目次
MXー20AV(セミマトリックス)の製作と試聴
はじめに
音工房Zのスピーカーは主にオーディオファン、自作オーディオファンに向けた2ch用のスピーカーが多いのですが、、
お客様から「5.1ch用のシステムやマトリックススピーカーなども作って欲しい!」というお声が以前から結構ございます。自作キットとして出せるかどうかはわからないのですが、、、
長岡鉄男先生の作例を実際に作ってみながら商品開発を検討したいと思っております。
過去にも商品開発を兼ねてPPWのサブウーファーなどを作って販売したいと思いましたが、商品化できるクオリティーに達することが難しく断念した経緯があります。
弊社でキットとして販売できない場合でも、似たスピーカーを自作する方の一助になればと思い音工房Zで作った長岡先生の作例を紹介させていただきます。
MX-20AVについて
今回製作したのは写真1のマトリックススピーカー「MX-20AV」です。
写真1 MX-20AVの外観
マトリックススピーカーMX-20AVは、基本この上にテレビを載せて使うことを想定したスピーカーエンクロージャーで、置台とスピーカーが一体になったような作例です。
ただ30年ぐらい前?のものなので、当然ブラウン管を想定した作りです。
MX20は「音場型」のスピーカーの一つで、たった1つのエンクロージャーからステレオ感のある音声を再生します。
通常オーディオはLとRの2chですが、マトリックススピーカーはたった一つの筐体に3個以上のスピーカーを搭載し、特殊な配線により2chのステレオから疑似サラウンドによる独特の音場感を作り出します。
現在の5.1chや12chなどのDSPを使ったサラウンドシステムとは対極的、というわけではありませんが、配線のみの工夫によりサラウンドを実現したマトリックス方式には、そのシンプルさならではの音の良さもあり、いまだに根強いファンも多いようです。
音工房Zでは配線のみでサラウンドを実現するマトリックス方式と、複数のスピーカーをAVアンプで鳴らすDSP方式とは、両方取り組んでゆきたいと思います。
マトリックススピーカーの基本おさらい
通常のステレオスピーカーはLとRの2本のスピーカーで再生しますが、マトリックススピーカーは、一本のスピーカーから、L+R(和信号)L-R(差信号)を出すスピーカーユニットにより再生します。
長岡先生のマトリックススピーカーで有名な「MX-1」は4ユニット構成で、前面のスピーカーからはL+R(和信号)が再生され、左のスピーカーからはL-R(差信号)、右のスピーカーからはR-Lの(差信号)が出力され、空間合成されたのちに左耳に(L+R)+(L-R)=2L、右耳には(L+R)+(R-L)=2Rの信号が伝達されます。
図1 4ユニット構成のマトリックスピーカーの配線(MX-1)
今回製作した「MX-20AV」は3ユニット構成で、中央のスピーカーからは(L+R)、 右からは(2R-L)、左からは(2L-R)の信号が出て、それぞれが空間合成されて 左の耳には2L右の耳には2Rの信号が伝達されます。(MX-20AVの配線図は、同じ3ユニット構成のMX-14を参考にしています。)
図2 3ユニット構成のマトリックスピーカーの配線(MX-20AV)
この3つのユニットを使った方式はセミマトリックス方式とも言われ、音場感は4つユニットを使った本家マトリックス方式には及びませんが、ソースにそれほどシビアでは無いのが特徴といえます。
マトリックス方式の特色として言えるのはその独特の音場で、そのユニークなサラウンド感は、右と左から出る差信号の再生にあります。
差信号は録音時のホールエコー等の間接音をよく含むといわれ、外側に向いたスピーカーからの音はリスニングルームの壁で反射し、更に音場感は強まり、マトリックス方式独自の音の広がりを持ちます。
マトリックス方式の利点は、デジタル処理を介さない「鮮度の高い疑似サラウンド」この一点に尽きます。
何故マトリックス型にこだわっているのか?
