#オーディオ愛好家のためのマルチチャンネルオーディオ ブログ記事一覧
★★★マルチチャンネルオーディオ ブログ記事一覧★★★
上記ページに、目次として本シリーズの構成を示しました。また、それぞれの記事へリンクを貼っていますので、各回を直接クリックしてご覧頂くことも可能です。
目次
テレビの進化とAV
テレビの役割の変遷
前回述べた、高音質リソースの価格破壊、という観点で、最終的には、価格的に最も魅力的なりソースの一つとも考えられるテレビの状況について、最初に状況を俯瞰しておきたいと思います。
参照:オーディオ愛好家のためのマルチチャンネルオーディオとは? その1
オリンピックを控え、2018年12月1日から、BS/CS(110)で、4K・8kの放送が始まりました。
コロナの影響で、オリンピック自体は、今、開催も不透明となっていますが、一方、ステイホームがキーワードとなり、改めて、テレビをみる時間が、増えているようにも思われます。
このようなニーズも背景に、ハード分野では、LCDの急激な低価格化が進み、40-60インチクラスの大型画面TVが、一般家庭で、もはや普通になっています。
さらに高級機種として、原理的により高精細化が可能で、自己発光タイプのEL方式のTVも当たり前になってきました。
ソフト分野に目を向けると、少し前までは、Blu-rayやDVDなどのメディア系が中心だった動画のリソースも、インターネットやCATVによる配信が普及し、これも普通になっています。
また、4k・8kの放送も、これから普及していくと思われます。音声のフォーマットは、現在、MPEG4-AAC(Advanced Audio Coding)ですが、将来、MPEG4-ALS(Audio Lossless Coding)も予定されており一層の高音質化が期待できます。
いずれも、再生時のPCM音源としては、24bit/48kHzに相当します。
さらに次の規格であるMPEG-H 3D Audioの制定作業も始まっているとのことです。
テレビ放送をリソースの一つと捉えれば、価格の観点で言えば、リソースの低価格化が一気に進みつつあると言えます。同じテレビであれば、録画/再生も可能で、デジタルですので、原理的に画質の劣化がありません。
このため、テレビは、既にテレビ番組表にとらわれることなく、家で、映画やTVドラマ、コンサートライブ、アニメ、そしてゲームなどを、好きな時に楽しむための手段となり、役割が広がっています。
音質向上の簡便な手段として、テレビに、サウンドバーを追加することにより、音の質もテレビ本体よりは格段に向上し、さらに疑似サラウンド効果も得ることができるようになってきています。
これは、あくまでテレビ機能の延長上にありますから、設置も操作も簡単で、一般家庭へさらに浸透していくと思われます。
サウンドバーの追加により、既に地デジやBSでも放送が始まっている5.1ch放送のリソースをベースとした疑似5.1chの再生が可能となります。
サウンドバーの場合、スピーカーは一列に並んでいますので、位相調整などの様々な工夫による擬似サラウンド方式となります。
また、今後、Dolby Atmosのデコーダ内蔵のテレビもでてくれば、NetFlixなどのこれらの規格に対応したリソースも、それなりの音質で聴くことが出来るようになるでしょう。それに対応して、既にeARCなどの規格ができており、それが実装されたテレビも販売されています。
ホームシアターへの進化
Blu-rayやDVDなどの光ディスクメディアや、4k・8k放送、ネット配信などが新たにもたらしたのは、高画質だけではありません。
高音質化が一挙に進みました。
例えば、Blu-ray の場合、リニアPCMや、ドルビー系、DTS系の基本形が3種類、さらにオプション仕様が4種類で計7種類のフォーマットに対応していますが、最も音質がいいと言われるリニアPCM方式だと、非圧縮で、24bit、48~192kHzのサンプリング周波数で最大7.1chまで対応します。
表 Blu-ray Disc™で用いられる主な音声形式の一覧表
この流れは、最近、急速に普及しているネット配信も同様です。
例えば、2019年9月から開始したAmazon Music HDは、最高で24bit/192kHzのロスレス配信に対応しており、ドルビーアトモス規格の配信も行われています。
ちなみに、ドルビーアトモスは、24bit/48kHzの規格となっています。
ただ、これらのリソースにも言えるのは、音に関しての規格がそれぞれ複数存在しており、さらに発展途上だということです。
したがって、それぞれの接続方法などを具体的に検討するためには、一度、方式や用語の整理をしておく必要があろうかと思います。
上に示した表の内容については、用語の説明とともに、今後解説していきたいと思います。
