目次
共鳴管スピーカー 1
-- 共鳴管スピーカーとは
はじめに
弊社ではメイン商品となるハイエンド系の商品やバックロードの研究は商品開発の中でさんざんやってきていますが、それ以外の変わり種というか商品化するのが厳しそうなスピーカーにもチャレンジして情報発信しています。
商品化が目的ではありませんが、バックロードホーンのスピーカーの内部の一部にも共鳴管の動作をしていそうな部分もありそうです。
そこで、何かしらバックロードホーンの改善やスピーカーエンクロージャーの仕組みを知る手がかりができないかと思いまして、何種類かの共鳴管型スピーカーを試作して音出し→測定をして共鳴管型スピーカーの実験をやってみることにしました。
共鳴管スピーカーの作例(共鳴管ってどんなスピーカー?)
市販品では共鳴管型スピーカーというとBOSEが出していた共鳴管型サブウーファーぐらいで他はあまり思いつきません。つまり市販品では採用されることはほとんどないマイナーなエンクロージャー形式だということは間違いありません。
音がどうのというより管が3mとか長くなるので実用上難しいというのが一番の理由かと思います。
ただ自作では結構作例があります。長岡鉄男先生のホームシアターネッシーは長岡先生のメインスピーカーですし、以前ホームページで相互リンクさせて頂いている塩ビ管スピーカーさんのホームページも有名です。
共鳴管スピーカーの紹介
◯BOSEのキャノン
http://tinyurl.com/gvo8ofh
◯長岡鉄男先生のネッシー
https://tinyurl.com/yywanc83
◯塩ビ管スピーカー
http://tinyurl.com/hkbj7m7
共鳴管スピーカーの基本
ほぼ長岡鉄男先生の本からの知識の受け売りになりますが、分かりやすいように書いてみたいと思います。後ほどの実験でこの通りになるかを実験してみたいと思います。
共鳴管スピーカーとは、パイプ共振を利用するシステムでその原理は定在波と同じ。
パイプには図1の3種類(A閉管、B開管、C片閉管)が考えられるが、最も用いられるのはBタイプとのこと。
図1 3種類の共鳴管構造
Aの閉管は密閉型になりますから、BとCを実験対象としてみようと思います。
はじめはCの片閉管をやって次にBの開管を少しだけやります。
共振周波数はパイプの長さと断面積で決まるが、一応長さだけで考えて大きなずれはでないとのこと。
パイプの断面積を考えない簡易的な計算式は、下記になります。
計算式 : F1=8500/L
F1; 基本周波数
L ; パイプの長さ(センチメートル)
例えばパイプの長さが150センチであれば、56HzがF1の基本周波数になり、ここが一番大きく膨らみます。
続いてこの3倍(168Hz)、5倍(280Hz)、7倍(392Hz)と膨らみますが、実用上は基本波と3倍になるところだけを考えます。
音響迷路型スピーカーの基本
共鳴管の計算にはさらに音響迷路の計算も必要です。
共鳴管方式は、音響迷路の効果も同時に考えないといけないからです。
ただこの長岡先生の計算式は、昔に私が実験した時は、あまりうまくでなかった経験がありますが、今回は無響室で測定できるので期待したいところです。
なお、音響迷路の凸凹はバスレフみたいに大きくはでないとも書いてあります。
音響迷路については大事なところなのでできたら研究テーマとして独立させたいところですが、今日は共鳴管絡みで大事な部分だけを書きます。
下図の写真ではバックロードホーン型スピーカーのように見えますが、スロートや広がりをもたないものを音響迷路型スピーカーと呼びます。
図2 音響迷路型スピーカーの原理図
このスピーカーの計算式は迷路の全長によって決まります。
迷路の全長が2mだとします。
2mの波長の周波数は170Hz (波長=340/周波数)。
170Hzは逆相のままでてくるのでF特上は谷に、この半分の85Hzの音は山に、85Hz以下の音はダラ下がりに下降と計算上はなります。再生下限周波数は、85Hzの0.7倍である60Hzあたりとなります。
次に、この公式をもとに写真1のようなスピーカーを作ってみます。
長岡鉄男先生のF183.1で、内部に斜めの桟がないものです。
写真1 F-183・1
共鳴管スピーカー 2
-- 片閉管型共鳴管スピーカの実験
片閉管型共鳴管スピーカの試作
長岡鉄男先生のF183.1の内部の斜め桟を抜きにした長さ1800mmの共鳴管型スピーカーを作りました。
この試作の箱は、片閉管型共鳴管となります。
写真2 F-183・1をベースとした共鳴管型スピーカーの試作例
ここで知りたいのは、まず第1に共鳴管の長さ1800mmで共振する周波数、3倍の高調波、音響迷路の凸凹がちゃんと計算通りに再現できるかどうか?です。
第2に、ユニットの位置によってどのように共振周波数が変化するか?
