SW-208の製作と試聴

はじめに

 今回の長岡鉄男スピーカー研究では、長岡鉄男先生のサブウーファーをはじめて取り上げたいとおもいます。

 今回紹介するサブウーファーは、PPW方式と呼ばれる独特の方式を用いたサブウーファーでして、市販のアンプ内蔵のサブウーファーとは一線を画すものです。

PPW方式について

 PPW方式とは、プッシュ・プル・ウーファー( Push Pull Woofer )の略で、スピーカーユニットの前面と背面にダクトをつけた空気室があり、異なる共振周波数を設定し低音部分だけを効率的に取り出すことを目標としたサブウーファーの方式です。

イメージとしては、図1のような感じです。

  
 図1 PPW方式サブウーファーの断面構造

 スピーカーユニットは箱の中に入っているため、視聴時はユニットを見ることができません。
2つのダクトからでてくる低音だけを聞く感じになります。

 今回、音工房Zでこのスピーカーを製作し、実際にサブウーファーとしてどこまで利用できるかを率直に書いてみようと思います。

SW-208の試作

 構成

 今回スピーカーユニットはFW208の後継であるFW208Nを使用しました。
 (オリジナルはFW208だが入手できないため)

・ユニット前面の第一キャビネット: 容量;25リットル、ダクト; 132cm2  、長さ;4.2cm、fd; 112Hz
・ユニット背面の第二キャビネット: 容量;40.6リットル、ダクト; 90cm2 、長さ; 45cm、fd; 34Hz
  * fd : 共振周波数

 100Hzあたりのドンドンいう低音と、空気感に近い34Hzの低音を、部分的に膨らますサブーウーファーということになります。

 ネットワークは3.5mHのローパスフィルター用のコイルをつなぐだけのシンプルな構成です。
(6dBネットワーク)

製作

図面自体は「長岡鉄男のオリジナル・スピーカー設計術2」より作りました。
パーチクルボードで製作しました。

各パーツを切り出しました。大きいです。2セット分作るのに3*6のベニヤが2枚必要になります。

  
  写真1 SW-208用の部材

 こんな感じに合体します。ポート開口が正確な大きさになるように、木で定規を作って組み立てます。
ウーファーをのせて横からみると内部はこのようになっています。

     
  写真2  SW-208の内部構造

 上からウーファーをみるとこのような感じになります。

  
 写真3  SW-208の内部を上から見た場合 

 ウーファーにネットワークを組みます。3.5mHのコイルをつけます。
 ケーブルとコイルの接合はバナナプラグをつかって圧接しています。
 (後から絶縁になるテープを上からくるみます)

     
 写真4 ウーファー(FW208N)へのネットワークの取付

 吸音材を入れて・・

   
   写真5  SW-208のウーファーまわり

 取り外し出来るように両面テープと木ネジでフタをしめます。両面テープは空気が漏れないようにピッタリと切ります。

 完成しました。

音についてのレビュー (どんなスピーカーとマッチするか?)

SW208+Z601Modena

 今回はまず弊社のZ601modenaというフルレンジ1発のスピーカーと合わせて比較しました。

   
   写真6  SW208+Z601Modena

 ただし、Z601-modenaは、現在廃盤になっておりまして、後継の商品はamazonで販売している下記リンク先になります。

https://amzn.to/2L8lomB

 Z601-modenaも低音が思いのほか出るので、SW208の100Hzあたりの帯域と、かなりかぶり気味でした。
逆にZ601modenaの音圧が低い帯域~50Hzは、SW208は音圧がありますが、どうしても中低域のかぶりのほうが気になってしまいます。

 弊社の試聴室で合わすには、ネットワークの調整もしくはダクト調整の必要を強く感じました。

 このまま使うとなると80Hz~125Hzの量感がコテコテに乗るので、小音量で、低域が抜ける部屋でないと難しい印象です。(弊社リスニングルームは正反対の特性なので難しい)

