TEAC NT-505の概要

 

 

TEAC商品群での本機の位置づけ

ブランド名

TEACのオーディオ関連製品には、大別して3つのブランド名があります。

まず、プロフェッショナルオーディオ製品として、" TASCAM "。
また、ハイエンドオーディオ製品として、" ESOTERIC "。
さらに、コンシューマーオーディオ製品用が社名と同じ " TEAC " です。

今回のNT-505は、TEACブランドの商品となります。

Referenceシリーズ

このコンシューマ製品群の中でも、 " Referenceシリーズ " の中核となるのが、500番台です。
この下に300番台があり、また、今年になって、700番台が発表されています。

700番台が現時点では、”TEAC”ブランドのReferenceシリーズで、最高級クラスとなるようです。価格的には、700番台は、500番台の約2倍となります。

500番台は、これまで、501、503となって、2018年に、505にバージョンアップされました。
ちなみに、300番台は、現在301で、700番台も、今年初めてのリリースですので701です。

500番台を基本コンセプトとして進化してきて、3つのシリーズに分化してきた、といえるかと思います。

 

500番台

505シリーズとしては、6種類の製品があります。

それぞれ、AP:パワーアンプ、AX:ステレオプリメインアンプ、AI:UCB DAC / プリメインアンプ、PE:フルバランス・フォノアンプ、UD:USB DAC / ヘッドホンアンプ、となっており、今回の、NT-505は、USB DAC / ネットワークプレイヤーとなっています。なお、NT-505にも、ヘッドホン端子があり、3.5mmのミニジャックです。

UD-505とNT-505の違いは、UD-505がUSBとヘッドホン再生に注力している一方、NT-505はUSB再生も可能ですが、そのほかにNASの再生、定額制音楽配信サービス(TIDAL、qobusなど)のネットワーク再生ができることだとも言えます。

UD-505には、4.4mmのバランス型5極端子と、6.3mmステレオ標準ジャックの2種があり、さらに、標準ジャックには、通常のアンバランスタイプとアクティブ・グランドタイプの2種類が準備されていて、計3つの異なるヘッドホン端子があるという充実した仕様となっています。

NT-505の特徴

NT-505の製品としての主な特徴を記載すると以下のようになります。
ネットワーク対応で、多機能という点が大きな特徴と言えます。

(1)USB再生でDSD22.5MHzとPCM768kHz/32bitに対応
(2)搭載するDACチップは、旭化成の「VERITA AK4497」を左右独立で、計2個使用
(3)アップコンバート機能で、PCMを最大384kHz/24bit、DSD24.5MHzに変換可能
(4)デジタルフィルターをPCM用で5種、DSD用を2種、使用可能
(5)Bluetooth4.0対応で、LDAC/aptX HD/aptX Bluetoothレシーバー機能
(6)USB再生でスムーズなデータ伝送を実現する「Bulk Pet」USB伝送技術を搭載
(7)MQAデコーダー機能対応(LANのみ) 、roon ready機能対応
(8)DSD22.5MHzとPCM768kHz/32bit対応のアプリTEAC HR Audio Playerを無償提供
(9)Sportify、TIDALやQobuzといった高音質定額音楽配信サービスへの対応
(10)内部のクロックは44.1kHz系と48kHz系の2種類の専用クロックを搭載
(11)10MHzの外部クロック入力に対応
 

従来機(NT-503)との比較

TEACのホームぺージにNT-503とNT-505の比較表が記載されています。

大きな変更点は、DACチップが、AK4490 からAK4497に、変わったことです。これに伴い、先に記載したように信号フォーマットやデジタルフィルタなどの仕様の拡張、さらにMQAデコーダ機能などが追加されています。

なお、チップ2個のデュアル使いは同じで、これは本シリーズの大きな特徴と言えます。

ちなみに、AK4497は、2018年当時、トップレベルのDACチップでしたが、2020年に、同じ旭化成エレクトロニクスから、より上位の製品としてAK4499が発表されています。

なお、2020年10月に同社の主力工場で火災が発生し、2021年4月現在、復旧の目途がたっておらず、同社のDACチップ全体の供給の目途は未定です。

したがって、AK4499を採用するとみられていた、上位となる新たな701シリーズの関連機器は、販売が延期となっています。

 

BlueTooth もバージョンアップしており、対応コーデックがLDAC™, aptX™ HD, AAC, SBCと、従来機のaptX™, AAC, SBCから増えています。
また、ヘッドホン端子が、6.3mm標準ジャックの駆動方式がパラレル・アンバランス方式から、3.5mm4極ミニジャックのグランド・セパレート方式に変更となっています。

NT-505の価格と概要

標準価格    : 184,800円(税抜)

発売年     : 2018年 1月27日発売開始  

基本構成    : DAC       ;旭化成エレクトロニクス AK4497 x 2
          プリアンプ       ;有
          ヘッドホンアンプ ;有 3.5㎜4極ミニジャック(500mW+500mW@32Ω)

