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bad guy / Billie Eilish
規格品番:[ B0029727-02 ]
本アルバムの概要とBillie Eilishについて
今回ご紹介するのは、Billie Eilish のデビューアルバムであるWhen We All Fall Asleep, Where Do We Go?のシングルカットの一つである" bad guy " です。
Billie Eilish は、2001年12月18日、米国カリフォルニア州、ロサンゼルス生まれです。
本アルバムは、2019年3月29日のリリースです。Billboard 200とUK Albums Chartで1位になりました。CDの規格品番は、[ B0029727-02 ]です。
その後、2020年1月26日の第62回グラミー賞で、新人賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞という主要4部門を含む合計5部門を受賞しました。主要部門の独占は、グラミー賞史上39年ぶり2度目で、女性として初、かつ史上最年少の記録となっています。
Billie Eilishのビデオは、最近、Apple Musicのカバービデオとなっています。2017年の9月からApple Musicの「Up Next」と呼ばれる新人アーティストの支援プログラムに選ばれており、そのためApple Musicにアクセスすると、彼女のアルバムやビデオなどが良く出てくると思われますが、それにしても、Appleのイチオシという感じです。
また、現在、Adobeの教育機関向けCreative Cloudのイメージキャラとしても採用されてもいます。一昔前のAppleとAdobeとの冷えた関係を考えると、とても興味深い状況ではあります。
ちなみに、本アルバムのCDは、通常のCDのステレオフォーマットですが、Apple Musicでは、空間オーディオであるDolby Atmosで聴くことが出来ます。マルチチャンネルオーディオとして聴くことができるわけです。
これは、ある意味Apple Musicのオリジナル版と言えます。
なお、Dolby Atmosで聴くためには、最新のAppleTV 4K(第2世代)もしくは、AmazonのFireTV、GoogleのChromeCastの最新機種経由で接続することが必要です。
マルチチャンネルオーディオは、Apple Musicの上記機器等の経由でのDolby Atmos対応に加え、Amazon Musicも従来のAmazon Echoに加え、ヘッドホンでの対応が始まりました。一気に関連リソースの低価格化が進みつつあるように感じます。
ということではありますが、今回は、通常のCDのステレオ版についてのご紹介となります。
本アルバムも含め、音楽制作にあたっては、作曲家・音楽プロデューサーでもある実兄フィニアス・オコネルと共同作業を行っています。ライヴでも一緒に出演しており、兄のことを(音楽制作の)パートナーと呼んでいるとのことです。
本曲の音の特徴は、かなり低域の音域のビート音と、彼女のややアンニュイな雰囲気のハスキーな歌声、それとハモる彼女のハイトーンです。アンニュイで、案外ゆったりとした歌声が気だるく流れ、途中、さっとそれが映画のダークなワンシーンのように切り替わります。ダークな感じを醸し出す50Hz以下の低域が再生できないと、この曲の魅力は薄れるかもしれません。
また、ハンドクラップのようなクラップ音が、効果的に入っています。
ビートを効かせながらも比較的ゆったりとしたテンポとクラップとのおかげでしょうか、ライブビデオでは、観客が手拍子をしながら一緒に歌っている姿が印象的です。なにやら連帯感のような雰囲気を醸し出しています。
本曲のピーク値の周波数特性の特徴
各曲のピーク値の周波数特性を測定し、その特徴を検討したいと思います。なお、以下記載のある曲と各ピークの確認等については、ヘッドフォンにより行っています。このモニター用のヘッドフォンには、主にSennheizerのHD-660SとソニーのMDR-M1STを用いました。
全曲のピーク値の連続データの周波数特性について
” bad guy " の全曲のピーク値の連続データの周波数特性を、下図に示します。
図 1. ” bad guy " のピーク値の周波数特性(Wave Spectraによる測定値;連続値)
