FOSTEX FE166NV 辛口レビュー

            
               写真 1.  FE166NV

はじめに

 FE-NVシリーズは、2019年(令和元年)に全口径5機種がFE-Enシリーズの後継機種として登場しました。FE-Enシリーズは2009年に発売開始でしたので、10年ぶりの改定ということになります。FE166NVは、その中で、サイズ的には上から2番目の16cm口径のユニットです。本稿では、前モデルであるFE166Enと特性などを比較しつつ、その音質や、外観などをレビューします。

 

FE166NVの音質評価(ユニット素性)

 本FE-NVシリーズは、フルレンジタイプであるFEシリーズの主流の系統であり、総合カタログでも、FE-Enシリーズに置き換わり、一番最初に記載されています。5種類のサイズがあり、FE-166NVは上から2番めの16cm口径です。

 特にこのFE166NVは、前の機種のFE166Enとサイズ等はほぼ同じで、記載されている電気的特性値も比較的近い値となっています。ちなみに、10cm口径のFE103NVや、20cm口径のFE206NVでは、それぞれ対応するFE-En系と電気的特性が結構異なります。従って、基本的な音の傾向は、FE166Enと近いことが予想されます。

 実際は、どうなのか、EnとNVとを比較して見ていきたいと思います。下の図は、FE166NV(実線)と、FE166En(点線)の周波数特性を重ねた結果です。1kHz以上の特性が案外異なっているのがわかります。

 


図 1  FE166NV(実線)とFE166Enの周波数特性の比較
    (1mでの測定結果)

 Qtsの0.27(0.25)などの値から、バスレフ型の場合では、ややハイ上がりな音調が予想されます。また、Mmsの値とCmsの値が、共に、それぞれ約7g(6.8)、約1.5mm/N(1.474)となっており、比較的軽く動きやすい駆動系です。これはFE系の伝統的な構成の延長上とも言えます。

  *注; カッコ内の数値は、FE166Enの値

 このように、大まかな電気的特性は近いのですが、一方、今回のEn系からの改良で、コーン紙が新しくなっており、また、FE-WK系で初めて採用されたハトメレスの採用と共にダンパーも見直され、よりリニアな振幅特性を得ているとのことです。

 FE166EnとFE166NVとを比較試聴してみると、バスレフの標準箱の場合、やはり、両者共に、ハイ上がりのトーンです。弊社のZ701-Modena (V5)(以下Z701と記載)などと比べると音域のバランスが全く違います。

 Z701は、8cmのシングルユニット構成ですが、低音がはるかに豊かにでており、ちょっと比較が困難なほどです。たとえば、豊かな低音が特徴的な、ホテル・カリフォルニアなどの曲の場合、その再生音は全く異なる印象となります。

 ただ、FE166EnもFE166NVも音圧が低いながらも、低音が出ているのはわかります。
また、両者を比較すると、FE166NVの方が、より低音が出ているのを感じます。これは、ボリュームを上げていくと、はっきりと違いが分かります。

 また、ボリュームを上げていくと、中高音域でも差が出てきます。Enに比べ、NVの方が、各楽器の分離が良く、すっきりした感じに聞こえます。さらに、NVでは、伸びやかな高音になりますが、Enは、なんといいますか、厚みがものたりないような分離性の劣る平板な感じに聴こえます。

 これは、NV系での、ハトメレスや改良されたダンパーによる新しい駆動系が、低歪化や良好な過渡特性に寄与している結果かもしれません。ともかく、聴いてみると、はっきりと進化の感じられる改良、と感じられました。

FE166NVに合うエンクロージャーの考察

 FE系の主流であり、前機種と特性的には近い値のFE166NVには、やはりバックロードホーンや、BHBS(バックロードホーンバスレフ)などの形式のエンクロージャーがマッチングするように思われます。実際、Qtsの値が、それぞれEnが0.25、NVが0.27ですので、この数値からも、エンクロージャーは、単純なバスレフ型よりも、バックロードホーン系の方が合いそうです。

 

