2021年11月30日まで受付
目次
開発1 OM-OF101 専用箱 (2021年9月18日)
毎年夏の恒例になりました、ムックの自作スピーカーユニットですが今年はONKYOさんのスピーカー初採用ということになったようです。すでにスピーカーユニットを入手された方も多いと思いますが↓↓です。
2021 ムック ONKYO OMOF101
https://amzn.to/3DVdLrQ
今回は制作をパスしようかなーと思っていましたが、amazonの評価を見るととてつもなく高評価なので迷っていました。と言いますのも、音工房Zは1つのスピーカー箱を作るのに普通のメーカーの10倍以上の労力をかけて1台を作り上げてゆくので、メインのスピーカーとなる商品は年に3つぐらいが限界なんです。
細かいアクセサリー系はちょくちょくamazonとからだしていますが、今年のメインSPは↓の2つだけです。
●【限定】Z600-OMMF4
●【限定】Z1000-FE168SSHP/Z701-FE168SSHP
ここでさらにONKYOの箱を作るとなると2021年は限定しかだしてないやん!!という状況になります。限定商品は莫大なエネルギーを費やして作った箱を毎回絶版にしているようなものなので時間効率的には実に勿体ないです。お客様ニーズもあり売れてくれるので致し方ない部分ではあるのですが、レギュラー商品にもっと力を入れたいと本音では思っています。
なので最近は限定を出すにしても、なんとか限定製作時に得たノウハウから別のレギュラー商品を作る方向にもってゆけないかと考えています。話が逸れましたが、ONKYOのOMOF101を4セット購入して聞いてみた印象を書きます。
ファーストインプレッション
弊社にすでにある8つの箱(4組)に入れて音を聞いてみました。
箱のサイズによって低域は当然変わりますが、高域も大きく変化してきます。
低域のバランスが変わることに相対的な高域変化ももちろんありますが、それ以上に空気室の吸音処理の影響を受ける振動板・エッジの印象がありました。フルレンジ評価において一番大事な高域の聴感における評価は当初80点ぐらいに思いましたが、ある程度エージングを経た後に聞いてみると、Z601(V2)に入れた高域が最もよく90点ぐらいでした。
シングルバスレフは吸音材を入れていないため、音量を上げると高域が突き刺さるところがあり85点ぐらいです。Z601(V2)は内部に斜めの仕切りがあるダブルバスレフに近い構造で、ダクトからの高域漏れはワンクッションあるのが大きいのでしょう。低域の評価は弊社で以前に販売していた16センチようの16Lバスレフ箱がピカイチでした。
雑誌に書いてある評論家さんの作例では5~10L程度のバスレフが多いですが、シングルバスレフでいくのであれば15Lぐらいにしたほうが良い印象があります。そのくらい大きい箱でも駆動できる印象があります。
もちろんこれは「音」のことだけで言ってまして、実用を考えると15Lの箱はかなり大きいので、部屋のスペースに余裕がある人でないと厳しいのは分かります。弊社で箱を作るとしたらZ601のサイズ拡大版で、15Lのバスレフよりは小さいが、同等レベルの低域を得る。高域は現状よりさらにレベルの高い吸音処理を目指す。
スペック的には違うのですが、FOSTEXのFE103NVとかと比較しながらやってみたら面白いかなと・・といろいろ妄想しておりましたら作りたい衝動には勝てず、やはり作ることにいたしました(笑)
出せるのはまだ先になってしまうと思いますが、弊社が箱を出す時には毎回ユニット完売の場合も多いので、是非ユニットだけ確保しておいていただけたらと思います。
2021 ムック ONKYO OMOF101
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開発2 OM-OF101 専用箱 (2021年10月5日)
OM-OF101の素性確認
先月に一度だけ音の確認のために、弊社にある箱4組に入れてテスト視聴してみましたが、たしかに1つ3500円とは思えないクオリティーの高さ。FOSTEXのユニットとかとは音の方向が異なりますが、、箱の販売を決めました。
Amazonでは今日見てみたら正規品は完売していて、2万超えのプレミア価格でだしてる業者とかいたりします。こういう転売屋さん本当に勘弁していただきたいです。
OM-OF101 (Amazon)
https://amzn.to/3ohL2Za
弊社は完成品販売用に少しユニットを確保しましたが、キット用はお客様にユニットをご準備していただこうと思っております。今日の時点で楽天にはまだありましたので、↓で定価で購入しておいていただけたらと思います。