ここでは、Blu-rayディスクの場合、再生装置に標準で対応している規格は、上の3つだけで、下の4つについては、オプション扱いで、各社の各機器によって、入っていたりいなかったりしますので、購入時に確認が必要な項目である、ということを述べておきたいと思います。
また、上記7つについては、もともとのデータを圧縮しているか、可逆性があるか、などの違いはそれぞれありますが、基となるデータには、5.1chや7.1ch分が録音されている、ということです。これが大事です。
そうではなく、2chのデータから、各社の技術によって、疑似5.1chなどのマルチチェンネル化をする規格もあります。例えば、Dolbyのプロロジック(Pro Logic)やDTSのNeo:6などが、そのような方式で、その他にも数種類の規格があります。また、アンプメーカーなどが独自に開発している場合もあります。
本ブログでは、前者のオリジナルの録音に各チャンネルの音がもともと録音されているタイプのリソースについて、今後、検討を推めていきたいと思います。
AVアンプの役割
AVアンプとは
この様々な方式が、いわば乱立している状況に対応する代表的な総合機器が、いわゆる ”AVアンプ” です。
上記のすべてのリソースは、デジタル信号の形で配信されます。
AVアンプは、各機器からのデジタル信号を処理した後、アナログ信号に変換し、スピーカーから音を出す機能を持っています。
図1 AVアンプにおける音声信号の流れ(ブロック図)
上の図にAVアンプの音声信号の流れを簡単なブロック図で示しました。
以下、この図に示したブロックに概ね沿って、音声信号の流れを説明していきたいと思います。
なお、AVアンプには、音声信号のほかに、動画の信号の処理系も入っていますが、ここでは、割愛します。
エンコードとデコード(①デコード処理~②サウンド処理)
音声情報のデジタル信号は、事前に各方式のルールに基づき圧縮され、また制御のためのデータなどが付加されたりしています。これをエンコードといいます。圧縮することで、ファイルのサイズを小さくして、できるだけ効率よく送信もしくは保存するためです。
それを受信もしくは再生する側では、このエンコードされた信号を、まず、各々の方式にデコードする、デコード処理機能が必要です。図1の①に示す部分です。
デコードとは、それぞれの方式のルールに基づき変換されたデータを一定の規則に従って元のデータに変換したり、解凍・復号したりすることです。信号を伸張すると表現されたりもします。
AVアンプには、このデコードする機能が入っています。デコードする機能をデコーダーといいます。
また、このデコードされた信号は、この後、AVアンプのイコライザ機能(各帯域毎のトーンコントロール)やエフェクター機能(リバーブ、エコー等)などによって、デジタル信号の状態で、変調することも可能です。アナログ信号での変調とは異なり、信号の劣化は原理的には、ほぼありません。
この処理を行うのが、図1の②サウンド処理です。
なお、信号の劣化という点では、かなり高度なレベルでの比較となると、デジタル信号の基本となるクロックの精度やノイズの排除の課題が再現性の観点で問題になったりもします。それらへの対応処置の目安としてジッターやフィルターといった用語の記載がカタログなどにはひょいと乗っていたりもします。
この信号を変調する機能で、各スピーカーの特性を揃えたりできますが、場合によっては、映像の迫力を出したりするために、中低域や高域を過剰にブーストする、などということも可能です。
これが、ある程度自動的に行われるため、オーディオ再生の観点からはAVアンプ毎にいくつかある事前設定で、できるだけフラットな特性が得られるようなモードを選択したほうがいいかもしれません。各社により異なりますが、DirectやPureAudioなどという表現がその設定になります
この設定は、ピュアオーディオ的な視点からは、要注意です。
ただし、通常のステレオアンプにおいても、完璧に無歪でフラットな特性ということはありませんから、各メーカーや各機種毎の味というような違いは、あるのが普通ではあります。
デジタルからアナログへ、そしてスピーカー(③D/Aコンバータ)
次に、デコードされたデジタル信号のデータを、アナログ信号に変換するD/Aコンバータ機能が必要です。これが、各チャンネル毎に必要となります。
また、その性能は、少なくとも、前記の仕様を考えると、劣化させたくないのであれば、24bit/192kHzが、できれば欲しいところです。
ただし、一般的には、人の能力などを鑑みると、24bit/96kHzあれば充分とも言われています。
デジタル信号から、アナログ信号に変換された後、さらに、アナログ回路でのサウンド処理が行われる場合もあります。(④)いわゆるトーンコントロールなどがこれに当たります。これらの処理をデジタル部でおこなうのか、アナログ部で行うのかは、最後のパワーアンプの形式や、コスト対応の考え方などにも関係します。