 16センチや20センチの口径のスピーカーユニットのフルレンジというのは、見た目多くの低音が出そうな気がしてしまいますが、Qtsの値が低いオーバーダンピングタイプのユニットはシングルバフレフの箱ですと8センチや10センチのスピーカーより低音が少なくなります。


 FE166NV一本でワイドレンジを狙うのであればやはりバックロード系で、シングルバスレフや密閉で使うのであればサブウーファーなどが必要になるでしょう。

FE166NV+16(L) [バスレフ箱] 評価

 FE166NVをJISの標準バスレフ箱(16L)に入れ、試聴してみました。
比較試聴として、弊社の下記3機種を聴き比べてみました。

1. Z701-Modena (V5)(Z701と略称)
https://otokoubouz.com/z700/701modena.html

2. Z-1-Livorno (S)(Z-1と略称)
https://otokoubouz.com/z1/livorno.html

3. Z800-FW168HR (Z800と略称)
https://otokoubouz.com/z800/fw168hr.html


 FE166NVの試聴の第一印象は、明るい音、という感じです。低域の音圧は、あまり感じられず、他の機種でドンドンと聞こえるバスドラが、トントンというように聞こえます。クリアな高域ですが、耳障りではありません。突き刺さるような違和感は皆無と言っていいかと思います。

 中高音域の各パートの分離も比較的よく、さすがにZ800-FW168HRにはかないませんが、音楽的に違和感なく聴こえます。 しかしながら、他の機種では、ややアンニュイな雰囲気を感じさせる女性ボーカルが、前向きで爽やかな明るい声に聞こえたりもします。自然なので、これまた違和感はありませんが、、、

この標準バスレフに入れた場合、今回並べた他の機種とは全く異なる音のバランスです。特に、ゆったりとふくよかな中低音を聞かせてくれるZ1-Livornoとは対極と言えるかもしれません。

 ただ、本機だけを聞いている分には、ハイ上がりではあるのですが、不思議とバランス良く聞こえます。バイオリンの独奏曲などでは、他機種で聞こえる胴の響くような低音はあまり聴こえてきませんが、高音域がスピード感のある突き抜ける音に聞こえ、とても良い感じです。

 やはり、Qtsが、0.27という値の特徴が、中低域の特性に如実にでているようです。
また、Cmsの1.5 mm/Nというやや大きな値が示しているダンパーなどサスペンション系の動きやすさと、Mms(M0)の値が7gと、振動系が比較的軽いことなどが、全体のスピード感にも関係しているように思われます。

 低音がでていないわけではないので、バックロードホーンやBHBS(バックロードホーンバスレフ)などのエンクロージャーにいれることで、素直で伸びやかなスピード感のある高音域に、歯切れのよい低音域を加えることができそうです。この標準バスレフ箱では、FE166NVの能力を充分には発揮しきれていないということだと考えられます。

 実際、BHBS(バックロードホーンバスレフ)形式のZ701-Modena (V5)は、8cm のフルレンジユニット一発を用いたスピーカーですが、ユニットであるZ-Modena mk2の特徴でもある伸びやかな中高音域に加え、バランス的に、FE166NVに比べ、遥かに豊かな音圧の低音を表現しています。
張りのある低いベース音にドラムがズドンと鳴ってくれます。

 逆にいえば、16cmのFE166NVを、このようなエンクロージャーに入れた時の音がどうなるか、非常に期待できる組み合わせに思われます。

 

外観のレビュー

外観について、それぞれのパート毎に説明します。

フレーム

 FE系の伝統的な鉄フレームを採用。FE103NVなどと異なり、FE126NV以上のサイズでは、ネジ止めの穴が、楕円ではなく円形になっています。ネジ穴の取り付け位置は、従来と同じです。また、ユニットの高さ(奥行き)は、FE166Enの75.3mmに対しFE166NVが77.6mmと2mmほど厚くなっていますが、ユニット取り付けの観点では、ほぼ同等といえる範囲です。

 マグネットの厚さは、実測値では同じですので、この違いはフレームがやや異なるためと考えられます。

 バッフル開口寸法と、ネジ穴の位置が同じで、高さ(奥行き)も1.3mmの違いですので、通常のエンクロージャーであれば、前機種のFE166Enから、ユニットを容易に交換することができます。