この図では、縦軸横軸のオリジナルの数値が小さく殆ど見えないので、補完しています。縦軸が、音圧で、0dB~-80dB、また、横軸が、20Hz~20kHzとなります。
縦、横共に、本設定範囲で、目一杯のスパンで入っています。横方向はともかくとして、縦方向が基本的にかなり高い音圧で録音されているのがわかります。ピーク付近では0dBギリギリです。
ちなみに、この録音は、兄妹が自分達で行ったそうです。
音圧の分布は、低域側にかなり偏っており、全体の音圧のピークは約50Hz付近となっています。また、30Hzでも、300-800Hzの平均的な値と同じ程度を保っていますので、通常よりもかなり高い音圧といえます。
このプロファイルを見ても、本来の雰囲気を再生するには、せめて40Hz付近までの再生能力がほしいところです。
ただ、40Hz以下の領域となると、通常のスピーカーでは、再生が困難な領域でもあります。ヘッドホンの方が案外わかりやすいかもしれませんが、スピーカーで聞いた場合とは、体感といいますか、印象がかなり異なると思われます。
次に、これは偶然かもしれませんが、目につくのは、200Hz弱、180Hz付近にあるディップです。この付近のディップは、ボーカルがややスッキリと聴こえる効果があります。
いずれにせよ、約150Hz以下の領域からなる高い音圧のビート音と、150-900kHz強のボーカル領域とがこの曲では音圧上、主となっているのがはっきりとわかります。
逆に言えば、ビート音に関わるのは、約150Hz以下ですから、通常のスピーカーでも、ドンドンと鳴っている感じはすると予想されます。
また、比較的広いボーカル関連と考えられる領域は、Billie Eilishの広い声域に対応していると思われます。
イントロの最初の3秒について
次に、本曲の構成を4つに分けて各部分のピーク値の周波数特性を示します。
まず、出だしの3秒間の特性を示します。
ここで示すのは、RMEのDIGI Checkで測定した離散データとなります。
左側のグラフの縦軸が音圧(dB)で最大5dB刻みで、0dBから-50dB、となっています。
また、横軸が周波数(対数表記)で、周波数の低い方から、25,31.5,40,50,63,80,100.125,180、250(Hz)・・・となっており、これらの値が10倍、100倍、1000倍と対数的に続き、最高が40kHzとなっています。
右側の4つの縦の枠は、それぞれL(左)、R(右)チャンネルのRMS(実効値)とピーク値に対応しています。
曲が流れているときは、リアルタイムで表示されるのですが、ここでHoldされているのは、ピーク値の最高の値です。下図では、真ん中のLRのピーク値が赤くなっており、レッドゾーンに達したことを示しています。つまり、いきなり高い音圧の低音部から曲が始まっているわけです。
図 bad guy の最初の3秒間のピーク値の周波数特性
最初から、低域のビート音がリズムに乗って攻めてきているのがわかります。
50,63,80,100,125Hzがほぼ同レベルで最高音圧を形成しています。また、真ん中あたりの黄色の所が、500Hzですので、このビート音自体がかなり広い音域の合成音となっているようです。
さらに、左から、25,31.5,40,50,ですので、40Hzの音圧もかなり高いのがわかります。
開始3秒後から27秒後まで
次に、開始3秒後から27秒後までです。ここでは、先程のビート音に加えて、Billie Eilishのボーカルが加わります。メインのボーカル音に、彼女自身のハイトーンなどがダビングされています。
図 bad guy の3秒後から27秒後のピーク値の周波数特性
興味深いのは、この部分は、先程のビートに彼女のボーカル(メイン、ハイトーン)が加わっただけであることです。
5kHz の目出つピークに加え、12.5kHzまで、-30dB以上の音圧が記録されています。倍音成分の豊かな声質だとしても、88鍵ピアノの最高音のC8が、4.186kHzですから、5kHzはそれよりも高い周波数ということになります。ここの音圧がこんなに高いのは、なんらかのエフェクター処理によるものと思われますが、その効果については、よくわかりません。
ただ、3-4kHz の音は、人の赤ちゃんや女性の悲鳴などに相当し、人の聴力の感度が最も高い領域です。
この付近の音圧が高いことで、心理的に印象に残りやすい音の構成となっているのかもしれません。
