音工房Zの弊社スタッフがお客様の部屋に直接ご訪問させていただくルームコンサルティングサービスのモニターサービスにお申し込みいただいた「ひでちえ様」の訪問のレポートになります。

 本ルームコンサルティングサービスは、弊社スタッフがお客様リスニングルームに訪問させていただき部屋とスピーカーを種々特性を測定させていただきお客様の現状のリスニングポジションにおける音の現状を可視化します。測定データと聴感をベースにスピーカーセッティングやリスニングポジションを変更、測定を繰り返し、より良い音の実現を目指すものです。

 データの蓄積と測定・セッティングの技術向上を目的に現在はβ版のモニターサービスとして行っています(予約等は受け付けておりません)。

 

現状把握

リスニングルームとSPセッティング、リスニングポジション

 ペンネームひでちえ様のリスニングルームは戸建ての2階で、18畳程度の広さのあるリスニングルームです。リスニングルーム専用に作った部屋ではなく、二世帯住宅のLDKをリスニングルームとしてご利用されているとのことでした。そのため部屋の背面にはキッチン台やカップボード等がございますがそれ以外に生活で使う物は置かれていなくスッキリした印象のお部屋で、極端にデッド・ライブという感じはなく最初に音を鳴らした印象は癖がなく聞きやすい部屋と感じました。

 利用しているスピーカーは弊社で販売させていただいたZ1000-FE168SSHPとスーパーツィーターのT90ASEになります。現状のスピーカーセッティング位置を赤で、リスニングポジションを青で示しています。ソファーが2つございまして、現状のセッティングでは主に前のソファーで聞かれているとのことでした。

 最初に弊社でいつも聞き慣れている音源を聞かせていただいた感想は、ローエンドはしっかりでている感じがしますが少しミッドバスの力感が欲しいなという点と5K~10KHzあたりの超高域を伸ばして音場感を改善できないかという点でした。

 

定在波ミュレーターと実際の定在波を比較

 まずは、REW のルームシミュレーターを使って、部屋の広さと現状のスピーカー位置およびリスニングポジションを⼊⼒した際のデータをだします。グラフの⼭と⾕に着⽬すると、最も⼤きなディップが60Hz と120Hz にあります。ピークの⼭・⾕の深さは壁や部屋中にある吸⾳素材の量によって増減しますが、シミュレーターでは壁の反射率を⾼めに設定しています。

 現状のスピーカーセッティング・リスニングポジションでサイン波を⼊れて定在波の⼭⾕を確認したところ、60Hz と120Hz あたりに⾕があるのを確認できました。サイン波をスピーカーから出⼒したまま部屋を歩き回って定在波を確認したところ、60Hz、120Hz は定在波の影響で場所により⼤きなピーク・ディップが発⽣しているのを確認できました。ひでちえ様のリスニングルームは綺麗な⻑⽅形で不整形ではないためルームシミュレーターと実際の聴感上の乖離は⽐較的少ない印象がありました。シミュレーション上では60Hz のディップが⼤きいですが、実測では120Hz のディップが⼤きくでています。

 ↓の周波数特性は現状のスピーカーセッティング・リスニングポジションでステレオで実測した周波数特性です。シミュレーターと近い出方をしています。120Hzのディップは部屋とスピーカーの特性が合わさったディップなため、BHBSスピーカーのディップと少し重なっている可能性もあります。

リスニングルームの残響特性データ(12面SPと30データの平均)

 テストで実施した12面体の無指向性スピーカーは低域をブーストしていないので、正確ではないのですが、JISの規格に書かれているものを参考にテスト的に12面体スピーカーとマイクを1mの距離にして測定したものの特性は↓になります。

 

 ↓のデータは島⽥様のリスニングルームで実測した1〜30 番⽬の周波数測定をした際の残響時間を全て重ねたものです(REW では周波数測定と残響時間の測定が同時にできてしまう)。⻩⾊いラインは私が引いたものです。

 