 本に書いてあった図面通りの6dBネットワークでは、かなり上の周波数まで聞こえ、特に500Hzのピークのあたりがうるさめに聞こえました。

 6dBネットワークでもクロス周波数を100Hzより下に下げると、ボーカル等や他の楽器のカブリがかなり改善されました。
それでも100Hz~125Hzのボーボーいう帯域は盛大に鳴るので、鳴らす楽曲を選んでしまう傾向が有ることは否めません。

SW208 + B&W805

 続いて視聴したのがB&Wの805です。

   
   写真7  SW208 + B&W805

 こちらは、40Hzぐらいまでのローエンドが、かなりしっかりでるスピーカーですが、中域量感もたっぷりのスピーカーです。

 結果としては意外や意外、小音量ではZ601よりも合いました。
ただ音量を上げるとやはり中低音域の膨らみはZ601と同様、かなり気になるレベルではあります。

 クロスは最初3.5mHのコイルを直列にいれて聞いてから、12mHに変更しました。
どちらも6dB/octのネットワークです。

 クロスを変えることで、サブウーファーからでる高域も変わりますが、後の実験で書きます第1キャビネットに桟を入れて共振周波数を下げるチューニングをすると、より良くなりました。

 しかしサブウーファーとしてうまくバランスが取れているかというと結構疑問で、長く聞いていると外してしまいたくなる気もしました。

SW208 + D101Sスーパースワン

 スーパースワンも中低音量感が多いスピーカーですので、 どのように鳴るか、お遊び的にやってみました。

   
   写真8  SW208+D101Sスーパースワン

 やはりノーマルのままでは中低音の膨らみは気になります。

 Z601やB&Wはアンプの位置を9時より上にすると気になる感じでしたが、スワンはもう少し音量レベルが低くても、中低音量感の膨らみがきになりました。

 両スピーカーとも長岡先生の設計でしたが、バックロードホーンスワンとの相性はいまいちな感じがしました。
これは、中低音から中音にかけての音圧レベルが大きい長岡式バックロードホーンと合わすのが難しいだけかもしれません。

SW208 + BS-8にFF85WK

 最後にここまで低音が合わすのが難しいのであればということで、200Hzぐらいからダラ下がりのスピーカーをもってきました。

   
   写真9  SW208 + BS-8にFF85WK

 ローエンドだけを追加するサブウーファーというよりか、2wayスピーカーのような感じになりましたが、ノーマル状態で最も”はまり”ました。

 弊社のリスニングルームのようにある程度音量を上げて聞ける環境で、しかも低音が籠もりやすいライブな環境では、メインのスピーカーは上記のような思い切り低音が出にくいものと合わせるかたちになるかと思います。

 ここまでは、SW-208の製作から、弊社のスピーカーや市販スピーカーとSW-208を一緒に鳴らしたレビューを書きました。

 次に、第1ダクトを調整して中低音量感を変え、メインスピーカーと合わせる実験をします。

メインスピーカーとのマッチング性向上のための調整

第1ダクトの調整による中低音量感の変更

 いろいろなスピーカーをSW-208と一緒に鳴らしてみて感じたのは、30~40Hzあたりを担当する第2ダクトについては、ほとんどどのスピーカーでも問題ないが、やはり100Hzより上の中低域の量感「ボンボン」「ドンドン」 いう帯域がでる第1ダクトの調整がポイントで、それにより、どこまでそれぞれのメインスピーカー毎に合うように修正できるか、という問題だと思いました。

 市販のアンプ内蔵サブウーファーなどでは、クロスポイントの変更、クロスのスロープ選択、音圧調整などが出来る回路が搭載されていて、低音の調整ができるようになっていますが、それでもやはり100Hzあたりの低音のかぶりが気になって、サブウーファーを使わなくなってしまうことはよくあることです。

 今回のSW-208はアンプ内蔵ではなく、クロスや音量調整ができないとなると、バスレフダクトのfd(共振周波数)変更と吸音材の量等で変更するしかないので余計難しいです。