OM-OF101 (楽天)
https://a.r10.to/hym6qB
※↑↑も10/9時点では完売しています。ONTOMOさんに問い合わせてみたところ、再販売は日時は確定していないが、検討されているようなので期待して待ちたいと思います。
前回弊社にあるの既存の4つの箱に入れた視聴でなんとなく傾向は分かりましたが、ここから深堀りしてゆくことで最高の1台に仕上げてゆきたいと思います。
4つの既存箱から分かった現時点での方向性
前回入れた箱は2つのサイズ違いのバスレフ箱と、Z601-Modenaとその似た構造でサイズの大きな箱です。スピーカーユニットの傾向としては、次回のユニットの特性のところでも紹介しますが、、ハイアガリなオーバーダンピングユニットではありません。能率低めで低域が良く出るスピーカーユニットです。
これまでの経験では、今回のONKYOさんのユニットは音道が2m以上あるようなバックロードは不向きという感じで、シングルバスレフで吸音処理を頑張るか、Z601-Modenaのような音道が短いダブルバスレフ構造が良いかなと思っています。
前回試した中で、最も低域の印象が良かったのは16Lというサイズが最も大きいシングルバスレフの箱でした。このサイズの低域を小型箱で同等レベルのものを目指すことが目標になろうかと思います。
ユニットのTSとF特調査
弊社のスタッフがOM-OF101を無響室にて測定したデータとTSパラメーターを測定したユニットの客観的なデータを掲載したページをブログに公開いたしました。次回はこのデータをもとに、ユニットの分析をしてみたいと思います。
ONKYO OM-OF101 辛口レビュー
開発3 OM-OF101 専用箱 (2021年10月13日)
TSパラメーターから音の傾向を知る
前回弊社スタッフが調査したOM-OF101のブログを掲載しましたが、冒頭に掲載しました、FOSTEXの10センチユニットの比較表が秀逸です。
この比較表は分かる人が見ると音を聞かなくてもなんとなく音の傾向が分かってきます。前回私が申し上げた通り低能率で低域が比較的でやすいユニットというのがスペックから読み取れますが、皆様にもおなじみのFOSTEXのユニットとの比較でお話します。
M0
まず振動系の重さを示す数値である、M0がFOSTEXのFE系ユニットの倍近くあります。
ONKYOのOM-OF101のM0 5.0
FOSTEXのFE103NvのM0 2.5
振動系を重くしますと、音全体のバランスはローブストに、逆に振動系を軽くしますとハイアガリになります。FOSTEXさんのFE系のユニットは低域よりか高域が多いハイアガリ傾向ですが、そのへんが良くわかりますね。
能率(出力音圧レベル)
そして、振動系が重いユニットは能率が低くなります(軽いユニットは能率が高くなります)。能率というのは、アンプのボリューム位置が同じだった場合にどれだけ音量が大きくでるかです。
ONKYOのOM-OF101の出力音圧レベル 86dB/W
FOSTEXのFE103Nvの出力音圧レベル 98.5dB/W
3dB/W違うとだいたい人間の耳で音量が倍違うと感じられるので大きな差ですね。
Qts(Q0)
続いて、
共振の鋭さを示すQts(Q0)値は、F0のダンピング具合を示します。この数値が低いユニットはオーバーダンピングユニットと呼ばれます。オーバーダンピングユニットは低域がスピーカーユニット側では出にくいので、バックロードのような低域を大きく盛り上げる方式が向きます。
一方で、Qts値が高いユニットは低域が出やすいのでバスレフが向きます。
さらに、Q値が高いユニットですと密閉⇒背面開放⇒平面バフルと低域がでにくい箱とマッチしてゆくことになります。
OMKYOのOM-OF101のQts 0.67
FOSTEXのFE103NvのQts 0.46
FOSTEXのFE108EΣのQts 0.3
私が聞いた感じですと、さすがに平面バフルや背面開放は難しくバスレフが無難なところでしょう。バックロードホーン形式で、出口を絞るBHBS形式の場合は音道が短いダブルバスレフに近い形式がマッチすると思います。
ちなみにFOSTEXの通年販売しているFEシリーズというのは他社のスピーカーに比べるとですが、基本ハイアガリなオーバーダビング系のスピーカーユニットです。そのオーバーダンピング度合いが、さらに細分化されております。右にゆくほどQtsが低くオーバーダビング傾向となります。
FE103Nv<FE108NS<FE108EΣ
