目次
はじめに
FE108SS-HPの概要
本ユニットの主な仕様を、他のFostexの10cmスピーカーユニットなどと比較できるように一覧表を作成しましたので、下に示します。
表-1. FE108SS-HPとFostexの10cmスピーカーユニットの一覧表
FE108SS-HPの主な仕様
標準価格 : ¥27,500(税込)円/1台
発売情報 : 2022年 2月25日 数量限定発売
スピーカー形式 : 10cm 口径フルレンジユニット
フレーム形式(穴数): 高剛性アルミダイキャストフレーム(8穴)
振動板等(材質) : セルロース・ナノファイバ・コーティング HP形状振動板
バッフル開口寸法 : 102 mm
マグネット重量 : 不明
総重量 : 1,830 g
FE108SS-HPの外観のレビュー
FE108SS-HPの外観について、写真で特徴を示したいと思います。
フレーム
FE108SS-HPのフレームは、FostexのFE108NSやFE108EΣと同様、アルミダイキャストフレームです。
写真 FE108SS-HPの斜め上方向
FE108SS-HPの左右に、同じくアルミダイキャストフレームのFE108EΣ(左側)、FE108NS(右側)、を並べて比較してみます。
写真 FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)、FE108NS(右側)の比較
FE108SS-HPは、マグネットが2段重ねなので、高さが突出していますが、フレーム部分については、FE108EΣとほぼ同じに見えます、端子を左右に180度離して配置している点や、フレームの刻みなども同型のようです。
これらと、FE108NSとは、端子の位置やフレーム形状が異なっています。また、取付穴数も、FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)とは8穴なのに対し、FE108NS(右側)は、4穴となっています。
FE108NSのフレームは、以前限定発売されていたFE108solと似ています。
下に2つを並べて示します。
写真 FE108sol(左側)とFE108NS(右側)の側面
4つの取付穴、フレーム形状、端子の位置などがほぼ同じです。
フレーム形状から言うと、FE108SS-HPは、FE108EΣの系列と思われます。
振動板とエッジ
写真 FE108SS-HPの振動板とエッジ
FE108SS-HPの振動板は、Fostex独自のHP(Hyperbolic Paraboloid)形をしており、一目でFostexとわかる特徴的な形状となっています。この形状により、軽量にして剛性の確保と共振の分散を高度に実現している、とのことです。
さらに、振動板の基層表面にセルロース・ナノファイバとマイカから成るコーティング層を形成するFostexの保有技術であるセルロース・ナノファイバ・コーティングを施しており、ヤング率、比曲げ剛性、音速を向上しながら内部損失の低下は抑制される特徴を有している、とのことです。
このコーティング層に加えられているマイカにより、見た目は少しキラキラとしています。
また、エッジにはUDRT(Up-Down Roll Tangential)形状を採用しています。これまた非常に特徴的な形状で、Fostexと即分かるアイコン化しています。
Fostexによると、この形状は多様な面で構成されているため全体の形状剛性が向上して共振が高い周波数に移動し且つ分散するので特定の大きなピークの発生を抑制でき、スムーズな特性が得られる、とのことです。
先程と同様、FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)、FE108NS(右側)を比較してみます。
写真 FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)、FE108NS(右側)の上面
振動板とエッジについても、FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)とは同系列であることがわかります。
これらと比べ、FE108NS(右側)は、16cm以上のFEシリーズの伝統といえるサブコーンのあるダブルコーン形式です。10cmクラスでこのサブコーンがあるのは、FE108NSだけです。また、エッジはコルゲーションタイプとなっています。
ちなみに、FE108NSの原型とも思われるFE108solの振動板形状及び、エッジ形状は、FE108NSと異なっています。
写真を並べてみます。
写真 FE108sol(左側)とFE108NS(右側)の上面
ダンパーと接続系
