Yamaha P2500S の概要

はじめに

サブウーファを自作し、それを通常のシステムに付加して試聴し、動作を検討するための環境構築を検討しました。

今回は、可変ローパスフィルタを内蔵したアンプであるP2500Sを用いて、サブウーファとして動作させる環境の検証を行いました。低域再生専用スピーカー本体には、フィルターもアンプも組み込まない状態で行います。

これにより、サブウーファ用スピーカー本体には、ローパスフィルタもアンプも内蔵しない状態でサブウーファとして通常のスピーカーに付加した場合の動作検証をステレオ出力で行うことができました。

 

Yamaha P-S シリーズについて

ヤマハプロオーディオ(PA)について

今回のヤマハのアンプは、いわゆる民生オーディオ用ではなく、コンサートや音楽制作現場などの音響のプロ用の製品となります。
製造は、ヤマハプロフェッショナルオーディオ部門です。

同部門は、同社のホームページによると、
” 音響業界において革新的かつ最高品質のソリューションを提供するプロバイダーとして、グローバルにビジネスを展開しています。業界標準のミキシングコンソールや、最先端の信号処理技術を備えたシグナルプロセッサー、エネルギー効率の高いパワーアンプ、ライブサウンドから商業空間までそれぞれに最適なスピーカーシステムなどを幅広くラインナップしています。”

とのことです。

 

P-S シリーズの特徴

P-Sシリーズは、PA部門でのパワーアンプのシリーズの一つで、” 省電力、高音質。高い信頼性のもと、SRから設備音響まで幅広いアプリケーションに応える、パワーアンプリファイアーのスタンダードモデル” となります。

型番は、PとSの間に数字が入り、P7000S、P5000S、P3500S、P2500S、P1000Sの5機種がラインアップされていますが、P7000S、P5000S、P3500Sの3機種は、既に生産完了品・販売終了となっています。

間の数字が、負荷が8Ωのときのステレオ出力の値に0を加えた数値となっているようです。
例えば、P2500Sは、ステレオ出力(8Ω)が、250W x2となります。

本シリーズの特徴は、

” ヤマハ独自の高効率アンプ駆動技術「EEEngine」を採用し、カレントバッファ部にMOSFET回路を搭載、約50%もの省電力化を達成。上級モデルの高音質を継承しつつ省電力化を高次元で両立した超ハイコストパフォーマンスのスタンダードモデル。幅広い用途に対応する5モデルがラインナップ。 ”

とのことです。

なお、EEEngineは、同社の資料によると、” AB級の音質を保ちながらD級の高効率を高次元に両立させる画期的な技術 ”、とのことです。
D級の考え方を取り入れた動的な電力供給技術などを用いて高効率化を図っていますが、音楽信号としては、入力から、出力まで、純粋なアナログ信号だそうです。

 

今回検討するにあたって特に着目した特徴は、本パワーアンプの入力に、切替可能な、ハイカットフィルターとローカットフィルタを備えている点です。ハイカットを選択することで、高出力のサブウーファー用アンプとして使うことができます。

カットオフ周波数は25~150Hzの範囲で連続可変が可能です。これにより、サブウーファーの増設時にもクロスオーバー用ネットワークなどの外部機器を必要としません。

 

P2500S

ホームページから、位置づけを下記に引用します。

” 上級モデルの高音質を継承。パワフルで明瞭度の高いサウンドを獲得。各種アプリケーションを考慮し、5つのラインナップを用意しました。”

  • ステレオ出力(4Ω):310W x2
  • ステレオ出力(8Ω):250W x2
  • ブリッジ出力(8Ω):620W

価格と概要

希望小売価格    :  82,500   円(税込) 

参考価格      :  54,800 円 @amazon

出力      : 250W x2 (20Hz-20kHz, THD+N=0.1%)
          275W x2 (1kHz, THD+N = 1%)

SN比       : 100dB  

全高調波歪率  : ≦0.1%  

ダンピングファクター :  ≧200

入力インピーダンス  :  30kΩ(バランス), 15kΩ(アンバランス)

コネクター  
   input     :  2 x XLR-3-31タイプ, 2 x 1/4"TRSフォーン
   output   :  2 x Neutrik speakON NL4, 2 pairs x 5-way binding postpost, 2 x 1/4"フォーン

冷却ファン   : 1 x 可変スピードファン             

電源      : 内蔵 入力(AC100V・50Hz / 60Hz)
消費電力    : 320W    ( idle: 25W)