限定ユニットは以前はオーバーダビング系一色でしたが、最近は必ずしもオーバーダビングではないものも増えてきました。話が逸れましたが、OM-OF101はFEシリーズと比べるとQtsが高めで、非オーバーダビングと言えるかと思います。
Cms
続いて、今回注目数値はCmsです。これはバネの硬さと柔らかさを示しています。主にダンパーとエッジですね。数値が高いほうが柔らかく、低いと固くなります。ユニットを指で弾いてみると、良く動くものと動きにくいものがありますがこのバネの硬さです。
OMKYOのOM-OF101のCms 0.599
FOSTEEXのFE103NvのCms 1.2
触ってみてもわかりますが、FOSTEXのFE103Nvの数値が倍近く違い、実際に触ってみても固めなのがわかります。バネはフラフラすぎても、硬すぎてもダメです。
私の印象ではバネが良く動いてくれる(高いCms)は細かい音を拾ってくれるが、音の歯切れ感が弱め。硬めのバネのユニット(低Cms)はその逆になります。ここにマグネットの制動が加わってくるので単純にこの数値だけでは音の傾向はわかりませんが、いずれにせよOM-OF101はFOSTEXのFE103Nvに比べてバネは固めで、振動板は重めです。
この重くて硬いユニットを駆動するのにマグネットがFE103Nvの1.5倍近い重さのものが必要になったと思われます。
F0(Fs)
最後にユニットの共振周波数です。これは振動板の重さとM0とバネの硬さのCmsで決まります。共振周波数は振動板が重く、バネが柔らかいほど低くなります。この2つの定数でF0が決まります。大口径のユニットは必然的に振動板が重くなりますから、F0が低くなります。
今回のOM-OF101は重めの振動板ですから、F0はもっと低くても良さそうですが、それ以上にバネ(Cms)が硬いのでF0はFE103Nvとさほど変わらない数値となっています。
OMKYOのOM-OF101のF0 92Hz
FOSTEXのFE103NvのF0 91.8Hz
FOSTEXのFE108EΣF0 77Hz
ちなみにFOSTEXのオーバーダンピングユニットFE108EΣのF0は77Hzと低いです。これはFE108EΣとFE103Nvと比較したときCmsがFE108EΣのほうが高くフラフラのバネで、しかも振動板M0が重いからです。フルレンジ1発のスピーカーの低域の最下限は箱で決まりますので、スピーカーユニットのF0の数値は私はさほど意識しません。
スピーカーユニットのパラメーターを分かると設計も面白くなりますので、ご自身で設計をされる方は参考にしてみてください。
開発4 OM-OF101 専用箱 (2021年10月15日)
OM-OF101の高域の分析
前回TSパラメーターから、このユニットの大まかな音の傾向をお伝えしました。TSパラメーターからわかるのは、音の全体的な傾向(ローブースト orハイアガリ)とか、どんな感じの箱が(バスレフ or バックロード)マッチしそうかとかです。
続いてフルレンジユニットにとって最重要のチェックポイントとなる高域の良し悪しです。これは実際にユニットを適当な箱にいれて生で音を聞いてみての判断になりますが、周波数特性のF特のグラフからもわかることがあります。
弊社での測定表はブログにだしましたが再度掲載します。
(OM-OF101の冊子にはONKYOさんの測定や評論家さんの測定がでています。測定条件がみんなバラバラですので当然結果は違いますが高域の特徴は似た傾向が見てとれます。)
音工房簡易無響室での測定 マイク10センチ
私は高域を見るときは、周波数特性の1KHzから5KHzあたりの凸凹を見ます。
OM-OF101は1KHzがいちばん低くてそこから5KHzまで右肩あがりの特性になっています。弊社の測定では差は4dBぐらいですかね。どんなフルレンジでも高域は凸凹しますので、全く許容範囲でむしろフラットに近いほうかと思います。
一般的な傾向としてですが、1~2KHzがピークがあるユニットは音全体が前に張り出してくる傾向で,デップがあると引っ込む感じがします。3~4KHzのピークは度がすぎると耳に突き刺さるような不快な感じがします。高域の煩いという感じは他の高域帯域でも起こりえますが、ここが一番きつく感じるところでしょう。発振器で純音を出せる方はお試しください。(逆に3~4KHzにデップを作ると大音量で聞いて高域の煩い帯域が気にならないので気持ちよく聞ける場合もあります。)
OM-OF101の高域特性は右肩上がりな感じでピークというほどではないので、どちらも大きくはあてはまらないのですが傾向としては後者よりです。
