目次
つぐない / テレサ・テン
規格品番:[ SSMS-060 ]
本アルバムの概要 について
今回ご紹介するのは、テレサ・テンの " つぐない " です。
ただし、ステレオ・サウンド誌が、新企画としてリリースしたSACD/CDの最新のハイブリッド盤です。規格品番は、[SSMS-060 ]です。
本作は、1984年のトーラス・レコードのオリジナル・マスターテープから、武沢 茂エンジニアにより最新マスタリングされ、2022年8月19日に発売されました。表面が緑色にコーティングされ180gの重量版です。
このマスタリングは、オリジナルのアナログLPと同じく、日本コロンビアの南麻布スタジオで行われました。
なお、本ハイブリッド盤のCD層とSACD層とのマスターは異なっているそうです。
SACD用は、アナログ・マスターテープからアナログ領域でマスタリングを施したものをダイレクトにDSD化した2.8MHz/1bit音源で、CD用は、同じくアナログ領域からPCM化した96kHz/24bit音源をCD用にマスタリングした音源、とのことです。
なお、後述のピーク値の周波数特性の測定では、SACDの解析が原理的にできないため、CD層のみのデータとなっています。
テレサ・テンは、1953年1月29日に台湾の生まれ。1995年5月8日にタイのチェンマイで亡くなりました。42歳でした。”テレサ(Teresa)”は、カソリック教徒としての洗礼名が由来のようです。
台湾、香港・マカオなどの中華文化圏全域、日本などの東アジア文化圏などで、広く人気を博し、作品の累計売上は、1億枚を超えると言われています。
日本では、演歌歌手としてデビューしましたが、1980年代後半以降は、J-POP系の曲が多いようです。また、台湾や香港などで出されたアルバムでは、台湾民謡はもとより、英語や日本語のポップスなども多数含まれており、幅広いジャンルの歌手と言えます。
なお、今回は、同じくステレオ・サウンドから出ている " Teresa Teng " [SSMS-024]に収録されている同じ曲同士で、録音の特性比較もしてみたいと思います。こちらは、アナログ盤のマスターテープの音源をフラットトランスファーしてSACD化したバージョンで、2019年にリリースされています。
エンジニアは、同じく武沢 茂 氏です。
各曲のピーク値の周波数特性の特徴
各曲のピーク値の周波数特性を測定し、その特徴を検討したいと思います。なお、以下記載のある曲と各ピークの確認等については、モニター用のヘッドフォンのSennheizerのHD-660SとSONYのMDR-M1STを用いました。
" つぐない"のピーク値の連続データの周波数特性の比較
図 1. " つぐない " のピーク値の周波数特性(Wave Spectra使用)
この図では、縦軸横軸を補完しています。縦軸が音圧で、0dB~-80dB、また、横軸が周波数で、20Hz~20kHzとなります。
データの形状からの第一印象は、比較的最新の録音のパターンに近い、という感じがしました。低域を主に担うベースの音がはっきりとしており、比較的低域が豊かな印象です。
30Hzぐらいまで、約-40dBの音圧があります。全体の最大ピークが-20dB程度ですので、高い音圧といえます。
また、11kHz付近に小山があります。これは、全体を通してでているようなので、全体にかけたエコー等のエフェクタによるものと推察されます。このピークはこの後に御紹介するトーラス録音版の”空港”でも共通であり、ここの音作りの特徴なのかもしれません。
" 空港 " のピーク値の連続データの周波数特性について
次に、リミックス版である本アルバム収録の曲と、オリジナル版に近い録音の同じ曲を比較してみたいと思います。曲は、”空港”です。
ポリドール版
まず、オリジナル版に近い録音として、ステレオサウンドオリジナルセレクションVol.1の " テレサ・テン " [SSMS-024] の1曲目、ポリドール録音の" 1.空港 "、それと6曲目のトーラス録音の" 6.空港 "のそれぞれのピーク値の連続データの周波数特性を示します。
本アルバムもSACD/CDハイブリッド版ですが、同じくCD層のデータとなります。こちらは、できるだけオリジナルのアナログ版に近い状態でSACD/CD化する、という考え方のようです。2019年3月30日に発売されました。
まず、ポリドール録音です。
図 2. " 1.空港 " のピーク値の連続データの周波数特性
トーラス版オリジナル
次にトーラス録音版です。
図 3. " 6.空港 " のピーク値の連続データの周波数特性
この2つを比較すると、まず気づくのが低域側の約100Hz以下の形状がかなり違うということです。特に60Hz以下では、ポリドール録音は、急激に音圧が下がっています。
実際に音を聴いてみると、まず、イントロがポリドール録音の方が、トランペットがくっきりとしています。いわゆる昔の歌謡曲の印象です。それに比べ、トーラス版は、全体に音が柔らかい印象です。
また、ボーカルが始まると、ポリドール版のベースなどのバックの音は、かなり音量が下がるのに対し、トーラス版は、しっかりと高い音圧でリズムを刻んでいます。その結果、50Hz以下の音圧がかなり高くなっており、測定限界の20Hzでも比較的高い音圧で録音されています。