サイズ      : 480 W × 88 H × 456 D  mm 

質量       : 14 kg

P2500Sの外観

フロントパネル

フロントパネルは、シンプルで、左右に、吸気口用のメッシュが空いています。
その内側の左側がプッシュ式の電源スイッチ、また、右側に、左右の回転式ボリュームがあります。

なお、本機には、前面吸気、後面排気方式の冷却ファンが装備されています。

 

リアパネル

リアパネル全体

リアパネルの全体像を示します。

左右に、排気用のメッシュが空いています。

リアパネルの入出力コネクタ部

排気部分以外を拡大して示します。

左側が、入力関連。右側が出力関連となっています。

入力端子は、いずれもバランス入力で、XLR端子と3極のフォーン端子があります。
民生オーディオで一般的な非バランス型のRCA端子(ピンタイプ)はありません。

今回は、XLR端子でプリアンプと接続します。

 

 

リアパネルのアンプ切り替えスイッチ

 

この部分が、入力のフィルター機能に関係する部分です。

今回は、上の左右で対称的にレイアウトされているスイッチで、SUBWOOFERを選びます。

また、カットオフ周波数を左右それぞれ連続的に設定できます。

今回は、動作検証として、75Hz付近に設定して試聴しました。

 

P2500Sとの接続

今回試聴の組み合わせ

試聴システムフローの概要

P2500Sをサブウーファー用アンプとして用いるにあたって、下図フローのように試聴システムを構成しました。

 図  試聴システムのフロー

 

CDを音源として、プリアンプのC2410(アキュフェーズ)に接続します。

C2410には、RCAピンの出力が2系統、また、XLRの出力が2系統あります。

そこで、プリアンプにパワーアンプ1を、RCAピンコード(非バランス)で接続します。これは、通常のスピーカー用です。今回は、Z701-Modena(V5)を接続しました。
RCAピン端子を選んだのは、パワーアンプ1(L550)の都合です。

また、パワーアンプ2を、XLR(バランス)コードで接続します。これは、サブウーファ用です。今回は、Z505-Trentoを接続しました。
なお、P2500Sのリアパネルの写真で示したように同機にはRCAピン端子はありません。

なお、Z505-Trentoには、通常既にローパスフィルタ機能のネットワークが内蔵されています。今回は、実験ですので、これを通さず、スピーカーに直結させています。 

サブウーファーの出力有無の切り替え方法

C2410のプリアンプ出力はマルチ出力(複数の端子からの同一信号の出力)が可能で、かつバランス型のXLR出力と非バランス型のRCAピン端子からの出力を切り替えたり同時に出力したりできます。

これにより、サブウーファを使う場合と使わない場合を簡単に切り替えることができます。

写真  C2410のOUTPUT出力切り替えスイッチ

 

今回の場合、OUTPUTをALLにすれば、Z701+Z505-Trentoとなり、UNBAL(非バランス)にすれば、Z701のみの出力となります。

 

試聴結果

各ジャンルの次の4曲など、これまで、”高音質オーディオソース”シリーズのブログでご紹介したいくつかの曲を用いて、Trentoの有無での比較試聴を行いました。

1. California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dog
2. Rock You Gentry / Hunter / Jennifer Warnes
3. In The Wee Small Hours (Of the Morning) / Here's To Ben  / Jacintha
4. ロンド/ ルカーシュ / Duo Di Basso

などです。

これらについて、実際の試聴と共に、周波数特性の値をデータで比較するために、それぞれのケースで空気録音を行い、そのWAVデータ(96kHz/24bit)を、RMEのFireface UCXで再生し、測定用アプリのDIGICheckのスペクトラム・アナライザー機能で計測しました。

なお、DIGICheckでは、スペクトラム・アナライザーは、離散的な棒グラフで示され、横軸の各値は次の通りです。
25、31.5、40、50、63、80、100、125、160、200,250,315,400,500,630,800,1k,1.25k,1.6k,2k,2.5k,3.15k、4k、5k,6.3k、8k、10k、12.5k,16k,20k、25.4k、32k、40k(Hz)。
また、縦軸は、0dBから-50dBまでの表示に設定してあります。

ここでは、California Roll Ft. Stevie Wonder / Bush / Snoop Dogの試聴結果のみを記載します。
この曲はエレクトリックベースの極低域が、キレ良く響きます。