OM-OF101の高域はスペック上、そして聴感上大きな粗はありませんがあえて細かいところをいえば2~3KHzのピークというよりは右上がりな特性ををどのようにしてフラットに聞かせるかということかなと思いました。
別の箱を新たに4つ試作(8セット目)
一番最初に弊社で行った実験では↓の箱にOM-OF101を弊社の倉庫にある既存の箱に入れて音を聞きました。
(1)7Lのシングルバスレフの箱
(2)7Lのダブルバスレフ構造(Z601V2)
(3)16Lのシングルバスレフの箱
(4)12Lのダブルバスレフ構造
低音的には(3)を調整してゆくのが一番良いと思いました。しかしこれはサイズ的に大きすぎるので(2)か、大きくても(4)のサイズで同等の低域を目指す方向で行こうととりあえず暫定的に方向性を決めました。
今回のテストで(2)に優位性を感じたのは、同容量のシングルバスレフに比べて低域も良い上にダクトからでる3KHzあたりの高域が抑える効果を聴感上感じたことです。バスレフ箱でも吸音材を使えば、ダクトからでてくる高域を抑える事はできますが吸音材は必要悪ですから「ゼロ」が理想です。
方向性が決まったところで、さらに4つのダブルバスレフの箱を作りました。(合計で8つ目になります)それがこちら↓↓
この箱はZ601構造のダブルバスレフを容積やダクトを変える実験を行いたく、そのために容積をいろいろ変えて作りました。左から2セット目の12Lの箱が本命ですが、ここからダブルバスレフの測定やブラインドテストをしながら最終候補を決めたいと思います。
開発5 OM-OF101 専用箱 (2021年10月22日)
ダブルバスレフの実験2021年(1)
長岡鉄男先生の本のどこかに、「ダブルバスレフはバックロードより難しい」みたいなことが書かれていた記憶があります。難しいというのは設計が難しいという意味なのか、音として使いこなすのが難しいという意味なのかわかりませんが、これはやっていると確かに両方の意味でそのとおりだと思うことが多々あります。
ダブルバスレフの長所は特定の帯域(通常はローエンド)を思い切り伸ばせる。しかもバックロードに比べると時間的な遅れが少なく切れのある低域が可能という点。デメリットはローエンドに山を作ったのと同じくらいに別の帯域(中低域から中域)に谷ができてしまう点。バスレフに比べると時間的には不利。
バックロードホーンも、ダブルバスレフもその中間的な設計的(BHBS)なものもいろいろやってきましたが、公式みたいなものは未だにさっぱり分かっておりません。公式が分かっても最終的には音はシュミレーションだけでどうすることもできないことは分かっています。しかし可能な限り仕組みをおさえたうえで良いものにしたいと思いもあります。
以前に行ったダブルバスレフの実験の検証と新たな実験
ダブルバスレフの実験は昔に行ったことがあります。ブログに再掲載しましたのでご覧ください。
ダブルバスレフの動作を容積可変式BOX&可変ポートで検証(2016年の実験)
この時に行いました実験では、第1空気室と第2空気室の容積を可変式にします。第1ダクトと第2ダクトも可変式にします。合計で4つの変数があることになります。この実験では第1ダクトと第2ダクトの重要性が良く分かりましてその後のBHBSの第2ダクト調整のノウハウに非常に役に立ちました。
2016年に行った実験は周波数特性だけに着目したのですが、上の実験を行った際にインピーダンス特性も実は測定しておりました。
今回弊社のスタッフが実際の長岡鉄男先生のダブルバスレフの公式(インピーダンスの山と谷を予想)と弊社で24パターンのダブルバスレフの実測値がどれくらい正確にあてはまるかを検証しました。
↓をご覧ください。
ダブルバスレフ型スピーカーの実験・
研究1(2021年)長岡鉄男先生の公式の検証
少々上級者向きかもです。結論だけざっくり言うと、長岡先生のダブルバスレフの公式と実際に作って測定したインピーダンスの数値は乖離が結構ありました。
シングルバスレフに比べると、シュミレーションだけで共振周波数を出すのは難しく、「経験で~、手探りで~」という長岡先生の本に書いてある通りの感じではあります。やっている私もダブルバスレフの難しさには頭を抱えています。次の回では容積違いの4つの箱で、測定と視聴を繰り返しながらもう少し深堀りしてゆきたいと思います。
開発6 OM-OF101 専用箱 (2021年10月27日)
ダブルバスレフの実験2021年(2)
今日は試作した4つのダブルバスレフでおこなった実験と音の違いをレポートしてゆきます。