 ちなみに、16cm口径では、他にFF165WKとFE168NSがありますが、この4つのネジ穴の位置は同じとなっています。ただし、最新機種であるFE168NSについてはバッフル開口径が、151mmとやや大きくなっており、注意が必要です。

 


写真 2 FE166NVのネジ穴部分のフレーム部

 

 フレームの強度という点では、ユニットをエンクロージャーに取り付ける際、ややきつく占めると周辺部がたわむのがわかります。スピーカーエッジの外側部分は、リング状のプラスチックで強化されていますが、FE-EΣ系や最近のFE-NS系などのアルミダイキャスト製に比べると、剛性の観点からは弱いといえそうです。また、視覚的な観点からも、ややチープな印象も否めません。

 FEシリーズで最も新しいラインナップであるFE168NSと並べた写真の例を示します。写真3が、斜め上から見た場合で、写真4が、側面からみた場合です。特に、側面から見た場合、価格が、両者で倍以上違うのがわかるような気がします。同じFEシリーズではありますが、開発コンセプトと狙う方向が異なるということかもしれません。

 


写真3 FE166NV(左)と FE168NS(右)


写真4 FE166NV(左)と FE168NS(右)の側面

 

 ちなみに、FE166NVでは、今回ダンパー周辺が大きく改良されたのに伴い、ダンパーの振幅に対する余裕度を上げて底あたりを防止するため、フレームの形状を一部変更して、新しい駆動系に対応できるようにしている、とのことです。主流であるFE-NV系のフレームも色々改良され、進化してきているようです。 

 

振動板

 FE-NVシリーズ共通で、FF-WKやFE-Solシリーズ、また最新のFE-NSシリーズに用いられている2層抄紙ではなく、ケナフを主材料とした、非木材パルプの新規コーン紙を用いています。形状は、FEシリーズの特徴であるカーブのついたサブコーンのあるダブルコーン形式となっています。サブコーンの材質は、メインコーンと同等なようです。

 ケナフは、近年、木材パルプの代替資源として注目を浴びており、森林伐採を防止でき、環境によいと評価されています。

 振動板の材料としては、長繊維と短繊維の混合に加え、さらに化学繊維やマイカなどの鉱石も含まれており、これらにより、適度な内部損失特性と伝搬速度の向上に加え、高剛性化も実現しているとのことです。ちなみに、コーン紙の表面は、キラキラとところどころ反射しており、マイカが分散しているのがよくわかります。

写真5 FE166NVの振動板

 

 ただ、マイカの粒が含まれたことで、コーン紙としては、僅かではありますが、やや重量増の方向とも、いえるでしょう。従って、関連する他の部分で、軽量化する工夫が必要となってくると推定されます。

 それとも関係するかもしれませんが、従来の製品では、コーン部の根本付近に、ハトメがあり、ここで、ボイスコイルのコイル線と端子に接続されている錦糸線が接続されていました。

ハトメのあるFE166Enの写真を示します。
サブコーンの下側に見える白い2つのペイントのようなものがハトメの部分です。

 


写真6 ハトメのあるコーン紙の例(FE166En)


写真7 コーン紙の裏側のハトメでの錦糸線とコイル線の接合

 

軽い振動板の場合などでは、このハトメの影響がでてしまい、中音域で歪を発生させる要因となってしまいます。

 ハトメがあることで、コーン紙内での重量バランスが不均等になり、不当分割共振が発生するためです。特に、小さな口径のユニットで、それが顕著に出てくるようです。 そこで、本シリーズでは、ハトメレスということで、ハトメをなくしています。

ダンパー

 ダンパー周辺は、FF-WKシリーズで既に採用されているポケットネックダンパー方式を採用することによって、構造の簡素化が図られています。


図8 FE166NVのダンパー部分及びハトメレスの接合部

 

 前記のハトメレスを実現するために、外部との接続端子からでている錦糸線が、このポケットネック部でボイスコイルと接合されており、さらに、ボイスコイルとダンパー及びコーン紙が同一円周上で接着されています。他社でもハトメレスは採用されていますが、ボイスコイルを巻くボビンの部分が、ダンパー部から飛び出していてその部分で錦糸線とボイスコイルが接合されているケースもあります。

