三島の鉄人W様から測定の指南を受けてきました

 今日は私のスピーカー測定の師匠であります静岡県三島市にお住まいのW様のリスニングルームに訪問させていただいたお話になります。現在準備中の部屋とスピーカーの測定コンサルティングについて、ノウハウを蓄積したく、事情をお話したところご快諾いただきました。

  私が学んだことと、REWの機能でルームチューンで使えそうなことを書きます。いつもよりちょっと長めの記事になります。W様のリスニングルームに訪問させていただくのは7~8年ぶりという感じになります。W様はオーディオや測定についてとてつもなく高いレベルの知識とノウハウ、情熱をお持ちの方です。

 市販されている測定用のソフトウエアには飽き足らずご自身で測定用のPCソフトを作ってしまわれるようなセミプロレベルを遥かに超えている方です。Wさんオリジナルの測定用のソフトウエアについても使い方をマスターしたらいづれ紹介したいと思います。

 

リビングの定在波確認

 Wさんのリスニングルームは下のイラストのように、専用のリスニングルームとリビングの2つが繋がっています。引き戸で仕切られております。

 2つの部屋の広さはレーザーポインターで測定したところほぼ同じ広さで、約41平米。12畳+12畳の広さがあります。

 WさんのスピーカーはPCをデバイダーとして位相調整をされる仕組みでパッシブではありませんので、弊社のZ1-Livornoを持参してまずは定在波確認をリビングで行いました。REWのルームシュミレーター定在波確認をするために、リビングの部屋の寸法である3.9m(W)*3.9m(D)*2.7m(H)を入力しました。

サインウェーブを40Hzあたりから1/3オークターブで変えて流して実際に定在波の山谷を聴感確認してみますが、全くシュミレーション上の山谷と一致しません。なぜその時に気づかなかったのかわかりませんが、REWの設定をリビングの広さで入力していて、リスニングルームを入れておりませんでしたが、本来は↓のように入れるべきだったのかもしれません。

リビングのみの定在波シミュレーション

リビング+リスニングルームの定在波シミュレーション

 

サインウェーブを入れた時は、130Hzあたりに大きなディップを感じましたが、それ以外は極端に大きな谷は感じませんでした。この状態でステレオでのF特を実測したグラフが↓になります。

 

部屋の間に仕切りがあるからか、シミュレーターとは完全一致はしていませんが、2つめのシミュレーターの50Hzと120Hzあたりのディップが似た特性となっています。

Wさんからサブウーファーを使って定在波を退治する方法を教えていただく

 定在波の大きな谷を避けるための方法として、スピーカー位置やリスニングポジションを変えるのは有効な方法です。しかし、定在波はある程度部屋の寸法で決まってしまう部分も大きく60Hz以下の低い帯域はスピーカーやリスナーの位置を動かしても変化は小さいです。

 一方100Hz以上の帯域は比較的、スピーカーセッティングやリスニングポジションで変化を受けるので、セッティング位置変更が効きます。

Wさん:
「低い帯域はサブウーファーで定在波の谷退治できる思いますよ。映画館とかのシアターでの低音ってウーファーユニット大量に使っているからか低域が場所によって薄く感じることないようにしてんじゃないですかねー?」

 

 定在波の谷をなくす目的でサブウーファー(複数ウーファー)を使うという発想が私にはそもそもなかったのでこれは面白い使えるアイデアと思いました。

 家に帰ってから、よくよくREWの機能を眺めてみると、、な、なんと
「サブウーファーを使った場合の定在波特性もシミュレートできるではないですか!」

 いくつか試してみましたが、シミュ上ではありますが、サブウーファーを中央に1つ置くだけでも100Hz以下の凸凹が消えフラットになります。

 ↓のグラフは1つ前のリビングのみの部屋で凸凹だった特性がサブウーファーをセンターに設置するとかなりフラットになりました。

 サブウーファーを部屋の中央に床置きに配置した場合の特性です。設定ではサブウーファーは複数台設置でシミュレートできます。REWは無料のソフトウエアですので、是非皆様もお試しください。この機能はREWの「ROOM SIM」にあります。

残響特性について

 残響特性はRT60という、60dB音が減衰するまでの時間を測定するのですが、実際は60dBという大音量の減衰の測定は難しくRT20/RT30といったより小さい減衰量をもとに演算でRT60を出す仕組みのようです。