インピーダンスカーブからダブルバスレフを分析するとスピーカーユニットをJIS箱(巨大密閉箱)に入れて測定をすると、山が一つだけできます。これはスピーカーユニットの共振点と言われるf0です。
続いて、スピーカーユニットをバスレフ箱にいれてインピーダンスを測定すると山が2つできます。2つの山の間にできる1つ谷がバスレフダクトの共振点fdです。
スピーカーユニットをダブルバスレフの箱に入れて、インピーダンス測定をすると山が3つできます。3つの山の間にできる2つの谷がダブルバスレフの2つの共振点fd1とfd2です。ちなみにバックロードホーンは山が4つ以上できる複雑なインピーダンスカーブになります。
4つの容積の違う箱の、内部音道を両面テープで貼って少しづつ変えながらモノラルで測定を行い、代表的なところはステレオで作って音楽で確認します。
サイズ違いの4つの箱
今回のダブルバスレフの実験の特徴は実際に販売予定のリアルなエンクロージャーサイズで無響室でF特とインピーダンス特性を行いながら聴感でも確認を行います。実験の目的はダブルバスレフでは消すことができない中域のデップをいかに目立たないようにするかの手がかりを得ることに
あります。
実験1 第1空気室と第2空気室の容積比を大きく変えてみる実験
ダブルバスレフは一般的には第1空気室と第2空気室の比率を変えて設計します。
一般的には第2空気室のほうを大きくとることが基本となっています。長岡先生の本によると第2空気室は第1空気室の1.5倍から3倍とあります。第1空気室と第2空気室の容積比を変えてみたら何かしら手がかりが得られるのではないかということで実験しました。
今回の実験ではあえてセオリーを大きく外して、第1空気室を第2空気室を逆転させるパターンなども検証します。OMMF101用に作った13Lの箱を使って写真のように斜めの中仕切りを動かすことで容積比を動かしてF特性とインピーダンス特性を測ります。
真ん中の仕切りだけを動かすことで、他のファクターは同じで測定します。中仕切りを取ってしまったバスレフ箱も測定しています。
比率は先が第1空気室、後が第2空気室です。
(A)1:2
(B)1:1.5
(C)1:1
(D)1.5:1
(E)2:1
(F)中仕切りなしのバスレフ
(A)1:2
周波数特性 1m
(E)2:1
周波数特性 1m
(F)仕切りなしのバスレフ
写真
周波数特性 1m
周波数特性やインピーダンス特性的に(A)~(E)にどのような変化がでるのでしょうか?詳しくはブログに後日出したいと思いますが、ここではどんな音になったか(A)(E)(F)の音をステレオで一般音源で確認した結果をお話します。
第1空気室と第2空気室を逆転させた音は?(AとEの違い)
特性上での比較
一般音源でステレオで比較してみた評価を言いますと、意外や意外、音の差は第1空気室と第2空気室の比率を逆転させても差はそれほど大きくありませんでした。(AとEの聴感上の差は小さかった)測定での結果もまあ近いものがあります。ディップはEのが小さく、ローエンドもEのが出ています。
第2空気室のが小さいダブルバスレフは教科書的にはNGというかやる人がいない気がしますが、、、測定データはフラットで、インピーダンス的にはシングルバスレフに近いかたちでした。
これは何故かを考えてみました。第1空気室を大きく、第2空気室を小さくするということをすると動作的には第2空気室がダクトの一部のようになってしまってシングルバスレフのような動作に
なってしまうのではないかと考えました。
(E)のインピーダンスはシングルバスレフの2つ山に近いインピーダンスカーブになりました(3つ目があるけど極小)
しかし、面白いのはこの特性的にはシングルバスレフに似た箱も音は中仕切りを取ったシングルバスレフと比較すると全く異なるということです。
シングルバスレフとダブルバスレフの違い(AとFの違い)
特性上での比較
中仕切りを取ってしまったシングルバスレフ(F)だけは音が、先程実験した2つのダブルバスレフと聴感上音が大きく違いました。中域に凹みがなく周波数特性的には最もフラットで良いはずのバスレフですが、音的には低域の量感や力感が劣って聞こえました。
測定した周波数特性の差だけでは説明できなほどの差に感じます。バスレフは低音の量自体が少なく感じられ、オーバーな表現ですがダブルバスレフはサブウーファーを追加してブーストされて
いるように感じました。
原因はよくわかりませんが、12Lあるとシングルバスレフでは箱の容積が大きすぎなのでしょうか?もしくはダブルバスレフの音道を通った低域の遅れを量感と認識しているのでしょうか?