うまい位置にセットすると共振周波数の3倍の高調波をキャンセルできると書いてあるが、本当にその通りになるかどうか?を知りたい。
そして、第3にマグネットが強力なユニットと強くないユニットでどのように音が変わるかを調べてみたい。
スピーカーユニットにFOSTEXのFE103SolとFE108Solを用いて比較します。
ここでの実験の目的は、以上3つです。
共鳴管の長さは無響室で測定できる最大の長さである1800mmです。
ただ弊社の無響室ではユニットと背面の開口部分の関係でマイクの補正を何パターンかに分けてやっているので、うまく測定できない可能性はあります。
このスピーカーを1ペアで作りました。ユニットの位置で音がどう変わるかを調べるために最初の時点で穴を2箇所あけておきます。
写真3 スピーカーユニットの取り付け位置(2ヶ所)
音の予想
共鳴管型スピーカーは何度か外で聞いていますし、共鳴する周波数の知識が先入観になってしまう部分があるのですが、どんな感じの音になるかという予想を最初にしておきます。
今回作った単純な管の共鳴によるスピーカーは全体的に膨らんでくれるわけではないので、中低域スカスカでローエンドの一部だけが膨らんだスピーカーになると予想。
スピーカーユニットはどちらもハイ上がりなユニットではありますが、マグネットの弱いFE103solのほうが全体の低音感は多くなるので聞きやすい気がします。FE108solのほうがダンピングのある音にはなるでしょうが、果たしてどうなるか??
スピーカーユニットの位置によって音がどのように変わるかは正直に言って全くの未知です。
それでは実験後の結果です。
実験結果 1
計算どおりになったか?
前回予想した計算上の数値は下記になります。
☆共鳴管による予想共振周波数
基本共振周波数 47Hz
3倍共振 141Hz
☆ユニットの位置が出口から900mmになる音響迷路による周波数の山と谷山188Hz 谷377Hz
周波数特性の測定結果
まず特性を測りたいところですので、無響室で測って、なおかつ発振器を使って耳でどの辺の周波数が膨らむか凹むかを見てみます。
写真4 無響室での周波数特性の測定
無響室にはスピーカーが入るギリギリの高さでした!
FE103Solでスピーカーユニット位置が違うものの無響室内での測定結果を2つ示します。
図3 FE103solをスピーカーの中央に配置した場合(底から900mm)
図4 FE103solをスピーカーの1/3に配置した場合(底から600mm)
続いて耳を使ってサイン波での測定をします。大きな山と谷を耳で聞いて確認しました。
結果としましては・・・・・・
測定上の結果と耳で発振器アプリを使っての測定ほぼ一致しました。共鳴管に関しましてはほとんど計算式通りでかなり正しくでています。
耳で聞いた時に共鳴管の基本波の3倍の周波数の盛り上がりがすごく多いのが気になりました。
10センチの低音のでにくいフルレンジユニットなので余計だとは思いますが、
基本波の47Hzよりはるかに、130Hzあたりのピークが凄まじく大きいので共鳴管型スピーカーといえば、
いかにして3倍波長を抑えるかというのがポイントになるという意味がよくわかりました。
管の共鳴についてはほぼ計算通りですが、迷路の式については今回の実験でも正直よくわかりませんでした。
実験結果 2
ユニット位置によって3倍共振をコントロールできるか?
