダンピングで、” バックロードホーンに最適 " とされています。ランタン・コバルトフェライト製のΦ145mmのマグネットが1段用いられています。
一つ前の限定発売ユニットであるFE168ESと型番は似ていますが、フレーム、振動板、エッジ、ダンパーなどすべて異なり、マグネットも1段に減っています。超オーバーダンピングな特性をもたせた上で、コストダウンを色々とトライしたユニットという印象です。
キャッチフレーズは、” 手軽に楽しむ16cmフルレンジが登場 ” です。
周波数特性は、それまでの限定ユニットと比較すれば、比較的平坦といえ、2011年7月発売の量産ユニットだったFE166Enと似たプロファイルとなっています。
その流れは、どうやら現行の量産ユニットであるFE166NVに続いているようです。
試聴用として長岡式のバックロードホーンエンクロージャーであるD37を用いました。
FE系の明るく歯切れのいい音がします。低域の量感も適度にあります。
60Hzぐらいまでは再生できているようで、比較的たっぷりとした低域を高域とバランス良く再生します。この音色は、HP振動板の系列の音色とは、特に中域が異なる印象です。
今回比較した、ダブルコーン型の4機種では最もバランスがよく、特に、他の機種では、女性ボーカルの声にバックロードホーン由来と思われる音の被りがやや感じられるのですが、本ユニットでは、それをほとんど感じませんでした。ボーカルがさわやかにクリアに聞こえます。
D37との相性がとてもいいようです。
スーパーツイータ(T96A-RE)と組み合わせると高域が一層伸びやかになり、かつ音の粒立ちがよく聴こえてきます。
D37との今回の一連の試聴の中で、組み合わせとして最もバランス良く感じました。
価格を考えると、とてもコストパフォーマンスのいい組み合わせだと思います。