音工房Zではこれまで長岡鉄男先生のマトリックススピーカーは 「MX1」「MX10」「MX14」「MX15」と製作してきました。
写真2 MX-1
写真3 MX-10
写真4 MX-14 と MX-15
以前にまとめてマトリックススピーカーを作ったときの印象としては、やはりソースを思い切り選ぶという印象で、全てが全てうまく鳴るというものではありませんでした。
しかし、これは2chスピーカーと比較しての話です。テレビや映画とセットだと求められるレベルもそこまで高くはないはずです。
私がマトリックス型に可能性を感じているのは、以前に4本マトリックスとバックロードを音工房流に改造したスピーカーMX10改の音が素晴らしく、ブラインド状態だとB&Wの802を上回るソースもあったほどだったからです。
(流石に全てのソースが、というわけではありませんが・・)
写真5 MX-10改(+バックロードホーン)
テレビや映画であれば安価な自作キットで液晶テレビのスピーカーなどには余裕で勝てるものが作れるような気がしてきたのです。
前振りが長くなりすぎてしまいましたが、次に、「MX-20AV」のレビューと改造のお話をしたいと思います。
MX-20AVの視聴
完成したスピーカーをテレビと一緒に視聴しました。
写真6 液晶テレビ(24インチ)と MX-20AV
写真の液晶テレビは24インチのものです。おそらくこの作品では40インチぐらいの液晶でも楽に利用できるでしょう。
液晶テレビ内蔵のスピーカーと比較しますと、一聴して長岡先生のマトリックススピーカーの方が音が良いです。
うちの母親が聞いても確実に分かるレベルで音が良いです(笑)
液晶テレビについているスピーカーは隠れていて見えませんが、FE83ENと比較すると、ほとんどおもちゃのレベルといってもいいくらいです。
スピーカユニットの問題と合わせて液晶テレビのスピーカーの音が良くないのは、ユニットが隠れてみえないのでクオリティーが低いものを使っているだろうことと合わせて、「箱」の内容積がほとんどとれないことかと思います。
スピーカーエンクロージャーの設計を長くやっているとわかりますが、低域の量と質に関しては一定量の内容積がないとどうしようもないです。
話が逸れますが市場ニーズは小型で音の良いスピーカーが求められので、エンクロージャーの方式や、スピーカーユニットの振動板を重くするなどいろいろな工夫をしますが、、、
本当に良い音で聞きたければ箱は絶対に大きくなります。
高額なハイエンドスピーカーは大きいサイズのものばかりでしょう。
話が逸れましたが、液晶テレビで音の良さを売りにしているものもありますが(それ以外に差別化が
難しいから?)、液晶テレビについているスピーカーは、内容積という物理的に乗り超えることができない大きな壁があります。
ですので、テレビのスピーカーに音のクオリティーを求めるなら外付けのスピーカーを利用することを強くおすすめしたいと思います。
マトリックススピーカーでは、FE83ENが煩くなく、低音がよく出る
マトリックススピーカーを以前に作ったときに思ったのが、第一印象として「高域が煩くない」ということでした。
今回のMX-20AVでも同様に感じました。
FOSTEXのFE83ENは普通の小型バスレフエンクロージャーで聞くと高域が多いハイ上がり状態になります。低域が関係ないソースを選べば良いですが、ある程度低音が入ったソースで聞く場合は、バックロードやBHBS形式で低音を膨らませる必要があったのです。
しかし、マトリックススピーカーはノーマルバスレフでも全く煩く感じません。
しかも長岡先生のMX-20AVは箱のサイズがかなり大きく、低音がよーくでています。
正直、かなりクオリティーが高く、このまま使っても十分だなというのが聞いた第一の感想でした。
テレビではなく普通の2chステレオとして他のSPと比較して聞いても遜色ないレベルですね。
2chステレオの定位感とは違いますが、マトリックス独特の配線に加え、左右のスピーカーが斜め方向に音をだす設計が非常に良い音場感をだしてくれています。
ただブラウン管の時代を想定したサイズのため、横幅奥行きともだいぶサイズが大きいです。
