目次
Debussy・Ravel String Quartets / Carmina Qualtet
規格品番:[ COCO-73173]
本アルバムの概要 について
今回ご紹介するのは、音工房Zの試聴会に参加のお客様にご持参頂いたアルバムになります。ただし、今回入手したのは復刻版ですので、ご持参頂いたのとは正確には異なるかもしれません。
カルミナ四重奏団(Carmina Qualtet)による、ドビュッシーとラベルの弦楽四重奏曲です。規格品番は[ COCO-73173]で、コロムビアミュージックエンターテイメントからリリースされています。
録音は、1992年2月にドイツのヴァン・ゲースト・スタジオで行われました。
本規格品番のアルバムは、コロムビア創立100周年記念のDENON/Classiss Best 100の1枚です。Blu-spec CDとのことで、これは、ソニーミュージックエンターテイメントがBlu-rayDiscの素材と製造技術を応用して開発した高品質CD、と説明があります。
価格は、税込み¥1,200ですが、Amazonでは、¥1,052(2023/3月)で販売されていました。
カルミナ四重奏団は、スイスを拠点とする弦楽四重奏団で、1984年にスイスで結成されました。この録音当時のメンバーは、結成時と同じ次の4人です。
スザンヌ・フランク(第2ヴァイオリン);Susanne Frank (violin)
ウェンディ・チャンプニー(ヴィオラ);Wendy Champney (viola)
シュテファン・ゲルナー(チェロ);Stephan Goerner (cello)
I-活気をもって、きわめて決然と 06:46
II-十分に生き生きと、リズミックに 03:54
III-アンダンティーノ、穏やかで表情豊かに 07:19
IV-ごく中庸に 07:24
II-十分に生き生きと、非常にリズミックに 06:21
III-非常にゆるやかに 08:40
IV-生き生きと激しく 05:18
各曲のピーク値の周波数特性の特徴
各曲の周波数特性をFFTアプリで測定し、その特徴を検討したいと思います。なお、以下記載のある曲と各ピークの確認等については、モニター用のヘッドフォンのSennheizerのHD-660SとSONYのMDR-M1STを用いました。
通常は、測定の際に、縦軸を0dB~-80dBとしますが、本アルバムでは、そのスパンでは収まりきれなかったので、0dB~-120dBとしました。
横軸の周波数は、20Hz~20kHzとなります。
このようにして、測定したのですが、非常に興味深い結果となりました。
例えば、ドビュッシーの曲の場合、I、II、III、IVで、それぞれの楽章のイメージは結構異なるのですが、周波数特性をとると、かなり似ているのです。
以下に示します。
図 1. " 弦楽四重奏曲 ト短調 作品10 -Ⅰ " の周波数特性(Wave Spectra使用)
図 2. " 弦楽四重奏曲 ト短調 作品10 -II " の周波数特性(Wave Spectra使用)
図 3. " 弦楽四重奏曲 ト短調 作品10 -III " の周波数特性(Wave Spectra使用)
図 4. " 弦楽四重奏曲 ト短調 作品10 -IV " の周波数特性(Wave Spectra使用)
低域側からみていくと、全て、31Hz付近に、なだらかで大きなピークがまずあります。
また、50-60Hz付近に深い谷があります。この付近は-80dB以下となっていますので、通常の測定範囲では、ひろいきれません。
さらに、90Hz付近にやや大きなピークがあります。そして、曲全体のピークは500Hz付近にあります。600Hz付近でやや落ち込み、一旦平らになって、4kHz付近からなだらかに下がり始めます。10kHz付近から、-80dB以下となりますが、そのまま録音限界の20kHzまで、なだらかに音圧が下がり続けます。20kHz 付近で-100dBぐらいですが、しっかりと限界までデータとして出てきます。倍音成分が豊かに入っています。
もちろん、全く同じではないのですが、お互いによく似た傾向を示しています。
ちなみに、この傾向は、2曲目のラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調でも同様です。
第2楽章の測定結果を示します。
図 5. " ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調 -II " の周波数特性(Wave Spectra使用)
特に、31Hz付近のなだらかで大きなピークが目立ちます。弦楽四重奏で、この周波数でこれだけ相対的に大きなピークを見るのは初めてです。
すべてに共通する、ということで、原因はたとえば、スタジオの定在波、または、あえてそのようにイコライザを設定している、ということなどが考えられます。
録音スタジオの定在波を放置するというのも考えにくいので、あえて設定している可能性が高いと考えられますが、実際にスピーカーで聴いてどのように聴こえるか確認したいと思います。
なお、参考までに他のグループのデータを比較してみます。
次に示すのは、ベルチャ弦楽四重奏団(Bercea Qualtet)に、Tabea Zimmermann(viola)、Jean-Guihen Queyras(cello)の2人が加わった弦楽六重奏団 による ブラームス:弦楽六重奏曲 No1, op.18の第1楽章です。
比較するために、縦軸を0dB~-120dBとしています。
図6. ブラームス 弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調 Op. 18 -I の周波数特性
この録音では、約50Hz以下の低い周波数に、いくつかピークがあります。例えば、白いカーソルの場所で、約27Hzです。その下にもピークがあります。ちなみに、チェロの第4弦の開放弦の周波数は、約65Hzです。それ以下の周波数、ということになります。