 長岡鉄男先生が設計しているスピーカーですから様々な視聴環境の平均値でこのようなダクト調整がされているかと思いますが、第1ダクトを例えば可変式にして、中低音量感を好みに合わせて調整できれば様々な視聴環境に合わせることができるはずだと思い、実験しました。

 30~40Hzを担当している第2キャビネットのダクト周波数は変更の必要はないかと思われます。

 実験的に、下図、図2から図4のイラストのように、第1空気室のダクトの前に3種類の桟を設置して、バスレフダクトのfdを下に下げることで、中低音の量感ダウン&ローエンドアップを狙えないか実験しました。イラストでいうと赤い線の部分に木材を挟んでfdを下げました。

    
      図2 ダクト長最大

 

      
    図3 ダクト長中

 

     
    図4 ダクト長短い 

 

 結果は後ほど周波数特性の測定のところに書きますが、耳につく中低音の量感を大きく減らすことに成功しました。

 フェルト吸音材を詰めることででも低域は多少は落ちますが、やはり吸音材で落ちるのは300Hzより上の帯域がメインです。
長岡先生のノーマルのままで、市販のそこそこしっかりしたスピーカーや弊社のスピーカーと合わせると、中低音が膨らみすぎになってしまいましたが、、
第1キャビの共振周波数を変更することでB&WやZ601-Modenaともそこそこうまく合わすことができました。(完全ではないですが・・)

 もし同様のスピーカーをすでにお作りになられた方がいましたら、共振周波数の高いほうのダクトは、あとあと調整できるようにしておくといいかなと思いました。

動画(音声付き)

 ヘッドフォンで聞いてみてください。

長岡先生指定のネットワーク 6dB クロス周波数400Hz

 

6dBネットワークで、クロス周波数を100Hzに変更

 

比較用にZ601modena単体で録音

 

自社無響室で測定した結果

 このウーファーのポートは2箇所あるので測定位置はウーファーの中心としました。
ネットワークは外に出して試験しました。

    
    写真10  自社無響室での測定状況

以下に示すグラフにおいて、上の実線が測定した周波数特性になります。

自社無響室 1mでの測定結果-1

クロス周波数400Hz 6dBネットワーク(長岡先生指示通り)

   
  図5  クロス周波数400Hz 6dBネットワークの周波数特性

自社無響室 1mでの測定結果-2

クロス周波数約100Hz 6dBネットワーク(吸音材ありとなしの比較)

   
  図6  クロス周波数約100Hz 6dBネットワークの周波数特性
      ( 実線:吸音材あり、点線:吸音材なし ) 

自社無響室 1mでの測定結果-3

クロス周波数約400Hz  (6dBネットワークと12dBネットワークの違い)

   
  図7  クロス周波数約400Hz の周波数特性
      ( 実線:6dBオリジナル、点線:12dBネットワーク)

自社無響室 1mでの測定結果-4

クロス周波数約100Hz  (第1キャビに長い桟を入れて共振周波数fdを下げる)

     
  図8  クロス周波数約100Hz の周波数特性
      ( 実線:Fdを下げた場合、点線:オリジナル )

市販サブウーファーとの比較

FOSTEXCW250Aと長岡先生の自作SW208との比較

 弊社にある密閉型の市販サブウーファーFostexCW250Aと長岡先生のSW208を2台設置して試聴をしました。

    
   写真11  FostexCW250AとSW208

 CW250Aは単体で聞くと中~高音域が綺麗にカットされており、フルレンジスピーカーの音を濁さないので、付け足しで低音増強が見込めます。

 低音の解像度もよく、弦の響きの微妙なニュアンスがよく分かります。

 低音の出方の好みも難しいのですが、抜けの良い低音はさすが価格相応の価値を感じます。
CW250Aのサイズのコンパクトさやフィルター回路の優秀さ、ローエンドの優れた量感などを考えると、いろいろなファクターでCW250Aのほうが上にいくのは事実です。