開始後、27秒から59秒まで
開始後、27秒から59秒では、先の低音のビート音と、Billie Eilishのボーカルに加え、クラップ音などが入り、また、ボーカルの多重録音トラックが増します。その結果、ピーク値の周波数特性は、次のようになっています。
図 bad guy の27秒後から59秒後のピーク値の周波数特性
2kHzにやや大きなピークがありますが、これは、ボーカルによるものです。ともかく、31.5Hzから10kHzまで、-20dB 以上の高い音圧で録音されています。ここでは、59秒までのピーク値を示しましたが、ここから、2分30秒までは、ほぼこのような周波数特性となっています。
音源の構成は、シンセベースのような、ここまでずっと流れている低音のビート音と、ボーカルを様々な音程と異なるエフェクト処理を施して音源にした多重録音と、クラップ音、それと後半にキーボードが加わります。
2分30秒ぐらいまでは、このパターンですが、その後、この雰囲気がガラッと変わります。
2分30秒後から最後まで
2分30秒後から、2分54秒後までが、一つのモジュールを形成しています。これが最後の3分14秒後まで繰り返されます。
図 bad guy の2分30秒後から2分54秒後のピーク値の周波数特性
これまでの低音のビート音から切り替わり、一瞬の静寂の後、スイープする低音が、スリラー的な画像をイメージさせるダークな雰囲気で流れます。
この上に示した周波数特性のサンプリング結果では、50Hzがピーク(離散値なので真のピーク値とは異なる可能性がある)となっており、40Hzでも高い音圧があります。実際に聞いてみると、ズーンと床に響くような音です。
本曲全体で50Hz付近が最大の音圧となっているのは、この部分での寄与によるものです。
全体で見ると、黄色の1kHzと1.5kHz付近と160Hz付近の2つをアンダーピークとして、50Hz、250Hz、5kHz付近の3つのピークがあるようです。
この印象的な構成のフレーズが2度流れ、曲が終わります。
Z800-FW168HRでの試聴
Z800は、音工房Zの最高峰のスピーカーです。
2ウェイのバスレフタイプで、形式的には、Z-1と同じです。
ツィーター、ウーファー共に、フォステクスの最高のものを使っています。それぞれ、市販の300万クラスのスピーカーに普通に採用されているユニットです。
Z800は、30Hz付近まで、ある程度の音圧で再生が可能です。
本曲の基本となるビート音でも、時折、極低域のズーンという響きを感じる事ができます。
ビート音のクリアで弾む音には、余裕も感じます。ともかく一弾と低く深みのある低域です。
後半のスイープする低音は、ズーンというという響きを感じます。
一方、低域が基本過剰気味にはいっている本曲では、高域はややおとなしめにも聞こえます。
クラップ音もヘッドホンできいているよりも、やや地味めに聞こえました。
試聴していて全体の印象としては、まだまだ、ボリュームを上げていって大丈夫といった、なんといいますか、音に余裕を感じました。
Z701-Modena (V5)での試聴
音工房Zのオリジナル8cm のフルレンジユニットのZ-modena mk2を用いたスピーカーです。箱は、BHBS(バックロードホーンバスレフ)という形式です。
これにより、8センチ1発とは思えないローエンド再生が可能です。
Z701-Modenaは、通常の曲ですと、そのサイズからは予想できない豊かな低域で鳴ってくれるのですが、本曲の場合は、特に低域でその再生限界を超えているためか、低域が伸びている感じがしませんでした。
むしろ低域の解像度が低く、比較的広い音域のビート音がモゴモゴした感じに聞こえてしまいます。
また、コーンがゆらゆらと揺れ、空振りしている様子が見て取れます。
中高域のクラップ音もキレが弱い感じで、全体にモヤモヤとした印象です。
残念ながら予想以上に本曲の再生はつらいようです。
Z601-OMOF101+スーパートゥイーターZ501での試聴
音工房Zより期間限定販売のZ601-OMOF101(下の写真)に、スーパーツイータのZ501(上の写真)を組み合わせて試聴してみました。
Z601-OMOF101に採用のスピーカーユニットは、音楽之友社のONTOMO MOOKに付属しているONKYOの限定販売のユニットであるOM-OF101です。
なお、基本の型番が、Z601と共通になっていますが、Amazonで販売されているZ601-Modenaとは、エンクロージャーが異なります。
