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PCを使ったデジタルチャネルデバイダー
先日、音工房Zのメルマガ読者様でユニークなシステムを構築されているMA様のリスニングルームを訪問させていただきました。
MA様はホームページをお持ちではありませんが、Audio Science Review Forum(以下ASRFと略記)という海外の BBS Forumにdualazmakのペンネーム(ハンドルネーム)で、英語で世界に向けて発信をされておられますので、ご存知の方も多いかと思います。
MA様の直近のシステム詳細
https://tinyurl.com/yhjzxnef
PC上で音楽プレーヤからデジタル音響信号を受けるソフトウエアで、マルチウエイのデジタル帯域分割を行い、そこから先は8連装DAC(8チャンネル完全同期マルチチャンネルDAC)へUSBデジタル入力し、帯域ごとにパワーアンプを設置するシステムを構築されています。
実は私も10年ほど前にPC上での帯域分割を行うシステムはオーディオファンの方に教えていただいて一度だけPCで似たシステムを実験的に構築したことがありました。
当時は開業間際でそちらについてあまり真剣に取り組む余裕がなく、「こんなことができる時代になったものかー」と思って終わってしまった記憶があります。ソフトウエアの名前や詳細は失念してしまいましたが、確かチャンネルごとの課金で2wayでも10万ぐらいのソフト代金だったと記憶しています。
帯域ごとにDACが必要で、私は当時流行していたRMEのFIREFACEを購入しました。PCをデジタルのチャンデバとして使うメリットとしては、
◆通常のデジタルデバイダーではAD変換/DSP/DA変換と2回通るところを最初のAD変換を省けるので音質劣化が少ないこと。
◆最高級のデジタルデバイダーの機能を安価に構築できる可能性があること。
◆コンデンサー、コイル、抵抗、アッテネーターを含むクロスオーバーネッとワークを排除できること。
デメリットは帯域ごとにDAC、パワーアンプが必要。各帯域ごとの音量やスロープを自身で、自己責任で、調整する必要があるということです。
また、中高域のスコーカー、ツイーター、スーパーツイーターを低音域信号の誤配線で破壊しないように細心の注意と必要な保護対策(音質に影響しない保護コンデンサーの設置、など)が求められます。これについても、MA様は徹底的に配慮されておられます。
初期投資もそこそこかかるので初心者が手軽に楽しめるというものではないかもしれませんが、音工房Zのお客様は、MA様のように究極を探求されている方も多いと思います。今日のメールはそのような方々には大いに参考になると思います。
MA様には当日半日近くのお時間を頂戴したうえ、いろいろ最新の事情を教えていただき感謝申し上げます。
PCデジタルデバイダーを10年前と比較
10年前に似たシステムをチャレンジした私から見てPCを使ったマルチウエイがどこまで進んでいるかを比較して最後に音の印象をレビューします。
★ソフトウエアは昔に比べて安価で洗練されている!
MA様にご紹介いただいた帯域を分割するソフトは「EKIO」という海外製品で英語でしか使えません。
しかし、シンプルなインターフェイスでチャンネル数が無制限でUS$149です。16,000円ぐらいでしょうか?この使い勝手の良さでこの価格なら絶対「買い」だと思います。音工房でもテスト的に入れてみようと思っています。
★パワーアンプは激安の中華アンプが登場
マルチチャンネルには沢山のアンプが必要になります。MA様は、数多くのアンプを実際に徹底的に比較検討された結果として、帯域ごとに最適な、お好みのアンプを選択されておられました↓↓
アンプはアキュフェーズの高級品から、3万円代のプリメインアンプまで様々で、低域に高級品を使って高域は比較的安価なものに揃えておられました。そのアンプ選択の経緯と背景は、MA様のASRFのスレッド内で詳細に報告、共有されていますので、ご興味がある方は、ご一読をお勧めいたします。英語ですが、最近のブラウザー(MS EdgeやGoogle Chrome)のAI自動日本語翻訳でも、十分に内容は理解できそうです。
マスター音量は最上流の再生ソフトJRiver MCで調整されますが、これも、ソフトウェアEKIOでも、DA8PROのプリアンプ機能でも、調整可能です。
アンプにこだわりがなければ、ボードだけでしたら数千円のものが出回っていますのでこの部分はチャンレンジする敷居が大きく下がったといえます。
★複数チャンネルを使える高品質なDAC(マルチチャンネルHiFi DAC)は安価なものが少ない
一番のネックがここです。
MA様は、海外からの個人輸入で、このOKTO DAC8PROを利用されていました。
こちらは大変人気があるようで、バックオーダーを抱えているようです。
複数チャンネルが使えるDACとしてはRME,Focusrite, Motuなどの商品もありますが、やはり10万超えになるものが多く、また何よりも総合的な音響品位の観点では、OKTO DAC8PRO に勝るものは登場していない、とのことでした。
MA様システムの音のレビュー
リスニングポジションに座らせていただき、まず感動してしまったのが、リスニングポ
ジションの前に置かれたPCモニターの位置です。
ソファーに座って快適に操作するために、低いリビングテーブルの先の床近くにPCがセッティングされています。視覚的にも音響的にも良さそうなので参考にしてみてください。
オーディオシステムはこちらのPCからEKIOで4つに帯域分割します。帯域のクロスやスロープ、チャンネルゲイン、極性設定(反転)、遅延設定、などは、全てパソコン(EKIO)で操作します。
帯域分割したデジタル信号は1本のUSBケーブルを介してOKTO DAC8PROへ接続。そこから帯域ごとのアンプへXLRバランス配線で繋ぎ、付属ネットワークを全廃したヤマハNS-1000の各ユニット(ウーファー、スコーカー、ツイーター)に加えてサブウーファー、スーパーツィーターを、いずれもアンプ直結で駆動しますので、実質的には5ウェイ10チャンネルのマルチチャンネル、マルチアンプシステムです。
まずは、MA様のおすすめの音源を聞かせていただきました。
再現が難しいと言われているピアノ曲はMA様ご自身がピアノの演奏をされるとのこともあり非常にリアルで聞き惚れてしまいました。ローエンド再生はサブウーファーが受けもちますが、25 Hzあたりのパイプオルガンの重低音再生も完璧でした。
私が10年前にPCを使った帯域分割にチャレンジしたのも、考えてみれば、サブウーファーのフィルターとしての用途だけを考えてたぐらいです。
ブログハイエンド自作スピーカーの石田様に教えていただいたデジタルデバイダーを使ったサブウーファーも原理的には近いものがありますが、最強のサブウーファーの構築を考えると、このいづれかに行き着くのかなと思いました。
このパイプオルガン演奏は音源自体も面白いものがありましたので、後日、音源紹介で配信させていただこうと思います。ちなみに、MA様は、REW,MusicScope,Adobe Audition などの音響分析、録音、再生ソフトも駆使されており、各種音源の厳密な周波数応答分析も頻繁に行っておられることも伺いました。話が逸れましたが、続いて弊社でいつもスピーカーテストに使っている20曲を聞かせていただきました。
弊社で使っている音源は高域の癖のチェックや中域のディップなどいろいろなところを確認できます。大変がバランスよく、ほとんど欠点らしい欠点は見当たらず、よくぞここまでまとめあげられましたね、という感じでした。
MA様はご自身で耳とマイク測定を駆使しながらリスニングポジション位置における最適な設定を調整して決定されているとのことでしたが、学ぶことが多く有意義な一日でした。
お招きいただきどうもありがとうございました。