これもほぼ計算どおりで、無響室での測定結果と耳での聴感結果が一致しました。
先程だした測定データ2つを重ね合わせると非常にわかりやすいです
図5 スピーカーユニットの取付位置による周波数特性の相違
点線;ユニット中央
実線;ユニット1/3の位置
47Hzの基本周波数の3倍にあたる140Hzあたりの ピークがユニット位置1/3にある所がなくなっています。
1本の片方が閉じた直管型の共鳴管型スピーカーで、スピーカーユニットの位置を30センチほど変えるだけで、3倍共振の量感が減らせるというのは凄いですね。
ただ、今回の1800mmのスピーカーの場合は、音的には個人的には3倍共振が強くでるパターンのほうが音としてはまとまっているというか、中低音量感が多くて聞きやすかったです(笑)
実験結果 3
ノーマルユニットとオーバダンピングユニットの違い
FE103SolとFE108Solの比較です。
どちらが良いか悪いかというのはソースや部屋などの他のものも関係してきますが、今回の1800mmのスピーカーでは中低音の量感があまりに薄すぎなのでマグネットを強化していないFE103Solが聞きやすかった印象です。
マグネット強化バージョンのほうが高域の解像度は高かった気がしますが、制動がかかりすぎて煩いような印象がありました。
これは箱がよくなると印象が逆転するかと思いました。
音の総評としては最初に予想していたところと同じところと外れたところがありますが、とにかく基本波の3倍にあたるところの周波数の膨らみがすごく、ここを潰すのかそれとも積極的に使ってゆくのかがキモなのかなという気がしました。
番外編 動画 共鳴管の音について
1800mmの共鳴管で音を聞いたのは初めてですが、個人的には思ったよりかはひどくない印象でした。
もっともっと滅茶苦茶になるだろうと思っていましたから(笑)
ただ正直商品化するのは厳しいのも事実です。
一応記録のために録音を出しておきます。
FE103Solに1800mmの直管形の共鳴管を入れた時の音ヘッドフォンでお聞きください。
共鳴管スピーカー 3
-- TQWT管の実験
今回は前回作った1800mm直管の内部に斜めの桟をいれたもので、長岡鉄男先生のF183.1のほぼオリジナル状態のままに作り変えて視聴をします。(完全にオリジナルではないのはユニットや吸音材の違いです)
写真5が斜めの桟をいれている写真です。
写真5 F183・1の内部構造
前回のスピーカーは長さ1800mmの完全な1本の直管型のスピーカーでしたが、長岡鉄男先生のオリジナルは内部で1度折り曲げをしている3600mmの共鳴管です。
このオリジナルの状態のスピーカーでの実験で知りたいことは、1本の管を2本に折り曲げた時にどのくらい共振の原理が弱まるか? また、理論上の計算とどのくらい共振周波数が異なるか?
2点目は、1本の直管スピーカーと、内部に桟をいれて管の長さを約2倍にしたスピーカーを実際に耳で聞いたときの音の違いです。
それでは結果です。
実験結果
計算通りにいったか?
まず計算上は3600mmの共鳴管ですから23Hzが基本波になります。最も大きい3倍共振は69Hzということになります。
図6が測定結果です。
図6 F183・1の周波数特性
23Hzは気持ち膨らんでいなくもないですが、このグラフだけではよくわかりません。
3倍共振のポイントにあたる69Hzはよく膨らんでいます。
膨らみが抑えられているいう感じはないですが、ここはユニット取り付け位置が工夫されているので、位置を変えるとここの量感が変わることが考えられます。
ただやはり1本の1800mm純粋の直管は、基本周波数と奇数倍の高調波が綺麗に測定に出ましたから、それに比べると1回折り返しがあることで共鳴管の動作が弱まったといって良いのかもしれません。
前回作った1800mm共鳴管(実線)と 長岡先生の3600mmの共鳴管(点線)を比較したグラフが図7です。
図7 直管型(実線)と折り曲げ型(点線)の比較
10K以上の高域がずれているのはマイク位置一定でユニットの位置が変わっているからです。
こうやって比較すると、点線の長岡先生のF183.1は23Hzの基本波がしっかり膨らんでいるのもわかりますね。
音はどうか?
比較対象が前回の1800mmの1本の直管型スピーカーと3600mmのものになりますが、かなり良くなりました。
さすがは長岡鉄男先生の設計です!(ユニットなどが違うので完全にオリジナルではありませんが・・)
低音が特定の帯域だけ持ち上がっているという印象から、凸凹はありますが、よりフラットに近づきまして中低音の量感が増えましたので、すごく聞きやすくなりました。
共鳴管スピーカーの良さは低音が云々ではなく、背圧が理論上かからないと言われている高域の素直さにあるのかもしれません。
全体のバランスだけで見ると低音がかなり独特ですが、高域だけ聞くと、たしかに一番良い音のFE103Solかもしれません。
またまた動画を出します。
前回だした1800mmの共鳴管の録音
今回の3600mmの長岡先生オリジナル(ユニットだけ違いますが・・)
ヘッドフォンで比較して聞いてみてくださいね。次に共鳴管をサブウーファーとして使ってみる実験をします。
共鳴管スピーカー 4
-- 開管型共鳴管スピーカの実験
サブウーファーとして可能かどうか?