まず、比較のためにオリジナルの始まりから55秒間のWAVデータの測定結果を示します。(case1)

図  California Roll のピーク値の周波数特性-case1
  (開始から約55秒間のオリジナルデータ)

曲のはじめから、極低域のサウンドが迫ってきているのがわかるようなデータです。本当にギリギリのピーク値で録音されており、31.5Hzや25Hzの音も入っています。40,50,63Hzの音圧が非常に高く、80Hzでややディップとなっています。

次に、2つの空気録音のデータを示します。Z701単体の場合と、Z505-Trentoを組み合わせた場合です。ここでは、オリジナルと録音レベルが異なりますので、音圧の値の同じ周波数同士の絶対値の比較はできませんが、傾向は見えると思います。

また、空気録音のデータ同士では、全く同じ環境でとってありますので、数値で比較ができます。

まず、Z701単体の場合です。(case2)

図  California Rollのピーク値の周波数特性-case2
   (開始から約55秒間のZ701の空気録音)

 

Z701のみでも、弾む低音が聴けるように感じます。ただし、測定データをみると、その感覚には50,63Hz付近が寄与しているのがわかります。
40Hzでは、かなり落ちますが、それでも音はかろうじて再生できているようです。31.5Hzは殆ど再生できていません。
オリジナルデータに比べ、125Hzが突出しているのが目立ちます。

 

次に、Z701に、Z505-Trentoをマルチアンプで追加した場合を示します。(case3)

図  California Rollのピーク値の周波数特性-case3
  (開始から約55秒間のZ701+Z505-Trentoの空気録音)

 

Trentoを付加した場合、125Hz以上の周波数帯域では、200-315Hz付近で1-2dBほど上がっているようにも見えますが、ほとんど変化がありません。ちなみに、125Hzでの値は、-5dBと同じです。

一方、100Hz以下では、顕著に異なります。まず、100Hzが3dB高くなっています。80Hzで4dB上がっています。
63Hz以下では、更に顕著で、40Hzでは、case2が、-39dBに対し、case3では、-23dBと、差が16dBとなっています。31.5Hzでも16dBの差があります。

ただ、25Hzの値をみると、同じです。これは、おそらく測定系の限界を示しており、ここでの値は暗騒音と思われます。従って、さきほどの31.5Hzの値も、既に測定系により実際よりも減衰して録音されている可能性もあります。

このcase3の低域のブーストの加減の状況ですが、まず、63Hz以下でブーストが顕著なのは、今回、カットオフ周波数を75Hzとしたことが理由として挙げられます。この設定は、Z701の特定値をみると案外妥当だったようにも思われます。

また、Z701とZ505とのボリューム比ですが、例えばオリジナル(case1)の1kHzと50Hzの音圧を比較すると、各々-14dBと-5dBで、その差は、9dBです。ところがcase3では、-24dBと-18dBで、差が6dBと、オリジナルに比べ3dB差が小さくなっています。今回の設定では、まだ、ブーストが足りないぐらいではないかと思われます。

いずれにせよ、Trentoを付加して試聴した場合の低域の再生音の差は圧倒的で、付加した場合は、今回提示のデータ以上に空気の振動を感じるような感覚が得られました。

また、オリジナルの音データとの比較で、サブウーファーを付加した場合は、低域をブーストしたというよりも、むしろ本来意図された再生音に近いのだと思われます。

今後、カットオフ周波数の最適化や、ボリューム調整によるサブウーファーの音圧レベルの調整などもデータにより比較的容易に行うことができそうです。

まとめ

サブウーファー用のアンプとして、Yamaha P2500Sの動作を検討しました。

2つの出力を持つプリアンプと、本P2500S、さらにもう一台のパワーアンプを組み合わせることで、サブウーファーと通常のスピーカーとの組み合わせの比較試聴が容易にできました。

今回用いたP2500Sは、スーパーウーファーを自作する場合などにおいて、専用のネットワークを開発する前に、その音の傾向やカットオフ周波数の値、それと音圧レベルの調整などの目処などをつけるための開発環境としても、かなり有効な道具になると思われます。

ただ、データで極低域での有意な差を比較検討するためには、測定系の質をもっと向上させる必要がありそうです。

本機は、実売価格が、かなり手頃となっていることを考慮すると、現在はお買い得な状況といえるかもしれません。

 

 

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