目次
はじめに
SONY MDR-M1ST
SONY MDR-M1STは1988年に発売され、実に30年以上にわたりスタジオモニターヘッドホン
として君臨した名機「MDR-CD900ST」の後継として充分な手間と時間をかけ作られたヘッドホンです。
ハイレゾオーディオ等に対応すべく、様々な機能の見直しや、新しい時代の音楽に合うように作られました。
SONY MDR-M1STの価格と概要
希望小売価格 :¥31,500 + 消費税
型名 :MDR-M1ST
形式 :密閉ダイナミック型
ドライバーユニット :40mm、ドーム型(CCAWボイスコイル)
最大入力 :1500mW(IEC)
インピーダンス :24Ω(1kHzにて)
音圧感度 :103dB/mW
再生周波数帯域 :5~80,000Hz(JEITA)
コード長 :約2.5m
質量 :約215g(ケーブル含まず)
発売年 :2019年8月23日
SONY MDR-M1STの音質評価
SONY MDR-M1STの音質
豊かな低域と、見通しの良い中域、ナチュラルな高域。やや低域よりのピラミッドバランス
味付けは極小で無色透明、面白みがないとも言える。やわらかいが、基本的にはクール系統寄りの音作り。
高域 相対的に少なめで、一見目立たないが、しっかりとした粒立ちでニュアンスが埋もれない
中域 ヌケは普通だが、うっすらと低域が被さってくるので、モヤついて聴こえるが、じっくり
聴いてみると見通しがよく分離しているのが分かる。
低域 量感がほどほどで押出は比較的柔らかめ。ローエンドはそれほど出ていない。
長時間の使用を最大限に意識した聴き疲れしにくい音作りに仕上がっている。
SONY MDR-M1STの外見・機能
SONY MDR-M1STの外見
あまりにも有名なSonyのヘッドホンMDF 900STは、一度は目にした事があると思います。
(左がMDR-CD900ST 右が今回のMDR-M1ST)
外見の印象は黒で統一されていて先代よりも一段と地味になりました。
MDR-CD900STはハウジングの銀色のダイヤカットが高級感を出していましたが、そこも黒くなり、カット面をツヤ有りにすることで、ほのかな面影を残しています。
MDR-CD900STのカット面
MDR-M1STのカット面
MDR-CD900STというと赤い線の「For DIGITAL」がデザイン上のアクセントとなっていますが、「For HiRes」とはならずにメタリックな赤い線と「STUDIO MONITOR」だけです。
先代と同じくシールになって、赤ラインがうるさいと思う方には剥がして対応できます。
SONY MDR-M1STの機能
ヘッドホン装着で大事な事は、右、左を間違えずに装着する事です。装着する前に確認できる
赤R 青Lの伝統の目印はそのまま引き継がれました。
平面で味気ないものに変わりましたが視認性は良好です。
細かい箇所ですが、ヘッドホンをつけたままでも確認できる左後部に突起があります。
LRを逆にしてヘッドホンを装着すると、ヘッドバンドの位置がかなり後方に来ることにより装着が難しいようにしています。ヘッドバンドの重量でずれてしまいます。
先代は左右逆でも少し違和感はありますが、装着できてしまいました。
これは耳あての角度を大きくすることにより、ヘッドホンの左右が逆の場合の違和感をわかりやすくさせ、ユーザビリティの向上につながっています。ヘッドホンで左右非対称は珍しくありませんが、ここもヘッドホンの不慣れな人も使う事を考慮した良いポイントだと感じました。
プロ用のヘッドホンは、音質もさることながら堅牢であり、かつ故障が起こりにくく音が確実に聞こえ、メンテナンスもしやすい事が重要となります。
長時間使用しても疲れにくい事や、ヘッドホンに不慣れな人や、多くの人にフィットするデザインなど、設計には大変な労力を必要とするモデルでもあります。
この点ではMDR-M1STはメーカーから部品ごとにこわれても交換でき、保守も約束されている
ので安心です。
プラグも金属製で、ローレット(ギザギザ)の彫り込んだものであり、接点の金と鞘の黒のコントラストにより、差し込んだときの視認のしやすさに貢献しています。
(先代モデルは全部銀色)
堅牢に作られているといっても、構成部はほとんどプラスチックです。
プラスチックハウジングは質感的には先代のアルミ製の方が高いですが、金属は高域に
共振を起こすことも多く、敢えて樹脂に拘ったという可能性もあります。
冒頭のメリットにも書きましたが、スタジオは高価な機材も多いので、手荒く扱われるヘッドホンにはプラスチックを多用して周りの機材を傷つけないよう意図したのかもしれません。
SONY MDR-M1STの構造
MDR-M1STは密閉型のダイナミックヘッドホンですが、完全に密閉という訳ではなく、
ポートが2箇所開いています。先代のモデルも穴があいていました。
[MDR-CD900STの後部ポート]
[MDR-M1STは、ハウジング上部とパットの裏側斜め上部にある]
これは、低域を再生する際の空気の流れをより円滑にする構造といえます。
ポートを塞いで再生すると低域が詰まったように変わりました。
振動板の面が斜めについていて、外耳に対して自然な傾きになっています。
イヤホンと違いヘッドホンは外耳の形状を含んだ音つくりになる事が考えられますので、
複雑な外耳の反射なども考慮したセッティングなのかもしれません。
[MDR-CD900STは平行に取り付けられている。]
[MDR-M1STは斜めに取り付けられている]
振動板の前の開口部は広くとっており、他のヘッドホンで見られる高域共鳴用の多数の穴がありま
せん。ヘッドホンのサウンドコントロールとして振動板の前に位置するバッフルの穴の大きさや
数、形状で決めるのが一つの方法ですが、
共鳴で音をつくると音が暴れて特定の周波数帯域で癖がでてしまう事もあります。
ソニーのこのヘッドホンは振動板の設計時点でサウンドコントロールが出来ているのでしょう。
これもソニーならではの技術力の賜物かもしれません。
[MDR-CD900STは金属に多数の穴があり、波状になっている。]
[MDR-M1STの開口部は大きく、ガードするだけの造形にみえる]
ヘッドホンのケーブルは交換が出来るようになり、4端子となっています。
つまりバランス化が可能で、バランスケーブル対応のヘッドホンアンプなどで使えるように
なります。ヘッドホンケーブルは一番壊れやすい箇所なので、交換可能としたのは当然とも
いえるでしょう。
なおヘッドホン基部は真鍮製のしっかりとした作りで、多少の力が加わっても壊れにくいように
見えます。
[脱着可能なケーブル基部 ネジでとめられるしっかりとしたもの]
まとめ
SONY MDR-M1STの良い点
長時間使用しても聴き疲れしにくい事を意識した丁寧な音作り。
ヘッドホンに慣れていなくても、確実に装着できる堅実な作り。比較的軽量に作られており、モニターヘッドホンとして過不足ない仕上がり。パッド等も先代より厚みが増して装着感が良い。
断線しやすいケーブルが簡単に交換できる仕様になった。取り付け基部も強固なものになっている。
プラグ以外に金属が露出しない設計で、他の機材に傷を与えない設計で好感が持てる
SONY MDR-M1STの もう一歩な点
先代と大分違う音作りになったので、純粋にリプレースするのは難しい。
先代の特徴だった聴き疲れをなくすのを優先したためか、ぱっと聴きでは音質的には中庸になってしまったといえる。
しかし聴き込んでみれば、かなり細かい音まで聞こえるので、わかりにくい高音質といえる。
全体がプラスチックで構成されているので手にとったときにギシギシ音がする。