基本的な構造は、ダブルバスレフで同じですが、内容積が異なり、Z601-Modenaが、約7.5Lであるのに対して、Z601-OMOF101は約13Lと2倍弱の体積となっています。ちなみに、内部のダクト用部材などの体積を引いた実効体積の値は、それぞれの値よりもより少なくなっています。
実はプレテストとしてZ601-Modena用のエンクロージャーも試してみたのですが、そこそこの音がでました。
それでも、サイズを大きくしたのは、試聴の際に比較した16Lバスレフでは、より豊かな低音がでておりポテンシャルを感じたからです。
16Lよりも小さな箱で、同等(以上)の質の低域が得られないかと考え、設計、試作と試聴とを繰り返した成果が本エンクロージャーとなります。
このような経緯もあり、本曲のような40Hz程度の低域の再生能力が必須な曲には合うのではないかと考え、試聴を行ってみました。
なお、Z501との接続の際のコンデンサは、1.2μFを用いました。
試聴の結果、圧倒的な低域の迫力を堪能することができました。
ただ、Z800に比べると、一番下の極低域、おそらく30Hz付近の再生音では敵わない印象で、それが再生音全体の余裕の差にもつながる印象も受けました。
クラップ音もクリアで、Billie Eilishのボーカルがクールに流れます。クラップ音のクリアさでは、Z800よりもいいようにも感じます。このあたりは好みの領域かもしれません。
押しの強い歯切れのいいイントロからのビート音に加え、2分30秒から始まるスイープ音では、極低域が、ズーンと響きます。ただし、Z800に比べれば、極低域の余裕は下がります。
それにしても、2つで、¥6,930、のスピーカーユニットを用いているとは少し信じられないクオリティです。
この曲に関して言えば、Z800と比較試聴にある程度耐えうる品質にすら感じました。
ホテルカリフォルニアなどの40Hz以下を含む様々な音源で、40Hz程度がでていることは確認済みでしたが、ここまで低域の音圧の高い曲を再生できるかは、未知でした。
スーパーツイータをつけた場合とつけない場合では、クラップ音のクリアさ加減や全体的に音の分離感が増す印象など、つけた場合のほうが、かなりいいと感じました。
コンデンサは、1.5μFでは高域のサ行などにやや癖が出る場合もあり、1.2μFでちょうどいいように思われます。ただし、これは個人の聴力等との関係もありますので、1μF程度と比較して、ご自分の好みで決定するのがいいと思います。
まとめ
Billie Eilish のデビューアルバムであるWhen We All Fall Asleep, Where Do We Go?のから" bad guy " をご紹介しました。
本アルバムは、第62回グラミー賞で、新人賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞という主要4部門を含む合計5部門を受賞しています。
ある意味典型的なビート音から始まり、単純な曲かと思いきや、なかなかひねりも効いており、一度聴くと、曲のフレーズが耳から離れがたい、印象的な曲です。
本曲は、Apple Musicなど、ネットのサブスクでも聴くことが出来ます。それもハイレゾのドルビーアトモスです。通常のCDよりも音源として優れているといっていいかと思います。
今回試聴したスピーカーシステムでは、Z800が、極低域の再生能力が秀でており、やはり一番でした。
余裕のある再生音で、ゆったりと楽しむことが出来ます。Z800の場合、ともすれば、モニター的な音質がややクールな印象を与える傾向もあるのですが、本曲との相性はとてもいいと感じました。
また、Z601-OMOF101も、低域を十分にドライブする力を発揮し、とてもよいクオリティーでした。特に、スーパーツイータを付加したほうが、クリアさが増し、いい印象でした。
OM-OF101は、ONTOMO MOOKに付属する限定販売のオンキョー製のスピーカーユニットですが、コストパフォーマンスがとても素晴らしいと感じました。
本曲は、極低域を含み、ある意味テスト音源としても使えると思われます。
特に後半の2分30秒以降が印象的です。
スピーカーの低域性能を判別するいい音源と言えます。
CD情報
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