目次
ヴァイオリン協奏曲 / シベリウス / 諏訪内晶子 :SACD multi-ch
規格品番: [UCGP-7009 470622-2]
曲と演奏者の概要紹介
今回ご紹介するのは、SACD multi-ch のアルバムです。
5.0 suround録音のご紹介になります。
規格品番は、[UCGP-7009 470622-2]です。
諏訪内晶子(ヴァイオリン)とバーミンガム市公共楽団/サカリ・オラモ指揮によるシベリウスのヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47とウォルトンのヴァイオリン協奏曲ロ短調 [UCGP-7009 470622-2]、からシベリウスの第1楽章を取り上げます。
本アルバムは、ハイブリッドディスクで、通常のCDフォーマットと、SACD Stereo、SACD multi-ch(5.0 suround)の3種類が収録されています。内容は同一のレコーディングのようです。シベリウスの曲が2002年6月26日、ウォルトンの曲が2002年3月6日の録音です。
シベリウスもウォルトンもヴァイオリン協奏曲は共に本アルバムに収録されている一曲のみとのことで、本アルバムのタイトルに大きく ”ヴァイオリン協奏曲” と記載されている所以でしょう。
諏訪内晶子は、東京生まれで、桐朋学園大学の後、ジュリアード音楽院本科及びコロンビア大学を経てジュリアード音楽院修士課程終了、さらにベルリン芸術大学でも学びました。
1990年最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。
その後、NHK交響楽団、ボストン交響楽団、パリ管弦楽団、サンクト・ペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団などとの数多くの共演実績があり、国際的に活躍を続けています。
バイオリンは、2000年から日本音楽財団に貸与されているストラディバリウスの1714年製「ドルフィン」。このドルフィンは、かつてヤッシャ・ハイフェッツが愛用していた銘器という事で有名です。
本アルバムのウォルトンのヴァイオリン協奏曲は、そのハイフェッツのために作られた曲とのことです。ウォルトンは、イギリスの作曲家ですが、バーミンガム市交響楽団はイギリスの名門楽団として有名です。
また、シベリウスは、フィンランドの作曲家ですが、指揮のサカリさんは、フィンランド出身で、フィンランド放送交響楽団のコンサート・マスターとして活躍してきた実績を持ちます。また、シベリウスのこの曲を自身がソリストとしてレコーディングしたこともあります。
このアルバムが録音されたのは、時期的に同氏が、バーミンガム市交響楽団にサー・サイモン・ラトルの後任指揮者として抜擢されてまもなくの頃にあたります。
本アルバムの選曲には、指揮者、交響楽団、作曲家、そしてヴァイオリンの歴史が織り込まれているようです。
特に今回ご紹介するシベリウスのバイオリン協奏曲は、北欧的な寂寥感をたたえた名作といわれています。
特性測定と評価
本曲のピーク値の周波数特性の特徴
本アルバムのシベリウスバイオリン協奏曲第1楽章のピーク値の周波数特性を示します。
グラフの縦軸が音圧(dB)、横軸が周波数(対数表記)で、96kHzまで表示しています。
なお、本曲の試聴は、SACDマルチ(5.0ch)で行っていますが、この測定データは通常のCDフォーマットデータをWAVに変換したものを用いています。従って、SACDの周波数特性とは、特に超高音域が異なっていると思われます。
曲全体の周波数特性に関する特徴
図 ピーク値の周波数特性
なお、以下記載のある曲と各ピークの確認等については、ヘッドフォンにより行っています。このモニター用のヘッドフォンには、主にSennheizerのHD-660Sを用いました。
また、DACには、GustardのX16、ヘッドホンアンプには、同H16を用いてヘッドフォンも含めフルバランス出力でモニターしています。
グラフの文字が小さいので補足しますと、縦軸は、最大が0dBで、以下、-20,-40,-60,-80と表示されています。
また横軸は、緑色の表示が、左から、20、100,1K、10kとなっており、右端は、96kHz(192/2)です。このグラフでは、約30kHzまでデータが表示されています。この領域はほとんど-70dB以下ですので、何らかのノイズ成分と推定されます。
全体の形状で、気づくのは、2kHz以下の音圧がクラシックとしては比較的高く、-20dBを超え-10dB程度となっていることです。特に、200Hzから100Hz程度の音圧が高く、左ほど高く、なだらかに右が低くなっている形状となっています。
