目次
はじめに
OM-OF101の概要
OM-OF101は、2021年9月1日発行のONTOMO MOOK Stereo編 これならできる特選スピーカーユニット2021年版オンキョー編、の特別付録として発売されたオンキョー製の10cmのスピーカーユニットです。
なお、実際の販売開始日は、2021年8月19日のようです。
本ユニットの主な仕様を、Fostexの10cmスピーカーユニットと比較した比較表を作成しましたので、下に示します。ここで、赤字で示したのは、添付資料の各値から計算した計算値です。
FostexのFEシリーズで量産ユニットの一つであるFE103NVと比較すると、マグネット重量と総重量がともに重くなっており、実際持ってみると重量感を感じます。それでいて価格は半分以下(OM-OF101は2台の価格)となっています。
なお、Fostexのスピーカーユニットは、2021年9月中旬以降に値上げとなっているようで、9月上旬までと価格が異なっています。ここで示したのは、2021年9月21日現在に同社のホームページに示されている1台あたりの値です。
また、スピーカーボックスの形式を決める際の目安となるTSパラメータであるQtsの値が、FE103NVは、FEシリーズの10cmユニットの中で最も大きく0.46となっていますが、OM-OF101では、その値よりも大きく、0.67となっており、推奨のエンクロージャとしてバスレフ方式が挙げられています。
表-1. OM-OF101とFostexの主な10cmスピーカーユニットとの比較表
振動板が、バイオミメティクス(生物模倣)ということで、トンボの翅からトレースした翅脈パターンに加えて五角形ひねり形状をしており、さらに、ゴム系の渦巻形状エッジやセンターに尖った形状のABS製フェーズプラグなど、要素技術的にも、様々な技術が採用されていて意欲的な印象を受けます。
これらの形状と、磁気回路の低歪化などにより、共振などの不要振動を極力排し、聴感上のS/N比の向上を目指したとのことです。
OM-OF101の主な仕様
標準価格 : ¥6,930円 (2台ペア)
発売情報 : 2021年 9月1日発行 ONTOMO MOOK Stereo編
これならできる特選スピーカーユニット2021年版オンキョー編 特別付録
スピーカー形式 : 10cm 口径フルレンジユニット
フレーム形式(穴数): 鉄板プレス加工(4穴)
振動板等(材質) : バイオミメティクス振動板(長繊維パルプ)、渦巻形状エッジ(ゴム系)、フェーズプラグ(ABS)
バッフル開口寸法 : 95 mm
マグネット重量 : 283 g
総重量 : 765 g
OM-OF101の外観のレビュー
OM-OF101の外観について、写真で特徴を示したいと思います。
フレーム
OM-OF101のフレームは、FostexのFE103NVと同様、鉄板プレスの鉄フレーム系です。
写真 OM-OF101の斜め上方向
OM-OF101と、FE103NVとを並べてみます。OM-OF101の方がマグネットが厚く、全高も高くなっているのがわかります。
なお、エンクロージャーに取り付けの際、ビス穴が、4つで同じですが、OM-OF101の方が、FE103NVよりもわずかに広がった位置にあり、FE103NV用のエンクロージャのビス穴にそのまま取り付けることは困難でした。
写真 OM-OF101とFE103NVの比較
さらに、FE103NV(左)と、 OM-OF101(中央)、FF105WK(右)の3つを並べてみました。全高(奥行き)は、OM-OF101が一番高く、マグネットは、FF105WKが一番大きく見えます。
写真 FE103NV(左)、 OM-OF101(中央)、FF105WK(右)の比較
振動板とエッジ
写真 OM-OF101の振動板とエッジ
OM-OF101の振動板は、バイオミメティクス(生物模倣)ということで、トンボの翅からトレースした翅脈パターンをプレスで成形しています。横断面をみると五角形となっており、それが中心軸方向に回転したひねり形状をしています。上記の上方向からの写真で見ると渦のようにねじれているのがわかるかと思います。
さらに、センターに尖った形状のABS製フェーズプラグが取り付けられています。
写真 OM-OF101のフェーズプラグ形状
本センタープラグは、フレームの水平方向からやや飛び出しており、スピーカーユニットを逆さまに平面に置くと、その先端が平面に当たります。取り付け作業などの際、注意が必要です。
ダンパーと接続系
写真 OM-OF101のダンパー部と接続配線部
ダンパーはコルゲーション形状です。スピーカー端子とボイスコイルは、ハトメレスで接続されています。
磁気回路
磁気回路は、低歪設計ということで、磁気回路のポール頂部に銅製のショートニングを装着し、さらに、マグネット内径にもショートリングを設置しているとのことです。これらは、外観からはわかりません。
mookのp.4にある図8にその詳細が描かれています。
なお、下図のスピーカー端子に色がついてないのでわかりにくいのですが、幅の太い方がプラスで、狭い方がマイナスです。よく見ると端子の横に"+"と"-"が刻印されています。
写真 OM-OF101(左側)とFE103NV(右側)の背側面
OM-OF101の諸特性の検討
規格値の比較
表-1の値に基づき、OM-OF101と、FostexのFEシリーズの量産ユニットであるFE103NVを主なレファレンスとして比較してみます。