 それと比べると、このポケットネックダンパー方式は、余分なボビンの突き出しがない分、軽量化となり、さらに余分な部分を介せずダンパーと振動板が直結して一体化したシンプルな振動系となり、余分な振動の発生源が減ったと言えます。

 実際、前掲のハトメのある場合と、ハトメレスの部分の写真を比較すると、コーン紙の動きがスムーズになり歪が低減したであろうことが、みるからにわかるような気がします。また、ダンパーそのものの形状と材料も見直されており、直線性の高い振幅特性を得ている、とのことです。 このハトメレスを含むダンパー周辺の構造的な変化と、新規のコーン紙が、前モデルのEnと最も異なる点と言えるでしょう。

磁気回路

 磁気回路には、Enと同様フェライトマグネットが採用されています。マグネット重量の記載は、ありませんが、マグネットの直径が、EnのΦ145mmから、NVは、Φ143.5とやや小さくはなっていますが、厚さは同じです。

 従って、磁気回路としては、Enとほぼ同等であると推定されます。


写真9 FE166NVの裏側

 

ちなみに、全重量は、Enと同じ値の 1,600g となっています。

FE166NV 客観的情報

FE166NVの概要

 

歴史

 本FE-NVシリーズは、FEシリーズの主流の系統といえます。2019年発売開始の最新機種です。

 FE系統は、1964年のFE103から始まり、2001年のFE103E、さらに2009年発売開始のFE-Enシリーズに続き、2019年にFE-NVシリーズとして、サイズの異なる5機種が発売になりました。

 FE166NVは、その中の、大きさ順で上から2番目となる16cm口径タイプとなります。

価格・概要

標準価格    : ¥11,500 + 消費税

発売年     : 2019年 7月下旬

スピーカー形式 : 16cm 口径フルレンジユニット

 

FE166NV スペック詳細

FE166NVの仕様を示します。

 

インピーダンス             :     8 Ω
最低共振周波数(Fs)         :   49.6 Hz        
再生周波数帯域                : fs - 20 kHz
出力音圧レベル                :   94 dB/W
定格入力                           :   22 W
瞬間最大許容入力(Mus.)  :   65 W
ボイスコイル径                :   25 mm
バッフル開口寸法             : 146 mm
マグネット重量           : 記載なし
総重量          :1,600 g

Mms(m0)    :  7.0 g
Cms       :   1.5 mm/N
Vas                  :  36.9 L
Qms                 :   7.88
Qes                  :   0.28
Qts(Q0)           :    0.27

FE-Enシリーズとの仕様の比較

 10cm口径のFE103NVや20cm口径のFE206NVなどは、それぞれ対応するFE-En系とMms、Cms、Vas、Qtsなどの値が、かなり異なっています。それらに比べ、FE166NVの諸特性は、FE206Enと一見あまり変わっていないのが特徴です。

 また、最低共振周波数や総重量などの基本的な値は、Enとほぼ同じ値となっていますが、これはFE203NVの場合でも同様です。

参考として、16cmと20cmのFE-EnとFE-NVの主な特性の比較表を示します。
それぞれの値は、各ユニットに添付の説明書を参照しています。同じ項目でも、有効数字が異なる場合がありますが、オリジナルのままです。

 

音工房Z無響室でのユニットF特・インピーダンス測定

弊社内無響室での測定の様子
測定機器 Etani ASA10MKII

 

 

 写真 2.  FE166NVの特性測定

周波数特性

スピーカーユニットと測定用マイクとの距離が、10cmの場合と1mの場合の周波数特性の測定結果を示します。

 

  
 図 2. ユニット、マイク間10cmでの測定結果 

 

  
 図 3. ユニット、マイク間 1mでの測定結果 
(簡易無響室の為低域特性は300Hz以下の特性は正確ではありません)

インピーダンス特性

FE206NVのインピーダンス特性を示します

 

 
図 4. FE166NVのインピーダンス特性

 

 

リンク集

自作用スピーカーユニット 辛口レビュー  一覧

 

 

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