FE108SS-HPのダンパー部と接続配線部の写真を示します。
写真 FE108SS-HPのダンパー部と接続配線部
ダンパーもエッジと同様UDRT(Up-Down Roll Tangential)形状です。
スピーカー端子とボイスコイルは、ハトメレス構造のダイレクトリードとなっています。このダイレクトリードの引き出し位置は質量分布の対称性を考慮して180度位置からの回転方向引き出しとなっています。
磁気回路
振動板側を下にして、FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)、FE108NS(右側)を比較してみます。
写真 FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)、FE108NS(右側)の背側面
こうしてみると、FE108SS-HP(中央)とFE108EΣ(左側)のフレームは、ほとんど同じに見えます。
異なるのは、マグネットで、FE108EΣ(左側)は90Φのマグネットが1段。FE108SS-HPは、100Φが2段となっています。
また、外側からは見えませんが、ポール部に銅キャップを追加 することで、電流歪みを低減し、力強い音楽再生と中高音域の音質向上を実現した、とのことです。
FE108SS-HPの諸特性の検討
規格値の比較
表-1の値に基づき、FE108SS-HPと、FostexのFEシリーズの量産ユニットで、外形が比較的似ているFE108EΣ を主なレファレンスとして比較してみます。
まず、総重量が、FE108EΣの1,200gに対してFE108SS-HPは1,830gと約5割増となっています。これは、主に2段のマグネットによると思われます。Fostexのホームページに記載されているマグネットの直径が、FE108EΣが90Φで、FE108SS-HPは100Φとなっており、大きいので、一段がそもそも重いと考えられます。
ただし、FE108SS-HPのマグネット重量は公開されていないようです。
やや注意が必要なのは、バッフル開口径が、102mmでFE108EΣと同じですが、マグネット径が100Φですので、左右に広がっている接続端子からの配線を考慮すると、実際には無理があります。少なくも一部を拡げないと背面側に配線を通せません。
また、定格入力がFE108EΣに比べ15Wと大きくなっています。これは、比較的新しいFE108NSと同じです。
なお、瞬間最大許容入力の記載はありませんが、他のユニットは、定格入力の3倍の値が記載されているようです。
TS-パラメータの比較
次に、TSパラメータの値を比較してみます。
まず、Mms(等価質量)ですが、3.2 [g]と最も大きな値のFF105WKの3.4 [g] に近い値となっています。FE108EΣでは、2.7 [g]です。
次に、Cms(コンプライアンス)は、1.21[mm/N]と、FE108EΣの1.59 [mm/N]に比べ小さな値となっています。単位からわかるように、これは、1Nの力を加えたときに振動系が1.21mm動くことを示しますが、ダンパーなどの振動系の柔らかさを示す、ともいえます。
Cmsとは比例の関係にあるVas(等価コンプライアンス空気体積)も、FE108EΣの5.70[L]に対して、4.31 [L]と小さな値になっています。これは振動系のバネの力がより強いことを示しています。
これらから、FE108EΣに比べると、FE108SS-HPは、やや重く硬めの振動系を持つといえます。これを強力な磁気回路で、駆動しているわけです。
一方、Qts(=Q0;共振先鋭度)の値は、0.39とFE108EΣの0.3に比べ大きな値となっており、FOSTEXが、バスレフ用として推奨しているFF105WKの0.41に近い値となっています。
FE108NSや、FE108EΣ、FE108solなどのバックロードホーン用ユニットの各値よりやや高めの値となっているのは興味深いところです。
周波数特性と高調波特性の測定結果
本ユニットの周波数特性の測定
次に、FE108SS-HPの周波数特性を下図に示します。
図. FE108SS-HPの周波数特性とインピーダンス特性(上:周波数特性,下:インピーダンス特性)
これは、弊社の簡易無響室でユニットをJIS箱に入れてユニットから10cmの距離で測定した値です。
この周波数特性をみると、まず全体にハイ上がり、つまり、高域に向かうほど平均的に音圧が高くなる傾向をもつことが見て取れます。
また、中域と高域の凹凸が目立ちます。特に、500Hzまでは、徐々に音圧が高くなっているのが、一旦低くなり600Hz-1.5kHz 付近が凸凹しながらも盆地のような状態となり、2kHz-3kHz で急に音圧が高くなっています。また、10kHz付近と20kHz付近に大きなディップがあります。
