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La Camorra / Astor Piazzolla
規格品番:[ TGGS-169 ]
本アルバムの概要 について
今回ご紹介するのは、アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla;1921-1992)の五重奏団(キンテート)としての実質的な最後のアルバムのDSD変換リマスター版です。
SACD/CDのハイブリッド版で、ディスクは緑色のグリーン・オーディオファイル・コーティングです。オリジナルは、1988年5月録音で1989年に発売。本リマスター版は2010年発売で規格品番は[ TGGS-169 ]です。
他に、UHQCD版もあるようです。
ライナーノーツによると、「アストラ・ピアソラの歴史の中で最高の録音はどれでしょう?」と聞かれたピアソラの答えは、「キンテートで最後に録音した " ラ・カモーラ " だね」、だったそうです。
Tango Nuevo(新しいタンゴ)を産み出したピアソラのこの録音の時のキンテートのメンバーは、フェルナンド・スアレス・パス(Fernando Surez Paz ; violin)、パブロ・シーグレル(Pablo Ziegler ; piano)、エクトル・コンソーレ(Hector Console ; bass)、オラシオ・マルビチーノ(Horacio Malvicino ; guitar)そして、アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla ; bandneon)。後期五重奏団とも呼ばれ1978-1988の10年間続きました。1988年にピアソラが心臓バイパス手術を受け、その後1990年に脳梗塞で倒れ闘病生活となったため、本アルバムが実質的な遺作と呼ばれることもあるようです。
なお、本アルバムと同様のリマスター版として、" Tango: Zero Hour ; TGGS-167 "、"The Rough Dancer and The Cyclical Night ; TGGS-168)も発売されています。
本アルバムは、スピーカーで聴かないと、その本質はわからないかもしれません。
部屋や楽器の生々しさを伝える極低域の響き、高域のエコー、楽器の胴を叩く音、声、弦を弾く音のリアルさ。そこを突き抜ける主音と倍音列。
低域から中高域の広い音域で5つの楽器が織りなすリズミカルなパッセージが、時に早く時にゆったりと、その速度、音量、音色、音域を自在な緩急で素早く変化させて繰り出されます。それらが紡ぐ全体の躍動感。静と動。
これらが一体となって、高い音楽性と情熱とが伝わってきます。
これらを感じ取るには、耳だけではなく、皮膚感覚などの五感が必要に思われます。これは、ヘッドホンでは、少し難しいかと感じられるのです。
この録音には、高い再生能力が活きます。広帯域で、かつ高レスポンス、さらにふくよかな倍音列など、質の高いシステムであるほど、一層高い音楽性の再生にも繋がるように思われます。
いい音が、音楽へ、一層深く入り込ませてくれます。
本アルバムのピーク値の周波数特性の特徴
各曲のピーク値の周波数特性を測定し、その特徴を検討したいと思います。なお、以下の確認等については、モニター用ヘッドフォンのSennheizerのHD-660SとSONYのMDR-M1STを用いました。
" 05 Fugata "のピーク値の連続データの周波数特性について
本アルバム5曲めの " Fugata " の全曲のピーク値の連続データの周波数特性を、下図に示します。
図 1. " Fugata " のピーク値の周波数特性(Wave Spectra使用)
この図では、縦軸横軸を補完しています。縦軸が音圧で、0dB~-80dB、また、横軸が周波数で、20Hz~20kHzとなります。
全体として、中高域に渡って稠密なピークが多く見られます。バンドネオン、ギター、バイオリン、ベース、ピアノといずれも豊かな倍音列を含む楽器が、それらを産み出しています。
最低域側では、-40dBと値は小さいですが、約40Hzのピークなどがあります。
本曲、Fugataは、ややハイトーンのバンドネオンから入ります。次に右側にバイオリン、さらに、左にギターとハイトーンが続きます。そして、ベースとピアノが加わり、バトルの様相を呈してきます。一方、音域のバランスは徐々に低域側に移ります。最終的には動から静へと遷移する感じです。
最初の35秒の、ピーク値の周波数特性
図 2. " Fugata " の0-35秒のピーク値の周波数特性(Wave Spectra使用)
導入部の、35秒間のピーク値の周波数特性を見ると200Hz以上が主なのがわかります。最も高いピークは、約374Hzで、F4#のようです。
なお、222Hz付近にピークがあるので、本曲のA4は、444Hz前後のチューニングと推定されます。
" 07 Sur: Regreso Al Amor "のピーク値の連続データの周波数特性
次に、本アルバムの最後の曲。7曲目の " Sur: Regreso Al Amor " の、ピーク値の周波数特性を示します。この題名は、英語で "South: Return to Love”という意味のようです。
図 3. " Sur: Regreso Al Amor " のピーク値の周波数特性
全体のピーク値を見ると、先程のFugataに似た印象です。
音楽的には、約60Hz以上の再生能力があれば、一見よさそうです。ただ、音圧は低いのですが、50Hz以下にもいくつかピークがあります。白いカーソルで示した値は約44Hzです。どうやらベースのE1と思われます。これらの再生能力は大事だと思われます。
本曲は、ピアノとベースの深い重めの音で始まります。静から始まり、ピアノのグリッサンドなどが秘められた感情を効果的に表しているようです。そして、最後は静かに幕を閉じるような印象です。
Z1000-FE108SSHP+スーパートゥイーターZ501での試聴
フォステクスの限定ユニットを用いたZ1000-FE108SSHPにスーパーツィーターZ501(ウォールナットエディション)を組合せてみました。
ネットワーク用のコンデンサは、1.6μFを用いました。
ベースの重い響きが伝わってきます。一方、バンドネオンなどの中高域との対比が、フルレンジ+スーパーツィーターとは思えません。でも音のつながりはいい。
バンドネオン、ピアノ、バイオリン、ギターがしっかり分離して聴き取れます。
ベースやピアノの低域は、朗々と鳴るという印象です。一方、中高音はキレが良い。ヘッドホンでは感じることができないスピーカーからの活き活きとした音を聴くことができます。
本スピーカーは、女性ボーカルなどでは、ともすれば癖のような刺さる感じがすることがあるのですが、本アルバムでは、その特徴がいい意味のテンションとして伝わってくるようです。
各音のダイナミックレンジの広さとキレの良さが、音楽性と高い次元でマッチして眼前に示され、ある種の緊張感と音楽の生み出すリラックス感が共存する感覚を得ることができました。
CD情報
アマゾンのリンク先(SACD他)