本日はルームコンサルティングにお申し込みいただいた、M様のリスニングルームを訪問させていただいた時のお話です。M様はなんと2年がかりで自作で石井式ルームを自分で作ってしまったという、とてもとてもパワフルな方でした。 建物だけは業者さんが建てられたそうですが、石井式で大事な内装の吸音材や壁・天井は全てご自身一人で作られたというのですから驚きです。

石井式リスニングルームについて

 オーディオ好きの方であれば知らない人はいないと思いますが、石井紳一郎さんは元松下の技術者さんでスピーカー設計をされていた方です。2009年にリスニングルームの音響学という素晴らしい本を出版されています。まだ見たことがない方は↓をチェック!

 

  もともとスピーカーを設計されていた石井さんが、ご自身の作ったスピーカーを部屋が違うリスナーの部屋に持ち込んで聞いたときにあまりに音が違う体験をされたそうです。その時の経験がベースとなって、退職後はリスニングルームについての膨大な研究と実践をまとめてリスニングルームについてまとめたの上記の本です。

 私大山も昔からオーディオとは「スピーカー」と「部屋」のことだと考えておりますので、内容はとても説得力のあるものに感じました。石井さんの本は10年前の初版がでた時から何度か紹介させていただいておりました。

 私大山にとってもリスニングルームについての本としては加銅鉄平さんの本に並んで教科書的なものとなっています。石井さんの本を改めて読んでみますと、私が現在やっている部屋とスピーカーを丸ごと測定し良い音の傾向をつかむということをやっておられるので非常に参考になりました。

石井式リスニングルームの特徴を簡単に書きますと、

◯定在波の特徴を研究。部屋の寸法比では高さ方向を重視。部屋の高さが長くなるように設計。

◯部屋を横方向にSPをセットすることを推奨

◯壁は反射性の強い壁に、大きなスリットがあり、そのスリットから吸音層へ音が抜けるようになっている。

◯壁は斜めにしない。小さいフラッターエコーは意識しない。

などです。

ご利用の3つのスピーカーの特性を測定し、部屋の定在波の特性を確認

M様は↓の写真のように、弊社のZ800-FW168HR、ヤマハNS1000M、TANNOYの大型同軸スピーカーの3つを使っておられます。

 

3つの特性をそれぞれ、現状のリスニングポイントてステレオ測定させていただきました。

 

◯Z800-FW168HR

◯NS1000M

◯TANNOY

 20~200Hzあたりの定在波の特性は素晴らしく良いですね。定在波の山谷を考慮して部屋の寸法を決めているのが確実に効いていると思います。定在波はどんな部屋でも消すことはできませんが大事な100~200Hzの帯域には大きなディップ(石井さんの言うところの日本海溝)は全くありません。

 

↓のグラフは部屋のサイズとスピーカー位置、リスニングポジションを入れたときのREWの定在波シミュレーターです。

 

 40Hzあたりのピークと90Hzあたりのディップがあります。これは実測とほぼ一致していますが実測は吸音壁のおかげかここまで大きなディップとなっておらずよりフラットでした。

マイク位置やスピーカーを変えて測定した最初の30測定を重ねて表示したのが↓です。

 現状のスピーカーセッティングとリスニングポジションにおいては40Hzは軽くもりあがり、90Hzに小さいピンポインのディップができる。100~200Hzはセッティング位置の影響を受けて結構変わる。以上が「部屋の特性」のようです。

 REWの定在波シミュレーターはこれまで5軒のお客様の家でシミューレーターの値と測定器での実測の違いを比較してきました。結果として、一般的な長方形の部屋では山谷の深さは壁などの吸音率で変わりますがピークディップの位置だけはかなり正確にでているというのが現時点での私の印象です。定在波の山谷は部屋では必ずでますが、その山谷もいろんな種類があります。

「帯域」40Hzか?100Hzか?
「深さ」10dB?か20dBか?
「幅」ピンポイントか?、広いものか?