 測定ごとに、スピーカーの位置やマイク位置が変わっていますので、残響特性は毎回微妙に変化しますが、平均値でいうと低域帯域は0.5 秒くらい、⾼域帯域は0.35 秒くらいが平均値のようです。残響特性は⼀般的には低域のほうが⻑くなります。加銅鉄平さんのリスニングルームの広さと最適残響時間の表にあてはめるとちょうど最適残響時間内にはいっています。

 

現状改善

5つのリスニングポジションにおける特性

 

スピーカー配置は現状のまま、5つのリスニングポジション(ABCDEFG)を30センチ刻みにステレオで測定

 

 部屋の使い方を縦ではなく横に使うような極端なスピーカー配置変更が難しいとのことでしたのでまずはリスニングポジションを変えて(マイク位置を動かす)F特測定を実施しました。スタートはBの位置と思いましたが、現実的にはキッチン手前までのA~Gあたりが可能とのことでしたので、30センチ刻みでステレオにて周波数測定を実施しました。A~Gの測定結果と、最後にすべての特性をオーバーレイしたグラフを示します。

リスニングポジションAからGまで変化させて測定

<Aの位置での周波数特性>

<Bの位置での周波数特性>

<Cの位置での周波数特性>

<Dの位置での周波数特性>

<Eの位置での周波数特性>

<Fの位置での周波数特性>

<Gの位置での周波数特性>

AからGをオーバーレイした特性

 

 

定在波の影響を知るために低域部分だけを拡大して6つのグラフを重ねています。差が大きいBGのグラフを重ねて表示します。ほとんど変わらないと思われる方もいるかもしれませんが、差が大きい部分では10dBほど違うので音は全く違います。

 

 スピーカーに比較的近いポジションのB(茶線)はルームコンサル前の数値です。G(緑)のポジションはキッチン台に最も近づいて測定した時のグラフです。Bに比べてGのほうが60Hz120Hz近辺の定在波の山谷の影響が少なくフラットに近い特性であることがわかりました。 

 生の音源で確認したところ、現状のBポジションより下がったポジションで聞いたほうが定在波の谷の影響が少なく低域の厚みがあることが分かり、リスニングポジションは現実的に可能なDF2点に定めスピーカーの位置を調整にうつりました。

5つのスピーカー配置変更における特性

 

スピーカー配置を5つ変更(イロハニホ)、リスニングポジションは2つに絞って測定

 

 コンサル前のセッティング位置は「イ」です。スピーカーを「ロ」「ハ」「ニ」「ホ」と4パターンに動かし、マイクの位置はDF2箇所で合計10箇所で測定をしました。「イ」と「ロ」の間は150mm、「ロ」と「ハ」の間は150mm壁際にずらしました。「イ」と「ホ」の間はスピーカーの奥行きである400mmずらしました。

イロハニホの位置にスピーカーを動かした時の特性の変化

 

「イ」のスピーカー位置での測定

「ロ」のスピーカー位置での測定

「ハ」のスピーカー位置での測定

「ニ」のスピーカー位置での測定

「ホ」のスピーカー位置での測定

マイク位置をDに固定し、スピーカー位置を「イロハニホ」にスピーカーを動かした時

 

マイク位置をFに固定し、スピーカー位置を「イロハニホ」にスピーカーを動かした時

 

 生音でも視聴をしましたがスピーカー位置を調整することで5070Hzの大きなディップはフラットになり低域の音圧が上昇し空気感が出るようになりました。120Hzのディップにかんしては依然ありますが、リスニングポジションをキッチン台に近づいたほうが概して、定在波影響を回避できているようで中低域のパンチ力はアップする特性になるようです。

 

スピーカーの角度を3パターンに変えた時の特性

 

スピーカーの角度を0度、10度、20度と変えて測定

  スピーカーセッティング位置とリスニングポジションによってスピーカーと部屋の定在波からなる「低域特性」が決まります。スピーカーの向き(角度)や高さ調整は「高域特性」に大きな影響を及ぼします。スピーカーのセッティング位置を「ホ」に固定、リスニングポジションをDF2箇所でスピーカーの角度を0度、10度、20度と変化させた時の6パターンを測定しました。ひでちえ様のスピーカーはトールボーイタイプのスピーカーでしたので、高さ調整はせず角度調整のみ行いました。スーパーツィーターをつけた上での測定になりますが、角度変更はスーパーツィーターだけでなく本体ごと角度を変えて測定しています。

