実験 点音源スピーカーに効果のある帯域とは

 前回の点音源と面音源のコラムの続きで、「点音源スピーカーはどの帯域に効果があるか」について自身で行った実験をもとに考察してみます。みなさんスピーカーの指向性の話はご存知かと思います。

 スピーカーユニットからでた音は、低域は360度広がるようにでるのに、高域にいくに従いビーム状にでるようになるのをご存知かと思います。

 スピーカーの正面ではなく真後ろに立って聞いた場合低域は音が周りこんでくるので直接音として耳に入ってきますが、超高域は音は背面には直接は届きません。部屋の中では音が反射するので、スピーカーの後ろで聞いても間接音として聞くことができますが、無響室では聞くことができません。

 音は低域では後ろに回り込む。これは「指向性がない」といいます。

 高域では回り込まずに直線的に出る。こちらは「指向性がある」といいます。

 砲弾型の点音源スピーカーのメリットは、音が後ろに周りこんでしまう際に音波が箱(バフル)に反射する影響を受けずに原波形が比較的崩れにくい状態で空間に放射されることにあります。

 つまり、点音源スピーカーは音に指向性がない(=音が回り込んでくる)帯域に効果があるのであって、強い指向性のある(=音が回り込まない)帯域には効果があまりないことになります。

 

「あれ?大山は前のメールで点音源スピーカーは高域に一番効果あるみたいなこと言ってなかったか?」

「高域は指向性が鋭いのだから、砲弾型にしたところで音は普通の四角い箱と変わらないのではないか?」

と思われた方も多いと思います。

 これの答えのヒントはスピーカーユニットの指向特性表にヒントがあります。

 スピーカーの指向性はユニットによっても大きく異なりますが、、フルレンジスピーカーFE108Solの場合の指向特性を見てみましょう。

0度、30度、60度というのが指向特性を表しています。

 グラフを見ると2KHzあたりまでは0度、30度、60度のラインが同一、つまり角度が開いても同じ音圧なので指向性がない帯域と言えます。要は20Hzという超低域も2KHzという結構耳に敏感な高域もスピーカーの角度が30度、60度のどのラインなら音圧は0度(軸上)とほとんど同じということです!

0度、30度、60度というのは、↓のグラフのようなイメージで測定をしたときに、音圧レベルがどのくらい0度に比べて落ちるかを示したものです。

しかし、60度程度では音が回り込んでいるといえるような角度ではないので、もっと広い90度、120度、150度、180度という角度での指向特性を測定する必要があります。

↓のように背面まで回り込んだ位置にマイクをセットして測定する必要があります。

 スピーカーは、ユニットのフロント側にリスナーが来ることを想定していますから60度以上の指向特性を測定することに多分意味がないのでこのようなグラフをだしているF特は見たことがありません。

 ということで、私が無響室で8センチのZ-modenaを使って0度(軸上)から180度(真後ろ)までの30度ごと、7段階の指向特性を測定してみました。無響室が広くないので、マイクではなくスピーカーの角度をぐるぐる回して測定しています。↓のようなイメージでの測定です。

低域200Hz以下は簡易無響室の広さの限界で信頼性があまり高くあませんが高域は体育館クラスの無響室とほとんど同じ結果がでます。

その結果が↓のグラフです(全体グラフ)。

 ちょっとこれだとわかりづらいですが、角度がつくにつれて、軸の特性から高域にいくに従って特性が離れていくのがわかりますね。わかりやすいように軸上(0度)とそれぞれの角度の比較をだしておきます。点線が軸上(0度)です。

0度と30度

0度と60度

0度と90度

0度と120度

0度と150度

0度と180度

 音は回り込みがある帯域(指向性がない)と、回り込みがない帯域(指向性がある)がどこかに堺があるのではなく、グラデーションのように変化しているのがわかると思います。

 音の回り込みというところに着目するには120度、150度、180度の測定結果を見て、どのあたりの帯域の音がどの程度のレベル0度との比較ででているかで判断することができます。

 測定の誤差はありますが、概ね200Hz以下は軸と角度をつけたラインは一致しています。つまり、音は完全に回り込んでいる帯域といえます。

 5KHzを超えると10dB以上、10KHzを超えると20dB以上差があります。これらの帯域は音が周りこまず直進しているので強い指向性を持っているのがわかります。

 最も着目していただきたいのは200Hzから2000Hzという中域から高域にかけての広い帯域です。

 これらは指向性が0dBから指向性が-10dBぐらいとでてくる移行帯域というか、グラデーション部分にあたると言えるかもしれません。

 2000Hzというと結構高い音なので、音は後ろには回ってこないで、直進していると思い込んでいる方も多いと思いますが、、

 測定結果からも分かるとおりこれらの帯域は結構音が後ろに回ってきているのが測定データからもわかります。

 砲弾型スピーカーが高域帯域に大きな効果がでるのは人間の耳に敏感な高域が結構後ろに回り込みをする帯域だからと言えるのではないでしょうか。

 ちなみに、低域は回り込みますが波長が長いのと人間の耳にとって差を高域より聞きとりづらいので点音源化のメリットが相対的に小さいのだと思います。

 余談になりますが、音響パネルをスピーカー背面にセッティングすると高域も大きく変化しますが、今日のお話をご理解いただけるとその理由は分かるはずです。

 

人気記事一覧

データはありません