対応フォーマット :
   USB入力(リア): B端子 USB2.0、アシンクロナスモード転送 / バルク転送
     PCM  ; 16 / 24 / 32bit
            44.1k / 48k / 88.2k / 96k / 176.4k / 192k / 352.8k / 384k / 705.6k / 768kHz 
                 DSD        ; 2.8M / 5.6M / 11.2M / 22.5MHz

   LAN入力(リア)/USB入力(フロント)A端子 USBフラッシュメモリー用       
     PCM  ;   16 / 24 / 32bit
                         32k / 44.1k / 48k / 88.2k / 96k / 176.4k / 192kHz / 352.8k / 384kHz
           PCM ロスレス:FLAC、Apple Lossless (ALAC)、WAV、AIFF、MQA
             圧縮オーディオ:MP3、AAC(m4a コンテナ)
              ※384kHz/32bitは192kHz/24bitに、352.8kHz/32bitは176.4kHz/24bitにダウンコンバート

     DSD       ; 2.8M / 5.6MHz  
            DSD ロスレス:DSF、DSDIFF(DFF)、DoP

      MQAデコーダー(LAN): 搭載

   同軸デジタル入力
     PCM  ; 16 / 24bit
               32k / 44.1k / 48k / 88.2k / 96k / 176.4k / 192kHz
                 DSD        ; 2.8MHz(176.4kHz/24bit DoP伝送で対応)

          光デジタル入力
     PCM   ; 16 / 24bit
               32k / 44.1k / 48k / 88.2k / 96k / 176.4k / 192kHz
                 DSD       ; 2.8MHz(176.4kHz/24bit DoP伝送で対応)

アップコンバート機能 : 有 ;最大 PCM384kHz/32bitまたはDSD 24.5MHz

デジタルフィルター: 
     PCMフィルタ;  Sharp Roll Off / Slow Roll Off / Short Delay Sharp / Short Delay Slow /
                                              Low Dispersion”低分散特性” / オフ
                     DSDカットオフ 周波数 ;  Narrow: 39kHz(2.8M時)78kHz(5.6M時)
                                                                                    156kHz(11.2M時)312kHz(22.5M時)
                                                                      Wide    :  76kHz(2.8M時)152kHz(5.6M時)
                                                                                     304kHz(11.2M時)608kHz(22.5M時)                  

 

プリアンプ出力 : アンバランス出力 ; RCA 
                   ; 固定(0dB)、固定(+6dB)、可変、出力オフを選択可能
          バランス出力   ; XLR
                   ; 固定(0dB)、固定(+6dB)、可変、出力オフを選択可能

無線LAN    : なし

Bluetooth           :  4.0 (A2DP, AVRCP)、LDAC™, Qualcomm® aptX™ HD, aptX™, AAC, SBC    

クロック入力  : 有 BNC端子

電源      : 内蔵 
消費電力    : 20W(スタンバイ時 0.4W)

サイズ      : W290 × H81.2 × D248.7mm (突起部含む)

質量       : 3.9kg

NT-505の外観と内部構成について

外観のレビュー

全体の印象

NT-505の外観でまず目につくのは、左右のハンドルです。
測定機器のような、実用機の印象を受けます。

もっともこのハンドルは、隙間が狭く、指の第一関節が入るかはいらないかぐらいですので、ここに指をかけて何かに使うということは想定されて無いようです。基本的に据え置き用の機材ですので、飾りということかと思われます。

ただ、このハンドルを含めたサイドパネルもアルミの梨地仕上げで厚さがあり、シャーシの薄いヘアライン仕上げとの組み合わせは、上質感があります。

アルミの梨地処理や、ヘアライン処理は細かいので、写真では、なかなかわかりにくいと思います。実際に見た方が良い印象をうけるのではないでしょうか。

接続端子について

フロントパネル 

1. optical/coaxialの共用端子
2. メモリー用USBコネクタ
3. 3.5mmヘッドホン端子

フロントパネルの接続端子として、optical/coaxialの共用端子があるのが特徴です。coaxialの場合は、付属のアダプターで経由で通常のRCA同軸デジタルケーブルと接続します。

USB端子は、PC用ではなく、メモリー専用です。

ヘッドホン端子は、3.5mmミニプラグです。

 

リアパネル

右端の表示によると、本機は、20年製とのことです。向かって左側から順に記載します。

1. プリアンプ出力として、XLRのバランス型とRCAの非バランス型があります。
2. LAN端子
3. USB端子
4. COAXIAL端子、OPTICAL端子
5. 外部クロック入力端子
6. 電源端子

内部構成について

内部の概観

シャーシの上側を開けてみた場合の写真です。

電源部、BTユニット、USB関連、など各機能ごとにモジュールとなっており、各モジュール間は、割合長めの配線で接続されています。配線には、ツイストペアなどの配慮はされていません。

また、各モジュール間のシールド材などは、特に配置されていないようです。

電源部

電源部の中核を成すトロイダルトランス部分をアップします。
外径が約4㎝弱のトロイダルトランスが、L/R用に2個配置されています。

このトランス周りや上にも、やや太い単線と思しき配線が入り組んでいるのが印象的です。

また、写真左上の黒い部分は、デジタル部の電源用と推定されるモジュールを裏返しに乗せています。なお、この周囲にも、電磁シールドの機能のある部材は配置されていないようです。