 

「D」の位置で0度、10度、20度の特性

Dのリスニングポジションでの測定です。ほぼ全ての帯域で0度だけは音圧が低いです。10度と20度ではF特上だけから判断すると10度の特性が良さそうです。

 

「F」の位置で0度、10度、20度の特性

Fのリスニングポジションでの測定です。こちらも0度は超高域が相当落ちています。10度と20度を比較すると、610KHzの可聴域に10B近くの差がありますが、特性上だけでみると10度が良さそうです。

初回コンサル後の感想

 全くの初回ということで私とスタッフでお客様のリスニングルームに車でご訪問させていただきました。前日まで弊社のリスニングルームでリハーサルを繰り返したことは結構スムーズに実施できまして、スピーカーの位置やマイクを変えては特性の測定&生視聴を繰り返すという方法でお客様に定在波が大きくでるポイントをさけ、ローエンド・ハイエンドをできるだけスムーズに伸ばすセッティングをご提案できたかと思います。

 こちらには全て書けていませんが、実際のコンサルはここに掲載した測定以外にスーパーツィーターの正相・逆相の違い、スーパーツィーターのバフル面からの距離による特性の違い、音響パネルをスピーカー背面にセッティングしての測定などを実施してどのくらい変化がでるのかをお客様にもお示しました。

 視聴と測定で得たスピーカーの位置やリスニングポジションにより音質はワンランク以上アップすることができたと思っております。ひでちえ様は今回の測定にも興味を持っていただけたので無料でできる測定ソフトのREWを使って是非チャレンジしていただけたらと思います。

 弊社はもともとスピーカー設計が仕事なので、スピーカーのダクト変更やネットワーク変更などもやりながら測定もできるのですが、、全てやりだすと1日では全く終わらない分量になってしまうので限られた時間の中でどこを重視してやってゆくかは今後の課題かと思いました。単純な音響測定をするだけではなく、いかに音質向上に結びつけるか技術向上につとめてまいりたいと思います。

  今回はコンサル後はお客様に、当日実施した測定の状況をまとめ上げどのようにしたらよりよいセッティングが可能かを示した小冊子のPDFレポートにまとめお送りさせていただき、お客様からアンケートにお答えいただき終了となりました。次の項に、そのアンケートの中でお客様から頂戴したご感想を掲載させていただきます。

 

コンサル後にお客様にいただいたお声

 現状で十分満足していた自分の概念を覆すセッティング方法を、スピーカ位置、リスニングポジション等変更し、測定器を用いながらリアルタイムで音の変化をデータと耳で確認しながらアドバイス頂き、有意義で楽しい時間(約5時間)があっという間に過ぎました。

 この時点で明らに低音域が充実し音質は1段階グレードアップしました。  さらに後日丁寧な分かりやすいレポートを作成して頂き、大山様のアドバイスをもとに長方形の部屋の長い方を利用したスピーカーセッティングしていたのを、部屋の短い方を利用したスピーカーセッティングに変更したところ、音質が激変し良くなり驚きました。  

 今までのセッティングでは定在波の影響で測定データにもあった中低域のディップがありましたが、セッティング変更で改善されたようです、音が今まで以上に低域から高域までなめらかになり気持ちの良い音質になりました、まるで音工房Z様に魔法の力を頂いたようです。

 クラッシックでは、今まで以上に低域楽器の音がハッキリし、他の楽器も演奏している位置がより分かるよになりました。バイオリン協奏曲では、盛り上がった所でもバイオリン独奏者の音が他のオーケストラの音との区別がよりわかるようになりました。  ポップス系のボーカル曲では、今までより音圧が上がり、近くで歌声がなっているようで音像がハッキリしました、ジャズ系ではそれぞれの音が力強くなりなり、メリハリがよく分かりようになりました。  

 今ある機材だけで、音質を3段階位グレードアップすることができ大感謝です。

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