なお、ここでは、プリアンプ機能もアナログでのサウンド処理に含めています。
ちなみに、パワーアンプの形式として関係するのは、D級パワーアンプの一部の場合です。D級アンプは、一般には、まず、入力アナログ信号をパルス幅変調(PWM)波形に変換して、最終的に増幅に至るのですが、D級アンプの種類によっては、デジタル信号から、直接増幅に至る技術も開発されており、この場合などは、アナログ部分でのサウンドプロセシングはおこなわれません。
また、AB級や、A級のパワーアンプの場合も、思想としてアナログ段階では音をいじらない、という考え方もあるかもしれません。ただし、この場合も、インピーダンス整合等の機能ももつプリアンプ部は必須となります。また、それに伴う各チャンネルのボリュームの一括処理も大事な機能となります。
いずれにせよ、最後に、それぞれのチャンネルの信号を基に、スピーカーを駆動するためのパワーアンプが、これもチャンネル毎に必要となります。(⑤)
ただし、このパワーアンプの数は、普通、小数点以下で表示されるサブウーファーの分は、アンプ内蔵タイプが主流なため省かれます。したがって、内臓されるパワーアンプは、5.1で、5ch分、7.2.4(横方向.サブウーファー.上方向)などでは、7+4=11ch分、などとなります。
後者の場合 " .2. " は、サブウーファー用のプリアンプ出力が2つあることを示します。
なお、アナログ部でのサウンドプロセシングの下に、B-1.プリアウト端子、という記載がありますが、これについては、後でご説明します。
入出力端子と信号
AVアンプにおける信号の大まかな流れは、以上ですが、それ以前に大事なことがあります。
入力と出力の端子です。
音源となる機器と、どの端子を使って接続するか?
また、出力を、AVアンプのスピーカー端子からとるか、それとも、プリアンプ出力から外部のパワーアンプに接続して、スピーカーにつなげるか?
など、実際に接続して、より良い音で聴こうとすることを考えると、結構悩ましい課題となります。
また、ここでは扱っていない画像信号なども含めると、接続数は、とても多くなります。
AVアンプからの出力先として、テレビも当然考えなければいけません。
テレビは、AVアンプの設定の際の各設定値のモニターともなりますので、いわば必須です。
これだけ多くなってくると、信号の入出力の端子はできるだけ少なくしたい、と普通考えます。
そのための規格として、HDMIなどがあります。
最近、8kに対応したHDMI2.1に準拠した制御用のLSIがリリースされ、やっと8k信号もAVアンプに接続出来るようになりました。
このケーブル一本で、その機器(例えばテレビ)の画像情報と、全てのチャンネル用の音声信号を送受出来るようになります。ただし、HDMI2.1の場合は、それ専用のケーブルでないと、信号の授受ができません。つまりテレビが映りません。
アナログ信号の場合は、例えば、ケーブルの質をどうするか、など、機器構成も関係し、また、コストにも関わるので、これまた悩ましいところです。
実は、デジタル信号を扱うHDMIにも規格がいくつか有り、それが合わないと、先程述べたようにテレビが映らないなどというエラーが発生するのです。この詳細については、この後に予定している実践編で具体的に説明したいと思います。
くどいですが、デジタル用のケーブルには、信号伝送のためのルールがあり、これを満たさないと、つまり規格が合わないと使えません。銀線や金メッキなどの高級素材を使った,アナログ的には素材のスペックの高い高級ケーブルだとしても、規格が合わないと使えない、ということは覚えておいて下さい。
このように、AVアンプでは、入出力を考えても、多様な機器からの入力用の端子や、スピーカー用の出力端子、また、場合によっては、オプションとしてch拡張用のパワーアンプのためのプリアンプ出力やサブウーファー用のプリアンプ出力など、多くの種類のデジタル系、アナログ系の入出力端子が必要となり、検討事項が多くなります。
つまり、AVアンプというのは、入出力だけを見ても、機能は豊富で、ある意味コストパフォーマンスがすごくいいとも言えるのですが、その分、使いこなすのは、結構大変な機器と言えるかと思います。特に、機能を使いこなすためのユーザーインターフェース(UI)の出来が悪いと、事前の設定は、とても大変な作業になります。
逆な見方をすれば、オーディオに特化するのであれば、組み込まれた機能を全部使うのではなく、使い方を割り切ることにより、割と簡単に設定できる可能性もあります。
後で予定している実践編では、このAVアンプの割り切った使い方と注意するポイントについて、具体的に示していきたいと思います。