メイン基板(DAC等)

先の”内部の概観”で示した写真にあるLAN関連等のモジュールの下に、DACチップなどが載っているメイン基板があります。

メイン基板の上の方が、デジタル部で、画面最上部の大きなキャパシタ各2個の下にDACチップがそれぞれあり、計2個あります。このDACチップ周りは、パソコンのマザーボードで用いられるような小さなキャパシタで囲まれています。その下が、プリアンプ部と思われます。

この基板のDAC周りとプリ多数のキャパシタ群は、オーディオ製品というよりは、パソコン用でよく用いられているパーツが多用されているようです。

画面一番下の赤と白の端子がプリアウトのRCAコネクタです。またその外側にXLR端子が見えます。

このRCA端子の少し上、黄色の楕円で囲んだ部分から内部のヘッドホンアンプ用のプリアウトの配線が端子からでています。これが写真最上部のキャパシタの影にある小さなモジュールにつながっています。この外側にヘッドホン端子がでています。

DACの音の評価について

評価のシステム構成                    

以下に示す構成で、試聴を行います。
構成としては、音源を、PCからのUSB出力とします。また、他機種との比較のため、プリアウトのXLR端子からの信号を外部のヘッドホンアンプに接続します。

PC

自作Windows10マシンで、やや古いi5ベースですが、今回の再生ファイルには十分と思われます。

PCアプリ

foobar2000で、CDベースのWAVファイルの再生を行います。44.1kHz/16bitです。

ヘッドホンアンプ

GastardのH16をヘッドホンアンプに用い、XLR接続で使用します。
また、比較として、内蔵のヘッドホンアンプの出力を比較します。(3.5mm、4極タイプ)

ヘッドホン

ゼンハイザーのHD 660Sをバランス出力(4.4㎜、5極)で接続します。

NT-505の音の評価

NT-505の音の評価

各ジャンルの次の4曲について行いました。それぞれの試聴コメントを記載します。

各曲の詳細については、”高音質オーディオソース”シリーズのブログを参照ください。

最初に、Rock You Gentry / Hunter / Jennifer Warnesを試聴しました。出だしの弾むようなベースの低域と、ジェニファーのナチュラルで少しクールな感じのトーンのボーカルが、やや対照的でそれが印象的な曲です。出だしのベースの音域が案外低く、低域の再生能力が低いときちんと再現できません。これについては、ちゃんと低域はでてきているのですが、弾んだようなやや元気な感じがあまりでていないようです。ちょっと優等生的な印象です。

次に、弦楽四重奏 第16番/ ベートーベン / Hagen Qualtett を試聴しました。ハーゲンカルテットの息の合ったプレイによるダイナミックレンジの大きな録音です。これも、試聴ではどちらかというと、素直な印象です。バイオリンの高域がのびきっていないような印象も少し受けます。再生音としては、全体にスッキリとした印象ですが、一方、ダイナミックレンジの広さをあまり実感できない感じでした。

次に、California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dogを試聴しました。
これは、エレクトリックベースの極低域が、曲を支えているというかなり低域の再生が一つのポイントです。一方、歯切れのいいクラップ音などの効果音の再生も重要です。もともと、かなりメリハリのある曲ですが、試聴の結果はどちらかというとキレイに鳴ってはいる感じで、やや平板な印象を受けました。極低域の分解能も少し低い感じです。

最後に、In The Wee Small Hours (Of the Morning) / Here's To Ben  / Jacinthaを試聴しました。
Jacinthaのエコーの効いたボーカルで始まります。それに続き、ベース、ピアノと続きます。やはり、音としては、ややすっきりとした印象で、それなりにまとまってはいるのですが、例えばベースの音の厚みが少ないという印象を受けました。

なお、もともとのヘッドホン端子でも試聴してみましたが、こちらのサウンドは、かなりクオリティが低く感じました。XLRもしくは、RCAのプリアウト出力の音とかなり違うのに驚きました。

まとめ

TEAC NT-505をレビューしました。
USBベースのDAC+プリアンプの基本構成に、ヘッドホンアンプ、LANモジュール、USBメモリー入力や、外部クロック入力端子まで備えた万能タイプのDACと言えます。

用いているDACチップは、旭化成エレクトロニクスのAK4497で、それを左右それぞれに配置し、2個つかっており、完全バランス出力のXLR端子でのプリアウトを持っています。

プリアウトからの音の傾向は、全体的に癖のない素直なすっきりとした音質です。ただ、メリハリといいますか、たとえばベースの弾むような感じの音の再生にはあまり向かないようです。

DACチップや外部クロック入力など、もともとのポテンシャルは高いように思われますが、内部をみるとモジュール間の配線や仕切りなどもっと工夫の余地もあるようにも感じられました。もっとも、筐体内は、それなりに密度が高い状況なので、困難なのかもしれません。

2018年発売開始と、やや時間はたっていますが、旭化成エレクトロニクスの工場の被災により、現時点では、国産の貴重な一台といえるかもしれません。

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