もしくは、開発者である私たちにバイアスがかかってダブルバスレフを良く感じてしまっているのでしょうか?ここはブラインドテストでもしないと分かりませんね。
空気室の容積比率調整で中域ディップは解消できたか?(まとめ)
第1空気室と第2空気室の比率を1:1.5~3という長岡先生の式通りにするとインピーダンスの山が3つくっきりでます。中域の谷も大きい典型的なダブルバスレフの特性となりました。
この比率は小さくし、さらに逆転までさせるとインピーダンスの3つ目の山は小さくなり「シングルバスレフ」に近い特性となりました。中域のディップはありますが、小さいです。今回測定したケースでは最もローエンドが伸びていたのもこのパターンでした。
非常に大雑把に言うと、第1空気室と第2空気室の比率を教科書通りに大きくするほど、インピーダンスが3つで特性も中域の谷を作るダブルバスレフ特性になりました。第1空気室と第2空気室の比率を小さくする又は逆転させるようなことをすると、シングルバスレフに近い特性になるようです。
つまり、ディップをゼロにはできないですが谷を小さくすることはできるようです。周波数特性の平坦さだけを見ると、ダブルバスレフとかバックロードというのはNGになります。音を聞かずに測定と特性分析をしているエンジニア系の人には受け入れ難い形式ではあります。
しかし、聴感比較やブラインドテストををするとフラットなものが必ずしも良いわけではないことがわかります。ダブルバスレフは中域にディップを作るデメリットがあるかわりにローエンドを伸ばすというメリットをとる形式です。
100~300Hzの間の中低域から中域にかけてのディップは大きすぎては問題があるでしょうが、小さいディップは音をスッキリさせる効果もあるのでメリットにも成り得ます。では、どの辺りの帯域にどのくらいの谷なら良いのかも知りたいところです。次の実験は今回のダブルバスレフの実験のハイライトになります、第1ダクトの調整でのディップの調整のお話をします。
開発7 OM-OF101 専用箱 (2021年11月1日)
ダブルバスレフの実験2021年(3)
前回は同一容積における、第1空気室と第2空気室の容積比率を変えることで、中域のディップは消せないもののバスレフ的な特性に近づけることがわかりました。今日は第1ダクトと呼ばれる、エンクロージャー内部にあるダクトの幅や長さを変えることでこの中域のディップの深さや位置を動かすことができないかを実験します。
実験2 第1ダクトの調整を繰り返して、中域のデップ位置を変えられないか?
行いました実験は↓の4つのすべての箱で、第1ダクトの断面積を9mm、18mm、27mmと3段階に変えて、周波数測定とインピーダンス測定を行います。第1ダクトの断面積以外はすべて同一の条件で測定を行います。
3段階のダクト断面積の写真
すべて測定するのに僅か12パターンですが、側板だけを外せるようにした箱で第1ダクトを両面テープで指定位置にとめて、クランプで側板をとめた状態で測定を繰り返します。
さらに2つの箱については、ダクトの長さを長くした上で断面積を3パターン測定しました。バスレフの調整をご存知の方には分かると思いますが、、バスレフの場合は「断面積」を絞るのと「長さ」を伸ばす動作は同じになるはずですが、ダブルバスレフの第1ダクトでもそのようになるか確かめてみようと思ったのです。測定は私大山とスタッフで協力して無響室にスピーカーを入れて測定しましたが、丸一日かかりました。
第1ダクト調整の結論
細かいデータ等は後日ブログに出したいと思いますが、次の事がわかりました。
「第1ダクトを調整することで、インピーダンスの一番右側の山を左右に動かすことができる」
このインピーダンスの一番右側の山はダブルバスレフに必ずできる中域のディップにほぼ対応しています。インピーダンスの変化はダクトを調整した数値にほぼ一致しますが、周波数特性とは
完全に一致はしません。
これはユニット自体の凸凹や、測定時の位相反転などが関わってくるからだと思いますが、概ねF特上のディップを左右に動かすことができることが分かりました。
上の写真を見ていただくと、第1ダクトが影響しているインピーダンスの山と周波数特性上のデップを赤丸で示しています。
ダクトの断面積を小さくするか、ダクトを長くすると赤丸の位置が左側に行きます。
(共振周波数が下がります。)
逆に、ダクトの断面積を大きくするか、ダクトを短くすると赤丸の位置が右側に行きます。
(共振周波数が上がります。)
動きとしてはバスレフの動作と同じですね。
つまり第1ダクトを調整することで、ディップの位置を左右に動かすことができることが分かりました。次に実際に3パターンにディップを変えて見た時の音を実際の音源で視聴してみました。
実際の音源での視聴テスト
実際に中域のデップを動かして共振周波数を動かしたスピーカーをステレオで組んで比較試聴しました。第1ダクトの調整を行いディップの周波数を(1)177.8Hz(2)133.4Hz(3)113.8Hzになるようにしました。無響室で測定した1mでの特性およびインピーダンスは下をご覧ください。