ちなみに、88鍵ピアノの最高音は、C8(4186.01Hz)ですので、いわゆる基音の領域で凹凸があることになります。
このような特性の場合、曲によっては、少し刺さるような感じの音に聴こえる可能性があります。
その際は、スーパーツイータの追加が効果的な場合もあります。
中低域側については、マグネットも強力なので、BHBS(バックロードホーンバスレフ)やバックロードホーンなどのエンクロージャーの工夫で音圧をあげることが可能と思われます。
強力なマグネットを考慮するとこれらが本命かと思われます。
また、Qtsが、0.39と従来型よりもやや高いので、ダブルバスレフ的要素も考慮の余地があるかもしれません。
FE108SS-HPの音質評価
FE108SS-HPの音の傾向を調べるために、次の2種類のエンクロージャーにFE108SS-HPを実装して、実際に音を聴いてみました。
本ユニットについては、専用のエンクロージャーを開発予定です。従って、今回の試聴は、あくまで本ユニットの傾向を知るためのプレテストで、詳細については、別ブログで示したいと思います。
1. バスレフエンクロージャー (内容量;16L)
2. Bergamo 用のBHBSエンクロージャー(内容量;24.7L)
バスレフエンクロージャー (内容量;16L) の試聴
このエンクロージャーは、比較試聴用に以前作成したものです。ちなみに、当社の8cmユニット用のダブルバスレフ型のZ601(V2)は、7.5L(音道含む)、また、16cm用のMDFバスレフBOXキットは、20Lとなっています。
16Lは、通常の10cmユニットであれば、ある程度の低音再生能力も期待できるサイズです。
FE108SS-HPを取り付けて、試聴してみました。
低音がほとんど出ない、という結果でした。試聴に用いた音源は、Hotel Calofornia、Rock You Gentlyなど豊かな低域を含む曲も入っています。
強力な磁気回路などから、ある程度予想はしていましたが、これほど出ないとは、と思わせられる音でした。
ともかく、このサイズでは、全く足りないということだと考えられます。
バスレフの場合、相当、サイズを大きくする必要がありそうです。
Bergamo 用のBHBSエンクロージャー(内容量;24.7L)の試聴
本エンクロージャーは、マークオーディオ製で、当社の10cm最新ユニットであるZ-Bergamoを用いたZ1000-Bergamo用と同等です。形式は、BHBS(バックロードホーンバスレフ)となります。BHBSとしては比較的短い音道となっています。
内容量は、24.7L(音道含む)です。
FE108SS-HPを取り付け、試聴の結果、そこそこのバランスで鳴りました。ただ、Z-Bergamoに比べ、やや低音が軽い感じです。もう少しエンクロージャーのサイズを大きくして、さらに音道を長くするなど、ロードをかける方向にしたほうがいいのではないかと感じました。
また、中高域にやや癖があるという印象を受けました。特定の女性ボーカルなどでそれを感じます。
最終的には、スーパーツイータとの組み合わせも検討したほうがいいのではないかと思いました。
まとめ
FE108SS-HPは、フォステクスから数量限定販売として2022年2月25日に発売開始された10cmのフルレンジ・スピーカー・ユニットです。
今回は、FE108SS-HPの外観と諸特性の検討を行い、さらに2つのエンクロージャでの試聴を行いました。
また、Fostexの代表的な10cmユニットの一覧表を作成し、比較しました。
既存のFE108EΣにフレームや接続端子配置等の外観がよく似ていますが、FE108EΣのマグネットが90Φ1段なのに対し、100Φ2段と遥かに強力なマグネットとなっており、重量が1,830gと、10cmユニットとしては、最重量級となっています。
TS-パラメータのMms(等価質量)やCms(コンプライアンス)の値から、FE108EΣに比べると、FE108SS-HPは、やや重く硬めでバネの強い振動系を持ちます。これを強力な磁気回路で、駆動しています。
Qtsの値は、0.39で、バックロードホーン用と言えるFE108EΣ(0.3)の値よりも、バスレフ用のFF105WK(0.41)の値に近くなっています。
実際に本ユニットをエンクロージャーに実装して音を聞いてみると、16Lのバスレフでは、低音再生能力が発揮出来ず、短い音道のBHBSでもやや低音不足の傾向がありました。
本ユニット用のエンクロージャーとしては、よりサイズが大きく、ロードがもっとかかるようなタイプが適しているように思われます。