共鳴管の実験の最後になります。
この手のテーマは次々膨らませていけますが、共鳴管については今回は一旦これにて終了させていただこうと思います。
ここでは、長岡鉄男先生のF183.1オリジナルと、その改造バージョンをさらに改造してボーズのキャノンのようなサブウーファーにして実験をします。
一番最初にだした3つの共鳴管の種類でいいますとBの片閉管の実験をやってきてわけですが、今日実験するのはCの開管型共鳴管の実験です。
図8 3種類の共鳴管構造
F183.1のオリジナルのスピーカーの内部の斜めの板と底面の板を外して下図のような筒状の管の中にスピーカーユニットをいれるような状態にします。
写真6 開管型共鳴管の試作(F183・3の改造)
1800mmの管のどこにウーファーを置くかによって共振する周波数が変わるのでいろいろ試してみました。
3パターンの位置で測定と視聴を行いました。
どの位置にスピーカーをセットするかでどのくらい音が違うかをモノラルの測定と聴感でも確認します。
実験結果
この実験は結果がはっきり出て面白かったです。
イラストのAの位置、Bの位置、Cの位置にFW108Nを入れて測定します。
図9 スピーカーユニットの取付位置
測定結果と耳での視聴はあまりズレがないのですが、Aのど真ん中の位置に置くと音が打ち消し合って100Hz以外は音圧が非常に低くなります。(これは長岡先生の本に書いてあることです。)
つぎにBとCの位置での比較になりますが、Cの一番管を長く使うスタイルのものが最もローエンドがしっかりでてサブウーファーに向いている特性となりました。
管のどの位置にスピーカーユニットを置くかで管の前後の距離が変わるので、ここで特性が大きく変わるわけですね。
図10 Aの位置
図11 Bの位置
図12 Cの位置
CとAの位置の比較をだしておきます
図13 C とAの比較
計算は1つの管だけに比べると前後の音の打ち消しあいがでてくるので複雑です。
1つ思ったのがどんなに頑張ってもやはり100Hzから200Hzの間には3倍共振を思われる大きなピークができるため、メインのスピーカーと合わせるサブウーファーとしてはここをどう処理するかになります。
共鳴管をサブウーファーとして利用するには?
まずウーファー口径は10センチは厳しく最低でも16センチ以上のウーファーを使いたいところです。
以前に作った長岡鉄男先生のサブウーファーのSW168やSW208と似たような方式ですがスペースファクターで言うとバスレフを使ったPPW方式に分がありそうです。
これは共鳴管型に限らずですが、、サブウーファーの設計の大変なところは、どうやって中域や中低域をカットするフィルターを使ってメインと合わせることができるかということになると思います。
ネットワークと吸音材で中域より上はなんとかカットできますが、中低域近辺は本当に難しいですね。
以前にやったSW208のほうがユニットの口径が大きいですから低音がでているのは当然ですが、中低域の処理は楽だった気がしました。
ちなみに以前評論家の井上良治先生宅にお邪魔させていただいた時に利用されていたサブウーファーが、30センチぐらいのウーファーを使った共鳴管型だったような記憶がありますが、あれは本当にうまく設計されていたなーと思いました。
最後に今回やったサブウーファーと小型BS8の録音を紹介します。
サブウーファーとしての実力としては、煮詰めているわけでもなんでもないのでお遊びです(笑)
サブウーファーのみ
サブウーファー&BS8
個人的にはこの実験をやっているのはサブウーファーを商品化したいからなのですが・・
今回の共鳴管方式のサブウーファーやPPW方式のサブウーファーはスペースファクター、価格、音などを総合的に考えて、なかなか市販のサブウーファーに勝つのが難しいというのが今の私の感想です。
サブウーファーの自作で唯一良いなと思えるのは25センチぐらいのウーファーとかを大きな密閉箱にいれてデジタルデバイダーを噛ませた時の利用方法でして、、
これなら十分にFOSTEXのCW250と勝負できますが、これは相当なマニア向けな商品で価格も高くなってしまいます。でもこっちの方が逆にニッチなニーズがあるのかな、という気もしてきました。
サブウーファーは自作で市販品に勝つのが難しいジャンルに思えます。
追記
スピーカーユニットって前からも後ろからも低音も高音もでていますが、今回やった自作のボーズキャノン型サブウーファーで実験してみて、面白いことが一つわかりました。(実験に使ったウーファーはFW108Nです。もしかしたら普遍的なものではなくこのユニットについてだけかもしれません。)
これはこの開管のど真ん中に10センチウーファーをセットして両端からでてくる音を耳で近づけて聞くと分かるのですが、、
ユニット前面からでてくる高域は後ろからに比べて、超高域がよく出ている。
これはなんとなくわかっていました。
問題は低域なんですが、前からでる低域に比べて後ろからでる低域のほうが押出が強く綺麗な低域に感じました。
前面は高域が多くでるから、より低域が濁って聞こえているだけなのかもしれませんが・・・