これらの聴いた印象はかなり異なります。ポリドール版は、ボーカルを際立たせたいという意図なのでしょうか。ただ、サウンド的には、古い懐かしのメロディーといった印象を受けます。
アルバム”つぐない” への収録版(リミックス版)
次に、本アルバム”つぐない”の7曲目に収録されている ” 7.空港 "のデータを示します。これは、トーラス盤を基にしたリミックス版となります。
図 4. " 7.空港 " のピーク値の周波数特性(Wave Spectra使用)
先程のトーラス録音と形状はとても似ています。ただ、全体にやや音圧が高くなっています。30Hz付近のデータをみるとそれがよくわかります。高音圧のためか、ベースの音がよりしっかりと低域側に伸びているように聴こえます。また、10kHz付近の小山状のピークは共通しています。
楽器数はもともと少ないのですが、本録音は、それぞれの楽器とボーカルの存在感をうまく際立たせているという感じがします。
Z700W- OMMF4MICAについて
先日、音楽の友社のONTOMO MOOKが9/15付でリリースされました。2022年版マークオーディオ編として、6cmフルレンジユニットのOM-MF4-MICAが特別付録となっています
Z700W- OMMF4MICAは、同ユニット用に限定販売している音工房Zのスピーカーキットです。また、完成品のZ700WS- OMMF4MICAもあります。
これに同ユニット等を取り付けて試聴してみました。
また、比較試聴用として、Z702-Modena(V6)を用意しました。
Z700W(S)- OMMF4MICAには、背面にもユニットを取り付けることができます。
今回、ダクト側には、Z700W(S)- OMMF4MICA、背面側には、音工房Zの8センチユニットであるZ-Modena mk2を取り付けてみました。前後は、各々このような外観となります。
前後のユニットの接続は正相としています。これにより、見掛けの能率が向上し、大きな再生音量を得ることができます。また、駆動能力が増すため、より長いバスレフダクトでも駆動が可能となります。そのため、低域側の再生能力も向上します。
Z700W- OMMF4MICAとZ702-Modena(V6)の比較試聴結果
Z702-Modena(V6)について
今回、比較試聴用に用いたZ702-Modena(V6)は、BHBS(バックロードホーンバスレフ)型のショートホーンタイプで、背面にダクトがあります。ユニットには、Z-Modena mk2を使っています。サイズの割に豊かな低域の再生能力が特徴です。
中低域が豊かなこともあり、Z501やスーパーツィータキットなどとの組み合わせがお勧めです。
” つぐない ”等 の比較試聴の結果
つぐない
タイトル曲でもある1曲目の " つぐない "を、Z700W- OMMF4MICA/Modenaで聴きました。前面にOM-MF4-MICA、背面にZ-Modena mk2で、正相接続です。
また、試聴はすべてSACDトラックで行いました。
まず、ベースの音が印象的でした。編曲の構成はシンプルですが、キレが良く、音がいいという印象を持ちました。また、ストリングスが綺麗です。
全体に音がしっかりしており、6cmのユニットのスピーカーとは思えません。なお、背面側は8cmです。
ただし、Z702-Modena(V6)に切り替えて試聴し、戻って比較すると、全体にハイ上がりで軽く聴こえます。
しかしながら、Z702-Modena(V6)に比べ、高域側の色々な音を分解能よくきちんと再生してくれているようにも思いました。また、応答が速いという印象です。
空港
次に、”Teresa Teng"のポリドール版の”空港”です。
かわいらしく、なんとなくキラキラしています。これは、ヘッドホンで試聴した時には感じませんでした。これは、これでいいのかも、と感じさせます。
一方、トーラス版の方は、ちょっと大人っぽいような印象を受けました。低域がよりしっかりしているせいでしょうか。
また、”つぐない”の”空港”は、ベースの音が一段と印象的です。各楽器の存在感とボーカルとのバランスも最近の曲に通じる感じもします。
ただし、これは、全体の音圧がやや高いため受ける印象かもしれません。
スーパーツィーターの効果について
さらに、スーパーツィータのZ501を接続して試聴してみました。コンデンサは1μFを用いました。
その結果、あまり接続の効果は聴き取れませんでした。公開されている周波数特性をみると20kHz をピークに25kHzぐらいまで、かなり高い音圧を示しています。
また、振動系が軽いせいもあり、もともと立ち上がり/下がりの応答が速いためではないかとも推察されます。
中国語版について
なお、”Teresa Teng"には、中国語版も収録されています。
こちらの録音の方が、サウンドの作りがより今っぽいように感じました。また、柔らかく、ゆったりとした曲調がとてもバランスよく聴こえます。これらの中国語バージョンも一聴に値すると改めて感じました。
CD情報
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