(1)ディップ周波数177.8Hz
(2)ディップ周波数133.4Hz
(3)ディップ周波数 113.8Hz
結論をいいますと、
最も音に問題があると思ったのが(1)177.8Hzでした。ディップが一番小さいにも関わらず音としては中域特有の抜けに違和感を最も感じました。次が(A)でした。最も良いのが(B)でした。この辺は今度デジタルのグライコなどで細かく調べて見たほうが良いと思いますので追加の実験をしてみようと思います。
ディップには深さ(dB)の問題もありますし、傘が閉じたピンポイント型のディップと傘が開いたような範囲の広いディップまで様々です。音源、部屋、音量の影響もあるでしょう。ですので、一概に言うのは難しいのですが、今回の実験からは、120~150Hzあたりの範囲の帯域のディップが目立ちにくいのかなと思いました。
実験を終えて 特性上最も優れた音道で試作
今回4つの容積違いの試作箱を使って様々なダブルバスレフの実験を行ってきました。今回の実験は第1空気室と第2空気室の容積比と、第1ダクトの調整を主に行いましたが、他にも細かいことをやりましていろいろな知見を得ることができました。長岡先生の公式と実際の測定データがどこまで合うか等も検証しましたので興味のある方は下をご覧ください。
今回は無響室の測定データーだけでなく聴感のテストもはさみましたので、結構時間がかかりました。
ここまでに得られたデータの中で、周波数特性的によく実際に聞いても良さそうなものを基準としてOMOF101最終仕様を決めてゆこうと思います。ダブルバスレフの実験は疲れ果てましたが、非常に有益な情報が得られたと思います。
次回からは社内ブラインドテスト、そして最終仕様で製作した2セットのフィンランドバーチベニヤでの音決めの模様をお伝えしたいと思います。
完成間近まで来ました。
開発8 OM-OF101 専用箱 (2021年11月2日)
これまでにダブルバスレフの実験をひたすら行ってきました。測定室で行ったテストと超感で最も良かった内部設計で作ったスピーカーと、2つの容積のシングルバスレフと社内でブラインドテストを実施しました。
ブラインドテストは理屈で頭がカチカチになっている私達のプライドを毎度ズタボロにしてくれますが(笑)、音の最終決定は理屈や測定やシュミレーションではなく、心を無にした状態の人間の感性のほうが大事だと思っています。
つまり、今回の社内ブラインドテストによって2週間ぐらい必死で実験してきたダブルバスレフの理屈が全否定され振り出しに戻るかもしれないのです(笑)が、この時点で大きな過ちに気づくことができれば安いものです。2つのテストを行いました。
社内ブラインドテスト1
3.8Lのバスレフ箱と、弊社で計画している12Lのダブルバスレフ箱の2つを比較。
低域が多い音源10曲を使って、好き嫌い&どっちが鳴っているかを当てるテスト。3.8Lという容積はonkyoさんのリファレンスとして本に書いている容積です。ダクトの共振周波数も書かれている通り80Hzに設定しました。この小型箱を作るのは少し面倒だったので、弊社でダブルバスレフの実験ように作った試作機に↓のような仕切りを入れてバスレフ化しております。
個人的には3.8Lより、12Lのほうが低域は明らかに良いと思っていますがブラインド状態で分かるのかをチェックです。もし、ここで大きな差がわからないということになった場合、本当にスタート
地点に戻らなければならなくなります。
テスト結果1
条件と解答用紙
https://otokoubouz.com/melmaga/2021/omof101/blindtest1.pdf
このような結果がでるのは初めてかもしれませんが、10曲聞いて二人とも満点でダブルバスレフを好みに選択しました。これは結構凄いことです。3.8Lのバスレフ箱と、12Lのダブルバスレ
フを同じユニットで比較しています。このような比較をやったことがある人であれば、ブラインド状態でなければ違いは当然分かると思いますが、、
ブラインド状態でいろんな音源を比較して10発10中で選ぶことがどれほど難しいかはテストを受けた人でなければわからないかと思います。曲によっては自信なしの?マークも書かれているので、当然運良くたまたまあたっただけの部分もあります。
しかし、3.8Lのバスレフと12Lのダブルバスレフでしたら目隠しでもほぼ聞き分けができるようです。
社内ブラインドテスト2
ブラインドテスト1は無事クリア。まさか満点で通過するとは思いませんでした。続いて、2つ目は音工房で本命に考えている12Lのダブルバスレフと、ファーストインプションで印象の良かった16Lのシングルバスレフ箱です。
同じくテストはどちらが鳴っているかを当てるテストと、好き嫌いを兼ねております。ブラインド状態でない場合、40Hz以下の低域の下がたっぷりはいっている音源だと、差が一聴してわかります。40Hz以下が入っていない音源の場合は中域の抜けが若干ダブルバスレフにあるのがわかりますが、極わずかです。
容積差を考えると互角ぐらいになってくれれば十分なのですが、果たして結果は?