もう二回りくらい小型でもBHBS形式で低音の出るユニットを使えばかなり面白いものができそうな予感がします。
MX-20AVの改良
スピーカーユニットの変更と試聴
これまで、長岡先生のMX-20AVを、ほぼオリジナル通りに作りレビューしました。
テレビ用スピーカーとしては非常にクオリティーが高く、シングルバスレフでは弱点になりがちなFEシリーズの高域をうまく調整しているという印象でした。
続いてFE83ENを弊社の8センチフルレンジZ-Modenaに置換してみました。
写真7 スピーカーユニットをZ-Modenaに置換したMX-20AV(改)
FEに比べたらハイ落ち気味なユニットなので少し難しいかなと思いましたが、、、
「実に素晴らしい!」
低音がさらにでるようになりまして、若干ハイ落ちではありますが、テレビ用で考えたらこちらの方が長時間視聴には良いのでは? と思えました。
Z-modenaのポテンシャルの高さには改めて驚かされまして、、このままでも商品化できる出来に思えました。
ただ、現在の液晶テレビ用に考えると、長岡先生の箱はサイズが大きすぎるので、もう少し小型で低音がでるもので、そして高域の音場感を最大限に発揮するには、どのようなユニットの配置が好ましいのかを、実験で確かめてみようと思います。
マトリックススピーカーの角度つけは必要!
マトリックススピーカーは、今回は3本マトリックスですが、エンクロージャーは外に向いた2本のスピーカーユニットがあるため真四角な箱ではありません。
この2本の角度のついたスピーカーが独特の音場感を作るので、このような変わった形状をしています。
長岡鉄男先生のMX-1は、CADで測ると41.7度になっていました。
(私はここを理解せず誤って45度で作ってしまい、読者様からご指摘を受けました)
ただ、45度がマトリックスには絶対だめということではなく、おそらく利用するユニットとの相性が合わなかったということだと思います。
ものは試しに角度を全くつけない真四角の箱をサクッと試作・音出ししてみました。
写真8 ユニットを平面に取り付けた場合
これだと独特の音場感が出ずに、2chのスピーカーの間隔を狭めたような鳴り方になりマトリックスの良さは皆無。Z-modenaでは完全NGでした。
音場感もそうですが、このように角度をつけない配置にすると高域の量感が最大になるようです。
つまりマトリックススピーカーの外側に配置するユニットの角度調整は、音場感を出すためと高域の量感を調整する2つの役割があることがわかります。
Z701-Modena(V3)などを使った角度調整の実験
ここの角度を可変式にするのは相当手間がかかりそうなので、少し乱暴ですが、現在あるZ701-modenaと点音源のZ600-Modenaを使って、角度を手で動かしながら音場感の違いと高域の違いを確かめる実験をしました。
マトリックスは配線の問題なので、3つのスピーカーがあればこういうことも可能です。
ただ写真の方法だと低音はかなり滅茶苦茶になります。高域は角度を変えると大きく変化します。
写真9 内振り-1
写真10 内振り-2
写真11 内振り-3(Max.)
写真12 平(角度無し)
写真13 外振り-1
写真14 外振り-2
写真15 外振り-3
写真16 外振り-4
写真17 外振り-5(Max.)
かなり極端に角度をつけていますが、やはり高域がマックスなのは「平ら」の時で最も高域が落ちるのが一番角度をつけた「外ぶり5」の時です。
「平ら」では高域が煩いばかりか、音の広がり・立体感が全然感じられない。
「外ぶり5」ではハイ落ちが激しいうえ、定位感が無い、ちぐはぐな音に感じました。
最終的には外ぶりの「2」と「3」の間ぐらいのところにいちばん美味しいところがあるのがわかりました。
ちょうど良い角度にすると適度な高域の量、そして定位する感触を残しながらも広い音場感を感じられます。
これらの結果から、魅力的なAV用のマトリックススピーカーの目処が見えてきました。
今後、さらに設計を進めていきたいと考えています。
今後の試作では、今回の実験結果を基に、さらに内部をBHBS型にして、長岡先生のものより二回り小さい箱を目指してみようと思います。