 極端な凸凹は良くないのでしょうが、50Hz以下のローエンドは盛り上がっていても良いでしょうから単純にフラットを目指してゆけば良いわけではないでしょう。このピーク・ディップを正確に把握することとどのように対処できるかは今後の私の課題です。

 

残響時間の特性について

 残響時間の特性については現状の複数のスピーカーを測定したものを重ねて表示することで、全体の部屋の残響特性の傾向を見るという手法をとっています。スピーカーはステレオで鳴らし、測定ポイントはリスニングポイントです。恐らくこの方法が最もリスナーにとっての正確な残響時間特性になると考えています。

 特性的には滑らかな特性で優れた特性かと思います。残響時間特性はどのような特性が好ましいかはデータがほとんどなく、唯一加銅鉄平氏の本に500Hzから5KHzあたりがフラット、5KHzから少し上昇するのが好ましいということを書かれています。

 イメージとしては上のような残響時間特性を加銅氏が推奨していますが、ホール設計をベースに考えられていると思うので、個人のリスニングルームにあてはまるかどうかは不明です。ここはこれから弊社のリスニングルームを実験台にしてテストしてみたり、多くのお客様のルームを参考にさせていただいて良い音の残響時間特性を探ってみたいと思います。

 石井さんの本には残響時間コントロールをさほど重視されていないような印象を受けましたが、サランネットが貼ってある吸音層への音の入り口の面積を変えたり、入り口自体の構造を変えることで残響時間の調整を後々できそうな点は面白いと思いました。

スピーカー角度調整

 スピーカーの角度、スーパーツィーターの角度は5度違うだけで全く特性が変わります。スーパーツィーターの前後位置は1センチ違うだけで測定結果が大きく変わります。

「20KHz以上の超高域はどうせ聞こえないんだからどうでもいいんじゃない?」という人もいるかもしれませんが、実際スーパーツィーターは5KHzあたりからでていますから、耳の良い人でしたら耳で合わすことも不可能ではないないかもしれません。

 ただ、5KHzから50kHzまでの広帯域をできるだけフラットに伸ばす角度や位置決めについては測定器で複数パターンを測定し最もベストなポジションを探るのが一番良いかと思うようになりました。

 

↓のグラフはZ800-FW168HRとZ501を角度を0度にした場合の周波数特性です。

 

↓のグラフはZ800-FW168HRとZ501を角度を5度にした場合の周波数特性です。

 

↓のグラフは2つのグラフを重ねたものです。

 

 他にも10度、15度と測定しました。5度がベストなのが上をみるとわかります。この違いはなかなか耳で合わせるのは難しいと思います。

 M様のスピーカーは3セットについてスピーカーの角度を細かく変えながら測定をしましたが、↓のもともとご自身でセットされていた角度が超高域の特性がどれもよく、優れた耳をお持ちだと思いました。

 

 スピーカーの角度調整は他のお客様のところでも実施しましたが、角度調整で影響を受ける帯域はツィーターやスーパーツィーターの指向特性にもよりますので一概には言えませんが、概ね5KHzより上の結構上の帯域であることが多いようです。角度変更による超高域の音圧の上下動は結構シビアですので、マイク位置と角度を微調整して何度も測定を繰り返すと良いポジションが見つかるかと思います。

 

コンサル後にお客様にいただいたお声

結論から言いますと、コンサルを受けて非常に良かったと思ってます。

 石井式のリスニングルームを、本とWEBの情報と工務店を営んでいる同級生のアドバイスだけを頼りに、色々と自分なりのアレンジを加えて仕上げましたが、果たしてちゃんと出来ているのか疑心暗鬼なところがありました。

 今回コンサルを受けて部屋の特性を測定して頂き、概ね意図した特性に仕上がっている事がわかり安心したところです。今回、複数のスピーカーの特性を測って頂いたので、部屋の特性とスピーカーの特性を明確に切り分ける事ができました。

 また、測定ツールや測定方法を見せて頂き、今後は自分でもある程度の測定が出来る事もわかりました。

 数多くの上級オーディオルームを試聴して来ている大山さんの言葉はそれ自体重みがあり安心感があります。

音工房ZさんのZ800を所有していたため、大山さんには聴き慣れたスピーカーとしてリファレンスになったのではと考えています。

 

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