テスト結果2
条件と回答
https://otokoubouz.com/melmaga/2021/omof101/blindtest2.pdf
ほぼ互角でした。詳しくは上のリンクでご確認を。大山6/10、佐々木5/10をダブルバスレフに
選びました。ローエンドを多く含んだ、1曲目ホテルカリフォニアと、2曲目Rock you gently
だけはダブルバスレフのローエンドの量感を2人とも正しく認識できていましたが、それ以外の曲は意外とあたっていませんでした。
容積が小さいダブルバスレフの箱(12L)で、容積が大きなバスレフ箱(16L)に互角であれば実質勝ってるとも言えなくないのですが、、、もう少し良い結果がでればと思ったのも正直なところです。
感想とこれから
総論しますと、大きな箱強し!です。今回はダブルバスレフの実験をしながら、12Lの箱を作り込んできましたが、無事に社内のテストはパスしました。ダブルバスレフのデメリットである、中域のディップを極力目立たないかたちにしながらローエンドを伸ばすところを良い感じで両立できていると感じます。
ダブルバスレフの良さは40Hzあたり超低域にあるので、ブラインドテストでは音源によって良し悪しはいかようにも変わるのを感じました。あとは吸音材のセッティングと、第2ダクトの微調整を残すだけとなりました。次回が最終回となるかと思います。
開発9 OM-OF101 専用箱 (2021年11月8日)
今日はOM-OF101の開発の最終回になります。
開発を簡単に振り返りますと、まずは弊社にもともとあった容積違いの箱4セットで視聴。
シングルバスレフの16Lサイズの低域が好印象だったのですが、サイズがいかんせん大きい。
そこでこれより小さいサイズで音を近づけることを最初考えました。高域に目を向けますとシングルバスレフとダブルバスレフは高域の印象がだいぶ違います。 ダブルバスレフはダクトからでてくる高域は音道を移動する際に減衰してでてくれるからと思いますが、高域は良い意味でマイルドになります。
逆に言うとバスレフは高域がダクトからか、ユニットの振動板を通じてからか分かりませんが、尖った高域が多くでてきます。これはダブルバスレフとの比較するとよくわかります。
(これを処理するには多めの吸音材を使うしかない!)
低域拡張のためにZ601スタイルで容積を拡大したテストSPを4パターン製作。ダブルバスレフの中域のディップをできるだけ小さくしながらローエンドを拡張する音道を無響室テスト&生視聴を繰り返しました。
そして、
今回最終試作として新たにフィンランドバーチベニヤで2セット作りました。それが下です。
合計で10セット目ですね(汗)。
ここで2セット作ったのは、販売用の最終仕様のものと同じ容積で仕様のある一部分だけを変化させて比較するためです。
第2ダクトの最終微調整
ダブルバスレフにおける第1ダクトはスピーカーの内部にありスピーカーを組んでしまうと見えなくなってしまいます。なので、基本ダクトのチューニングとかは箱をボンドで組んでしまうと変更するのは困難です。
一方の第2ダクトは、シングルバスレフのダクトに相当するもので、スピーカーから放射されるものです。
そのため、スピーカーが組み上がってからも調整は比較的容易に行えます。第2ダクトは音への影響も非常に大きいところで毎回時間をかけて行います。今回はすでに中途の過程で視聴を繰り返していたのでだいたいどのあたりがよいかの「あたり」はついていました。
今回は下のような治具を用意して、ダクトをクランプで挟むことでミリ単位の長さ調整を左右のスピーカーで行いました。
今回こちらには書きませんでしたが、第2ダクトは無響室で測定をしていて発見がそこそこありましたので、聴感でどうなるかの確認も兼ねております。
最終的には、前回のブラインドテストで採用したダクトより開口の断面積を3mm広げて長さを少し長くしました。書き出すと長くなるのですが、スリットダクトはあまりに矩形が潰れた形にしすぎると空気の抵抗が激しくなりすぎるのか動作がリニアでなくなるようなのです。
これは今回のダブルバスレフの測定で得た収穫を実際に適用しました。
フラットな特性のバスレフの良さと、下を伸ばしたダブルバスレフの良さを極限的に両立できたと思っております。
吸音材の調整
吸音材調整が音に及ぼす影響は、最後の味付けみたいなものです。
空気室に極端に吸音材をぎゅうぎゅうに詰めるとかしなければ、好みで量を調整して良いかと思っています。Z601-Modenaでは「吸音材なし」を標準にしていますが、好みで入れていただいて
おります。
今回のOMOF101はどうだったでしょうか?
2セットフィンランドバーチで作ったキットの片方に吸音材を入れ、片方に入れて聞いてみました。
僅かな差ですが、1KHzあたりのピークが若干いなされている感じがしました。吸音材なしでも行けると思いましたが、測定上でも良い結果がでていたので今回は1枚だけフェルトを標準とすることにしました。
Z601をベースにOMOF101専用にチューニングした箱、山あり谷ありで結構大変でしたが最終調整終えました。
2021年11月30日まで受付