 少し調べたのですが、コンサートホールの設計などには12面のスピーカーを使って複数ポイントの測定データの平均値をもってそのホールの残響時間とするようです。測定方法に厳格な決まりがあるわけではないようで、測定の距離などによって数値が変わります。

 私もテスト的に12面のスピーカーを作って試したのですがステレオのスピーカーで測定したものとそう極端には結果に違いはありませんで、むしろ距離などの条件を変えるほうがよほど差が大きい感じがしました。12面スピーカーは私の解釈では、生楽器に近い指向特性を得られているだろうということでホール設計の際の残響特性の測定に使われるんだろうと思いますが、、、

 20畳程度のリスニングルームの残響特性は実際に使うスピーカーをステレオで、実際のリスニングポイントにマイクを設置して傾向を見るほうが良いのではないかと思うのです。だって、リスニングルームで実際に鳴らすのは生楽器でなく2chのスピーカーですからね。

 

 残響特性については、Wさんも自作のソフトウエアで過去に散々測定をされておられていたとのことですが、

「測定結果にばらつきがでるので絶対値としてはあまり意味がなく、ルームチューン実施前後の相対データに利用するのが良いのでは」というご意見でした。

 

なぜ残響特性が高域上がりが大事か?

 残響特性は有名な加銅鉄平さんの本に最適な残響特性のグラフが掲載されています。石井紳一郎さんの本にも引用されているグラフなのでご存知の方も多いでしょう。

 残響特性を部屋の広さに従って長くなるのが基本です。

 1つ不明だったのがこの推奨の残響特性の高域だけ最後右肩上がりになっています
ね。赤丸の部分です。私はこれまで測定したリスニングルームでなかなかこの高域の最後だけ右肩上がりになっているのを見たことがなく、だいたい右肩下がりで落ちてしまいます。

 そもそも何故高域(5KHz)の残響時間が長いのが良い特性なのか疑問でしたので、
Wさんに質問をぶつけてみました。

Wさん
「5K以上の高域残響成分が多い部屋は音が響いて良い音になるんですよ。ホールなんかも低域のブーミーさは吸音させて、高域は残すことを考えるらしい」とのこと。

 

 Wさんのリスニングルームの残響特性は↓ですが、確かに僅かながら5KHz以上が僅かに右肩上がりになっています。(5K以上はたいてい落ちます)

 

 隣のリビングと、階段ホールの残響時間と比較ですとはっきりしますね。↓はリスニングルーム、リビング、階段ホールの3つの残響特性です。

赤:リビング
オレンジ:玄関ホール
青:リスニングルーム

 玄関ホールは高域帯域の残響が1秒弱と聴感での残響の長さと一致します。

 Wさんのリスニングルームは、壁一面の石パネルや天井壁のパネルによって低域から中域の残響は少なく、高域だけキレイに残していまして音量を上げても全く煩くなく気持ちよい響きがある音場を実現されています。


 

 音工房のリスニングルームも今度吸音素材を取っ払って、高域残響時間を上げる試みをしてみようと思います。

残響時間特性を観察して分かること

 Wさんから教えてもらったことと今回の測定で得た、残響時間特性から何が分かるのかということです。

ライブ/デッド

 残響が長い部屋をライブ、短い部屋をデッドと一般的に言いますが、大雑把すぎるかもしれません。Wさんのリスニングルームとリビングの比較をだしましたが、リスニングルームは100~400Hzあたりは吸音されていますが、5K以上は教科書通りの持ち上がり方をしています。リビングは中域全般が持ち上がっています。

 部屋の残響コントロールは家具を取払ったり、壁や床一面の素材を変えることで効果がでると思いますので簡単ではないと思いますが、データ蓄積をして良い音の特性を探ってゆきたいと思います。

有害な壁なり・床鳴り

 残響特性はできるだけ滑らかな特性であるのが理想とのこと。一部の帯域が盛り上がっていて残響時間が長い場合は壁や床の鳴りを疑ってみる。

 

フラッターエコー

 残響特性からフラッターエコーを調べる場合は、REWの機能でしたら「Filter IR」というタブが使えそうです。帯域ごとに残響時間を出せるので、500Hzから5KHzあたりまでバンドを切り替えていって減衰カーブが滑らかでなく規則的に音圧が高いところと低いところが現れていたらフラッターの可能性があります。

 ただし、だいたいの部屋で多少なりともカーブはギザギザになりますので、どの程度のレベルのものを要対策とするかは問題です。実際に手や棒で叩いて耳で聞くという古典的な方法と合わせて使うのが良いのかもしれません。

 

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