まず、出力音圧レベルが、FE103NVの88.5dBに比べ、OM-OF101は86dBと2.5dB低くなっています。
これは、換算すると、同じワット数のアンプからの入力に対し、FE103NVの方が約1.8倍の音量が出ることを示します。
マグネット重量比は、FE103NVの193g(推定値)に比べ、OM-OF101は、283gと約1.5倍重くなっています。
なお、最低共振周波数は、FE103NVの91.8Hzに比べ、92Hzとほぼ同じ値となっています。
TS-パラメータの比較
次に、TSパラメータの値を比較してみます。
まず、Mms(等価質量)ですが、これは、振動板とボイスコイルの重量に、振動板前後の空気の重さも加わった重さです。これが、FE203NVの2.5gに比べ、OM-OF101は、5gと2倍になっています。ちなみに、これは、表-1の中で、最も大きな値です。
次に、Cmsの値ですが、これは、コンプライアンスです。駆動系の動きやすさの指標といえます。
例えば、FE103NVの場合、単位 [ mm/N ] からわかるように、1Nの力を加えた場合に、1.2mm動くわけです。同様にOM-OF101は、約0.6mm動くことを示します。
つまり、FE103NVの方が、同じ力を加えた場合、振動系が約2倍動きやすいことを示します。
ちなみに、FEシリーズの他のユニットでは、Cmsの値は更に大きく、FE108NSでは、1.69、FE108EΣでは、1.59、です。
磁気回路のマグネットもそれぞれ異なるのですが、FE103NVと比較すると、総合的な結果として、約2.5dB出力音圧レベルが低くなっています。
以上から、OM-OF101は、FE103NVに比べると硬く重い駆動系を、より強力な磁気回路で、制動を効かせて動かそうとしている印象です。結果トータルでは、より引き締まった低域の再生に有利、かもしれません。
さらに、エンクロージャー選択の総合的な指標とも言えるQtsの値も異なります。FE103NVは、0.46とFEシリーズでは、比較的高い値ですが、OM-OF101は、0.67とさらに高い値となっています。これらの値からすると、共にバスレフ型のエンクロージャーが適合する範囲にあるように思われます。
オンキョーがOM-OF101用に推奨するエンクロージャーも、バスレフ型となっています。
なお、FEシリーズの他のユニット、例えば最新のFE108NSでは、Qts=0.32となっており、バックロードホーン向けという位置づけとなっています。
これらの値から、OM-OF101は、FEシリーズ全体とは、方向性が異なるスピーカーユニットと言えるかと思います。ただ、FEシリーズの中では、FE103NVは、OM-OF101と特性的には比較的近いユニットといえるかもしれません。
周波数特性と高調波特性の測定結果
本ユニットの周波数特性の測定
次に、OM-OF101の周波数特性を下図に示します。
図. OM-OF101の周波数特性とインピーダンス特性(上:周波数特性,下:インピーダンス特性)
これは、弊社の簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値(実線)です。
周波数特性は、比較的フラットな印象です。また、JIS箱(大型密閉箱)においても、100Hzぐらいまでほぼフラットな特性ですので、10cmのユニットとしては、通常の音楽であれば、低音再生能力的には、すでに高いポテンシャルを持つと言えそうです。
高域は周波数特性的には、高くまで出ていますが、Mmsが比較的重いため、トランジェントの課題が出てきそうな感じもします。速いパッセージへの対応力が不足するかもしれません。
その際は、スーパーツイータの追加が効果的かと思われます。
OM-OF101の音質評価
OM-OF101の音の傾向を調べるために、次の4種類のエンクロージャーにOM-OF101を実装して、実際に音を聴いてみました。
1. バスレフ 1 形式;バスレフ 内容量 約7L
2. バスレフ 2 形式;バスレフ 内容量 約15L
3. Z601 形式;ダブルバスレフ 内容量 約7.5L
4. BHBS-10cm 形式;BHBS 内容量 約11.7L
バスレフ 1 の試聴
このエンクロージャーは、もともとFostex系の10cmユニットの試聴用に試作したものです。同じ10cmなのでそのまま取付可能、と目論んだのですが、OM-OF101の取り付け枠のほうがやや大きく、使えませんでした。
約90度ずらして、取り付け試聴しました。なお、既存のネジ孔は、テープで塞ぎました。
内容量は約7Lと、今回の中では最も小さくなっています。
OM-OF101の試聴は、このエンクロージャーが初めてでしたが、中高域がナチュラルに響く、というのが第一印象でした。素性の良さを感じました。ただ、低域に関しては、物足りない印象でした。たとえば、ホテルカリフォルニアのイントロのバスドラなどは、かなり軽く響きます。本来ドンと鳴るのが、トンという感じです。
バスレフ 2 の試聴
本エンクロージャーは、16cmユニット用の標準バスレフ箱として、かつてAmazonでも販売していました。正面バッフルには、すでに16cm用のユニット用の開口径が空いていましたので、OM-OF101取り付け用にサブバッフルを作成し、装着しました。