物理的には、理由が説明できないようですが、演奏家によっては、実際に開放弦の音程以下をだせるようです。例えば、バイオリニストで、作曲家の木村まりは、サブハーモニクス奏法とよんで、演奏しています。その奏法を用いたThe World below G and Beyond (G線下の世界を超えて)というアルバムも発売しています。
従って、このデータのように、65Hz以下の周波数で、音程に対応すると思われる複数のピークがあるというのは、ありうるようです。
Z800-FW168HR(S)(+Z502)での試聴
試聴に用いたスピーカー
Z800-FW168HRについて
Z800-FW168HRは、2011年の販売開始以来合計で1500セットを超える販売実績のあるマルチウエイの最上位機種になります。キット版と完成品版(S)があります。
2021年11月より、Z800-FW168HRはキットV2.7、完成品V3.1に改定しました。また、バスレフダクトとして テーパー付きのものを採用しています。
Z800-FW168HRキット版
Z800-FW168HR(S) 完成品版
完成品版は点音源を追求したリニアフェイズバフルで、ウォールナットの集成材を削り出しで製作しています。完成品版のみオプションで最高級ムンドルフネットワークを選択できます。
今回の試聴は、この完成品版(ムンドルフネットワーク)で行いました。
Z502について
また、スーパーツィータのZ502のタモ版も改定しています。
Z502タモ版の正面(左)と背面(右)
Z502 ウォールナット版(左)と タモ版(右)
Z502タモ版は、ショートホーン形状のエンクロージャーの材質を従来のウォールナットからタモ材に変更し、さらに内蔵のネットワーク部品のコイルとコンデンサをMundorf製からSolen製に変更した廉価版となっています。
これは、関連部材の価格高騰や入手困難な状況への対策を検討した結果でもあるのですが、コスト低減化を図りました。その結果、この改訂によりZ502の高いクオリティを、お求めやすい価格で提供できるようになりました。
なお、私見ですが、Mundorf製とSolen製のネットワークの相違による音の違いは、わずかですがあるように感じます。
Mundorfの方がやや柔らかい、艶を感じさせる音、Solenの方がどちらかというとシャープなくっきりとした音、という印象です。これは、良し悪しではなく好みの領域で、かつ聴く音楽によっても印象は異なってくると思います。
今回、Z800-FW168HR(S)に色調の合うZ502ウォールナット版を組み合わせて試聴してみました。
試聴結果
Z800-FW168HR(S)単体での試聴
試聴の音源としては、主に、ドビュッシーの弦楽四重奏曲 ト短調 作品10の第1楽章と第2楽章、また、ラベルの弦楽四重奏曲 ヘ長調 の第2楽章と第4楽章を用いました。
始めのドビュッシーの第1楽章で、まず、低域側に深い響きを感じました。高域側も伸びやかです。また、第2楽章では、ピチカートが多用され印象的ですが、弾ける感じがとてもくっきりとしており、また、低域に余韻があるといいますか、深いという印象を再び受けました。
音数は少ないのですが、ずっと聴いていたい音に思います。弦楽四重奏ですが、朗々と鳴っているように感じました。
Z800-FW168HR(S)+Z502ウォールナット版での試聴
Z800-FW168HR(S)に、スーパーツィーターのZ502ウォールナット版を並列接続して試聴しました。Z502には、ネットワークとアッテネータが内蔵されています。今回は、目盛りを4(-4dB)の位置にしました。また、T250Dは-3dBにしました。
なお、ご購入頂いたお客様に無償配布している使いこなしレポートでは、Z800-FW168HRとの組合せの場合、Z502を-3~-4dB、また、ツイータのT250Dを-3~-4dBにした組合せを推奨値として記載しています。
ドビュッシーの第1楽章では、高域部が、艶やかで、柔らかく伸びやかな印象です。
ここで、一旦、Z502を外してみました。
すると、高域の伸びやかさが減じて、やや緩めな感じといいますか、キレの甘い感じに聴こえます。
再び、Z502を接続すると、ワイドレンジで、細かなディテールが聴き取れるという印象で、キレの良さが復活します。
第2楽章のピチカートは、粒立ちがよく、立ち上がりの速さがあります。解像度が増しました。低域の伸びもよく、ワイドレンジ化したようです。
ラベルの第2楽章は、ドビュッシーの第2楽章と同様、ピチカートが印象的です。その存在感が、逆に、音がない場合の静けさを印象的にします。
第2楽章と第4楽章では、Z502を外して聴くと、共にややふわっとしたような、キレが甘くなるような印象です。ただ、それが、ゆったり感にも感じとれるようにも思いました。
再び取り付けると、細かなビブラートが聴き取れます。分解能が増します。チェロの低域が弾み、いい雰囲気です。
また、全体を通して31Hz付近のピークで少し危惧されたピーク音的な聴こえ方は、感じませんでした。
かなり低い周波数ですので、当然かも知れません。逆に深い余韻を与えてくれるようです。
なお、最後に、Z502タモ版に変えて、比較試聴してみました。
こちらの方が、ややかっちりとした音の印象です。ウォールナット版の方が、柔らかいような印象を受けました。もっとも、極僅かな違いで、ブラインドテストでわかるかどうかは、あまり自信はありません。
ただ、Z502のある無しは、このアルバムの場合、よくわかります。
全体として、この録音の場合、高域側がよく伸びているのですが、周波数が高くなるにつれ減衰がやや大きいようです。このような形状の場合、特にスーパーツイーターを付加した時の効果が大きく聴こえるのかもしれません。
CD情報
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