 SW208のほうが良いなと思える点は・・・・
 なかなか難しいところですが、近年のサブウーファーがほとんどサイズ感を意識してか小型の密閉型を採用しているケースがほとんどです。

 ですので、このSW208のメリットは、小型の密閉箱のデメリットである中低域の抜けの部分、開放感などかと思います。(逆に言うと超ローエンドは勝てない)

 以前に大型の密閉サブウーファーを自作したことがありますが、やはり箱のサイズはローエンドよりか中低音部分の質に違いがあるように感じます。

 FW208Nは結構値段がはるので、もう少し安価なユニットを使っていけばCPの高いものが制作できるかと思います。

 市販品とくらべて面白いのはダクト・吸音材、NW等を変えていくことで、例えばシンプルなネットワークで組んでゆくことで、自分のスピーカーにだけあうオリジナルチューニングのものが作りだせるということです。

 上の特性図にも書きましたが、ダクト・吸音材、NWでここまで音が激変する楽しみは、市販のサブウーファーとはまた違った楽しみを与えてくれるでしょう。

サブウーファー運用で大事なこと、まとめ

音出し後に感じた感想

ユニットについて

 長岡鉄男先生のPPW方式のサブウーファーを作ったのは、私は2度めでして、一番初めに作ったのはSW-168という16センチウーファーを内蔵したものでした。

 今回作ったのは20センチのSW-208ですが、長岡先生の本には、16センチのほうが絶賛されていました。しかしながら、私個人的にはこちらの20センチ版のほうが音に関しては使いやすく優れていると感じています。(サイズ的には16センチ版のほうがコンパクトで良いのですが)

ダクト調整の自由度の確保

 サブウーファー利用で最も大事だと思うのが中低域にあたるダクトの調整をあとあと自由にできるようにすることかと思います。(SW208では上部のキャビがここにあたります)

 この部分が固定式ですと、リスナーの視聴環境やスピーカーとマッチするものができれば良いですが、いきなり合う可能性は非常に低いと思いますので、必ずのちのちダクトの長さや太さを交換できるようにしておいたほうが良いでしょう。

 この部分は市販のアンプ付きサブウーファーで言えばクロスポイントを変更する一番大事なつまみに相当します。

吸音材の使いこなし

 続いて大事な点ですが、吸音材です。
 吸音材ありと無しの比較を書いておりますが、測定レベルで明らかにわかり、耳で聞いてもほとんどの人に分かる差がでます。
吸音材を入れる主目的は、サブウーファーからでる高域を吸音することにあります。

 さらに、入れ方や素材によっては中域や低域も落とすことができます。
(吸音材でポート口を塞ぐという方法や内部に吸音材を詰めるということなど、トライアンドエラーが必要です)
 これをうまくやることでネットワークを6dB/octから12dB/octに変えた時のような大きな違いをだすことができます。

ネットワーク、そしてサブウーファーのセッティング

 続いて大事なのがネットワークとサブウーファー自体のセッティングです。

 ネットワークはコストを気にしないのであれば12mH等大きなコイルを使って12dB/octで落としたいところですが、、、
 コスト重視で行く場合は長岡先生のおすすめの3.5mH程度のコイルで、あとはユニットとダクトの間に内部に乱反射させる桟を入れる等の工夫が考えられます。

 サブウーファーのセッティングは床に直接置くのではなく、ブロックやスタンドを使って10センチ~20ぐらいかさ上げしてやると良いでしょう。

 ご自身で設計される場合はダクトの位置を床面から高いところに置いてしまうのも手です。

 この方式のサブウーファーは正直クオリティー的には市販の小型サブウーファーに勝つのは難しいという印象がありました。

 しかし、構造上の面白さや、ネットワーク・吸音材を入れて音が大きく変わる楽しさを味わう自作の楽しさは存分に味わえるかと思います。