中高音の素直な音質に加え、バスドラやベースなどが、迫力を持って響きます。ただ、ややブースト気味な印象も受けました。
今回の試聴では、吸音材を入れていないのも一因かもしれません。
また、ダクト等を本ユニット用には、チューニングをしていませんから、調整次第でかなり良くなるような感触を得ました。
無調整でも、バスレフ1と同じユニットとは思えないほど、豊かな低域が、低い周波数まで響きます。
Z601 の試聴
本エンクロージャーは、Amazonで販売している8cmユニット用であるZ601です。
形式的には、ダブルバスレフの変形タイプと言えるかと思います。
バスレフ2とは逆に、8cm用の開口径では、小さすぎて取り付けできませんでしたが、マグネット部分は、入れることができたので、サブバッフルを作成し、装着しました。
取り付けた様子を下に示します。
写真 Z601にサブバッフルでOM-OF101を取り付け
試聴の結果、少し意外でも有りましたが、全体の音のバランスが良く、今回の中では、一番ナチュラルに聴こえました。さすがに2倍以上の容量のバスレフ2には低域の量感と再生できる最低周波数はかないませんが、その片鱗を聞き取ることができます。
少し、驚きでした。
BHBS-10cm の試聴
本エンクロージャーは、10cmに試作したBHBS形式、約11.7Lの容積(音道込)です。
試聴した結果、容量の割に、予想外に低域が伸びてくれませんでした。低域の低い方がストンとカットされてしまっている印象です。
また、周波数により、ブーストもしくは減衰しているような、他とは異なる音に聴こえました。周波数により位相の問題がでているのかもしれません。
残念ながらこのユニットには、本エンクロージャーは、設計があっていないという印象を受けました。
試聴に用いた曲のリスト
今回、音質評価用に試聴した曲のいくつかをご参考までに下記に示します。ここでは、低域の比較と再生能力の目安をつけるのに適していると思われる曲を選定してみました。
どちらかというと通常の10cmクラスのユニットには、帯域の関係で、ちょっと再生が難しい曲です。
なお、各曲の詳細については、当サイトのブログにてそれぞれ紹介していますので御覧ください。
1. Hotel California :リンク先 https://otokoubouz.info/hotel-california/
オーディオチェック用としても有名なロックバンドイーグルスの名曲です。
アルバム「HELL FREEZES OVER」の6曲目を試聴しました。ライブ盤です。
2. Rock You Gently :リンク先 https://otokoubouz.info/rock-you-gentry/
Jennifer Warnes の1992年のアルバム”The Hunter”の最初の曲です。
本曲では、大陸的なおおらかさを感じさせる、いわば、カントリーのポップスバージョンのような、さらりと流れる彼女のクールなヴォーカルを聞くことができます。
また、実は、50-60Hzが全帯域の中で音圧のピークとなっており、40Hzでもその音圧が1kHzの音圧と変わらないレベルで録音されています。低音域の再生能力が比較ポイントでもあります。
3. In The Wee Small Hours (Of the Morning) :リンク先 https://otokoubouz.info/in_the_wee_small_hourss/
Jacinthaのアルバム Here's To Ben からの一曲。7曲目に入っています。
この曲は、最初にJazzyなヴォーカルのソロで始まります。次にベース、ピアノ、スネアが加わっていき、リリカルなサックスのメロディラインが続きます。
それぞれのパートの効果や定位、音質を比較することができます。
また、全体のエコー、ホールトーンの加減なども、評価対象といえます。
本曲を構成している楽器はシンプルですが、CDの録音領域の端から端まで、広い音域で録音されているのがわかります。特に、40Hz以上の領域の再生能力が必須です。
まとめ
OM-OF101の諸特性の検討と試聴を行いました。
OM-OF101は、2021年9月1日付発行のontomo mook stere編 これならできる 特選スピーカーユニット2021年版オンキョー編の特別付録として発売されたオンキョー製のスピーカーユニットです。
取り付け穴数が4穴で、鉄プレス加工のフレームに渦巻状エッジとトンボの翅からトレースしたバイオミメティクス形状振動板の10cmユニットです。
Qts=0.67で、推奨エンクロージャーとしてバスレフタイプが紹介されています。フェライト製の283gのマグネットが用いられており、全体重量は765gです。持ってみると重い感じがします。
五角形ひねり形状のバイオミメティクス(生物模倣)振動板や、ゴム系の渦巻形状エッジやセンターに尖った形状のABS製フェーズプラグなど、要素技術的にも、様々な技術が採用されていて意欲的な印象を受けます。
これらの形状と、磁気回路の低歪化、ハトメレス技術などにより、共振などの不要振動を極力排し、聴感上のS/N比の向上を目指したとのことです。
実際に本ユニットをエンクロージャーに実装して音を聞いてみると、素直な音調で、ボリュームを上げていくと、低域の迫力も出てきます。
バスレフ系の比較的大きなサイズのエンクロージャーでうまくチューニングすれば、価格を超えた、迫力のあるバランスのいい音が聴けそうな印象を持ちました。