このような低音側の音圧が高く、なだらかに高音側の音圧が下がっていく形状は、クラシック系では珍しく、最新のラップ音楽に似ています。
ただ、それらと比べて、さすがに50Hz以下の超低域の音圧は低いですが、60Hzにピークが一つあります。40Hz以下の-40dB程度の信号は、曲の最初からずっとでており、暗騒音と思われます。
通常の再生装置で再生出来る100-200Hz 付近の低音域の音圧が全体の中でも高く、充分に豊かなので、曲としては、安定した雰囲気をあたえるのではないかと推察されます。
さらに、右側は、約20kHz近くまで-60dB以上の音圧があり、周波数帯域が広い録音となっています。
なお、実際に細かく聴いてみると、バイオリンのソロパート部分の最大音圧は、100-2kHzにおいても-20dB以下ですので、この2kHz以下の周波数領域での高い音圧は、オーケストラが支えているのがわかります。
オーケストラなので、弦楽器もあり、ソリストのバイオリンと絡み合う部分もあるのですが、全体的に、中低音部がオーケストラ、中高音部がソロのバイオリンといった構成に聴こえます。
従って、約3kHz以上での音圧は、かなりソロのバイオリンが担っている印象です。
このバイオリンの倍音列は大変豊かで、その結果が、3kHz以上の領域での稠密なピーク分布となって現れています。
主旋律の周波数がせいぜい2kHz(例えばC7が2093Hz)であることを踏まえて、このピーク周波数分布をみると、10kHzぐらいまで-40dB程度の強度のピーク出力があるのは、特徴的と言えます。
これは、艷やかな響きの特徴をデータとして示していると言えると思います。
ちなみに、優秀な録音であるハーゲンカルテットのベートーベンの弦楽四重奏などでは、1-2kHzでは、-20dBを上回り、本曲と同様ですが、10kHzでは約-60dB程度とはるかに減衰しています。
この曲を実際に聴いてみると、かなり小さな音からこのグラフで示されているピーク音までかなり素早く切り替わり、とてもダイナミックレンジが広い録音の印象です。
また、リアルタイムで観察してみると、ヴァイオリンのソロパートの部分で、主旋律が300-1kHz程度であるにも関わらず、主旋律の発音と同時に100Hz以下の音が常に記録されています。興味深い特徴と言えます。
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲第1楽章 5.0chの試聴
Z800-FW168HRS(Front) + Z-Liborno(Center)+Z800(Rear)での試聴
ヘッドホンで聴いても、本曲のダイナミックレンジとバイオリンの音色の艶やかさが印象的ですが、以下、5.0chで試聴した結果のメモです。
ほとんど無音のような、かすかなオケの弦楽器ではじまります。
この時点で、なんとなく、”空間”を感じます。
前方センターからバイオリンのソロが始まります。それに続いて、やや左でしょうか、オーボエのような管楽器が掛け合いのように重なってきます。
そして、約1分後、オケがフワッと空間に漂い、バイオリンは前方に定位して奏で続けます。
このフワッと包み込むような音場感が独特です。この感覚は2chでは感じられません。当然、ヘッドホンでもわかりません。
オーケストラが、ソロのバイオリンを囲むように鳴っているのを感じるのです。さらに部屋が広く感じます。
囲んでいながらも、例えば、コントラバスの低音は歯切れよく、良く響きます。
案外、定位はしっかりしています。
このオケの包み込むような感じとソロのバイオリンのセンターからの艷やかでしっとりとした響きで、音楽に入り込んで行ける感じがします。
その雰囲気の中で、ピアニシモのバイオリンの響きのかすかなビブラートが印象的でした。
なお、センターのZ-1にスーパーツィーターのZ501を追加したほうが、定位感と音の艶やかさの向上に効果的なようでした。
試聴に用いた製品の紹介
今回の試聴に用いた主な製品を、ご紹介します。
〇AVアンプ : TX-RZ830(ONKYO)
〇ユニバーサルプレーヤー: UBP-X800M2(SONY)
〇スピーカー:
1. Z800-FW168HR
https://otokoubouz.com/z800/fw168hr.html
2. Z-1-Livorno (S)
https://otokoubouz.com/z1/livorno.html
3. Z501(C=0.82μF):センタースピーカーのZ-1と組み合わせ
https://otokoubouz.com/z500/501.html
CD情報